イー・ロジット角井亮一|時流に乗るビジネスで時代の波に乗ろう

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※このインタビュー内容は2025年12月に行われた取材時点のものです。

EC黎明期からいち早くECに特化した物流サービスを手がける

イーロジット角井亮一
株式会社イー・ロジットは、倉庫面積約5.6万坪(2023年10月現在)を誇る、国内トップクラスの通販専門物流代行会社です。約200社の企業組織イー・ロジットクラブを中心に物流人材教育研修を行い、リアル小売やEC企業などの物流コンサルティングも行っています。ネットショッピングが普及する以前に創業し、EC拡大の波に乗って事業を拡大してきました。どのように起業し、時代の波に乗ったのか。今後の展望も含め、創業者である角井さんに伺いました。

イーロジット角井亮一

角井 亮一(かくい りょういち)
株式会社イー・ロジット 取締役会長 兼 チーフコンサルタント
1968年生まれ。上智大学経済学部経済学科を3年で単位取得終了し、渡米。ゴールデンゲート大学マーケティング専攻でMBA取得。帰国後、船井総合研究所に入社。その後、不動産会社等を経て、2000年に株式会社イー・ロジット創業。著書に『図解 基本からよくわかる物流のしくみ』(日本実業出版社)、『物流革命2024』(日経ムック)、『EC物流の動向と仕組みがよ~くわかる本』(秀和システム)、『アマゾン、ヨドバシ、アスクル…… 最先端の物流戦略』(PHP新書)など多数。

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海外でMBA取得後、コンサルティング、物流を経て起業

ー起業されるまでのキャリアを教えてください。

角井:大学を3年で出て、1年3カ月かけてアメリカの大学院でMBAを取りました。動機としては、単純に海外に住んでみたかったんです。最初はワーキングホリデーを利用しようと思ったんですが、大学の教授に「せっかく行くのならMBAを取りなさい」と言われてその通りにしました。日本に帰国した後は、船井総合研究所に入り小売業のコンサルタントなどを担当。その後、お客様の会社に入り新規事業を担当した後、実家が営む「光輝物流」に戻りました。
ある会社から“アパレル事業部が赤字で、物流が足を引っ張っている”という依頼を受け、コンサルティングと実務を請け負いました。赤字のため、ボーナスも3年ほど出ていなかったと聞き、「給料を1割減らしてもらえたら、利益が出た時にボーナスを出します」と社員に伝えたところ、お一人を除いて同意していただけたんです。その後すぐに黒字化してボーナスを出すことができました。

ーその後イー・ロジットを創業されたのですね。

角井:当時のスキームが業界紙などに掲載されると、様々な企業から反響をいただくようになりました。その中である総合商社の方に「ECの物流をやってみませんか」と言われたことが創業のきっかけです。旧態依然とした物流会社で新しいことを始めるのは難しいと思い、2000年に新しい会社を作りました。

「時流に乗るビジネスをする」ことの大切さ

ー創業期に大変だったことはなんですか。

角井資金調達や資金繰りです。最初は地縁血縁から始まり、様々な会社から紹介をしていただき出資を集めました。創業後、最初に受けた仕事は月2,000万円の売上があったんですが、どんどん目減りしていき、最後は撤退という話になってしまいました。そのため、ECのシステム導入のコンサルティングなど、複数の事業を行うことで対応していました。

ー創業期に事業モデルをどのように構築されたのか教えてください。

角井:創業前に渡米し、物流業界の方にどのようにビジネスをしているかをヒアリングして「この事業モデルでいこう」と決めて帰ってきたわけですが、日本の商習慣に合わなかったり、ECの成熟度も異なったりで、路線変更を余儀なくされました。最初は配送だけでやっていこうと思っていましたが、やはり配送だけでは難しいということが分かり、倉庫事業も手がけることになったんです。

当時はまだECがそこまで成熟しておらず、一社の売上が100万円いけば一人前と言われた時代でした。そこで手がけたのがカタログ通販の配送です。今のようにECが当たり前という世の中になる前は、まだカタログ通販もかなり利用されていたので、会社の売上を支えてくれました。

ー創業から現在に至るまで、事業をスケールさせる上での成功要因はなんだったと思われますか。

角井「時流に乗るビジネスをする」ことを大切にしてきました。創業前は他のビジネスの可能性も考えて、いろいろと研究していたんですよ。具体的には本格派コーヒーのカフェの営業や、漫画喫茶のようなビジネスです。ただいずれもタイミングやビジネスモデルに納得がいかず、実現には至りませんでした。

サーフィンの波乗りと同じです。波の上で立ち上がるためには、事前のパドリングのような地道なプロセスが必要になるじゃないですか。

創業が早かったので、ECという波が来るまでパドリングしながら待っていたわけです。EC関連の物流の手応えがだんだんと出てきた2004年ごろに、ネット通販の物流代行事業に注力すると決め、それまで手がけてきたカタログ通販の物流をいったんゼロにしました。

そこから少しずつオンラインで買い物をすることが当然の時代に変化していき、変化に合わせて物流のニーズも加速度的に増大して、当社も拠点を数カ月に1か所ずつ増やしていくような拡大期に入ったのです。

外部委託できる仕事は委託し、販売に注力せよ

ーEC事業に参入する企業が増えていると思いますが、うまくいく企業とそうではない企業の違いはなんだと思われますか。

角井:マーケティング力があるかどうかは大きいと思います。今は知名度や売上を上げるにあたってSNSの力が非常に強いので、発信力やインフルエンサーとしてのスキルがある人がEC事業に参入するのが理想です。外部に委託するよりは、できれば創業メンバーの誰かがそのような役割を担えるといいですね。

ーEC事業を始める際に起業家が気をつけるべき“見落としがちなポイント”があれば教えてください。

角井:EC事業には様々な仕事があります。商品企画や製作だけでなく、先ほどふれたようにマーケティングや入金管理、顧客管理、詐欺対策や物流関係までカバーしなければなりません。しかし、本当に重要なのは販売です。そこにいかに注力できるかが大事なので、物流など外部に委託できる仕事は委託し、中心メンバーのリソースは重要な仕事のために空けておく必要があります。とにかく売上を作らないと会社が回っていかないですからね。

また、もうひとつオススメしたいのが、物流を外部に委託する際に必ず現地を見に行くことです。委託すること自体は難しくありません。もちろん、現地を視察することなく契約される方もいらっしゃいます。ただ、自分の大切な商品を預けることになるわけですから、どういった管理体制なのか、会社の雰囲気や信頼性といった点について自分の目で確認する方がベターではないでしょうか。

遠慮は無用! 先輩経営者とつながろう

イーロジット角井亮一

ーこれからの10年、物流業界はどのように変わっていくと思われますか?

角井物理的なデジタル化が進むでしょうね。実際に配送に関わる人間は減っていき、代わりに人型ロボットが増えていくと思います。最近フィジカルAI(※1)という言葉を聞く機会が増えましたが、物流現場などで日々学習していくロボットが今後は活躍するのではないでしょうか。
※1 フィジカルAI:カメラ、マイクなどのセンサーで現実世界の情報を取得し、AIがそれを処理して、ロボットなどの物体を通じて現実世界で自律的に行動するAIのこと。

ここ数年は毎年、中国の深圳に視察に行っています。中国では日本以上にネットショッピングが盛んなため、既に物流拠点でロボットや自動配送車などが活躍しており、すごいスピードでデジタル化が進んでいます。自動配送車が積み込んだ荷物を受け渡し地点まで無人で運び、そこに配送員が待っているという仕組みです。中国全土で約1万台が走っていて、コストカットにつながっているといいます。

ーご自身の今後の展望をお聞かせください。

角井物流界の次世代育成をテーマとした社団法人を作ろうと思っています。今日も福岡から起業のアドバイスを聞きたいと若い人が訪ねて来ました。自分も目上の方にいろいろと教えてもらってここまでやって来たので、”Pay forward(※2)”の精神で次世代に考え方を伝えたり、投資したりしていきたいですね。
※2 Pay forward:自分が受けた親切を直接相手に返すのではなく、別の誰かに渡していくことで、善意の連鎖を広げていくという考え方のこと

ーどのような起業家に対して育成を検討されるのでしょうか。

角井:その人の起業する動機やストーリーに共感できること。また、人のアドバイスを素直に聞ける人は応援したくなりますね。起業の過程で失敗を経験していると、よりベターです。失敗を経験し、なぜ失敗したかを考え、次はしないようにすることが大事だからです。

ー最後に、これからビジネスを立ち上げる起業家へ向けてメッセージをお願いします。

角井:ぜひ相談できるメンターを見つけてください。私のところにも、定期的に状況を報告に来る起業家の方がいますが、報告するだけでも頭の中が整理され、学びや発見があります。先日もある団体の忘年会で「相談に乗ってほしいので今度お時間をください」と起業を考えている方に声をかけられました。遠慮していてもチャンスはやってきません。何かの会で声をかけたり、人脈をたどったりして、先輩経営者とつながるチャンスを貪欲につかみにいってください。また、若い人の間ではSNSといえばInstagramやXかもしれませんが、経営者はFacebookを使っている人が多いので、アカウントを作っておくと何かと役立つかもしれません。

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(編集:創業手帳編集部)

(取材協力: 株式会社イー・ロジット 取締役会長 角井亮一
(編集: 創業手帳編集部)

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