越境ECとは?メリット・デメリットや賢い展開方法を徹底解説

創業手帳

販路拡大方法として注目を浴びる越境EC。展開するにあたって知りたいポイントを解説します。


越境ECとは、企業が海外向けのECサイトを開設し、商品を販売するものです。
近年の社会情勢から、中国などのインバウンドが減少する中、越境ECによる取引きが注目を浴びつつあります。
高品質な日本の商品をインターネット上で購入できると人気で、海外からの需要も増えています。

今回は、越境ECを展開するにあたってのメリット・デメリットやポイントを解説します。

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この記事の目次

越境ECとはいったい何か


こちらでは、越境ECの概要を説明します。

越境ECは海外向けの商品販売

越境ECとは、企業が製造した商品を海外に向けてオンラインで販売するショップです。
日本国内でも各企業がECサイトを展開していますが、このECは「Electronic Commerce」(電子商取引)であり、オンラインで取り引きすることを指しています。

海外向けの商品販売形態の中で、特に越境ECは実店舗を持たない点が大きな特徴で、実店舗を海外に出店するよりもメリットが大きい販売方法です。
近年、海外への渡航が制限されていることも多い中、オンラインで商品の売買ができる越境ECは、企業にも顧客にも注目されています。

経済産業省による越境ECの定義

経済産業省は、越境ECを「消費者と、当該消費者が居住している国以外に国籍を持つ事業者との電子商取引」と定義しています。
その定義に該当する越境ECにおいて、経済産業省では欧米やアジア諸国との取引きの実態調査を随時行っています。

越境ECの市場規模について

経済産業省は、日本と特に取引実績が多い国と市場規模を調査しています。その結果、2020年時点で最も取引額が多いのは中国で、次いでアメリカという結果が出ました。
さらに、2020年から2027年にかけては、世界的に見た越境ECの市場規模がおよそ5.3倍になると予想され、今後の成長にも期待できます。

特に中国向けの越境ECが盛ん

先の経済産業省の調査で、特に中国向けの取引きが盛んであるという結果が出ています。
越境ECでの取引額は、中国はアメリカのおよそ1.7~1.8倍で、日本の商品に対する需要がいかに多いかがわかります。

中国といえば、日本への旅行者が大量に日本商品を購入する、いわゆる「爆買い」が話題になりました。
海外渡航が制限されていた状態では、爆買いの動きもなりを潜めたように見えましたが、実際はその顧客は越境ECにより日本の商品を購入していると想定できます。

越境ECが注目を集めているのはなぜか

越境ECがなぜ注目されているかというと、以下のような理由が考えられます。

日本商品への需要が高い

前述のように、中国では日本商品の人気は高く、品質の高さに加え、日本独自の工芸品への需要が高いことも理由のひとつです。
この傾向は、中国以外の国にも顕著であり、欧米やアジア諸国でも日本商品のみならず文化に関心を持つ人が多く、コスメやアパレルなどの商品にも注目が集まっています。

スマートフォンなどの普及率が高くなった

日本はもちろんのこと、世界中でスマートフォンの普及率は高まっています。
いつでもどこでも、手元でインターネットを利用できる環境になり、手軽にECサイトを開いてショッピングができるようになったことも、注目すべきポイントです。

インターネット利用環境の充実

近年、インターネットへの接続スピードは格段に上がり、また街中でのWi-Fi接続も容易になったことから、ECサイトを利用する利便性が上昇したと考えられます。
加えて、SNSの普及により宣伝や口コミを参照しやすくなり、購買意欲が掻き立てられることも理由のひとつでしょう。

多様化した決済方法

従来の海外送金では、越境のために高額な手数料が必要でした。
しかし、近年では、Web決済の技術が発達し、クレジットカードはもちろん一部電子マネーで簡単に決済が行えるようになり、より手軽にショッピングを楽しめるようになりました。

越境ECを展開する方法


越境ECを展開するためには、どのような方法があるのでしょうか。

自社ECサイトを構築する

企業が自社でオリジナルのECサイトを構築し、商品販売を行う方法です。主には、以下のような方法で構築できます。

・サイト構築用のソフトウェアを利用する
ECサイトを構築するためのソフトウェアは、販売に必要な機能を簡単に実装できるものです。
ソフトウェアには、オンライン上で公開されているオープンソースのほか、有料で販売されているパッケージがあります。

・ASPを利用する
インターネット上で提供されているプラットフォームをレンタルする形で、ASPを利用する方法もあります。
ASPは「Application Service Provider(アプリケーション・サービス・プロバイダ)」を略したものです。
ソフトウェアやアプリケーションのサービスを提供する事業者、もしくはサービスそのものを指します。

・サービスを利用せず、最初から立ち上げる
上記のように、用意されたソフトウェアやサービスではなく、何もない状態からサイトを構築する方法です。
この方法であれば、完全オリジナルのECサイトを作れるため、機能の実装も自由自在に行えます。

自社でECサイトを構築する場合、自社のオリジナリティやブランディングを打ち出せるため、販促方法も自由に設定できます。
また、下記のECモールに支払う手数料も不要です。

ただし、自社でのサイト構築には技術を要し、手間や制作費がかかる面も否めないほか、対象とする国が求めるニーズや決済方法を自社ですべて決めなければなりません。

海外出店ができるECモールを利用する

海外で展開されているECモールに、オンラインで店舗出店・出品する方法もあります。
日本国内でも多く展開されている、オンライン上のショッピングモールの形態と同様です。
サービスを展開しているECモールに注文管理を依頼したり、店舗スペースをレンタルしたりするようなイメージです。
ECモールには、以下の2つの形態があります。

・マーケットプレイス型
大規模なECモールのプラットフォームにより、商品の情報を一元管理するものです。企業は、このシステムに出品する形で手数料を支払い、商品を販売します。

・テナント型
ECプラットフォームの一角に、企業がオンライン上の店舗を構える形です。
実店舗と同じようにショッピングモールに出店し、プラットフォーム提供者に手数料を支払います。
どちらの型も比較的簡単に出店・出品できるため、自社サイトの構築よりも手軽である一方、利用手数料が発生します。

海外に自社倉庫を持つ

自社商品が大量にある場合などは、対象とする国に自社倉庫を構える方法もあります。注文を国内で受け、商品発送を行う時は海外の倉庫から行う形態です。
海外に商品在庫を保管することで、輸送費を大幅に抑えられるだけではなく、商品到着までのタイムラグを縮めることにもつながります。

また、中国などにある保税区(輸入した商品を関税が課せられない状態で保管できる区域)に自社倉庫を持てば、通関の過程もスムーズに行われるでしょう。

代行販売者による転送販売を行う

日本でのECモールに出店・出品したものを代行販売者にまとめて販売し、転送の形で顧客それぞれに販売するものです。

ただし、代行販売者への手数料支払いに加え、大量販売による値下げ交渉が行われることが多いため、在庫が豊富で卸値を下げても利益を得られる企業が利用する傾向にあります。

越境ECの始め方について詳しくはこちらの記事も>>
越境ECの始め方とは?個人で越境ECを始めるなら、何から始める?

越境ECのメリット・デメリット


こちらからは、越境ECを展開するにあたり、メリットとデメリットを挙げていきます。

越境ECのメリット4つ

海外への販路を広げられる

越境ECでは、販路を海外にシフトすることで、国内では得られない海外の顧客を得られます。
単純に顧客の絶対数が増えるだけではなく、日本の商品のニーズが高い国にターゲットを絞れば、さらに好調な売行きを見込める可能性があります。

競合が少ない環境でビジネス展開できる

日本国内では、競合他社がしのぎを削っている業界でも、海外に販路を移せば競合が少ない環境でビジネスを行うことも可能です。
そのため、前述のように顧客の絶対数を増やすことが国内よりも容易になり、ビジネスを軌道に乗せやすくなることも期待できます。

注目される日本の商品を海外に販売できる

日本商品の高品質さや日本文化に関連する商品の魅力は、海外でも注目され広く知れ渡っています。
知名度の高さを利用し、特にアジア圏や欧米など、日本に関心を持っている国をターゲットにすれば、自社商品を効率良く販売することにつながるでしょう。

実店舗より簡単に出店できる

実際に実店舗を構えるとなると、賃料や備品の整備、倉庫の準備など、手間や費用がかかりますが、越境ECであれば実店舗にかかる手間や費用を抑えられます。
さらに、スタッフを雇う人件費も不要であるため、初期費用およびランニングコストも実店舗より安価で済むかもしれません。

越境ECのデメリット4つ

配送に多くのコストがかかる

海外に自社倉庫を持っている場合以外は、海外からの注文があれば国内から商品を発送しなければなりません。
その場合、配送料や関税が高額になり、顧客の支払いにかなりの額が上乗せされてしまいます。

対象国に応じた施策が求められる

海外では、日本とは異なる法律および輸入品への規制が様々にあります。そのため、越境ECを展開する場合、それぞれの国に対応した施策を取らなければなりません。

例えば、ライセンス取得や関税、個人情報の取扱いなどを厳しく管理している国もあり、販売する国の事情をよく調べておく必要があります。

決済方法を精査しなければならない

決済に海外発行のクレジットカードを利用する時、不正利用など日本国内での取引きよりトラブルが起きやすい傾向にあります。
また、Web決済サービスでは取引き額に上限があったり、そもそもWeb決済が普及していなかったりというケースも考慮してください。

対象国の言語に対応する必要がある

海外の顧客からの問い合わせがあったりトラブルが起こったりした場合、その国の言語に対応したサポートセンターを設置する必要があります。
越境ECサイトでの翻訳はもちろん、メールやチャットを対象国の言語に対応できるようにしなければ、キャンセルや返品に対応するのが難しい面もあります。

越境EC展開で押さえるポイントについて


越境ECを展開するには、下記のようなポイントを押さえておきましょう。

越境ECを展開する前に注意点を知る

まずは、越境ECを展開する前に注意すべき点を紹介します。

海外向けに売れる商品を扱っていること

最初に考えるべきことは、自社商品が対象国のニーズに適したものであるか否かについてです。日本商品の品質が良いからといって、どの国でも売れるわけではありません。
その国が、日本商品に求めているニーズは何かを十分にリサーチし、売れる算段がついてから準備を始めます。

越境ECの仕組みに適しているものであること

越境ECでは、商品が海を越えて提供されるため、輸送に向いているか、食品であれば消費期限が十分に確保できるかなどを考えます。
なお、越境ECはオンラインを介したサービスであるため、販売するサービスは電子書籍や動画配信のように、オンラインで利用できるものが扱いやすいでしょう。

展開前後のシミュレーションをしっかり行うこと

上記の注意点を踏まえたとしても、海外との取引きには様々な問題が生じる恐れがあります。各国の規制や関税、決済方法は事前にしっかり調べておきます。

さらに、ECサイトで販売を始めた後のシミュレーションも行ってください。
商品の紛失・破損や顧客とのトラブルなど、考えうる事態への対処法をあらかじめ練っておきます。

越境EC展開の事前準備について

対象国のマーケティングを行う

商品を販売する対象国それぞれに、業界の市場動向についてしっかりとマーケティングを行います。
例えば、商品の市場ニーズが高そうな国をピックアップし、自社ブランドを前面に押し出して販売すれば、自社の強みを海外で十分に生かせるでしょう。

また、対象国で越境ECにて需要がすでに高い商品や人気のあるジャンルを調べ、越境EC用に商品開発を行うのもひとつの方法です。

配送の決まりや規制などを把握しておく

前述で少し触れたように、各国では商品販売に関して様々な規制、また関税の割合が異なります。

規制では、ライセンスがないと販売できなかったり、酒類や車の商品そのものが制限されていたり、関税では国および商品により税率に大きな差が生じたりします。
特に、関税に関しては、商品在庫と価格に照らし合わせて、十分な利益が得られるかを検討する必要があります。

越境ECをどう展開するかを精査する

前の章で説明したように、越境ECを展開するにはいくつかの方法があります。
自社サイトを構築するか、ECモールを利用するかなど、手間やコストと利益見込みを照らし合わせ、より効率の良い方法を選ぶようにしてください。

また、配送方法についても海外に倉庫を置くのか、国内からの発送とするのか、返品にどう対応するかを決めます。その場合、配送料や商品到着までの期間も考慮に入れます。

越境ECに残る問題点も知っておこう

そのほか、越境ECにはいくつかの問題点が残されています。この点も考慮した上で、展開を検討しましょう。

広告の打ち方や予算について

日本国内では、例えばSEOやリスティング広告など、広告の打ち方にはいくつか考えられますが、海外ではその手法が有効とは限りません。
自社商品の価値を認識させる方法として、SNSの活用や海外のインフルエンサーとの連携、ECサイトで利用できるクーポン配布があり、その中で方法や予算を検討します。

変化し続ける規制について

先に説明しているとおり、各国には規制が多様にありますが、その規制も年々変化しています。
特に、化粧品は規制が厳しくなる傾向にあり、食品に関しても商品ごとの規制のほかに、日本の特定地域からの輸入を制限する国もあるため、十分な下調べが必要です。

為替レートについて

海外通貨の為替レートは、越境ECで重要な課題です。為替レートの変動は専門家でも読みづらく、日本企業のマーケティングだけでは対応できないこともあります。
為替レートの変動に対応する方法として、価格決定を日本円で行い、決済時に外貨に自動的に変換する方法が多く採られています。

正規品の証明について

海外との取引きで、正規ブランド商品の偽造品が流通するケースはよく耳にする話です。
そのため、正規品と偽造品を判定できるシステムを導入する方法で、自社商品が正規品であることを証明する自衛策も求められます。

対象国での商標権について

越境ECの課題には、対象国に発送した商品のオリジナリティが侵害され、模倣品が横行するケースも挙げられます。
権利侵害の自衛のために、自社商品を海外に販売する前にしっかり商標権を取得しておくと良いでしょう。これは、対象国で同様の商品がないかの下調べにもなります。

まとめ

越境ECは、中国をはじめとした海外へ販路を広げるために有効な方法です。海外に実店舗を構えるよりも容易である点も、魅力のひとつでしょう。

越境ECを展開する際に注意すべき点も多くありますが、可能であれば自社に越境EC専門の部署を作り、マーケティングや規制の把握などの課題に注力するのも方法のひとつです。
売上げについても長期的に取組む必要があるため、越境ECの準備を行う際には、長い目で見た事業計画を立てることをおすすめします。

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(編集:創業手帳編集部)

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