災害時に避難所として開放するかどうか。段取りや受け入れ態勢の整え方と今後の宿泊業の在り方をホテル旅館業務の達人が解説

創業手帳

自然災害やパンデミックなど宿泊施設における非常事態への備えについて

(2020/06/16更新)

新型コロナウイルスの世界的大流行で宿泊施設の存在意義が再確認され、様々な視点で議論され始めました。未知のウィルスや自然災害など今後も引き続き起こり得る非常事態に対応していくためには、自治体との連携のための手続きや従業員の意識統一など、事前の準備が大切です。災害時における宿泊施設と地方自治体との協定の存在、また実際に災害時に避難所として受入れをする際のマニュアルや対処法などについて、旅館業務の達人に聞いてみました。

プロフィール 取材にご協力いただいた旅館業務の達人
ホテル旅館勤務一筋25年。フロント、予約、会計、ブライダル、レストラン、客室、などホテルの各セクションを経験し、リアルエージェント契約、オンライントラベルエージェントの在庫管理、プラン料金調整などを統括している。現場業務から30以上の予約サイトやツールでの集客、コンサルまで幅広い経験がある。

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宿泊施設における既存の災害対応マニュアル

外資系の大規模なホテルチェーンなどでは、独自で災害対応マニュアルの作成をはじめ、様々なリスクマネジメントをされているところも見受けられます。
中小規模の宿泊施設では、日本ホテル協会や全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(略称=全旅連)などの組織に属しており、災害時におけるガイドラインやマニュアルなどを共有しています。
それらは、災害を経験した地域で得た教訓を各都道府県レベルでの組織でとりまとめ、全国レベルの組織に共有し改訂されています。
しかしながら、災害対応マニュアルの存在を認識している従業員や、非常事態時の対応について準備を万全にしている宿泊施設はごく僅かであるのが実情です。
宿泊施設の災害対応マニュアルの存在を確認し、従業員にも熟読してもらい災害対応の意識を日ごろから高めておくことが大切です。

宿泊施設が加盟する連合会や協会の種類と現況

宿泊施設が加盟する協会や連合会は主に以下の4つです。

宿泊施設が加盟する連合会や協会
  • (一社)日本ホテル協会
  • (一社)日本旅館協会
  • (一社)全日本シティホテル連盟
  • 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会

各協会で災害対策マニュアルを作成しており、新型コロナウイルス感染拡大予防などの対策についてのガイドラインも作成されておりますが、新型コロナウイルスなどの感染症蔓延時に避難場所として宿泊施設を開放する手順や具体的な対策に関しては現状では整備されておりません。
厚生労働省から、新型コロナウイルス感染症対策としての災害時の避難所としてのホテル・旅館等の活用に向けた準備についての協力依頼が、各協会専務理事宛に送られています。(2020令和2年4月28日付)
内閣府からは、各都道府県と保健所設置市、特別区の関係局長宛に、新型コロナウイルス感染症対策としての災害時の避難所としてのホテル・旅館等の活用に向けた準備・取組を進める旨の書面が同日付で送られています。
今後は、自然災害のみならず感染症対策を視野に入れた対策、ガイドラインの策定が重要視され、その整備が急速に進んでいくと思われます。

災害対応4つの場面(平時、災害発生時、災害発生後、受入れ終了)

災害対応のタイミングとして大きく分類すると4つの場面が想定されます。
平時、災害発生時、災害発生後、受入れ事業終了、のそれぞれの状況下でどういった準備が事前に必要かを確認し、各種書類を組合(支部組合及び生活衛生組合)や行政(都道府県及び市区町村)とで共に事前に作成し、準備をしておくとよいでしょう。

平時

1、災害時における宿泊施設等の提供に関する協定の締結
2、宿泊事業者・組合・市区町村・都道府県間の災害対応組織の構築とその強化
3、被災時対応事項・手順の明確化

災害発生時

4、宿泊事業者の要配慮者受入れ可能数の報告
5、要配慮者の受入
6、医療機関、介護施設との連携(宿泊者の安全確保)
7、避難者への行政情報提供

災害発生後

8、利用料金の請求
9、行政、関連機関との連携(通常営業に向けた取組み)

受入れ事業終了

10、事業終了通知(都道府県):通常業務開始

宿泊施設を避難所として開放するかどうか


そもそも宿泊施設が現状、災害時における宿泊施設等の提供に関する協定の締結をしているかどうかがポイントとなります。

災害救助法(※1)の適用を受ける大規模災害時に、要配慮者(※2)に宿泊施設等を提供する事を目的とし、宿泊事業者や旅館・ホテル営業生活衛生組合等が都道府県と締結する協定を平時に締結していれば、災害時に避難所や受入施設として正式に機能する事になります。災害救助法の適用は、市区町村単位で知事または救助実施市長が行います。被災者受入に関する要請が行われた際は、予め締結してある協定に沿って宿泊施設等の提供事業が開始されます。

大震災などの未曾有の大災害では、避難所である宿泊施設自体も被災している可能性があります。その際は、宿泊施設を避難所として開放できるか、受入れ状況などを速やかに都道府県の対策本部に連絡する必要があります。実際に被災した場合は、マニュアルだけではなく臨機応変な対応が求められますが、宿泊施設を避難所として開放するかどうかは平時から事業者が予め意思決定をしておく事をおすすめします。

集中豪雨や大地震を経験した自治体では、宿泊施設との協定を積極的に締結していますが、都道府県や地域によって大きな違いがあります。
耐震工事を終えた大規模ホテルでは、耐震工事費用の補助金の助成要件として災害時の避難所として協定に締結していると思われます。その詳細を再度確認し、従業員にも周知徹底しておくことも重要です。

※1 災害救助法:災害に際し国が地方公共団体や日本赤十字社その他の団体及び国民の協力のもとに応急的に必要な救助を行い、被災者の保護と社会秩序の保全を図る為の法律。

※2 要配慮者:高齢者、障がい者、乳幼児、その他防災施策において特に配慮を要する妊産婦、疾患を持った人、外国人など。

具体的な受け入れ方法は?

都道府県の要請を旅館・ホテル営業生活衛生組合等がうけると、協定を締結している宿泊施設に対して避難所としての受け入れ要請がきます。
まず、宿泊施設の被災状況の報告、要配慮者の受け入れ可能人数の報告を宿泊施設が行います。市区町村、都道府県の災害対策本部、保健所などから要配慮者のリストを元に各宿泊施設への割り振りがなされ、感染症拡大防止対策の為のスペース確保や準備物の搬入など、市町村、都道府県の指示に従う形で受け入れを進めて行くことになると思われます。
また、基本的には宿泊施設は避難所としての場所の提供のみとなりますが、その際の被害の規模により可能な限り協力態勢が必要となるかもしれません。
そのことに関しても、従業員にも事前に周知しておくことが必要です。

コロナ禍で複雑化した問題点と今後の在り方

災害救助法の指定を受けると、自治体の被災者の生活や救出などに関連する費用負担がなくなります。
さらに、激甚災害に指定されると、地方公共団体及び被災者に対する復興支援のために国が通常を越える特別の財政援助を行うことになります。しかし、今回の新型コロナウイルスのような感染症は内閣府の見解ではそれらの法にあてはまらないとされています。

新型コロナウイルス対策特別措置法など、すでに整備されている感染症に対する法体系の中での対応となっており、自然災害と感染症災害で宿泊施設がとるべき行動を変化させる必要性が再認識されつつあります。

また、感染症災害と自然災害が同時に起きてしまうケースも想定できますが、現状その最悪のシナリオに対して明確なガイドラインや対策マニュアルはほとんどの宿泊施設が持ち備えていません。

まずは、自然災害発生時の対応と感染症発生時の対応について真剣に考える機会を設けることが必要だと思われます。国や地方自治体任せにならず、事業者をはじめ宿泊施設に携わる人たちが個々に危機管理に対する意識を常に持つことも重要です。

自らできる事を考え提案し、力を合わせて困難を乗り越えていくための社会構築が今後は求められるのではないでしょうか。
今なお大変なご苦労をされている被災者の皆様、新型コロナウイルスと闘う患者様、医療従事者の皆様に一日でも早く心が休まる日が来る事をご祈念申し上げます。

まとめ

記事執筆時(2020.6)の情報をもとに今後の展開予測も踏まえて専門家の見解を述べていただきました。法整備が追いつかないようなタイムリーなテーマのため、断言できる部分は多くありませんが、全体像や今後の展開が少しイメージできたのではないでしょうか。
有事の際にどのような立場をとるのか、今一度しっかりと考えるきっかけになればと思います。

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(編集:創業手帳編集部)

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