CSA(地域支援型農業)とは?メリットや日本での導入を成功させるポイントも解説

創業手帳

CSA(地域支援型農業)は地域住民と支えあう農業経営の形


CSA(地域支援型農業)とは、農家と地域住民が支えあうことで成り立っている農業経営で、海外では広く広まっています。
日本でも持続可能な農業経営を実現できることから注目されているものの、まだ定着はしていません。
そもそもCSAとは何か、具体的にどのようなメリットがあるのか気になっている方もいるでしょう。
今回は、CSAの概要や導入するメリット・デメリット、導入を成功させるポイント、事例などをご紹介します。

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CSA(地域支援型農業)とは?


CSAは「Community Supported Agriculture」の略称で、地域支援型農業という意味です。
まずはCSAがどのような農業なのか、特徴や導入のメリット・デメリットなどをご紹介します。

CSA(地域支援型農業)の起源

CSAは、1970年代にドイツやスイスでスタートしたEVG(産消協同組合)の考えをもとに、1986年頃にアメリカ北東部の農業で始まったといわれています。
また、1970年代に日本で広まった産消提携(生産者と消費者が連携して農産物のやりとりをすること)とも共通点が多く、CSAのモデルになったとも考えられているようです。
CSAは、グローバル化に合わせて小規模の農家の経営が困難になったことから、欧米を中心に普及してきました。
現在は世界的に広まっており、30ヵ国以上でCSAと同様の理念を持った農業経営が行われています。

CSA(地域支援型農業)の特徴

CSAは、生産者と消費者が連携し、直接契約によって野菜を定期購入できることが大きな特徴です。
消費者はCSA会員として半年や1年単位などで契約をして、事前に代金を支払い、回収した資金から種苗・資材などを揃えるサイクルにより、農業経営を持続させられる仕組みになっています。

また、地域住民は野菜を買うのみではなく、農業体験など農家と直接交流する機会があことも特徴です。
農業経営に自ら関わることが可能で、子どもの食育や地域コミュニティーの活性化を促す効果が期待できます。

事前契約との違い

お米の取引きなどで活用されている事前契約とは、お米の収穫や作付け前に卸会社や流通業者などから必要な数量の注文を受けて、売買契約を行うことです。
事前に売買契約を結ぶという点は、CSAと事前契約の共通点です。

しかし、契約する相手が大きく異なります。CSAの場合、契約する相手は消費者で、生産者と消費者が連携して営農を支える面が強くあります。
一方、事前契約はビジネスの一環として実需者と契約するものであり、契約にともない生産者には農作物を供給する義務が生じます。

CSA(地域支援型農業)の運営形態

運営形態には特に決まりはなく、多様なCSAが実在します。実在する運営形態のパターンとして、以下の形態が挙げられます。

  • 単独の農家が消費者と協力して運営する形態
  • 複数の生産者が共同でCSAを創設し、会員を募集する運営形態
  • 消費者がCSAを運営し、生産者に農作物の生産を委託する運営形態
  • CSAの運営会社が生産者と消費者を募集し、営農していく運営形態

野菜の受け取り以外の取組みもCSAごとに異なります。
消費者のボランティアによる援農、生産者が主催するイベントの開催、意見交換会など盛んに行うCSAは多いです。
これらの取組みを通じて、生産者と消費者は互いを理解し、良好な関係性を維持できます。
運営形態や取組みに特別なルールがないからこそ、様々な価値観に対応したCSAが次々と登場しているのです。

CSA(地域支援型農業)を導入するメリット

生産者がCSAを導入する主なメリットは、以下のとおりです。

  • 不作によって収穫量が減っても一定の収入を確保できる
  • 前払いシステムによって生産計画が立てやすく、生産量のコントロールもしやすい
  • 売れ残りのリスクが減り、食品ロスの軽減に貢献する農業経営を実現できる
  • 流通業者などに支払う中間マージンを省き、手元に入ってくる収入を増やせる
  • 袋詰めなどの作業の一部をCSA会員に手伝ってもらうことで、農場運営に専念できる
  • 地域のコミュニティー・経済の活性化や子どもたちの食育を促すなど地域に貢献できる

生産者として特に大きなメリットは、前払い制度によって、生産量の減少に関係なく一定の収入を確保できることです。
さらに、消費者との直接契約によって流通業者などに支払う仲介手数料なども省けるため、手元に入る収入が増える可能性があります。

また、会員のほとんどは近隣に住む地域住民です。ボランティアを募って袋詰めなどの一部作業を手伝ってもらえれば、生産者は農場の運営により専念できます。
その結果、良質な農作物を生産でき、それを定期的に受け取る会員に喜んでもらえます。

CSA(地域支援型農業)を導入するデメリット

CSAの導入にはデメリットもあります。主なデメリットは以下のとおりです。

  • CSA会員も不作のリスクを背負うことになる
  • CSAの実現には営業・流通・販売など多数の工程が発生する

CSAは前払いシステムであり、会員は天候不良などで不作が生じた場合にそのリスクを生産者と一緒に背負うことになります。
消費者へのリターンが少なくなるため、不作のリスクを十分に理解してもらった上で、提携してもらわなければなりません。

また、実際にCSAを導入するにあたって、営業や流通、販売などの様々な工程が発生します。
栽培の時間とは別に時間を割いてCSAを作り上げていく必要があるため、多くの労力が求められる点もデメリットです。

CSA(地域支援型農業)の普及・定着状況


世界的に普及が進んでいるCSAですが、日本ではまだ定着していません。日本で定着していない理由をご紹介します。

アメリカやヨーロッパで普及している理由は?

CSAはアメリカやヨーロッパを中心に、世界では普及が進んでいます。普及している理由は、支援組織が存在するからです。

代表的な支援機関は、アメリカの非営利団体「Just Food」です。
Just Foodでは、生産者と消費者の両方に情報提供を行っているほか、契約につなげるために仲介、CSAの認証となどの機能を有しています。

フランスでは、AMAPというCSAと同じ理念を持つ活動が盛んです。
アリアンス・プロバンス協会によってAMAP憲章が制定されており、AMAPの認証を行っています。
このように、海外では支援機関が存在することから、CSAを導入しやすくなっています。

CSA(地域支援型農業)が日本で定着しない理由は?

日本で定着していない理由として、前払いシステムや不作のリスクの共有といった点が、消費者にとって心理的なハードルを上げる要因になっていることが考えられます。
農作物は天候不良や災害などの影響で生産量が変動することが多いです。不作となった際、契約している消費者に手元に届く農作物は少なくなります。
そのリスクがあるため、代金を前払いすることに抵抗を感じる人は多くいるかもしれません。

消費者とつながりを作るツテがないという生産者側の声もあります。
消費者グループとのつながりがなければ、農家がCSAを立ち上げるのは難しいと考える生産者も少なくありません。
CSAの立ち上げには専門的な知識も求められるため、立ち上げや集客などの不安に思う生産者は多く、導入が進まない要因となっています。

CSA(地域支援型農業)を日本国内に定着させるには?

日本でCSAを定着させるためには、海外のように支援機関が各地で増えることが求められます。
CSAには消費者にとってリスクとなる部分があり、立ち上げにもノウハウが必要です。
CSAの導入や参加を促すためには、支援や普及活動によって心理的なハードルを下げることが求められます。

日本でCSAの普及に取り組む機関に、CSA研究会があります。
CSA研究会は、三重大学名誉教授でCSA研究の第一人者である波夛野豪さんと、CSAに取り組む「なないろ畑農場」の代表である片柳義春さんによって、2014年に立ち上げられました。
報告会や勉強会、CSAを実践する農家の発表などを行い、ノウハウの共有や普及活動に取り組んでいます。
CSA研究会などを通じて導入のメリットや実践例が広まり、各地で支援機関が生まれていくことで、CSAが導入しやすい環境が整うと考えられます。

CSA(地域支援型農業)を成功させるためのポイント


CSAの導入にあたり、確実な準備が重要です。ここで、CSAを成功させるためのポイントを3つご紹介します。

販売や分配の方法を明確にする

CSAでは、定期的に消費者の農作物を提供することになります。そのため、事前に販売方法や分配方法を明確にしておいてください。
販売は、通年よりも収穫時期となる春・秋をメインに行うことがおすすめです。

また、農作物を分配する方法には、郵送や配送、消費者が自分で引き取りに来るセルフ式があります。
セルフ式を採用する場合、受け取り場所を確保しなければなりません。
農場にスペースがなかったり、立地が悪かったりする場合は、会員の自宅や公共施設などを活用するケースもあります。
生産する作物や地理的な条件に合わせて、受け渡し場所や分配方法を選択してください。

利益を出せる価格設定にする

農作物の販売価格は、CSA会員の会費として設定します。一般的な販売価格を基準に考えるのではなく、利益が出せる金額で設定することが大切です。
CSAの場合、収量の見込みから単価を算出し、そこから一括請求する会費を検討するのが基本となります。
また、CSAの収益はメインの収入源ではなく、販路のひとつと考えるのが無難です。従来の販路と組み合わせた販売計画を立てるほうが成功しやすいといえます。

身近なところから会員を集める

CSAを実践するためには、会員を集める必要があります。取引実績がある顧客・友人・知人など身近なところから会員を集めることがおすすめです。

会員が集まった後は、イベントや交流会などを開き、積極的に会員と交流してください。
交流を通じて会員の農家を応援する気持ちを育てることが、信頼構築につながります。
信頼関係が生まれれば、会員が口コミや紹介を通じてさらに人を集めてくれる可能性があります。

ほかにも、消費者に直接販売する機会となるファーマーズマーケットで告知を行ったり、PR動画を配信したり、クラウドファンディングを実施したりすることで集客が可能です。
集客には様々な方法があり、消費者に興味を持ってもらえる機会を増やすことが大切です。

日本におけるCSA(地域支援型農業)の成功事例


日本でも先駆けてCSAに取り組んでいる生産者が存在します。ここで、日本国内のCSAの成功事例をご紹介します。

茨城県つくば市「つくば飯野農園」の事例

つくば飯野農園は、飯野信行さんと恵理さんのご夫婦が経営する農園です。50haの農地で、農薬や化学肥料を使わない有機野菜の栽培を行っています。
年間約100種類もの多種多様な野菜を栽培しており、バラエティに富んだ野菜を提供してもらえる点が人気の理由のひとつです。

CSA研究会への参加をきっかけに、2015年5月にCSAを導入しました。
CSA導入前から個人宅配を行っており、その顧客や夫婦の人脈を生かして、会員を集客しました。子育て中の母親世代を中心に多くの地域住民が参加しています。
会員から農業のボランティアを募ったり、意見交換会などを開催したりして、会員と信頼関係を構築しながら農業経営の改善にもつなげているようです。

また、Facebookを活用して情報発信にも力を入れています。東京・青山にも販売拠点を設ける予定で、都市農業の担い手として注目されています。

宮城県大崎市「鳴子の米プロジェクト」の事例

鳴子の米プロジェクトは、2006年に地元の農家や観光関係者、加工・直売所グループ、ものづくり工人が集まって誕生しました。
鳴子温泉がある鬼首地区は、米価の低価格化や米作りの大規模政策の影響で農業を辞めてしまう農家が増えています。
遊休地や耕作放棄地が増えたことで、鳴子温泉の景観にも悪影響がありました。

そのような経緯があり、地元の農業・米作りを守ることを目的に鳴子の米プロジェクトが始動しました。
このプロジェクトでは、お米を予約購入してくれる支え手を確保することで、農家は安心して米作りができる体制を構築しています。
支え手が支払った代金の大半は農家に分配され、残りは事務局の経費や、地域農業の発展のための資金に充てられていることが特徴です。
情報媒体の発行や田植え・稲刈り交流会などを実施し、生産者と消費者の信頼関係の構築にも力を入れています。

北海道夕張郡「メノビレッジ長沼」の事例

メノビレッジ長沼は、1995年に札幌メノナイトキリスト協会によって発足されました。
18haの水田・畑では30種類の野菜や小麦・蕎麦・豆類などの輪作を育て、約400羽の鶏を平飼いしています。

1996年からCSAを導入しており、美味しく安心な作物を購入できるといった口コミが広まり、100軒近くの世帯が参加しています。
会員は共同経営者ととらえており、積極的に農業のお手伝いや作り手と交流が取れる体制を整えていることが特徴です。
現在は人手不足のためCSAを通じての販売は休止していますが、準備が整い次第再開したいという意向を示しています。

まとめ・日本でもCSA(地域支援型農業)にチャレンジしてみよう!

農作物の生産量は天候や災害の影響を受けやすいため、農業は収支と収入のバランスが釣り合わないことが多くあります。
しかし、前払いシステムとなっているCSAなら安定した収入を確保できるため、持続可能な農業の実現が可能です。
また、新たな販路の開拓や会員との交流によって地域の活性化にも貢献できる点が魅力的です。
CSAは運営形態に特別なルールがあるわけではないため、農家でなくてもCSAの運営会社として発足し、農家や会員を集めて地域に貢献していくビジネスも展開することができます。
日本ではまだ珍しい農業経営であるからこそ、ビジネスチャンスに期待できる分野です。

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(編集:創業手帳編集部)

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