成長の極意は創業の理念に宿る。原点回帰がキーワード。 ファンケル創業者・池森賢二氏の経営哲学(後編)
創業手帳代表の大久保が、ファンケル創業者の池森賢二氏の経営哲学に迫ります
(2019/08/19更新)
ファンケルは、無添加の化粧品、サプリメントや健康食品など、時代の常識を覆す斬新な事業やアイディアで、売上1200億円を超える企業に成長しました。しかし、創業当時の手元資金はなんと24万円から始まり、いまでも無借金経営を続けています。
そんなファンケルを創業した池森賢二氏は、日本を代表する起業家、経営者としての顔の他に、「池森ベンチャーサポート」という会社を個人で立ち上げ、起業家への支援にも積極的に取り組んでいる投資家としての一面も持っています。インタビュー後編では、創業手帳代表の大久保が、ファンケル成長の要となった経営理念や人材育成、そして池森氏の起業家支援に込められた思いについて迫ります。
池森氏がファンケルの創業エピソードと理念を語る前編はこちら
創業手帳の冊子版では、数々の起業家へのインタビュー記事を掲載しています。経営にあたり、注目の経営者がどのようなポイントに注目して事業を拡大させてきたかを知ることができるので、是非読んでみてください。無料で利用できます。
(株)ファンケル代表取締役 会長執行役員 ファウンダー
池森ベンチャーサポート合同会社 創業者
1937年生まれ。三重県伊勢市出身。現在82歳。1959年小田原瓦斯(がす)株式会社に入社。73年同社を退職し、80年に無添加化粧品事業を個人創業。翌年、ジャパンファインケミカル販売(株)(現在の(株)ファンケル)を設立。
1999年に東証1部に上場。2005年、経営の第一線から退いたものの、13年に経営再建を図るべく経営に復帰。低迷していた同社の業績を大きく改善させる。
また、昨年11月には池森ベンチャーサポート合同会社を設立。未来を担う経営者の発掘・支援を積極的に行っている。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
「サプリ」を日本に広めた理由
池森:実は、“サプリメント”という言葉を日本で初めて使ったのもファンケルです。1994年に販売をスタートさせていますが、当時の日本では健康食品は高価で怪しいものだと思われていました。ローヤルゼリーなどは桐の箱に入れて売られていました。
また、最近では、「未病」という言葉も知られるようになりましたが、病気を予防するという意識も今と比べて希薄だったと思います。しかし、病気になってから治療したのでは医療費は大きく跳ね上がりますし、何より病気のご本人が楽しくない。
そこでサプリメントというわけです。まずはお客様が手に取りやすい価格にするため、原料にはこだわりましたが、中間マージンを徹底的に削減し、“価格破壊”を起こしました。現在、サプリメント包装の主流となっているアルミ袋にいれたスタイルも、実はファンケルが日本に広めたものです。
池森:そのとおりです。今の日本では平均寿命と健康寿命の差が大きい。例えば男性は9年以上、女性は12年以上の開きがあります。つまり何かしらの病気を抱えながら生活されている高齢者の方が多いのが現状です。
第一、何かしら病気を抱えながら生活している時間というのは本人にとっても不幸です。また、そう遠くない未来に税収が全て医療費に消えてしまう、そんなことが現実味を帯びてきているように感じます。
同様の変化はいろんな業界で起きていて、それぞれ先駆者が業界の地位を上げてきたという特徴があります。
サプリメントや予防医療の業界も、ファンケルさんのように社会的な正義感をもった会社が正しくリードしてきたことによって、良いイメージが作られ一般に広まっていったという感じがします。
借金せず、地に足の着いた経営で堅実に事業を拡大
池森:私は一度、仲間と一緒に会社を起こしたものの、うまくいかず借金を背負った経験があります。そのため、ファンケルを立ち上げる時には、絶対に倒産しない会社にしよう、手元にあるお金の範囲内で事業を拡大していこうと決めました。
創業時の資金は、24万円です。そのお金を元手に焦らず地道に経営を行ってきた結果、ここまで成長できたのだと思います。
ファンケルはいまでも実質無借金経営ですが、身の丈を超えた成長を追い求めず、キャッシュフローを重視して経営してきたからこそ、無借金経営を続けられているのだと思います。
身の丈にあった堅実な経営、キャッシュフローを重視した経営こそ安定成長の鍵。
起業家精神がある人材を応援していきたい
池森:社員に対しては、「他社にスカウトされるような社員になれ」と言っています。あるいは「起業できるような社員になれ」と。そうした気概をもった多才な社員が増えることで会社は更に成長し進化していくのです。
現実逃避や壁に乗り越えられないことを理由に辞める社員は感心できませんが、社外でやりたいことが見つかったとか、他社からスカウトされた、自ら起業するといった理由で退社するという社員は、会社として全力で応援しています。
池森:「この会社が成長したら世の中良くなるぞ!」とワクワク感がもてる起業家に投資しています。光が届きにくいものの、社会に対して本当に意義深いインパクトを生み出す、そうした会社に光をあてていきたいと思っています。
例えば、既に上手く行っていて上場間近、といった会社はターゲットにしていません。そういう会社は、金融機関やVCなど、色々なところがいくらでも支援しますからね。
投資していると、こんな起業家がいたのか!こういうアイディアや技術があったのか!と新しい発見の連続です。そんな会社の中から10社に1社、100社に1社でも世界を変えるような会社が出てきてほしいと願っています。
投資のモットーはワクワク感。独自の発想で社会を変える、そんな起業家を応援したい。
経営で、理念を死守することの大事さ
池森:お伝えしたいのは、「もともと何をやりたかったのか」という、理念を曲げずに事業を続けることが大事だということです。起業の原点や理念が変わると、ファンが離れていきます。
例えばこれが儲かりそうだ、といろいろな事業に手を出していると、皆に会社の土台がフラフラしていることを見抜かれてしまうものです。
私がファンケルの代表に復帰したのは、「ファンケルの理念がゆらぎ始めているな」と感じたからです。しっかりとした土台を再構築しないといけないと。私は創業者として理念を作り会社を成長させてきたからこそ、どこに問題があるのか、何を改善すればいいのかも明確にわかっていました。だからどこをテコ入れすればよいか、改善すべきポイントはどこか、再び軌道に乗せるには何が必要なのか分かっていました。
事業で躓いた時は、起業したときの理念に立ち返ることです。起業した時に「何を成し遂げたかったのか?」に立ち返って考えると、新しい発見があるはずです。「戦略や手段はどんどん変えても、いちばん大事なところ、つまり創業の理念は変えない」。これによって、会社はブレずに成長していけるのです。
創業の精神に立ち返ろう。原点に立ち返るとそこに新しい気づきがある。
今や大手企業となったファンケルも、最初は今のスタートアップと同じく、この世にない新しい価値を創出するところからスタートしたことがよく分かる話でした。創業手帳の冊子版では、池森氏が重視している「社会にないインパクトを持つ事業」づくりに欠かせない、経営のノウハウをまとめて解説しています。起業家としての確かな経営スキルと、揺るがない理念、どちらも盤石にするための参考にしてみてください。
(取材協力:池森ベンチャーサポート合同会社)
(編集:創業手帳編集部)