エニトグループ 小野澤 香澄|データと温もりのバランスを取り、安心安全なマッチングアプリを提供する
マッチングサービスが伸びていくためにはテクノロジーと人間らしさどちらも必要
エニトグループは、主に恋活がメインのマッチングアプリ「with」と、婚活がメインの「Omiai」の2つのマッチングアプリを運営しており、相性診断など独自のサービスで価値観が合う相手との出会いが実現できると好評です。
マッチングアプリとは、インターネットを利用して、恋愛や結婚などを望む男女の出会いを提供するサービスです。
一時期はトラブルも多い「出会い系」と同一視され怪しいというイメージを持たれていたこともありましたが、少しずつその存在が浸透して利用者も増えています。
そんなエニトグループでCEOを務める小野澤さんは、リクルート時代にゼクシィ縁結びの前身の立ち上げに関わり、その後もTinder Japan and Taiwanのカントリーマネージャーを務めるなどマッチングアプリでの経験を重ね、今に至ります。
外資系企業と日本の企業両方を経験してきた小野澤さんに、両者の違いやチャンスのつかみ方、マッチングサービスに対する思いなどについて創業手帳代表の大久保がお聞きしました。
株式会社エニトグループ 代表取締役グループCEO
国際基督教大学卒業後、リクルートに入社。
先端テクノロジー部署にて新規事業立ち上げを複数経験した後、全社新規事業コンペティション受賞。ゼクシィ縁結びの前身を開発。2013年、The Pokémon Company Internationalに転職し、シアトルにて事業開発に従事。2019年より、Tinder Japan&Taiwanのカントリーマネージャーとして同ビジネスの成長に貢献。2022年8月withの代表取締役CEO就任。2023年3月に株式会社エニトグループ誕生に伴い、代表取締役グループCEOに就任。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
自分に足りない要素と強みを見極めよう
大久保:幼少期に海外にいらっしゃったそうですね。
小野澤:私の座右の銘は「適材適所」なんですが、幼少期の体験がこの言葉の元になっています。
子どもの頃、親の仕事の関係でドイツのハイデルベルグという研究者の街に住むことになりました。
現地の幼稚園に通ったのですが、毎朝「今日は何をしたい?」から始まり、自分でやりたいことを選択し、帰りの会では「自分のことをみんなの前で発表する時間」があるような環境でした。その中で、自分の好きと得意を見つけていけたことが「適材適所」の始まりです。
その後、日本に帰国し、日本の幼稚園に通うことになりました。そこでは「やりたいことをやる」ではなく「決まっていることをやる」ことが求められました。例えば、全員でピアニカを弾く時間があったのですが、私はピアニカが苦手。でも、ピアニカが得意な子もいる。だったら、私は私の得意なことをして、ピアニカが得意な子はピアニカをすればいいのにと思っていました。
そのあたりから「適材適所」をイメージし始めていました。
大久保:今までのキャリアについて教えてください。
小野澤:キャリアでは「人がやらないこと」を意識してやってきたという自負があります。大学を卒業してリクルートに入社し、システムエンジニアをしたことでテクノロジーという観点を手に入れました。その後新規事業を担当し、ゼクシィ縁結びの前身となるサービスを立ち上げた後に、自分には海外という視座が足りないと感じたんです。
マッチングサービスのプロジェクトを進めている時に、当時アメリカでも有数の大手マッチングサービスの裏側を見せていただく機会がありました。先方の社長と経営企画の方が来られて何回かMTGをしましたが、相手が何を求めているのかがうまく想像できず、実際に海外で仕事がしてみたいと思い、その方法を探しました。
ただ、当時30歳の若手女性が海外に出る方法がなかなか見つけられなかったんです。駐在の道を探るにも、後何年かかるかわからない状態でした。
自分が持っているのは、テクノロジーや英語に多少詳しく、家族がいないから縛られるものがないという長所だと考え、転職活動をしたところ、たまたま日本のEC分野で働いたことがある日本人を募集していたアメリカのポケモンの子会社に採用していただいたんです。
大久保:社内はどんな雰囲気だったのですか。
小野澤:みんなポケモンが大好きなんですよ。打ち合わせ中にみんなでポケモンをプレイしたりしていましたね(笑)。
社長室付きになり、社長の仕事を間近で見させていただいて非常に勉強になりました。そんなときにTinderから声をかけていただいて、世界トップレベルの企業のCEOと英語で面談するという事実に緊張しすぎて、向かっている途中に一瞬「帰ろうかな?」と思ってしまったぐらいです(笑)。
でも「もしダメなやつだと思われようが、自分に失うものはないな」と思い直して面談に向かったんです。実際に面談が進むと、意外にもベンチャー気質のようなところで気が合って、ラッキーで採用していただきました。それが2019年で、2022年の夏からご縁があり、今の会社でグループCEOを勤めています。
皆さんにも改めて「自分が他の人と戦えるところはなんだろう?」と考えてみることをおすすめします。
外資と日本企業のいいところを組み合わせる
大久保:外資系の企業と日本の企業両方を経験されていますが、今のポジションに活きている点はありますか。
小野澤:外資系のジョブ型の働き方を経験してきて、「日本企業のいいところと外資のいいところを組み合わせられないか?」という思いがありました。
弊社も人事の基本的な考え方としてはジョブ型を採用していまして、必要な仕事に対して、それをやりたいという人をそこに配属しています。
外資だとある仕事に対する箱があって、よりよく仕事ができる人がいたら入れ替えるという考え方なんですが、それはしたくないと思っています。
採用の際に大事にしているのは、弊社で定義しているスターの要素を持っていることです。スターの要素を持った方たちに、できるだけ長くいていただくにはどういう構造にすればいいかということを考えた結果、事業を成長し続けることという結論に至りました。
人間同じ役割を5〜6年やったら飽きてしまうことが多いと思います。例えば新規事業を立ち上げて担当してもらうなど、飽きずにその人の能力を活かして働いてもらうためにはどうすればいいかを模索していますが、苦労もありますね。
大久保:マッチングアプリがなかった時代は人脈の中で相手を探すしかなかったわけですよね。人脈がない場合はどうにもならなかった。
小野澤:そうですね。マッチングアプリはテクノロジーが生み出したもので、利用することで「どういう軸で相手とつながるか」という選択肢が莫大に増えるわけです。
顔やスペックとかで判断しやすくなる構造になりがちですが、それよりも、価値観や結婚観が合うという点でマッチングを推奨することができたらいいなと思っています。
一緒に住んで、子どもを持つか持たないかという判断をする。相手に求めるものは顔やスペックだけではないはずです。また、教育方針が違う相手と一緒に子育てするのは大変です。
そういった点も開発チームで検討を続けた結果、「価値観の合う方とのご縁を推奨するということを大事にする」という方針でサービスを設計しています。
大久保:マッチングアプリはテクノロジーを使用しているけれど、扱うのは人間の心なので難しいですよね。
小野澤:はい。完全にCtoCでビジネスをしているので難しいことをやっているという自負はあります。
ユーザーに対して行動を呼びかけることで課金というアクションが発生するわけですが、ゲームの場合はこのアイテムを足せばこう動くだろうという予想がつく一方で、マッチングの場合はこの人がこの人を好きになるというのは予想できません。
分析をするパラメータもたくさんあるので、どこを見て進めるべきかというその難しさが好きな人がこの会社に集まっていると思いますね。
データベースを元に施策を考えますが、人間の心理や温もりも加味する必要があります。データと温もりのバランスを保つというのはビジョンやミッションにも入れていて、それを理解してもらえる方、大切だと思う方にご入社いただいています。
日本のユーザーは安心安全を求めるレベルが高い
大久保:マッチングアプリの使用者は増えているのですか?
小野澤:現在マッチングアプリの使用者は世界でどんどん伸びていて、少し前のデータですが、日本は現状20%、アメリカや台湾では50%、韓国では30%というデータがあります。現在はもう少し伸びているかと思います。
世代や国によって全然違いますね。当たり前に使うよねという20代に対して、年齢層が高い方々にはほとんど受け入れられていません。アメリカに行ったときは「なんで使ってないの?」と周囲に言われました。
ネットワーク効果というのですが、製品やサービスの利用者が増えるほど、ネットワーク内の方に対してだけでなく、そのネットワーク外の方にとっても価値が高まるので、登録者が増えるという効果があります。
特に安心安全を求める日本でマッチングアプリが広まるために必要なのは、安心安全レベルの高さだと思っています。
インターネット婚活サービス事業7社で運営する業界団体「MSPJ」では、「独身証明」や「ルール違反の監視」など「7つの約束」を定め、それを遵守していて、さらにそれぞれの企業が独自の工夫や審査を行っています。
お相手とやりとりする際には、年齢確認のために身分証が必要ですし、本人確認しているところもあります。弊社では、ユーザーが登録している写真や文章にネガティブなものがないかをAIが確認していますし、例えば実際に会って商売を持ちかけられたなど、違う目的での利用をしているユーザーに対しては違反報告というものができる仕組みになっていて、規約違反に対しては退会という処置を取ることもあります。
できるだけのことはやっているつもりですが、「ユーザーが自衛する」という認識の向上が足りないなど、まだ課題はあります。今後、より健全性を高めていくためにどうすればいいかということは常に考えています。
安心安全というものは数値化が難しいので優先度が落ちがちですが、弊社では「トラストアンドセーフティー」というプロジェクトチームのリーダーにVPを置いていて、会社全体のクオリティをあげることに挑戦しています。
先日、社員の結婚式に出席したんですが、お相手の会社の方が「わたしもマッチングアプリで結婚しました」とマイクでスピーチする際に言っていて、「こんなにオープンになったんだな」と驚きました。
大久保:昔はもっと危ないイメージがありましたけど、そのイメージが浄化されてきているんですね。
小野澤:2012年に日本初のマッチングアプリとしてOmiaiがスタートしたんですが、その頃はまだまだ「アプリで恋人を探すなんて、友達いないの?」という少し見下されたような反応を取られることがありました。
また、カジュアルな出会いを求めて利用するいわゆる「出会い系」と同じと見られていた時期もあり、「出会い系」との差別化も大きな課題感として業界にありました。
前述したネットワーク効果を考えると、できるだけ早くサービスをスタートさせてユーザー数が増えてきた会社が強いということになりますが、その通りの結果となっていて、2010年代前半からやっているところはほぼ生き残っていますね。
大久保:私もEC業界にいたことがありますが、登場時には「ネット通販は怪しい」という雰囲気でしたね。今はごく普通にみんながネットで買い物をしていますが。
小野澤:たしかにそうですね。そんな時代があったことすら忘れるほどに今は普通ということを考えると、マッチングアプリも今後そういった状態を目指していけたらと思います。
大久保:実は弊社に、withを利用してパートナーと出会い、結婚を控えている社員がいるんですが、彼女は「お互いの好きなことを知ってマッチングできるのがメリット。自分が譲れないところを自分自身がわかっていなかったので相性診断がとても役に立ちました」と言っていました。
小野澤:それは本当におめでとうございます! 私自身もマッチングサービスを通じて夫と結婚したんです。「ひとりの人生に与えるインパクトがとてつもなく大きい仕事」だと、日々噛み締めながら仕事に取り組んでいます。
大久保の感想
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(取材協力:
株式会社エニトグループ 代表取締役グループCEO 小野澤香澄)
(編集: 創業手帳編集部)
実はそんな分野を担っているのがマッチングアプリの業界です。でも、ちょっとどうなの、、という見方の人がいるのも事実。
EC業界もそうですが、なんでも新しい分野の最初は「怪しい」というイメージで市民権がないところからスタートし、次第に優良な会社が業界を浄化していく構造があるなと小野澤さんの話を聞いて思いました。
その事から2つのことが言えると思います。
1.まだ市民権を得ていない業界はチャンスが有る
2.その業界全体が市民権を得てメジャーになっていくには「真面目にやる」会社が必要。
起業家の参考になれば幸いです。