創業期からはじめるデジタル化のメリットとは
小規模な企業からでも始められるデジタル化のコツを専門家が解説!
「デジタル化は大企業のもの」「うちにはまだ早い」「予算も人手も足りない」―――。
創業期の経営者から、よくこのような声を聞きます。
確かに、大規模なシステム投資や専門チームの採用は、創業期の企業には難しいかもしれません。
しかし今、デジタル技術の進化により、状況は大きく変わってきています。
かつては大企業でしか実現できなかったマーケティングや営業活動が、無料や低コストのツールを組み合わせることで、小規模な企業でも効率的な事業運営が可能な時代です。
また創業期には、最初からデジタルを前提とした仕組みづくりができる強みがあります。
本稿では、特に「セールス」と「マーケティング」に焦点を当て、創業期の企業がデジタル化に取り組むための具体的な方法をデジタルテクノロジーを活用したマーケティングDXを支援する株式会社アーチャレス代表の石原氏に解説していただきます。
デジタルマーケティングの専門家として20年以上のキャリアを持ち、現在は企業のデジタル変革を推進するマーケティングDXコンサルタント。高級スーパー紀ノ国屋のEC運営や、ロジスティード株式会社のマーケティング支援などを手がける。トヨタ「レクサス」公式サイトでは年間1,000万人以上の訪問者を獲得するプロジェクトを成功させた実績を持つ。
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この記事の目次
少人数でも成果が出せる!デジタル時代の営業・マーケティング
セールスとマーケティングの分野においては、今までは営業マンの数や広告費の規模で大企業に太刀打ちできなかった領域でも、デジタルの力を活用することで、創業期の企業でも十分に戦えるようになってきています。
まずはどのような変化があり、その変化によるメリットを解説していきます。
デジタル化による具体的な変化とは
では具体的に、デジタル化は私たちの企業経営をどのように変えていくのでしょうか。
確かな数字で今後の動きを判断できる時代へ
これまで勘と経験に頼っていた判断を、データに基づいて行えるようになりました。
Webサイトでの顧客行動、問い合わせ内容、購買履歴など、さまざまなデータをリアルタイムで把握・分析できます。広告投資や営業活動の効果を即座に数値化し、限られた予算でも最大の効果を生み出せるようになったのです。
24時間365日の顧客対応を可能に
「人手不足」という課題に、デジタル化は新しい解決策を提供します。
問い合わせ対応、資料送付、フォローアップメールの配信など、これまで手作業で行っていた業務を自動化できます。
24時間365日の顧客対応が可能になり、少人数でも効率的な運営を実現できます。
一人ひとりに寄り添う顧客対応へ
デジタル化により、お客様一人ひとりに寄り添ったパーソナライズされた体験を提供することが可能になりました。
興味関心や過去の購買履歴に基づいて最適な情報を提供し、見積もりから契約までシームレスな体験を実現。継続的な関係構築にもつなげられます。
創業期デジタル化の3つの大きなメリット
デジタル化は、創業期の企業に大きな可能性をもたらします。ここでは創業期のデジタル化においての3つの大きなメリットについて解説していきます。
メリット1:少人数でも実現できる市場開拓
デジタル化により、小規模な創業期企業でも、広い市場へのアプローチが可能になりました。
地理的な制約を超えた見込み客開拓、ターゲットを絞った効率的な広告展開、自動化された顧客対応により、少人数でも大きな市場に挑戦できます。
メリット2:小さく始めて段階的に成長
デジタル化の大きな特徴は、小さく始めて段階的に拡張できる点です。
無料のツールから始めて、効果を確認しながら必要な機能を追加していけます。早期からデータ基盤を構築することで、将来の意思決定に活用できる貴重な資産も蓄積できます。
メリット3:成長の土台となる基盤づくり
創業期からのデジタル化は、将来の成長を支える強固な基盤となります。
業務の標準化により、新しいメンバーの早期戦力化が容易になり、営業やマーケティングのノウハウをデジタルデータとして蓄積することで、組織の財産として活用できます。
初期費用ゼロから始める効果的な集客術
デジタル化を進める際は、段階的な展開が重要です。まずは即効性のある施策から始め、成果を確認しながら徐々に投資を広げていくアプローチが賢明です。
多くのツールが無料トライアルを用意しているので、これを活用して使い勝手を確かめることから始めてみましょう。
ステップ1:デジタルマーケティングの基盤構築
最初に取り組むべきは、自社Webサイトの構築です。WixやJimdoなどのサイトビルダーは、無料プランから始められます。
広告表示などの制限はありますが、使い勝手を確認しながら自社に合ったツールを選べます。効果を実感できたら、月額1,000円〜3,000円の有料プランにアップグレードすることで、独自ドメインの使用や広告の非表示化が可能です。
WordPressを選ぶ場合も、サーバー代と独自ドメインで月額1,000円程度から始められます。多くのレンタルサーバーでは簡単インストール機能が用意されているため、技術的な知識がなくても構築できます。
サイト構築で最も重要なのは、訪問者にとっての使いやすさです。スマートフォンでの見やすさはもちろん、会社の信頼性を伝える基本情報や、実績、顧客の声なども効果的に掲載しましょう。
また、ブログなどで情報を発信しやすい仕組みを整えることで、サイトの鮮度を保ちやすくなります。
ステップ2:見込み客の集客基盤づくり
次に重要なのが、Googleビジネスプロフィールの活用です。
これは実店舗型ビジネスだけでなく、士業やBtoBビジネスにとっても必須のツールとなっています。
なぜなら「近くのレストラン」「○○市 税理士事務所」といった検索でGoogleマップの上位表示を狙えるからです。
定期的な投稿機能を活用し、セミナー情報や専門的な情報を発信することで、専門家としての信頼性も高められます。
SNSも見込み客獲得の強力なツールです。ただし、やみくもに投稿するのではなく、戦略的な運用が重要です。
BtoBビジネスならFacebookやLinkedIn、BtoCの商品販売ならX(旧Twitter)やInstagramというように、ターゲット顧客に合わせてプラットフォームを選択します。
投稿内容も、セールス色の強いものだけでなく、役立つ情報や業界動向、日々の業務風景など、バランスの取れた情報発信を心がけましょう。
フォロワーとの対話を大切にし、エンゲージメントを高めることで、自然な形での認知拡大につながります。
検索エンジン対策(SEO)も、基本的な取り組みなら特別な投資は必要ありません。
重要なのは、顧客が実際に使う検索キーワードを意識することです。飲食店なら「○○駅 ランチ」、税理士事務所なら「個人事業 確定申告 相談」といった具合です。
こうしたキーワードを自然な形でサイトに組み込み、定期的に専門的な情報を発信することで、検索エンジンからの評価を高められます。
これら3つのチャネルを適切に組み合わせることで、効果的な見込み客の集客が可能になります。
ステップ3:見込み客獲得の自動化
問い合わせフォームは、必要以上に情報を求めないよう注意が必要です。
初期段階ではお名前とメールアドレス、電話番号など連絡するために最低限必要な情報取得にとどめ、スムーズな問い合わせを促進しましょう。
特に効果的なのが、スケジュール調整の自動化です。
Googleカレンダーと連携した予約システムを導入することで、問い合わせから商談設定までを自動化できます。
顧客は営業担当の空き状況を確認しながら都合の良い日時を選択でき、予約確定後は自動でオンライン会議のリンクが送られます。
さらに、予約確認やリマインドメールも自動送信できるため、キャンセル率の低減にも効果があります。
ステップ4:データ活用による継続的改善
Google Analyticsを活用することで、サイトの効果を数値で確認できます。どのページが人気か、どこで離脱が多いかといった情報を無料で取得でき、改善に活かせます。
ただし、データは取得するだけでなく、定期的な確認と改善アクションにつなげることが重要です。
このように、デジタルマーケティングは必ずしも大きな投資を必要としません。無料ツールを効果的に組み合わせ、地道な改善を続けることで、着実な成果につなげることができるのです。
営業力を高めるデジタルツール活用のコツ
営業活動のデジタル化は、単なる効率化だけでなく、営業力の強化にもつながります。特に創業期は、限られた人員で最大の成果を上げる必要があり、デジタルツールの活用が大きな差別化要因となります。
顧客管理はCRMツールを活用
従来の営業活動では、顧客情報が営業担当者個人のスマートフォンや手帳に散在しがちでした。CRMツールを活用することで、この課題を解決できます。
多くのCRMツールは無料プランやトライアル版を用意しています。例えば、HubSpotのフリープランやZoho CRMの無料版で基本的な顧客管理を始められます。
効果を実感できたら、月額3,000円〜5,000円程度の有料プランにアップグレードすることで、より高度な機能を活用できます。
CRMツールの活用により、「初回接触」「提案済み」「見積提示」「契約交渉中」といったステージ別の案件管理が可能になり、各案件の状況を明確に把握できます。これにより、適切なタイミングでの対応が可能になります。
営業プロセスでのデジタル活用も積極的に
オンライン商談の活用は、もはや必須のスキルです。Google MeetやZoomの無料プランを活用することで、地理的な制約なく商談を実施できます。
特に初期の商談では、移動時間の削減により、より多くの商談機会を創出できます。
提案資料の作成でも、Google SlidesやCanvaなどの無料ツールと基本テンプレートの活用で、作成時間を大幅に短縮できます。さらに、生成AIを活用することで、企画書や提案書の素案を効率的に作成することも可能です。
契約プロセスも、PDFでの契約書のやり取りと電子署名の組み合わせなど、無料でもデジタル化が可能です。これにより、契約締結までの時間を大幅に短縮できます。
成果を最大化するためのデータ分析が重要
デジタル化の真価は、データに基づく意思決定が可能になる点です。
CRMに蓄積されたデータから、成約に至りやすい顧客の特徴や、成約までの平均期間を把握し、見込み案件の優先順位付けに活用できます。
また、商談ステージごとの成約率を分析することで、「提案後の見積提示が遅い」「契約交渉で失注が多い」といったボトルネックを特定し、改善できます。問い合わせから商談設定までの最適なタイミングや、効果的なフォローパターンも、データから見えてきます。
このように、デジタルツールを活用することで、創業期特有の「リソース不足」を克服しながら、効果的な営業活動が可能になります。
重要なのは、ツールの導入自体が目的化せず、常に「成果の最大化」を意識することです。継続的な改善を重ねることで、持続的な成長につながる営業基盤を築くことができます。
知っておきたい支援制度とコミュニティの活用法
デジタル化への第一歩を踏み出すとき、「どこに相談すればいいのか」「専門家のアドバイスを受けるにはコストがかかるのでは」と悩まれる方も多いでしょう。
しかし実は、創業期の企業を支援するための様々な無料相談窓口や支援制度が用意されています。
無料で活用できる専門家支援
まず活用していただきたいのが、商工会議所や商工会の経営相談です。全国各地の経営指導員が、デジタル化に関する相談にも対応しています。
「どのツールを選べばいいのか分からない」「導入の進め方が不安」といった相談から、具体的なITベンダーの紹介まで、幅広くサポートを受けられます。
公的機関による専門家派遣制度も見逃せません。ITコーディネーターや中小企業診断士など、デジタル化に精通した専門家の無料派遣を受けられる制度が各地で整備されています。
特に、経営課題の整理から具体的なツール選定まで、専門家の視点でアドバイスがもらえるのは心強い支援となります。
低コストで活用できる支援制度
自治体独自の支援制度も充実してきています。例えば、デジタル化に特化した補助金や、専門家派遣事業など、地域の実情に応じた支援メニューが用意されています。
特に、地域の中小企業のデジタル化を推進する動きが活発な自治体では、実践的なセミナーや勉強会なども開催されています。
国の支援事業では、IT導入補助金が代表的です。会計ソフトやCRMなど、幅広いITツールの導入を支援してくれます。
ただし、申請手続きには一定の知識が必要なため、前述の経営指導員などに相談しながら進めることをお勧めします。
コミュニティの活用
同じ立場の経営者との情報交換も、貴重な学びの機会となります。
業界団体や経営者交流会では、先行して取り組んでいる企業の事例を直接聞くことができます。「あの会社はどうやって始めたのか」「どんな課題があったのか」など、生の声を聞けることは大きな価値があります。
最近では、SNSを活用したオンラインコミュニティも活発です。特定のツールのユーザー会や、デジタル化に取り組む経営者のグループなどでは、実践的なノウハウが日々共有されています。困ったときに気軽に質問できる仲間がいることは、大きな心の支えになります。
明日から始めるデジタル化への第一歩
デジタル化は、決して大きな投資から始める必要はありません。むしろ、小さな一歩から始めることで、確実な成果につなげることができます。
まずは、自社の課題を見つめ直してみましょう。「もっと効率的に見込み客を獲得したい」「営業活動を効率化したい」「顧客管理を組織的に行いたい」―――。
こうした課題に対して、本稿でご紹介したような無料ツールや支援制度を活用することで、具体的な解決への道筋が見えてくるはずです。
また、デジタル化は決して孤独な戦いではありません。
商工会議所の経営指導員に相談したり、同じ立場の経営者と情報交換したり、オンラインコミュニティで知見を共有したり。様々な支援やつながりを活用することで、より確実に前に進むことができます。
重要なのは、「完璧」を目指さないことです。最初から理想的な形を求める必要はありません。
特に創業期の企業には、小さな試行錯誤を重ねられる強みがあります。ある施策がうまくいかなければ、すぐに別の方法に切り替えられる。この身軽さこそ、創業期ならではのアドバンテージなのです。
たとえば、最初はSNSでの情報発信から始めてみる。それが思うような成果につながらなければ、Googleビジネスプロフィールの活用に軸足を移す。あるいは、無料のCRMツールを試してみて、合わなければ別のツールに切り替える。こうした柔軟な試行錯誤を通じて、自社に最適な方法を見つけていけばよいのです。
小さな一歩の積み重ねが、やがて大きな変革につながります。失敗を恐れず、むしろ貴重な学びの機会として捉えながら、着実に前に進んでいきましょう。
デジタル化への挑戦は、きっと新しい可能性への扉を開いてくれるはずです。明日から、あなたの会社らしいデジタル化への第一歩を踏み出してみませんか?
(執筆:
株式会社アーチャレス 代表取締役社長 石原 強)
(編集: 創業手帳編集部)