法人成り(法人設立)を見据えて個人事業主になる人へ贈る具体的手順

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法人設立と個人事業主の費用の違いやメリットデメリット

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(2016/11/29更新)

「副業が軌道に乗ってきたから、会社辞めよう!」という方の中には、個人事業主がいいのか法人設立が良いのか悩まれるかたも多いかと思います。今回は法人成りを見据えた開業について考えてみたいと思います。

個人事業主としての開業~法人成りを考えるまでの全体像

本文に入る前に、全体像を把握しておきましょう。流れとしては下記が想定できるでしょう。

  • 個人で事業をしており、個人事業主としての開業を考え始める(在勤中)
  • 個人での事業が軌道に乗り始め、年間20万円を超える→開業届を出す
  • ※ この際離職しても、副業として続けてもOK

  • 晴れて個人事業主となる
  • 青色申告承認申請書をなる早で提出(特例を除き2ヶ月以内)
  • 日々の帳簿管理を行う(開業~年末までの取引を会計ソフトに入力)
  • 確定申告と所得税納付(1月~3月末まで)
  • ……

  • 利益500万円か売上1000万円を達成したタイミングで法人成り

個人事業とは。開業届を出すタイミングは?

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起業の方法は様々で、大企業などで役員を務めたりなどして経営に近い経験を持っている方や、将来を見据えて急速に事業拡大したい方などは、始めから法人設立する場合もあります。

一方、ネットビジネスを始め、個人や複数人の規模で小さくスタートする場合には、個人事業の形態を取る方が多いです。このような場合、事業が軌道にのり、売上が一定ラインを超えてから、法人化(法人成り)するというのが、費用面なども含めて理想だと言えます。

個人事業主として開業する2つのパターンと開業届を出すタイミング

個人事業とは法人登記をせずに、個人で会社を営むことを言います。「個人」と名前が付いていますが、家族や仲間などを雇用したりもできます。

個人事業には2つのパターンがあり、それぞれ注意点があります。

会社勤めで副業でビジネスをしている場合

個人事業主となる方の中には、会社勤めをしていながら副業としてビジネスを行っている方も多いことでしょう。そういった場合は、そのビジネスの収益(所得)が年間20万円を超えだしたタイミングで、開業届を出しましょう。20万円を超えない場合は、確定申告すら必要ありません。後述しますが、開業届を在勤中に出してもばれません。

専業でビジネスをしている場合

副業としてではなく、専業としてビジネスをしている場合は、年間38万円を超えだしたタイミングで、開業届を出しましょう。こちらも同じく年間38万円を超えなければ、確定申告の必要もありません。なぜなら、基礎控除で38万円が一律で引かれており、所得がそれを上回らない場合は課税所得もかからないからです。

開業届について

開業届は、自宅を事務所として使っている場合は、市区町村管轄の税務署へ届け出を出せばOKです。心配な方は下記から探しましょう。
>> 国税庁HP : 国税局の所在地及び管轄区域

開業届を書くのに特に難しいことはありませんが、青色申告か白色申告かの違いは絶対に理解しておきましょう。青色申告だと家族への給与支払いが経費でおとせたり、特別控除の65万円が適応される場合があります。

それと「屋号」を考えて置くのも忘れず。屋号とは会社でいう会社名のことです。

開業届けを出したら会社にバレるのか

結論から述べると、ばれません。確定申告をする際、住民税の納付方法は「普通徴収」と「特別徴収」がありますが、その際「普通徴収」にすれば給料から天引きされることはなく、ばれません。

個人事業主が収める税金や確定申告について

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年間20万円もしくは38万円を超えるタイミングで開業届を出し、晴れて個人事業主となった後は、これまでやらなかったような手続きを覚えていく必要があります。下記が、納付時期と税金をまとめた表です。

なお、確定申告についての詳細は、「はじめての確定申告」シリーズをご参考に。

納付する時期
所得税 【確定申告】毎年おおよそ3月15日まで
消費税 3月31日まで(開業してから2年間は納税の必要無)
住民税 6月/8月/10月/翌年1月
(予定納税) 7月/11月(前年の申告納税額が15万円未満の場合は必要無)
個人事業税 8月/11月(所得290万円以下の場合は必要無)

所得税

所得税とは、事業で得た利益(収入)から、かかった経費を差し引いたお金(=所得)にかかる税金です。かかる税金の中でも最も大きい額となります。期限は確定申告期限と同様です。

所得税の納付方法
  • 現金納付(納付書を税務署か銀行に持っていく)
  • 口座振替(事前に税務署への申請が必要)
  • 電子納税(ネットバンキング)

上記の方法があります。

現金納付の場合は、税務署もしくはゆうちょ・みずほ・三井住友・UFJ・りそな銀行へ行き、納付書を添えて現金で支払います。納税額は30万円以下の場合はコンビニでもOKです。期限は確定申告期限と同じです。
詳細:国税庁ウェブサイト – 国税の納付手続(納期限・振替日・納付方法)

口座振替の場合は「口座振替依頼書」を事前に税務署に提出しておく必要があります。一回登録しておけば次回以降はスムーズに支払いできるので楽です。最大のメリットは、納付期限を遅らせられるということです。確定申告期限を過ぎた4月中旬の振替となります。

電子納税は、手続きが煩雑であまりメリットがないので割愛します。上記2つのどれかがオススメです。

所得税の計算方法

計算方法は、下記の式に下の表の税率と課税控除額を当てはめれば完成です。控除についてはややこしいので次の章で紹介しています。

  • 収入 − 必要経費 − 各種控除 = 課税所得金額
  • 課税所得金額 × 税率 − 課税控除額 = 所得税額
課税所得金額 税率 課税控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円
所得税の控除

控除は、基本的に一律でまず38万円引かれます。このことを基礎控除といいます。その他個々人に応じて控除が用意されています。★が一般的に関係しそうな控除です。

控除の種類 概要と控除額
★青色申告特別控除 青色申告者の特別控除(10万円 か65万円)
雑損控除 災害や盗難などの控除(額は場合による)
★医療費控除 医療費を支った場合の控除(医療費−保険金−10万円)

※10万円→年間所得200万円未満の場合は総所得の5%

★社会保険料控除 社会保険料(国民健康保険や国民年金)を支払った場合(全額控除)
★小規模企業共済等掛金控除 共済や個人型年金などの控除(掛金を全額控除)
★生命保険料控除 生命保険料を支払った場合の控除
年間の生命保険料によって金額が変わる(最高12万円)
地震保険料控除 地震保険料を支払った場合の控除(最高5万円)
寄付金控除 寄付をした場合の控除
寡婦・寡夫控除 夫または妻と離婚や死別した場合などに受けられる控除(27万円か35万円)
勤労学生控除 学生の場合の控除(27万円)
障害者控除 納税者か控除対象の配偶者・扶養親族が障害者の場合(一人につき27万円か40万円か75万円)
★配偶者控除 控除対象になる配偶者がいる場合(基本38万円)
★配偶者特別控除 配偶者の所得が38万円を超える場合でも、最高38万円まで控除が受けられるケースがある
★扶養控除 子どもがいる場合の控除(基本38万円)

消費税

消費税は基本的に「受け取った消費税(売上)−支払った消費税(仕入れ・経費)」で計算されます。開業後2年間は免税事業者となるので、初年度から1000万円以上売上をあげない限り、支払う必要がありません。

ここで注意なのが、起業にあたって「2年間は消費税が免除される」ということではなく、正確には「2年前の売上が1,000万円以下である場合」は消費税が免除されるということです。なので、3年目も1年目の売上が1000万円以下なら、免税事業者となります。

また、簡易課税制度を適用する場合とそうでない場合で、計算の難易度が変わってきます。大まかに言うと、簡易課税制度は消費税計算が簡単に出来る分、多く支払うことになるケースが多いです。後述の経費の部分とも関わってくるため、ここでは割愛します。

材料の仕入れがないネットビジネスの場合は?

ネットビジネスで開業するフリーランスの場合、仕入れがないことも多いです。そのため、売り上げがほぼそのまま利益になることになります。このようなケースで免税適用外となる「毎年1,000万円の売上」を達成する場合、速やかに法人化した方が節税できます。

住民税

住民税は、確定申告をしている人ならする必要がありません。確定申告後、税務署から税額の通知書がきます。「均等割」と「所得割」などもありますが、税額の通知書に反映されているので、気にしなくてもOKです。

予定納税

予定納税とは、前年の所得税額(申告納税額)が15万円以上になった場合、7月・11月に、前年の所得税額の3分の1をそれぞれ前払いで納税しなければならない制度です。納税額はトータルで同じなので、損するということではありません。

  • 第1期分:7月1日〜7月31日(前年の所得税の3分の1)
  • 第2期分:11月1日〜11月30日(前年の所得税の3分の1)
予定納税しなければならないライン

所得税が15万円未満になるボーダーラインはどこでしょうか。それは、課税所得(売上-仕入原価や経費-所得控除)が247万円になるラインです。この場合、所得税は149500円となり、ギリギリ達しないラインとなります。フリーランスとしてそこそこ稼げるようになれば超えてくるラインなので、注意が必要です。

予定納税はどうやってするの?

第一期分だと、6月15日までに、税務署長から予定納税額の通知書がくるので、待っているだけでOKです。「振替納税」手続きをしている場合は、納付期限日に勝手に引き落とされます。

個人事業税

個人事業税は、個人事業主固有の税金です。「所得税」と「消費税」は国に納めますが、「個人事業税」は地方に納めます。個人事業税は8月と11月に納付しますが、確定申告をしていれば、また納税通知書が勝手に送られてくるので心配はありません。支払いはコンビニや口座振替が可能です。

個人事業税は経費にできる

個人事業税は「租税公課」という勘定科目で仕訳し、経費にできます。とりあえずこのことだけ頭に入れておいてください。詳細は後述します。

個人事業主の帳簿管理についての基本

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確定申告や青色申告の控除を受けるためにも、日々の帳簿管理はかかせません。確定申告をスムーズにするためにも、個人事業主向けの会計ソフトを使って、入力をするのがスマートでしょう。ここでは様々なメリットが多い青色申告にフォーカスして説明します。

帳簿管理の基本原則(青色申告)
  • 帳簿/決算関係/現金/預金の取引→7年間保存
  • その他→5年間保存

関係しそうな書類は、基本的に紙で7年保存!と覚えておけばよいです。

ネットビジネスの場合の経費とは

ネットビジネスで開業している方は、「通信費」「水道光熱費」「地代家賃(自宅家賃)」も経費として一部計上できます。この場合、プライベートとの共用となる場合がほとんどだと思いますが、その場合は使用時間や使用面積で割る(按分)ことになります。

個人事業主向けの会計ソフトはいくらくらい?

基本的に会計ソフトは無料版などを試しつつ、使いやすい物を選ぶと良いでしょう。価格は年間や月間支払いなど様々ありますが、だいたいどれも年間1万円程度だと考えて良いでしょう。ちなみに、かかるコストは「消耗品費」として経費計上できます。

個人事業主から法人成りへのタイミング

冒頭でお伝えした通り、利益が500万円・売上が1000万円を超えたタイミングで会社設立(法人登記、法人成り)を考えると良いでしょう。

何故かと言うと、利益が500万円を超えたあたりで、所得税の累進課税の都合上、個人事業主の方が税率が高くなるからです。法人税の一定の税率なので、経費の節税分などを考えると、法人のメリットのほうが大きくなります。

売上が1000万円という基準は、前述の消費税の免税事業者の権利が売上1000万円以上になることで無くなるからです。

法人設立(法人成り)は個人事業と何が違う?

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個人事業と法人の違いについても知っておきましょう。
法人設立の全手順は下記から御覧ください。
>>【保存版】株式会社設立の「全手順」と流れを詳しく解説します

税金面

前述の通り、法人だと「法人税率」が一定であることだったり、経営者の給料が役員報酬として経費にできたり、生命保険料を経費にできたり(個人事業だと控除扱いです)、といったメリットがあります。

社会的信用

フリーランスの延長の方は、そこまで関係しませんが、法人化により関係者からの信用度は高まります。また、融資が受けやすくなるというメリットもあります。

ランニングコスト

やはり、法人化となると、お金がかかります。登記手続きを税理士などに依頼した場合、トータルで30万円程かかります。そして法人住民税という年間7万円の固定コストも発生。また、法人口座や法人印鑑と、「法人」と付くだけでコストが上乗せされます。また、法人化にともない会計業務が大変になります。それを税理士に依頼する費用も年間数十万円かかると考えて良いでしょう。

会計面での個人法人違い
>>法人と個人事業主の違い~税金・会計に関する違い編~

まとめ

いかがでしたでしょうか。これから開業を考えている方は、まずはこの記事でイメージを掴んでいただければと思います。

向いているケースを学んで、適切な開業を
法人とは?個人事業との違いや、向いているケースを解説します!

(執筆:創業手帳編集部)

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