ガルデリア 谷本 肇|極限環境藻類「ガルディエリア」で地球規模の環境課題を解決
「先が見える人生はつまらない」という思いで3社の起業を経験
医薬品や健康食品等の原料として、私たちの生活に深く関わっている「微細藻類」。近年、多業種を巻き込んだ研究開発と産業化が加速しており、その市場は右肩上がりの成長が期待されています。
その中で、硫酸性温泉に生育する、10億年前から地球に存在する「ガルディエリア」という紅藻に注目して事業化したのが、コンサル会社を経てシリコンバレーに渡り、35歳でリアルコムという会社を立ち上げた谷本さんです。
常に変化や挑戦を恐れないマインドはシリコンバレーで培われたものだという谷本さん。創業手帳代表の大久保が、今までのキャリアやシリコンバレーでの経験、事業内容などについてうかがいました。
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ガルデリア株式会社 代表取締役CEO
慶應義塾大学大学院経営管理研究科MBA。
米国ペンシルベニア大学 ウオートンスクール交換プログラム修了
外資系経営コンサルティング会社を経て米国シリコンバレーでベンチャーの事業開発支援を6年間行う。その後
2000年にリアルコム株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。2007年に東証マザーズに上場。その後同社を退職し、2013年にテネクス株式会社創業。代表取締役CEO就任。2015年に株式会社ガルデリアを共同創業。現在代表取締役CEOを務める。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
地球環境をよくするために藻類の研究を事業化
大久保:株式会社ガルデリアの事業内容を教えていただけますか。
谷本:世の中には、数十万種類の微細藻類があると言われていますが、その中のガルディエリアという微細藻類を使用して地球規模の環境問題の解決に貢献するという事業です。
微細藻類というと、ユーグレナやスピルリナが我が国では知られていますが、ガルディエリアというのは温泉に棲んでいる非常にユニークな藻です。他の藻類であれば死んでしまうような、50〜55度といった高温度、ph0の強酸性環境でも生きていける強さを持っています。結果として増殖能力が高いので生産コストが少なくてすみ、さらに、工場廃液などの溶液から貴金属を吸着するという特徴を持ちます。
大久保:昔、ユーグレナの石垣島の栽培所に行ったことがあるんですが、栄養価が高いのですぐに食べられてしまい、培養が大変だと聞きました。
谷本:そうした状況を生物汚染といいます。ガルディエリアは極限環境で生きていけるので、他の菌が入れないように酸性度や水温を上げて、ガルディエリアだけが生きられるような環境を作ることで生物汚染を回避することができます。
都市においては、大量に廃棄される電子機器や家電製品の中にもリサイクルすることができる有用な金属が入っていますが、その中の一部は、技術的に取り出すのが困難なためそのまま廃棄されています。日本では年間約500億円ほどの有価金属が捨てられていると言われています。ガルディエリアは金やパラジウムといった貴金属を非常に効率的に吸着するため、今までの技術では難しかった薄い溶液からも貴金属を回収することができます。
また、世界の金採掘市場において、人手による小規模の金採掘が行われている鉱山が未だに多くあるのですが、そこでは素手で水銀を使って金の採集を行うため、劣悪な労働環境と水銀による環境汚染が問題となっています。こうした採掘プロセスにおいて、ガルディエリアの力を借りれば有害物質を使わずに採掘ができます。
大久保:3社目の起業とうかがっていますが、どんな経緯で起業されたのですか。
谷本:2000年にリアルコムを立ち上げ、2013年にテネクスを立ち上げ、フリーのコンサルタントとして日本の大企業がベンチャーとつながるのをお手伝いしたり、エンジェル投資家としてベンチャーの事業開拓のお手伝いをしたりしていました。やっと自分の時間が取れるようになったのでプライベートでは登山にも挑戦し、北米最高峰のデナリ(マッキンリー)にも登頂しました。
そんな中でも次の起業のアイディアを練っていました。ガルディエリアの存在を知って、これはグローバルで戦えそうと感じたのが起業したひとつの理由です。そしてもうひとつは、年を重ねて地球にいいことをしたい、子供達により良い地球環境を引き継いでいきたい、という気持ちが強くなり、ガルディエリアが物理的に地球環境そのものを改善できそうな事業になりうると感じたからです。
周囲の友人やカリフォルニアの温暖な気候に影響されて起業を決意
大久保:シリコンバレーに渡ったのはどんなきっかけがあったのですか。
谷本:大学は慶應義塾で、バブル前の大学生だったので今の大学生と違うかもしれませんが、よく遊びよく遊ぶ4年間でした(笑)。
そして、就職活動をしたときに、初めて自分の人生を真面目に考えたんです。結果としてある日本のグローバルメーカーの内定をいただきましたが、どういう生き方をしようかと考えた時に、「この会社に入って上手くいけば役員や、ラッキーだったら社長になれるかもしれない。でも同期が200〜300人いて、自分以外の誰かがやっても上手に経営できるかもしれない社長をやってもつまらないだろうな」と感じました。
そこで、プロのビジネスマンになろうと思い、内定を断って慶應ビジネススクールに行き、交換留学も経験しました。その後当時の社名でブーズアレンという米国企業に就職し、戦略コンサルタントを5年経験しました。
外資系のコンサルタント会社は「UP or OUT(昇進するか、さもなくば退職するか)」の世界なので、数年働けばだいたい自分のポジションが見えてきます。「頑張ればなんとか生き残れるだろう、このままシニアになればだいたい年収いくらぐらいかな」と見通しがついてきたところで、先が見えてきたことでつまらないと感じました。
色々と考えた結果、「ベンチャーの世界でアメリカンドリームを体現しているスティーブ・ジョブスやジェリー・ヤン(Yahoo!の創業者)といった人たちはどんな人たちなんだろう。シリコンバレーに行ってそういう人と接する仕事がしたい」という思いで1994年にシリコンバレーに行って、小さなコンサル会社に転職しました。
大久保:仕事の内容としてはどのようなことをやっていたのですか。
谷本:日本およびアジアの大企業とアメリカのベンチャーの協業の橋渡しをしていました。面白い技術を持つベンチャーを見つけてきて、このベンチャーと事業提携をしませんか、というふうに提案するんです。
5年ほど働く中で、アメリカンドリームを体現しているような人と会う機会も増えてきて、周囲で起業して成功している多くの人を見て羨ましく思う自分に気づきました。羨ましいと思うのであれば、自分も起業しないとダメだと思ったのが起業のきっかけです。
大久保:リアルコムという会社を作ったきっかけを教えてください。
谷本:Yahoo!の創業者など、スター経営者のような方々にお会いして率直に感じたのは、彼らも宇宙人のような突き抜けた天才というわけではなく、普通の人間であるということです。
でも「自分はこういう技術で世の中を変えるんだ」のような信念や、いい意味での思い込みが1対1000くらい自分とは違うと感じました。
もともと能力が全く違う、というならば諦めもつきますが、その違いはなんとか補えるのに、信念のところでダメっていうのは言い訳にならないと思ったんです。また、友人の多くが起業したり、ベンチャーに転職して、最初は名前を知らないようなベンチャーでも、半年から1年たつと世界で注目されるような企業になっているということがよくありました。
そんな環境と、カリフォルニアの温暖な気候に影響されて「周りの人が起業しているなら自分もやればできる」と思い、1社目であるリアルコムを創業しました。
大久保:事業アイディアはどのように思いつかれたのですか。
谷本:シリコンバレーで「仕事ができる人」というのは、企業の壁を超えて、知らないことをすぐに周りの人に聞ける人です。それをWEB上でもできたらいいよね、ということで、疑問が浮かんだときにすぐに有識者に質問できて、PDCAをまわせるようなプラットフォームをつくろうというのが当時のアイディアでした。
シリコンバレーではアントレプレナーシップを推進しようという空気があり、さまざまな人と会える懇親会が頻繁にあるのですが、自己紹介の際に会社名を言ってもあまり意味がありません。シリコンバレーの人たちは、相手がどの会社にいるかではなく「今取り組んでいること、できること、何をやりたいと思っているのか」に興味があるんです。だいたい3年もすれば多くの人が転職するので、どの会社にいるかは重要じゃないんですよね。
そういったシリコンバレーの独特のコミュニケーションが非常に面白いなと感じ、同じような働き方を日本のビジネス界ができたらいいのではないかと思ったので、シリコンバレーでの人の働き方をITで表現するならどうなるかというのが最初のスタートでした。今でいえば企業内フェイスブックのような、社内やグループ内で「こういうテーマに一番強い人」を探すことができ、Q&Aをしたりコラボレーションができるコミュニティのプラットフォームを作りました。
大久保:プロダクトの背景を聞くことができて腑に落ちました。リアルのコミュニケーションがWEBに移動したということなんですね。
谷本:はい。世界で業績がいい大企業のコミュニケーション方法を解析すると、タスクフォース(重要課題を遂行する臨時のチーム)をトップダウンで決めるのではなく、その問題を解決したいと思う人、テーマに関して一番強く知識があり関心がある人がリーダーとしてチーム運営しているんです。
役職などは関係なく、会社の組織を横断して課題に取り組むことを達成しているのがいい会社であって、極論すれば一年目の社員がリーダーになってもいいんですよね。これを作り上げるITプラットフォームというのが当時のビジョンでした。
大久保:当時のリアルコムさんは勢いがすごかった印象があります。上場もされましたが、振り返ってみるといかがでしたか。
谷本:CtoC(個人間の取引)からBtoB(企業間の取引)まですべてのプラットフォームを作ろうと取り組んでいて、以前から考えていた「階層型組織ではダメだ」という思想がリアルコムで形になり、世の中の流れにピタッとはまったのではないかと思っています。
また、創業前にシリコンバレーにいたこともあり、グローバル企業を作りたいという思いも強かったですね。
知り合いのシリコンバレーのVCのガレージを借りてオフィスを作ったり、シアトルのマイクロソフトのあるチームがスピンアウトして作ったQ&Aコミュニティ企業を買収してグローバル化を模索していました。
結果として日本だと丸紅、鹿島建設、三菱UFJ銀行、東京海上、アメリカだとP&Gやボーイングなどのグローバルクライアントを持つことができましたが、リーマンショックの悪影響は結構受けてしまいました。
ビジョンとミッション、バリューは最初に作ろう
大久保:起業を振り返って、大変だったと思われることはありますか。
谷本:結局一番苦労もするし成功要件になるのは人だと思います。もちろん資金繰りもありますが、経営者の仕事の8割は人材集めかなと思ったりしますね。創業直後は何を言ってもいい人材というのはなかなか来ません(笑)。知り合いの知り合いを一本釣りしたり、会社のビジョンに共感してくれた人材紹介会社の担当者が会社の人事部長のように会社を宣伝してくれ、ビジョンに合う人を連れてきてくれたりと、とにかく人づてで人を集めました。
また、リアルコムを立ち上げた2000年にビジョンとミッション、バリューをしっかりと決めましたが、これが非常によかったし大事だったと感じています。自分がコンサルタント出身だったということもあり、初期に会社の価値観や行動規範を明確にして本当によかったと思います。
例えば、日本にいる外資系ソフトベンダーで実績を上げている営業人材を採用してうまくいく例はほぼありませんでした。そういった人材の成績や業績の8割は会社のブランドということはよくある話で、結局後ろで支援してくれている人の成果だったりするわけです。
高額な給料を払って採用した結果、「僕の営業資料を作ってくれるアシスタントを雇ってください」と言われ、「そんな人雇えるはずないでしょ」とこちらが返して、お互いに目がまんまるになったなんていう話もありました。ベンチャーにはベンチャーの戦い方、仕事のやり方があるので、履歴書に書かれていることより「ビジョンとミッションに共感してくれるか」「バリューを共有できるか」で人を評価することが一番大切だと勉強しました。
まずは会社と価値観が合わないということが避けるべき一番の要素なので、面接では最初から価値観の話に特化するべきだと僕は思っています。最終面接は社長の担当でしたが、カルチャーが合わない人は絶対に雇わないと決めていました。
行動規範やカルチャーを明文化していない会社が多いですし、作っても壁に貼ってあるだけのところも多いですよね。例えば行動規範を評価基準に360度評価を行うなど、人事評価制度に取り込むことで、常に社員も会社のカルチャーやバリューを意識できるような仕組みを作るべきだと思います。
なるべく早く、会社の人員が5人や10人のうちに始めて、価値観を共有しておくといいですね。それが会社の背骨になります。うちでは語り部といっていましたが、創業期の社員たちが宣教師のように会社のカルチャーを浸透させていくことは会社の成長にもつながったと僕は信じています。
大久保:今思えばこうしておけばよかったと思われることはありますか。
谷本:上場準備に入っていたときに、ちょうど従来型のパッケージ型ソフトウェアからSaaSに変わる流れが起こったんですよね。上場直前にビジネスモデルを変更することは非常に困難で、今から思うとそこの対応が遅れてしまった、対応をしておけばよかったというのはあります。
高く飛ぶためにはいったん立ち止まり、しゃがむ必要がありますが、スピード感を重視するあまり、しゃがむ時間がないままに一生懸命飛んできてしまったという感覚です。今思えば、少し立ち止まる時間を作ってもよかったかなと思いますね。
大久保:それは経験しないとなかなかわからないことですよね。シリコンバレーでのビジネスマインドについて、改めてうかがえますか。
谷本:シリコンバレーの考え方で印象的だったのは、「とにかくやってみよう」「やってみた結果として失敗も当然ある」「失敗も経験」ということです。
例えば日本であれば、自動運転についての行政の認可がすぐおりるとは思えませんが、シリコンバレーではすぐに許可されました。そういったカルチャーが強いですね。
何人かでうまくいくかを議論する暇があったら、1人でいいからまずやってみようという感じです。例えばAという会社にいたプログラマーがコードをコピーしてBという会社に持ち込むというような倫理的な失敗はNGですが、倫理的に問題ないならどんな失敗をしてもいいんです。とにかくやりたいことがあったらチャレンジするという文化が浸透していて、それがシリコンバレーで起業が盛んな一因だったと思います。
大久保:最後に読者にメッセージをいただけますか。
谷本:起業には不安や苦労や挫折がつきものですが、野心的なゴールを作って、途中でピボットしてもいいけれど目線の高さは下げずに、新しい会社や産業を作る、というプロセスそのものを楽しんでほしいと思います。
(取材協力:
ガルデリア株式会社 代表取締役CEO 谷本 肇)
(編集: 創業手帳編集部)