「平凡な僕がプロ野球で17年間やれた理由はメンタル力」ひちょりこと森本氏が語るー能力を引き出す心の持ち方ー
元プロ野球選手の森本稀哲氏に能力を最大限に引き出すコツを聞いてみました
今回はプロ野球界でチーム日本一、2年連続パ・リーグ最多得点、3年連続ゴールデングラブ賞受賞など、数々の実績を残した“ひちょり”こと森本稀哲氏にインタビュー!
森本氏は引退後に「気にしない」「メンタル体操」などの著書でヒットを飛ばし、講演を行うなど精力的にセカンドキャリアを築いています。一方で、子供の頃からの汎発性円形脱毛症やプロ野球選手としての壁など様々な悩みを乗り越えてきた過去も。
日々プレッシャーの中で戦う経営者や起業家にとって、心の状態を保つことはパフォーマンスをフルに発揮することに役立ちます。
プロとして高いレベルで勝負していくのに大切なのは7割がメンタルだと語る森本氏に、プロとしての戦い方やメンタル強化の方法を創業手帳代表の大久保が聞いてみました。
プロ野球解説者・講演家・コメンテーター
高校野球の名門・帝京高校の主将として甲子園に出場。 その後、プロとして日本ハムファイターズ(現北海道日本ハムファイターズ)・横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)・埼玉西武ライオンズで活躍。17年間にわたるプロ野球人生を終えて現役を引退。通算成績は1272試合、3497打数904安打、33本塁打、521得点、267打点、106盗塁、打率.259。2006年、2007年はパ・リーグ最多得点。2006年から2008年まで3年連続ゴールデングラブ賞を受賞し、2007年ベストナインに選ばれる。経営コンサルティング会社との4年間のマネジメント契約を終え、現在はCKプロダクションに所属し、野球解説やタレントとしてテレビ・ラジオ出演のほか、講演活動やスポーツイベントも行っている。著書『気にしない。どんな逆境にも負けない心を強くする習慣』(ダイヤモンド社)/森本稀哲オフィシャルサイト/公式Twitter
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
能力を発揮するにはメンタルが7割
大久保:本日はよろしくお願いします。
森本:はい、よろしくお願いします。
大久保:森本さんはプロ野球選手として長い間、活躍されてきましたよね。
森本:僕は17年間、プロ野球の世界で生きてきました。プロ野球は次々に若い才能が出てきて、結果で全て評価され、結果が出なければ来年は無いという厳しい世界です。
プロ野球選手の選手生命は大体6年ほどと言われています。そういう中で比較的に長く生き抜いてきました。
でも、バッティングが良いとか、体が強いとか、そういう誰にも負けない強さがあったわけではないんです。長く続けているので怪我がないと思われがちですが、実は毎年骨折しています。
だから、才能があったわけでも怪我をしなかったわけでもない。どんなに気をつけていてもデッドボールで骨折するときもありますし、伸びずに悩んだ時期もありました。
僕の場合は自分の強みを見つけて能力を発揮することに長けていたんです。その中で得たことを少しでもお役に立てられるようにお話しますね。
大久保:ありがとうございます!過酷な競争の中を生き抜いていくという意味で、スポーツ選手とサラリーマンは通ずるところがあります。競争を生き残るという意味でメンタルは重要なのでしょうか。
森本:メンタルは非常に重要だと思います。心が身体を動かしているといっても過言ではありません。
才能がある選手はプロの世界にはいくらでもいます。でも、能力を発揮できるかどうかは別問題です。
野球は身体と道具を使うので体力や技術の世界だと思われがちですが、僕はメンタルが7割だと考えています。もちろん、技術や体力はある程度必要ですが、それを活かせるかは結局メンタルが握っているので。
ある意味では、考えすぎずに行動できる「鈍感さ」が良い影響を与えると思いますね。
もちろん、野球でもボールがバットに触れるコンマ数秒の間で走馬灯のように色々なことを考えます。でも、余計なことを考えすぎてしまって1センチでもずれたら、凡打かヒットかで全く結果が違うわけです。
そこで大切なのが、大切な場面で無駄なことをいかに考えないか、つまり「メンタルの保ち方」なんだと思います。
大久保:なるほど。一人で戦っていく中で「孤独感」を感じることはないのでしょうか。
森本:大体のプロ野球選手は孤独感を乗り越えていると思います。孤独感というよりは「成功したい」「結果を出したい」といった前向きなプレッシャーがありますね。
会社員なら組織でカバーしてくれる面もありますが、プロ野球選手の場合は諦めたらクビになる世界。やる気がない人は最初から勝負の土俵にすら立てないです。
ただ、結果を出そうとしすぎるとパフォーマンスが落ちてしまうこともあります。ここは最後の壁といえますね。
難しいところではありますが、気持ちをどう上手くコントロールして結果に繋げられるのかが重要です。
気持ちをコントロールするには“開き直ること”が大切で、「ここまで準備してきたんだから思い切ってやるしかない」という開き直りが、意外と結果に結びつくこともあります。
「自分の強みを知る」ことがパフォーマンスを向上させる
大久保:野球は好きで始められたと思いますが、プロとして高みに登っていく中で苦しく感じたことはないのでしょうか。
森本:元々は野球が好きで、甲子園を目指していました。でも、プロになってからはさらにレベルが上がって、技術が足りていないという壁に当たってしまったんです。
そのときに「まずは必死に土台作りするしかない」と励んでいましたが、二軍では打てても一軍にいくと全く打てない。
そんな状況が続いて、同じことを繰り返している時期が一番キツかったですね。自分の不甲斐なさを強く実感して、とても苦しかったです。
大久保:そうなんですね。苦しい時期はどのように乗り越えたのでしょうか。
森本:自分自身と向き合って、自分の武器は何かを考えるようにしました。
起業家の方も同じかもしれませんが、長所・短所を含めて自分の強みを知らなければ勝負にならないと感じたからです。
自分に向き合うことはとても大切で、人のことは分かっていても自分のことを分かっていないという人が多い。
自分と向き合うことで、なんとなくでも課題や強みが分かります。僕の場合は”塁に出る”というのが強みでした。
ぼてぼてのヒットでもフォアボールでも、とにかく塁に出るのが自分の強みだと分かったんです。それに気付くまで8年くらいかかりましたね。
大久保:才能があったわけではないと仰っていましたが、プロとして活躍できたのはなぜだと思いますか。
森本:僕の場合は本当に普通の選手でした。足が早い、バッティングができる、守備が上手いという選手は他にもたくさんいますし。
でも、その中で僕がプロ野球選手として活躍できたのはパフォーマンスを発揮できたからだと思います。
10の才能があるのに本番で3しか出せないという選手は多い。自分のように7ぐらいの才能しかなかったとしても、5か6出せれば勝てるわけです。
結局は、自分の持っている力を大切な場面でどこまで出せるのかというのが勝負の肝といえるでしょう。
大久保:なるほど。前向きな性格だと感じたのですが、子供の頃からポジティブだったのでしょうか。
森本:元々はすぐに考え込んだり落ち込んでしまうタイプでした。子供の頃は持病の脱毛症にかなり悩んでいましたし。
でも、今だからこそ言えることかもしれませんが、悲劇の主人公や被害者みたいになっていると運はやってこないです。
今の状態でも幸せだと感じられることが大切で、当たり前のことにも感謝やありがたさを感じられることがポジティブの原点だと思います。
当たり前のことにも感謝できるようになると自分の幸せの定義も変化しますしね。
上手くいかないときこそがチャンス
大久保:起業家は好きなことよりも得意なことをやった方が伸びると聞きます。それは野球でも同じでしょうか。
森本:そうですね。僕自身も外野から始まりましたし、自分の得意なところを極めたからこそプロとして活躍できたんだと思っています。
僕の理念は「軸は決めるが形を決めない」ということ。自分の信念がないと形もできないと思っていて、形を先に決めてしまうとよく分からなくなってしまう。
プロを引退したばかりのときは、野球以外に自分の軸となる信念がはっきりしていなくてお断りした仕事もありました。
ですが、今は自分の信念が見えてきていて、形を変えても自分の信念がブレないのであれば挑戦してもいいんじゃないかと思い始めたんです。
だから、今は新しい仕事にもチャレンジするようになりました。自分のコアが分かったからこそ、どういう選択をしていくべきかが見えてきたんだと思います。
大久保:一芸を極めた人だとプライドや経験が邪魔になることもありますよね。
でも、森本さんのYouTubeなどを見ていると等身大で勝負をしていると感じます。見ているだけで楽しくなりますし、本気の度合いが伝わってきます。
森本:変なプライドは捨てて、人様に迷惑をかけるものでなければまずはチャレンジしてみようという気持ちでいます。
これがプロ野球選手で活躍してきた、というプライドがあったらできていないと思うんです。
一旦、まずはフラットに考えたことで自分にとってプラスになりました。
僕はマイナスな経験もすべてプラスになると感じていて、たとえチャレンジして上手くいかなかったとしても自分の糧になります。
なぜこう考えるようになったかというと、初めて日本シリーズに出たときの経験があるからです。
当時の僕はとても緊張してしまっていて、足が震えていました。でも、そのとき当時選手として出場していた先輩から「今後ファイターズを背負っていく選手として、この日本シリーズで結果を出したとしてもミスしまくったとしても、どちらも選手としてプラスの経験になるんだ」と言われたんです。
そのおかげで、結果的に2006年の日本シリーズで最高打率を出せました。
それが今でもマインドとして残っていて、ミスをしてもそれを活かすのであればプラスの経験になると感じています。
高い目標を持ち続けることで成長に繋がる
大久保:プロ野球選手はライバルと比較されることが多いと思います。スタートアップの企業でもライバルが出てくることは常にあります。
ライバルに対する嫉妬心などネガティブな感情との向き合い方について聞かせていただけますか。
森本:人の不幸を祈り始めると一生勝てないです。他の人の努力を見て、自分も頑張ろうと思うことでやっと勝負できるようになる。
人の成功に嫉妬するのではなく、自分自身で努力していかなければ勝負の世界では勝てません。
僕はそこに気づいて、周りの選手よりも結果を残し続けるというところに意識を向けるようにしました。そうすることで、自分の成長に繋げることができます。
大久保:自分の成長だけを考えると自分自身も楽になりますよね。常に先を見つめることが成長に繋がるのでしょうか。
森本:僕はずっと1億円プレイヤーになりたいと思っていたのですが、実際に達成したときに達成感が生まれてしまって。
でも、達成感が生まれてから成績は落ちてしまいました。
だから、目標は高い方がいいしずっと持ち続けていないと、満足した瞬間に成長は止まってしまうと思います。目標もただ立てるのではなく、何のためにその目標を達成したいのかを考えておくことが大切です。
たとえば、自分が何のために会社を成功させたいのか、社会にとってプラスになるのかなど、お金だけではない価値を見出すとか。
お金だけを目標にしてしまうと、達成したときに成長は止まってしまいます。でも、世の中を喜ばせるためだと思えば限界はありません。
大久保:なるほど。自分の価値を上げていくためには、どのような考え方が必要でしょうか。
森本:僕は過去が今の自分の価値を作っていると感じていて、来年の自分の価値は今年の自分によって決まります。
たとえば、野球選手なら年俸1億3000万円の選手だったとしてもそれは去年の自分。安心して努力を怠ってしまうと、来年の自分の価値は下がってしまいます。
だから、野球選手も起業家もハングリーでいることが大切ですね。
人生を楽しくポジティブに生きるために必要なこと
大久保:現在は仕事に対して、どのようなモチベーションで取り組んでいますか。
森本:お金というよりは、社会のために貢献していこうという気持ちがモチベーションに繋がっています。
自分たちの提供したものが結果的にお金という形で返ってきている。こういった意識をブレさせないことが大切だと思っています。
やれることが無限にあるので、自分たちの武器や価値が何かを探しながら色んなことにチャレンジしていく姿勢を大事にしていますね。
大久保:そのチャレンジの1つに”メンタル体操”がありますよね。こちらを始めたきっかけについて教えて下さい。
森本:人生は楽しく生きたいと思っている方が多いと思います。
たとえ楽しいことをやっていないときでも、何となく楽しいと思えるようになればポジティブに生きられますよね。Youtubeでも発信していますが「明るくポジティブに」というのが自分のモットーです。
僕がYouTubeや本で公開している”メンタル体操”は、少しでも多くの方に「人生を楽しくポジティブに生きてほしい」という想いで考えました。
”体操”というのは面倒に感じていても、いざやってみると「楽しい」「スッキリする」と感じる人が多いんです。たとえば、体操の中におもしろポーズなどもあって、やっていれば自然と笑顔になれます。
メンタル体操は、ライオンズの後輩にあたる菊池雄星選手たちのトレーニングを指導している清水忍さんに監修してもらいました。
トレーニングとメンタルは直結していて、ただウェイトを上げている人と来年に繋げようとしている人では結果が全く違います。清水さんは、そういったメンタル面のアプローチも行っている方です。
大久保:森本さんは企業研修などの講演も行われていますよね。講演では、どういったことを伝えているのでしょうか。
森本:みなさんの背中を後押しできるように心がけて話しています。
結果が出るスポーツをやっていく中で、上手くいかなくなった時でもできることが必ずある。上手くいかない、失敗した時の方が自分の成長に繋がっているということをみなさんに伝えています。
僕自身の経験としても、優勝したときより上手くいかなかったときの3年間の方が得られるものが多かったです。落ちてからはじめて準備の大切さなど、みんなができることをやっていないことに気付かされました。
なので、講演でも上手くいかないときこそチャンスだとお伝えしています。
大久保:最後に起業家に向けたメッセージをお願いします。
森本:今はコロナ禍で大変な経営者の方もたくさんいると思いますが、逆風のときにこそ得られるものはたくさんあります。
今できることをやりつつ、振り返ったときに「あの時はキツかったな」と笑い飛ばせるよう、励んでいってほしいと思います。
大久保:本日はどうもありがとうございました。
メンタル体操 1日5分で心も体も強くなる「すごい運動」 森本稀哲 KADOKAWA
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また、森本氏は企業や自治体向けの講演も行っています。様々な苦難を乗り越えてきた森本氏による「成果を出すためのコツ」は必聴ですよ。
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(取材協力:
CKプロダクション株式会社/森本稀哲)
(編集: 創業手帳編集部)