社員の給与の決め方とは?適正な給与体系を設計するうえでのポイント

創業手帳

社員のモチベーションアップと、企業財務の安定化の両面から給与体系の整備が重要に


創業したビジネスが軌道に乗り、社員が増えてくれば、組織で一貫した給与体系を決める必要があります。

少人数であれば、社員が納得のいく給与を払うのは資金がひっ迫してさえいなければそう難しいものではありません。しかし、社員がある程度の人数になってくると、公平性と社員のモチベーション維持、そして企業の財務安定を両立しなければならないため、一貫した給与制度の設計が必要になるのです。

この記事では、企業が成長期にさしかかり、起業家向けに給与体系の決め方について紹介します。

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一般的な企業の給与体系の構成とは?

日本の多くの企業では、複数の給与によって給与体系が構成されています。これら全体のバランスを踏まえて、適切な給与体系を整備することが大切です。

基本給

所定労働時間の業務に対して支払われる賃金で、月次で支払われるのが一般的。日本企業においてはある程度の年次までは勤続年数に応じて上昇していく構造になっているケースが多いです。

ただし、この後紹介する能力給や職能給も結果的に勤続年数や年齢に応じて上昇カーブを描く傾向にあるため、基本給とのバランスを取る必要があります。

職務給

社員の職務内容の重さや難易度に対して支払われる賃金です。いわゆる役職手当などは「手当」と名前がつきますが、職務給の一種といえるでしょう。

重要度の高い役職に就く社員に高い職務給が与えられるものであるため、本来年齢は関係ないのですが、ある程度まで横並びで昇進させる仕組みを取ることで、職務給もほぼ勤続年数や年齢に比例するという企業が多く見られます。

能力給

社員の専門スキルの高さを踏まえて支払われる賃金です。専門職などに支給される例がみられます。スキルの高い新卒や年次の若い中途社員を雇う場合に、能力給を支給することで、年功序列とは一線を画する給与体系を整備している企業もあります。

ここまでの給与は合算して月次で支払われるのが一般的です。3種類の給与体系全てを整備している企業もあれば、この中の一部で月給が構成されている場合もあります。

賞与(ボーナス)

業績に応じて支払われるのが賞与(ボーナス)です。年2回程度支払われる企業が多いものの、年1回〜年4回程度まで、企業の給与支給の方針によって支給回数は様々です。

企業全体の業績+所属部門や部署の業績+個人業績を総合して水準が定められますが、その比重は企業によって異なります。企業の方針やビジネス特性を踏まえてバランスを定めるのがよいでしょう。

インセンティブ

成果給と呼ばれる場合もありますが、個人の業績目標や一定の期間に達成した成績の応じて支払われるものです。

完全にインセンティブは独立したものとして支払われる場合、賞与と合算して支払われる場合や、年間数回の賞与のうち一回がインセンティブの性質を持っている場合も。いずれにしても、賞与と比較すると、個人業績を重視して水準を決定づけるのが一般的です。

諸手当

このほかに所定の条件によって受け取ることができる手当を整備します。月次で支払われるものも多く、実質的に給与の一部を構成しているとみなして給与体系として整備をするのがよいでしょう。

  • 時間外手当
  • 住宅手当
  • 家族手当・扶養手当
  • 通勤手当
  • 居住地に応じた手当(生活コストの高い都市部に住む従業員に加算するなど)箇条書き1行目

給与体系の役割とは?

給与体系を整備することで、次のような効果を発揮します。いずれも企業経営を安定的におこなううえで重要なポイントです。

  • 従業員のモチベーション維持・向上
  • 人材の確保や定着を促進する
  • 人件費をコントロールする

給与は従業員の業務遂行に対する対価として支払われるもの。高い対価を支払えば従業員はモチベーションを高め、より勤勉に働くようになると期待されます。

また、成長期の企業では新たに社員を雇うことも多くなりますが、その地域や同業の平均より高い給与を用意すれば、その給与体系に魅力を感じ、企業に就職を希望する人材が多く集まるでしょう。

ここまで見れば給与体系は「高いほどよい」ように思われがちですが、企業の安定面からはそうはいきません。高い給与体系は人件費の高騰に直結するため、いたずらに高い給与体系を設計するわけにはいきません。

社員のモチベーション維持や人材確保といった側面と、企業財務の安定両面を踏まえて、適正な給与体系を整備することが大切です。

社員の給与体系の決め方について

さまざまな構成要素からなる給与体系をうまく整備していくためには、おさえておくべきポイントが5つほどあります。

給与項目それぞれのバランスが重要になってくるのはもとより、社会保障費の負担額や、手当・福利厚生とのバランスなど、一般的には「給与」とはみなされない項目も踏まえて、従業員の負担・支給のバランスを総合的に加味しましょう。

月次支給の給与のバランスを考慮する

基本給、職務給、能力給という、月次で支給する給与項目それぞれの給与テーブルのバランスをまず考慮します。

一般的に基本給は年功序列の意味合いが強く、職務給は職階に応じて支給され、能力給は専門職に対する給与加算の目的で設定されるケースが多いです。

例えば、ビジネスの特性から長い経験を持つ社員を重視したい場合は基本給の比重が高くすべきでしょう。また、組織の統率力を高めるために優秀な人材に管理職になってもらいたいなら、職務給を高くするのが一般的です。

研究関連のビジネスなど、特殊なスキルが重視されるビジネスなら、高い能力給でハイスキル人材に報いるのが適切と考えられます。

手当や福利厚生とのバランスを加味する

住宅手当や家賃補助、時間外手当などは、手当といっても月次で給与とともに支払われるため、社員からすれば給与の一部といえるでしょう。

この点を見落として給与体系を整備してしまうと、手当が加算されることにより、いたずらに高額な給与を支払う体系になるおそれがあります。社員は満足しますが、企業の財務管理上は望ましくありません。

また福利厚生を考慮することも忘れずに。特にランチが無料、手厚い保険への加入など、実質的に従業員の経済的負担を軽減する効果がある福利厚生の制度がある場合には、これらの企業負担を加味して給与体系を整備していくべきでしょう。

社会保障の負担額を考慮する

社会保障の社員の負担額は約14%です。比率で定められているため、給与が増えると負担額も増大します。

社員のモチベーションの観点においては、手取り額が重要です。したがって、社会保障の増大額を考慮しても社員のモチベーション維持・向上につながるよう、手取りベースでの適切な昇給が期待できる給与体系を整備しましょう。

賞与・インセンティブによる利益還元のスタンス

賞与・インセンティブの比重も給与体系の決め方において重要なポイントです。

企業の業種が景気循環型で業績変動が大きい場合には、賞与・インセンティブの比重を高めることで、企業業績に沿ったコストにするとともに、利益還元を重視するスタンスを明確にできます。

一方、賞与・インセンティブを「生活給の一部」と考える向きもあります。安定性を重視する企業の場合には、あえてこれらの変動幅を小さくすることで、社員に安心感をもたらす戦略をとる場合もあります。

企業のスタンスやビジネス特性、社員の意向などを踏まえて、賞与・インセンティブの条件を適切に定めるとよいでしょう。

同地域や同業他社の水準を考慮

企業内の事情だけで給与体系を決めることはできません。自社の給与体系が同地域内の他社や同業他社に劣れば、人材流出や、新たな人材獲得の不調につながっていきます。またこれらの市場平均よりあまりに高い場合は、人件費が高くつき、企業の競争力を削いでしまうかも知れません。

給与体系を整備するうえでは、同地域・同業の市場平均を加味して、平均並みもしくはやや高めとするのが適切です。

社員の給与体系の設計の手順

続いては具体的な給与体系の設計手順について紹介します。ここではこれまで給与体系が確立されていなかった企業が、はじめて給与体系を整備する想定で解説していきます。

給与体系の項目を決める

まず第一におこなうのは給与体系の項目決めです。先に紹介した給与項目を中心にどのような項目で自社の給与体系を構成するか明確にします。

以下に「必須の項目」「多くの企業で取り入れられている項目」「企業のスタンスや組織構造によって設定される項目」にわけて設定目的とともに代表的なものを一覧化しました。

「必須の項目」はほとんどの企業で欠くことはできないと思います。一方で、それ以外は企業のスタンスやビジネス状況に応じて取捨選択してよいですし、ここにはない手当などを整備することも可能です。

報酬水準と給与テーブルを設計

続いては、それぞれの給与項目がどのように昇給していくのかを一覧化した給与テーブルを設計します。企業が求める優秀な社員に適切な給与が行き渡るよう構築していくのが大切です。

こちらはあくまで一例ですが、月給のベースを年齢による基本給と役職による職務給で定めているケースです。職務給のテーブルは「係長」「課長」など一般的な役職をもとに作成しても問題はないのですが、将来役職を新設したり、役職の中でも差異を作る余地を残す(以下のイメージでは新任とそれ以外のテーブルを分けている)ために、役職名とは異なる「等級」などで職務給テーブルを設計する場合が多くみられます。

例えば、「37歳・新任課長」の月給は270,000円+200,000円=470,000円となります。この企業では職務給について非管理職(時間外手当がつく)をA、管理職(時間外手当がつかない)をBとしています。給与管理をスムーズにおこなうため、このように職務給テーブルは「記号」+「数字」で整理するケースもあります。

報酬シミュレーション

設定したテーブルをさまざまなモデルを元に給与の上昇カーブをシミュレーションしていきます。企業のスタンスにマッチしているか、そもそも給与水準は適正かなどを確認して、テーブルを微調整していきます。

たとえば、こちらは「基本給を重視する企業」と「職務給を重視する企業」の給与の上昇カーブ例のイメージです。実際には昇進ペースは一様ではないはずなので、さまざまなモデルケースを想定しながら複数の上昇カーブを作成し、適切な給与体系に整備していきましょう。

*図のイメージの簡単化のため基本給と職務給のみで構成される給与体系としています

また、シミュレーションについては人件費全体のシミュレーションを行うことも大切。社員が今後年数を重ねたときに、将来人件費が急騰するようなことがないかもしっかりチェックします。

社員への伝達方法を策定

策定した給与体型について社員の納得を得るためには、適切な情報伝達も欠かせません。一般的には次の3つのルートで情報を伝達していきます。

  • 社内イントラなどによる告知
  • 説明会の実施
  • 面談と給与通知書などによる個別説明

企業の規模にもよりますが、基本的にはこれら特定の手段で伝達を済ませてしまうのではなく、3つを全て実施して、社員それぞれの納得感を得るのがよいでしょう。

社員の給与体系の整備がビジネス発展の鍵に

社員の人数が増えてくると、一貫したルールなしに、給与を社員全員に公平に支給するのは困難です。

適切な給与体系を整備すれば、社員のモチベーションアップや人材獲得に役立つだけでなく、企業の人件費の見通しも立てやすくなるため、コスト管理もしやすくなります。給与支給のルールが整備されていれば、今後社員数が大きく増加しても安心です。

ビジネスの成長に伴う組織の拡大をスムーズにすすめていくためには、ぜひ給与体系を整備することをおすすめします。

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