不動産投資は法人化できる!タイミングやメリット・注意点などをわかりやすく解説
不動産投資を法人化するべきタイミングは?
不動産投資は、安定収入を得られる手段として副業でも本業でも人気があるビジネスです。
個人でスタートした不動産投資が軌道に乗った時には、法人化も検討してみましょう。
不動産投資を法人化すると、税金面でのメリットがあります。現在の収支から法人化のタイミングを探ってください。
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この記事の目次
不動産投資の法人化とは?個人との違い
不動産投資は、個人でも法人でも可能な投資です。ワンルームからでも投資はできるため、昔と比較して個人でも取組みやすくなりました。
現物の不動産投資では、賃貸用の不動産や収益物件を所有して賃料収入を受け取る方法が一般的です。
本業として不動産投資を行う場合もありますが、会社員の副業として不動産投資をする人もいます。
不動産投資は個人としてだけでなく会社を設立し、法人として不動産投資をする方法もあります。
しかし、わざわざ費用や手間をかけて法人を設立することに意味がないと感じるかもしれません。
以下では、不動産投資を法人でした場合と個人での場合の扱いの違いを表でまとめています。
個人 | 法人 | |
設立手続き | 個人事業主の開業届 | 登記や印鑑作成などの費用が発生する |
税金 | 個人の確定申告としてほかの所得と合算する総合課税で所得税が計算される | 法人として事業税が課税される |
税率 | 5%~45%の超過累進課税 | 資本金1億円以下の普通法人の場合、課税所得800万円以下は15%、800万円超は23.2% |
経費が認められる範囲 | 法人と比較して狭い | 広い |
不動産投資を法人化するべきタイミング
不動産投資を法人化するタイミングかどうかは、個人の所得税率と比べて法人税率との差がどれだけあるかを基準にして考えると良いでしょう。
サラリーマンの場合には、本業の会社から給与や賞与である給与所得を得ていて、不動産投資をする場合にはその不動産所得を含めた所得に課税が行われます。
そのため、給与所得がいくらあるかによって法人化のタイミングが違います。
これから不動産投資を法人化するかどうかを悩んでいる人は以下の基準を参考にして法人化を検討してください。
【サラリーマン】不動産事業が黒字で給与所得が年900万円超
サラリーマンで不動産投資をしている場合には、給与の課税所得が900万円以上になって不動産投資が黒字の時が法人化を検討するタイミングです。
所得税は超過累進課税で所得が多ければ税率が高くなるため、給与所得が900万円以上あれば不動産投資の税率は所得税と住民税を合わせて43%となります。
法人化していれば15.0%~23.2%の税率なので、法人化したほうが最終的な手取りが多くなる可能性が高いと考えられます。
ただし、不動産投資が赤字経営となっている場合、損益通算して所得を相殺して節税できるため、法人化を急ぐ必要はありません。
【専業大家】不動産所得が年330万円超
サラリーマンなどではなく専業で不動産投資をしている場合には、不動産投資での所得が年330万円以上が法人化を検討するタイミングです。
所得が330万円を超えると所得税と住民税を足して30%です。法人であれば15.0%~23.2%の税率なので、単純に税率で考えれば法人化したほうが有利です。
しかし、法人化することで専門家への依頼料や法人設立費用などが発生します。そのため年330万円を超えても急いで法人化したほうが良いとはいえません。
実際にどれだけの費用が発生するかをシミュレーションしてから法人化してください。
不動産投資を法人化するメリット
法人税の減税によって、不動産投資を法人化するメリットは高まっています。ここでは、法人化によって受けられるメリットについての紹介です。
法人税率の適用で節税効果に期待できる
税負担の軽減は、法人化の最大のメリットといえます。
法人税は、2018年度の税制改正によって基本税率は23.2%に引き下げられ、法人住民税や事業税などを含めた法人実効税率も30%未満です。
一方で、個人の所得税率は、所得が高くなれば税率も上がる超過累進税率が採用されています。
課税額に応じた控除が受けられるものの、課税所得が900万円を超えると約33%、4,000万円を超えると約45%に達します。
個人のまま不動産投資をしていて所得が増えているのに税率が上がって手取り額が増えない場合には、こういった理由があるのです。
法人税は所得が増えても基本税率は一定です。加えて、課税所得が800万円以下の中小法人の場合は、軽減税率の特例によって法人税率が15%に軽減されています。
所得金額が一定上になれば個人よりも法人のほうが税額を低く抑えることが可能なため、節税効果を期待して法人化が行われています。
経費にできる範囲が増える
個人から法人になることで経費の扱いも変わり、経営者の給与や賞与、退職金などの経費を損金算入可能です。
さらに、法人であれば家族への給与や法人保険の掛け金を経費にできます。
経費として計上できる範囲が増えれば、それだけ課税される所得を減らして税負担を軽減可能です。法人化は、より幅広い経費を計上できる点で節税対策では有利といえます。
損失を最大10年間繰り越しできる
不動産投資は、毎年安定して利益がでるとは限りません。黒字の年もあれば空室やリフォーム費用で赤字になる年もあります。
青色申告事業者である個人事業主は、損失を最大3年繰り越し可能です。
しかし、法人であればより長い最大10年間の繰り越しができるため、赤字が出ても長く節税に活用できます。
減価償却するか選択できる
個人では、建物などの減価償却費は決められた額を強制償却しなければいけません。一方で法人税は決められた額以内であれば任意の額に減価償却費を調整できます。
任意償却は損失を減らすことになるため、節税のメリットはありません。しかし、決算書上で利益を多く上げているように見せる効果があります。
つまり、金融機関から融資を受けたい場合には任意償却で見た目が良い決算書類を用意できて有利になる可能性があります。
ただし、金融機関によっては任意償却をマイナス評価するケースもあるので注意しなければいけません。
相続税対策に活用できる
不動産を持つ人の多くが心配するのが相続税です。不動産投資を法人化すれば、所得の分散が可能になります。
法人化して家族を役員にしてから役員報酬を支給すれば、所得を分散して相続財産を圧縮可能です。
また、相続税上の不動産評価も法人化していればその法人の株式の評価により行われます。そのため、非上場株式として資産額を株式評価額が下回るような調整が可能です。
法人化によって、個人ではできない相続税対策ができるのは大きなメリットです。
不動産投資を法人化するデメリット
不動産投資の法人化には多くのメリットがあります。その一方でデメリットがまったくないわけではありません。
どういったデメリットがあるのかまとめました。
法人設立や維持にコストがかかる
法人は設立する時に、手間やコストがかかります。個人事業主の開業であれば、開業届を税務署に提出するだけなので、手数料もかからず自宅から手続きできます。
一方で、法人を設立するには印鑑の作成や法務局や公証役場での手続きが必要です。合同会社でも設立するにいは6万~10万円程度はコストが発生します。
さらに法人を維持するためのコストもあります。会計や役員への報酬、社会保険のように複雑な手続きが増えれば専門家に依頼するのが一般的です。
その結果、個人の時よりも負担する費用が増加してしまうかもしれません。
赤字でも住民税の納税が必要になる
個人でも法人でも地方税である住民税は支払わなければいけません。
しかし、個人では不動産投資が赤字であったり合計所得が一定化であれば住民税の課税が免除されるケースがあります。
一方で、法人は赤字であっても従業員数と資本金額から算出される均等割は必ず支払わなければいけません。
長期保有した物件の売却時に優遇税制が適用されない
個人と法人では、物件の売却益にかかる税金の扱いが違います。
個人の場合には、所有期間が5年以内であれば短期譲渡所得となり、所得税30%住民税9%と税率が高いです。
しかし、5年を超えて所有していれば長期譲渡所得として所得税15%、住民税5%の合計20%の税率が適用されます。
一方で、法人税では所得の区分がなく譲渡益は法人税と法人事業税や法人住民税が課せられます。
そのため長期所有の不動産であれば個人として売却したほうが税金が安いかもしれません。
不動産投資を法人化する流れ
不動産投資を法人化するといっても、法人化の流れや費用について知っておかなければ適切な判断はできません。
不動産投資を法人化するには、決定事項や手続きもたくさんあります。
ここからは、不動産投資を法人化するまでの全体像を紹介します。
1.法人設立に向けて準備する
法人設立の準備では決めることがたくさんあります。例えば以下の事項を決定しなければいけません。
-
- 社名
- 本店所在地
- 資本金金額
- 事業目的
- 発起人
- 取締役
株式会社の場合には、上記に加えて発行済株式総数といった株式にかかわる事項も決めます。
さらに、印鑑は会社実印と会社銀行印で最低2本用意します。会社実印は法務局での登記申請や重要な取引きで必要です。
会社銀行印は法人の銀行口座を開設する時に使用します。作成に時間がかかるので早めに準備しておいてください。
2.定款を作成して公証役場で認証を受ける
印鑑の準備ができれば定款などの書類の作成に着手します。必要となる書類は主に以下のものです。
-
- 定款
- 登記申請書
- 就任承諾書
- 取締役の印鑑証明書
- 印鑑承諾書
- 印鑑届出書
上記以外にも登録免許税分の収入印紙を貼付した台紙などが必要です。
定款の作成や認証は、手続きが煩雑で手間もかかります。専門知識も求められる分野なので司法書士に依頼することも検討してください。
3.法務局に登記申請書を提出する
公証役場で定款認証を受けたら法務局での手続きに進みます。法務局で行うのは設立登記の申請と印鑑の登録です。
設立登記の申請をすることで、会社の情報を登記簿に登録できます。登録されると会社の情報が登記簿謄本として取得できるようになります。
これらの手続きが受理されれば、約1~2週間程度で登記は完了です。
ただし、設立してからも税務署や都道府県事務所、市町村役場などに設立の届け出が必要なので忘れないように注意してください。
4.税務署に法人設立届出書などを提出する
税務署では、法人設立届出書を提出して会社の概要を税務署に届け出ます。
さらに青色申告を選択する場合には、青色申告承認申請書の提出が必要です。何も手続きをしなければ白色申告となります。
青色申告は、欠損金の繰越控除や青色申告特別控除といった節税面での優遇が受けられる申告方法です。青色申告は、記帳のルールが白色申告とは異なります。
青色申告に対応した会計ソフトを活用すれば会計処理の手間も少なくなるので導入を検討してみてください。
不動産投資を法人化する際の注意点
不動産投資を法人化することで節税できるメリットがあるものの、安易に法人化してしまうと想定していないトラブルが発生することがあります。
どういった点に注意すればいいのか以下で紹介します。
不動産投資の収益を私的に使わない
個人での不動産投資の利益は、自分のものとして好きに使っていたかもしれませんが、自分しか在籍していなくても法人の利益は自由に使っていいものではありません。
経営者が使えるのは役員報酬として受け取ったお金です。自由にお金を使いたいからと役員報酬額を多めに調整する人もいるかもしれません。
しかし、役員報酬を高くし過ぎると個人の所得税が高くなり、せっかく法人化したのに節税効果が薄くなってしまいます。
本職があれば副業・兼業が可能か確認する
サラリーマンを本業として副業で不動産投資をはじめる時には、事前に確認が必要です。副業が認められている会社もあるものの、就業規定で副業禁止の会社も多くあります。
こういった場合には、本人が出資して株主となり代表者は家族や配偶者にするといった手段も検討してください。
家族の理解が得られるかどうかもポイントとなるので、法人化の前に話し合っておくようにおすすめします。
事業年度ごとに法人決算を行う
法人は、会社の規模に関係なく事業年度ごとに必ず決算をしなければいけません。つまり年間の損益をまとめて決算書類を作成します。
法人の決算は、専門的な知識が必要となるため、税理士や会計士に依頼するのが一般的です。
法人化によって決算を専門家に依頼するための費用が増えてしまいます。節税できても支出が増えてしまえば手取り額が増えない可能性もあります。
まとめ・不動産投資の収益が増えたら法人化を検討しよう
不動産投資の収益が増えてくると、法人化したほうが節税できて手取りが増えるのではと考えるかもしれません。法人化すると税金での扱いが変化します。
今まで個人として受け取っていた収益が法人の収入となって自分は役員報酬を受け取る形です。
法人化と聞くと難しく感じますが、不動産投資の業務自体は法人でも個人でも大きく変わりません。
法人化のメリット・デメリットや法人化までの流れを知って、どのタイミングで法人化するか考えてみてください。
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(編集:創業手帳編集部)