Dots for 大場カルロス|誰もがオンラインである世界を目指して アフリカ大陸ラストワンマイルのインターネット網敷設への挑戦
世界中を旅し、アフリカの大地で起業を決意したその想いとは
アフリカでは現在、M Pesaなどのフィンテックがもてはやされていますが、人口の大部分が住む農村部の生活や課題と、そこをターゲットにしているスタートアップは少ない現状があります。
東アフリカ農村部にLEDランタンをレンタルするスタートアップを経て、今回西アフリカでサービスを展開しているDots for Inc.を起業した大場カルロス氏に、アフリカ農村部の現在と未来の展望についてお聞きしました。
Dots for Inc. 共同創業者兼CEO
Amazonやリクルート、WASSHA、C Channelなどにおいて、アフリカを含むグローバルの新規事業開発や経営に従事。Amazonではトップライン向上や生産性向上に貢献。C Channelの海外事業執行役員としてタイ・インドネシア事業を牽引。直近2年間はWASSHAの新規事業マネージャーとして、バイクタクシーハイヤーサービスの立ち上げを主導。米国Univ. of California, San DiegoでMBA取得。100カ国近くを旅した現役バックパッカー。
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この記事の目次
母の死、そして長い旅の果てにたどり着いた心震える地「アフリカ」
カルロス:茨城県の田舎で20代半ばまで育ち、転職がきっかけで東京に上京しました。上京してからも長期的な展望もなくダラダラと生きていました。
当時は英語も全く話せず、20年後に自分がアフリカで起業するとは露にも思っていませんでした。
変わるきっかけは、母の突然の死です。ここで一気に変わりました。母が死んでなかったらいまだにプラプラその日暮らしをしていたかもしれません。
母の死からの影響は2つ。
1つは、死ぬ時に何を思うのかということ。母は死ぬ直前に何を思ったのか、自分が死ぬときに最後に何を思うのかを何度も考えるようになりました。
もう一つは、自分達はなんのために生まれてきたのか?という、厨二病のようなことをあらためて考えました。母が生きた意味を考えて、自分が生まれた意味を考えて、自分の存在の証明をしないと、と思い立ったわけです。
会社のCore Valuesの一つ、「Prove your value for the world」は、その思いを言葉にしたものです。
それから、死ぬ前にやり残したことがないように、新しい世界にどんどん飛び込んで吸収していきました、英語も話せないのに海外事業部に入れてもらったり、アメリカへのMBA留学や海外駐在、バックパッカーで100カ国近くを巡るなど、世界中の知らないことを知りにいく旅をしてきましたし、今もアフリカで起業という旅をしています。
カルロス:バックパッカーとして100カ国近くを旅してきて、特に途上国の田舎を巡りながら陸路で国境を越える生活をいまだにしています。
今の時代、インターネットで情報は手に入るけれど、現場に行って実際に見たら全然違う。ネットの情報は、ステレオタイプなイメージかインパクト重視のことしか言われないけど、実際には自分達と違わない人たちが、違う言語や習慣の中で暮らしている。その事実に感動しました。
2013年にはエジプトのクーデターのど真ん中にあるカイロの街でエジプト人たちとルームシェアで数ヶ月暮らしました。アルゼンチン北部をレンタカーで北上してた際はヒッチハイクしていたインディオのお爺さんを車に乗せました。キューバでは、卵の配給に集まる人を冷ややかな目で見つめるキューバ人の若者と話しましたし、ナゴルノ=カラバフでは、自国が世界から認められていないけど楽しんで暮らしているという若者と会いました。もっと沢山の出会いがありました。
世界は広い。それを知ったらもっと知りたくなるし、自分が関わることでそのような人たちに少しでもいい影響があったなら、それは「Prove your value for the world」だと思ったんです。
アフリカは、前職でタンザニアの地方をずーっと回る中で、きっかけ一つで一気に変わるインパクトが大きいと思ったし、バイクタクシーの後ろに乗って荒野を走っている時に、この世界でずっと生きていくんだって心震えて、起業を決意しました。(これは、弊社の別のCore Value「Shake your heart」に現れてますね)
カルロス:アフリカと聞いてイメージされるような「今日食べるものにも困って、明日は生きていられないかもしれない」というような人は実はそこまで多くない(もちろんいるわけですが)。大部分の人たちは、毎日楽しく生きています。
しかし、電気がない、綺麗な水へのアクセスがない、インターネットが使えない、といった様々な不便の中で暮らしています。そして、何よりも情報と機会が少ない。
村の中で生まれて村の中で生活が完結し、近隣の街へは出るものの、街で得られる機会や情報も限られている。インターネットに繋がるデバイスもないので、そもそもどんな機会があるのかすら知らない。それが一番の課題だと思います。
例えば、折角長い時間をかけて栽培した農作物を卸業者に売る時も、都市での取引価格が分からないので安価で買い叩かれるし、本人はその価格が買い叩かれているかも判断できない。
我々のサービスを通してインターネット上にある情報に触れるようになったら、文字通り世界が広がり、選択肢が増える。
できるできないは別として、できることに向けて動くことができる。そのきっかけになると信じています。
情報通信網の整備でアフリカの未来を大きく変える
カルロス:アフリカ全体でのインターネット普及率は35%程度と言われていますが、その内訳は人口が多い都市居住者がほとんどを占めていると思われます。
スマートフォンについても同じで、アフリカ全体でのスマートフォンの普及率は年々増加しているものの、今時点でもそれほど高いとは言えず、普及の多くは都市部が中心だと思います。
アフリカの通信網の整備がされたこと、そしてスマートフォンの値段が下がったことが契機となり、以前よりはスマートフォン保有者数を底上げしました。
中国やインドのメーカーが安価なスマートフォン端末をアフリカ向けに発売していて、2014年の平均価格が160ドルだったのが、2018年には90ドルまで低下してきており、現在では一番安いスマートフォンなら50ドルから購入できるようになっています。
一方で、我々がアフリカ各国現地農村部で調査したところでは、村の15歳以上の人口の内の3%程度しかスマートフォンを保有していないので、まだまだ普及しているとは言えません。
農村部で80-120ドルのスマートフォンを一括で購入することは敷居が高いという住民が多く、かつ購入したところで村内で生活している限りはインターネット接続ができないところが多いからです。
地域の中核となる街や幹線道路沿いではモバイル通信網のカバレッジがされていますが、街や主要道路を一歩でも離れると途端に接続が悪くなります。
実際に村々を回ってみても、村人が繋がるといっているスポットにて速度を測っても10kbps程度で、テキストメッセージのやり取りがなんとかできる程度の接続しかできず、動画や画像といったリッチコンテンツについては全く利用できない状況です。
通常の音声通話(電話)機能しか使えないのであれば、10-15ドル程度で購入できる携帯電話(フィーチャーフォン)とやれることに大差ないがないので、スマートフォンの購入に至らない、というわけです。
持ってる人が少ないから、インフラも整備されない。繋がらないのでデバイスを持つインセンティブも起きない、という負のループが起こっているというのが、地方部の現状だと思っています。
ですが、農村住民の収入が上がり、スマートフォンの価格がさらに下がってきていることもあり、インターネットに接続することができる環境が今後どんどん整っていけば、ある段階でスマホが爆発的に普及するポテンシャルは存在していると感じています。
カルロス:ベナンでは農村での電気普及はまだまだで、光源としてケロシンランプを使っていることが多いです。
携帯電話(スマートフォン・フィーチャーフォン)は充電が必要になるので、各村の中でソーラーパネルを導入している家が20円程度の充電サービスを行っています。これはタンザニアやナイジェリアでも同じ状況で、価格帯も20-25円程度と同じです。充電屋に数時間電話機を預け、充電屋はソーラーパネルから作った電気で預かった携帯電話を充電する、という方式で運営されています。
ちなみに隣国のナイジェリアではソーラーパネルがほとんど使われていないのは興味深いところです。
ソーラーパネルが広まり出した初期の粗悪品のイメージがあるようで、ソーラーパネルは「すぐ壊れるため結局高くつく」と思われているのがその理由です。
代わりに、ガソリンによる発電機(ジェネレーター)を使うことが多いですね。
ソーラーパネル=130ドル、ジェネレーター=200-400ドル+ガソリン代、と、ソーラーパネルの方が合理的なように思われるのですが、現時点ではナイジェリア内でソーラーパネル自体があまり流通していません。隣国であるのにベナンとナイジェリアの農村部の違いがあるのが面白いと思います。
カルロス:「分散型」はそもそものインフラが整備されていないアフリカにおいてキーワードになっています。
特に、最初に大きな初期投資をしてインフラを作るという中央集権型の従来の方式は、地方に行けば行くほど所得が低くなる農村部に於いては費用対効果が低く、かつ中央から離れた場所へのサービスのメンテナンスコストも膨大に掛かってくることから、持続的なサービスになりにくい現状があると思います。
その点、初期投資が少なく中央からの距離を考慮に入れないでいい分散型のサービスは、従来の中央集権型のインフラが少なく広大なアフリカに於いては、ファーストチョイスになりうると考えられるのです。
例えば、政府による送電線のインフラ整備がほとんど進んでいないような国では、政府が今から発電所と送電網を建設するのではなく、ソーラーパネルを各世帯に配布するような政策が採られる可能性もあると考えています。
通信網についても、都市部からインフラ整備がされることで最初の段階での普及は急激に進みますが、都市部が十分にカバーされた後だんだんと地方に広がっていくにつれ、その普及率が下がっていきます。
実際に、先進国においても人口の10-20%程度は、採算性の問題からインターネット網のインフラ整備がされておらず、取り残されているというのが現状です。
カルロス:アフリカ全体の発展については、個人の経済力が比較的高い先進国の発展とは違って行くと思います。アフリカ地方に住む人の貧しい経済状況が改善されないのであれば、日本の成長を後追いするという形にはならず、独自の進化を遂げる可能性があります。
我々は、農村部においてまずはインターネットにつながる世界を作り、そのインフラがあることで機会を増やし、収入が増加して地方に住むことで不便や不利益がない未来を目指しています。
自ら現地を知り、現地に入り込んで、現地と共に切り開く
<Prove your value for the world>
カルロス:村単位で接続ポイントを作っていくため、村の住民との関係が大事になっていきます。
地域内でのつながりが非常に強いアフリカにおいて、導入する村の人たちに支持されるサービスを作ることが全てで、その支持があれば隣接する村への拡大がしやすくなると思います。
このボトムアップの拡大と並行して、政府に働きかけるトップダウンの方法も含め、そのマーケットにしっかりと根を張ることができれば、自ずと拡大することができると考えています
カルロス:Dots forの共同創業者とは前職のタンザニアで一緒に仕事をしていたところもあり、アフリカでのビジネスを作っていく作業を一緒に行った経験から、お互いの経験の中に共通言語ができており、そこはとても大きな強みですね。
そして、事業そのものとしても前職のタンザニアでの経験が基準となって、西アフリカのベナンで起きていることの共通点と差異を見ることができるため、より正解に近づくスピードが出せている実感がありますし、前職の経験から我々のビジネスモデルや収益構造にも大きく影響を受けている部分もあります。
カルロス:新しいテクノロジーを活用したフィンテックがこれだけ広がっているのは、それだけアフリカの課題にフィットしているからだと思います。なので、農村部がオンライン化することで、オンラインやデジタルを前提としたフィンテックが農村部にまで拡大すると考えています。
また、交通網が未発達な地方部において、運ぶものによってはドローン輸送が主要な物流手段になると思います。ここは、Ziplineに代表されるようなスタートアップが生まれてきており、実用化に向けて動いていると感じています。
カルロス:交通と物流は大きな課題として存在していますが、実際は物も人も移動しています。
現状は人の繋がりによって運用されているこの部分を、交通や物流のマッチングやトラッキングなどで効率化するという方法が出てきています。
採算性やニーズの問題はあるものの、テクノロジーによって改善できる幅は多く、弊社としても現状は既存通信事業に注力していますが、物流や移動の改善によって我々のPurposeである「アフリカ地方部における制約をなくす」を実現できる一助になると考えています。
カルロス:アフリカ大陸では、今後地方部を中心に人口が増えていく中で、都市部だけでなく地方部により大きなポテンシャルがあると考えています。アフリカが世界経済を牽引する、憧れとなっていくような世界を作っていきたいです。
カルロス:地球最後のフロンティアとして注目を浴びているアフリカですが、まだまだ都市部での機会に留まっている印象です。
一口にアフリカと言っても広く、南北8,000km、東西で7,400kmに及びます。7,400kmというと、東京からモスクワくらい離れている距離を一つの地域として呼ぶのには違和感があると思います。
そしてある国のことだけとっても、都市部と地方部、地方部の街とその周辺の農村部でも全く違う世界が広がっています。
我々も、創業直前の時にまだ一度も行ったことがないベナンやナイジェリアで事業をしようとしてたのですが、タンザニアの経験を基に4,000km離れた西アフリカで事業をするのは、「日本で上手くいく事業だから、カンボジアでも上手くいくよね」と言っているのに等しいと思い、まずは現地に行かねばとベナンやナイジェリアへ飛びました。その上で、ベナンやナイジェリアでの課題と我々の提供価値について確信を得て、現地法人設立やプロダクトリリースをしました。
本やインターネット上の情報だけでなく、現地に行って見て聞いた生の情報を得て欲しいですし、思っている以上に生々しいアフリカの人たちの顔が見えると思います。ぜひ一度、アフリカの深いところまで足を踏み入れて欲しいです。
(取材協力:
Dots for Inc. 共同創業者兼CEO Carlos Oba)
(編集: 創業手帳編集部)