Cogent Labs エリック・秀幸・ホワイトウェイ|あらゆる文書の処理を自動化。生産性を向上し日本の労働力不足解消へ
AI技術と共にソリューションも進化!読み取るだけからその先の処理まで可能なAI OCRを開発
株式会社 Cogent Labsは、あらゆる文書のデータ化を自動化する次世代AI OCR「SmartRead」をはじめとした、各種AI関連ソリューションを提供しています。
代表のエリック氏は、ディープラーニングの進歩と可能性に惹かれて「この技術でチャレンジしたい」と考え、16年間勤めた会社を辞め起業したと言います。
そこで今回はエリック氏に、起業までの経緯や日本で会社を立ち上げた理由、起業当初に苦労したことなどを、創業手帳の大久保が聞きました。
株式会社 Cogent Labs 代表取締役社長CEO
コロンビア大学でコンピュータサイエンスとオペレーションズリサーチを学ぶ。モルガン・スタンレーMUFG証券に16年間勤務、リスクトレーディングとアルゴリズムトレーディングをリードし、マネージングディレクターとして株式トレーディング本部を牽引。2014年にディープラーニングの進歩と可能性に惹かれてCogent Labsを設立。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
ディープラーニングの可能性に惹かれて起業を決意
大久保:起業前は、コンピュータサイエンスに関わるお仕事をされていたとお聞きしました。
エリック:起業前はモルガン・スタンレーMUFG証券に16年間勤めました。コロンビア大学でコンピュータサイエンスを学んだので、それらの技術を活用した日本株のトレーディングに携わっていましたね。
若いころは自動でトレーディングするためのソフトウェアツールを開発したり、コンピュータプログラムを利用して自動的に取引する「アルゴリズムトレーディング」のチームを率いたりもしていました。
大久保:昔のトレーディングというと、証券マンの方が紙で作業をされていたイメージです。
エリック:私がトレーディングを始めた1996年ごろは、ちょうど自動売買が可能になったタイミングでした。
大久保:紙からコンピュータに変わる転換期だったのですね。
エリック:そうですね。金融で長年働きましたが、金融そのものよりも新しい技術を活かすことにチャレンジをするのが昔から楽しかったんですよね。それが起業にもつながったのだと思います。
大久保:16年間会社に勤めておられて、起業に迷いはなかったのでしょうか?
エリック:迷いはありませんでした。金融業界では23歳から挑戦を続けてきて、確かにやりがいは感じていました。ただ、そろそろ新しいチャレンジがしたいなと思っていたんです。その矢先の2014年ごろに出会ったのが「ディープラーニング」という技術です。
ディープラーニングは機械学習の1つで、大量のデータを学習させるとAIが自動的にデータの特徴を抽出します。この技術によって、それまでデータ化が難しかった画像認識が可能になりました。
それを見たとき、「この技術を使って、より社会に貢献できるようなことにチャレンジしたい」と思い、私と同じようにAIに大きな可能性を感じたメンバーを集めてCogent Labsを立ち上げました。
手書き文字を読み取る「Tegaki」をリリース
大久保:立ち上げ当初からピボットはしましたか?
エリック:ピボットというより進化したと考えています。
ディープラーニング技術で「すごいことができそうだ」とは思ったものの、まずは実際に何ができるかを考えなければなりませんでした。なので立ち上げ当初の1年間は、「世の中にどういうニーズがあるか」をさまざまな業界の会社の方にヒアリングしたのです。
そしてわかったのが、人間がしている単純作業を自動化する需要が高いことでした。
そこで2017年にリリースしたのが、手書き文書のデータ化サービスであるAI OCR「Tegaki(テガキ)」です。それまで手書き文字は自動認識が難しく、データ化するには人の手に頼るのが一般的でした。
一方でTegakiは、ディープラーニングを活用した独自開発のアルゴリズムによって、手書き文字も99.22%の認識率で読み込むことができます。人間が目で見て手で入力をするのと同じくらいの精度を実現したわけです。
このTegakiによって、各種申込書や注文書、アンケート、医療機関での問診票など、さまざまな書類を高速でデータ化できるようになりました。
非定型文書の読み取りや仕分けも可能になった「SmartRead(スマートリード)」
大久保:2021年にはTegakiに代わるサービスとして、「SmartRead(スマートリード)」をリリースされていますね。
エリック:最先端のAIを活用した「SmartRead」は、定形・非定形にかかわらず様々なタイプの文書から素早く正確に情報を抽出して、データ化を行うことができます。さらに、仕分けやデータ化後の処理部分まで自動化できるのが特徴です。
大久保:あらゆる文書タイプへの対応は、Tegakiでは実現できていなかった部分なのでしょうか?
エリック:そうですね。文書には決まった情報が決まった場所にある「定型文書」と、情報は決まっているけれど置かれている場所がバラバラな「非定型文書」があります。定型文書の読み取りはTegakiでも対応できていたのですが、非定型文書に関しては2017年時点の技術では正確にデータ化することができていなかったのです。
非定型なものを構造化できた点が、SmartReadの特徴の1つです。
大久保:SmartReadの精度はどれくらいなのでしょうか?
エリック:人間と同等か、それ以上の精度で仕分けや読み取りをすることができます。場合によっては、人間もなかなか読めないような、かなり崩れた文字まで読むことができるようになりました。
大久保:さらに、データ化するだけでなく、その後の処理まで自動化できるのですよね。
エリック:「ドリルを買いにきた人が欲しいのはドリルではなく『穴』である」という格言がありますが、お客様はドキュメントをただデータ化することだけを望んでいるわけではなく、文書をデータ化した先に、何か望んでいる用途があるはずです。
DXの第1のステップは「データ化すること」。そしてその先の業務も自動化できるように、APIを活用して基幹システムやRPA、外部サービス等との連携も可能にしました。
大久保:SmartReadの使い方もお伺いしてよろしいですか?
エリック:パソコンのブラウザからSmartReadにログインし、ドキュメントをアップロードすると、自動でデータ化されます。その他にも、お客様の仕組みにSmartReadのエンジンを組み込んで使ってもらっているケースもあります。
「新たな価値」を見出す支援がしたい
大久保:日本語は他の言語と比較しても、読み取るのが難しい言語ではないかと思うのですが、なぜ日本で起業をされたのでしょうか?
エリック:確かに、日本語の特に「ひらがな」は、ストロークの情報が少ないため、読み取りにくい言語です。でも、難しいからこそ可能性があるのではないかと思いました。
また、高齢化社会でどんどん人が不足していっている状態だからこそ、そのギャップを埋めるために、テクノロジーを活かすポテンシャルを感じました。社会に対してよりインパクトを与えられる、大きな貢献できるはずだと。
あとは単純ですが、僕自身も含めたCogent Labsのメンバーが、日本がすごく好きだからです。
大久保:SmartReadは、日本の働き手不足にもかなり貢献できますね。
エリック:SmartReadを使っているお客様からは、「文書の仕分けからデータ化、処理までの時間が大幅に削減できて、効率は5倍にアップした」といったお話をいただいています。このようにSmartReadの自動化技術がお客様の生産性を高めて、時間外労働の削減などにもつながっていってほしいと思いますね。
大久保:日本は労働生産性(時間当たり及び就業者一人当たり)が世界で見ても低いと言われています。働いている側からすると「真面目に働いているのになぜだろう」と感じるのですが、そもそもコア業務の手前にたくさんの無駄があるかもしれませんね。
エリック:事務作業に時間や集中が取られて、コアとなるビジネスにフォーカスができていない面はあると思います。会社のコアとなる業務に集中できるような技術を提供するのが、Cogent Labsの大きなミッションですね。
さらに、アナログだった世界をデジタル化すると、無限の可能性が生まれると思います。特に日本の中小企業は、会社にある膨大な情報やナレッジを使い切れていないことが少なくありません。それらをデジタル化することによって、これまでできなかったことを可能にする、「新たな価値を見出す」ような支援もしていきたいと考えています。
顧客ニーズの深掘りで「にわとりたまご」の問題を解決
大久保:起業して、会社をここまで大きくするまでに苦労したことはありますか?
エリック:もちろん日本語の読み取り精度に関しては、非常に苦労しました。ただその点は、最新技術を取り入れることによって解決をしていきました。
会社の経営側として、最初の頃に苦労したことは「にわとりたまご」の問題です。起業したばかりの頃は当然ですが実績はありません。でも実績がないと、なかなか新しいお客様を得ることができないのです。
それを乗り越えるためにしたのは、お客様の課題やニーズを深く理解したうえでのソリューションの提案です。ただ技術を提供するのではなく、現在の業務をしっかりと知って、端から端までを自動化するためにどうするのか、そのようなソリューション提案を心がけたことで、実績ができていきましたね。
大久保:今後の展望を教えてください。
エリック:私たちは日本の大手企業と密にお仕事をさせていただくなかで、いま市場にあるソフトウェアではカバーしきれない業務や作業がまだまだあると見ています。例えば、事業管理に必要な経理システム、ERP、請求書・経費関連処理プロセス等に入力するための事業現場・営業現場などでの入力、突合、データ加工などです。
そういった、より広い顧客のニーズに応えられるようにサービスを拡張し、提供価値を向上していきたいと考えています。
大久保:起業家に向けて、最後にメッセージをいただけますか?
エリック:コアのビジネスにフォーカスするためには、コアではない業務にエネルギーや時間がとられないようにしていかなければなりません。そのために、起業したばかりの大変な時期こそ、新しいAIの可能性や技術を取り入れてコアな部分に集中するべきだと思います。
また、「にわとりたまご」のところでもお話しした通り、お客様が求めていることや課題にとことんフォーカスしてほしいですね。
大久保の視点
創業手帳冊子版は毎月アップデートしており、起業家や経営者の方に今知っておいてほしい最新の情報をお届けしています。無料でお取り寄せ可能となっています。
(取材協力:
株式会社 Cogent Labs 代表取締役社長CEO エリック・秀幸・ホワイトウェイ )
(編集: 創業手帳編集部)
今回の取材にあたり、Cogent Labs社からアカウントを借りて、上記画像のように自分で文書の読み取り実験をしてみました。
請求書を読み取りましたが、AIでその場で正確にスキャンでき、データ化することができました。ちょっとした作業ですが、打ち込みの作業を人がやるかどうかで負担感は変わってくると思います。
また、読み取る資料の種類を指定するので、AIの読み取り精度が上がる工夫も見受けられました。
こうしたAIの目の活用、AIのカスタマイズもチャンスがある領域だと考えられます。仕事の無駄の撲滅をこうした会社が推進してくれると日本はもっと良くなると思います。