CLACK 平井 大輝|“居場所と武器”をすべての高校生に。貧困の壁を越える挑戦

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※このインタビュー内容は2025年12月に行われた取材時点のものです。

生まれた環境に左右されず、すべての子どもが希望を持てる社会を


日本では、家庭環境や経済状況によって学ぶ機会を得にくい高校生が少なくありません。こうした課題に対して、デジタル教育とキャリア教育の支援を無償で提供し、“希望とワクワク”を取り戻す伴走をしているのが認定NPO法人CLACKです。

設立から数年で、事業規模は年間約2.5億円へ拡大。大手IT企業との協働も進み、社会課題に向き合いながら着実なスケールを実現しています。

今回は代表の平井大輝さんに、創業の原点から資金確保の工夫、そして新たに挑む“インパクト雇用”構想まで詳しく伺いました。

平井 大輝(ひらい だいき)
認定NPO法人CLACK理事長 
株式会社CLACK代表取締役
1995年大阪生まれ。中学時代に両親の自営業の倒産と離婚を経験し、中学・高校と経済的な困難を経験。大学に進学後は「自分と同じような境遇で理不尽な思いをしている子どもの手助けをしたい」と思い、困難を抱える中高生の学習支援のNPOで3年間活動。居場所支援や学習支援以外の方法で困難を抱える高校生の将来の選択肢を広げるためにNPO法人CLACKを立ち上げる。企業と連携し、高校生からお金をもらわずにデジタル教育とキャリア教育の機会を提供。
現在は株式会社CLACKも設立し、シングルマザーや困難を抱える子ども・若者のAI時代の学ぶと働くの選択肢を拡張すべく活動中。

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中学時代の貧困経験が起業の原動力に

ー平井さんのバックグラウンドについて教えていただけますか?

平井:中学時代に親の離婚と父の自営業の廃業を経験して、経済的に困難な状況で育ちました。その経験がすべての出発点だと思います。高校では塾にも行かず、アルバイトで学費を工面する日々。その後、大阪府立大学へ進学しました。

ー当時は相当大変だったのではないでしょうか?

平井:そうですね。ただ、大学に進学してから「自分と同じような境遇の子どもに何かできないか」という思いが強くなって。ひとり親家庭や生活保護、不登校の中高生の学習支援を行うNPOに関わるようになったんです。

ーその活動の中で、何か気づきがあったのでしょうか?

平井:そこで出会った子たちの中には、生まれ育った環境によって、そもそも「自分のために頑張ること」自体が難しい子どもたちがいました。たとえば本人が勉強を頑張り始めても、突然祖父母の介護が必要になったり、親のアルコール依存症が悪化したりして、また生活が崩れてしまう。個人の努力だけではどうにもならない構造的な困難を抱えている子が本当に多かったんです。

そうした現実を目の当たりにして、自分はまだラッキーなほうだったんだと実感しました。そして、この子たちに本当に役立つものを届けたいという想いが、どんどん強くなっていったんです。

「プログラミングで貧困の壁を越える」という発想はどこから生まれたのか

ー平井さんは起業を考えたとき、なぜNPOという形を選ばれたのでしょうか?

平井:大学時代にいくつかのITベンチャー企業でインターンをしていたんですが、そこで「世の中にはリソースが余っている場所がある」と感じたんです。たとえば、企業が持っているPCや教材、人的リソースなどを非営利の形で再分配できれば、お金がなくても良い教育の機会を届けられるのではないかと思いました。

ーなるほど。ただ、大学生が新たにNPOを立ち上げるというのは、やはり大きな決断ですよね。

平井:実は、立ち上げ直前に1か月ほどシアトルで「リーダーシップ」や「ソーシャルイノベーション」を学ぶ研修プログラムに参加したんです。シアトルは「社会課題版シリコンバレー」とも呼ばれるほどNPOが活発な場所。「社会を良くしたい」と本気で活動している同世代の人たちと話す中で、「営利企業では採算が取れない社会課題だからこそ、取り組む人たちが絶対に必要だ」と強く感じました。そこで「NPOでやっていこう」という覚悟ができたんです。

ー「貧困 × IT/プログラミング」という組み合わせは、当時としてはかなり珍しかったのではないでしょうか?

平井:そうですね。周りにもあまり理解されませんでした。ただ私としては、プログラミングで学ぶことで身につく論理的思考や問題解決能力は、エンジニアに限らずどのような仕事にも応用できる「汎用性のあるスキル」だと思っていたんです。

それに、子どもたちはゲーム感覚で学べて、成果が目に見えやすい。小さな成功体験が、子どもたちの自己肯定感を高めるきっかけになると感じていました。

当時、プログラマーやエンジニアを目指す中高生が増えていたこともあり、彼らの興味と将来性の両方を踏まえて「プログラミングを無償で学べる環境を作ろう」と考えたのがきっかけです。

「目が本気だった」“無名の大学生”が信頼を獲得するまで

ー平井さんは大学4年生でNPO法人CLACKを立ち上げました。初期資金はどのように調達されたのか、教えていただけますか?

平井:立ち上げ直後に寄付型のクラウドファンディングを行いました。無名の大学生でしたが、ありがたいことに180万円もの寄付をいただくことができたんです。

ー当時(2018年)は、クラウドファンディングの成功事例は少なかったと思いますが。

平井:おっしゃる通りです。業界の先輩方からも「目標金額を下げた方がいいんじゃない?」と心配されました(笑)。でも「やるべきことを全部やれば絶対いける」という根拠のない自信だけはあって。支援をお願いする方一人ひとりに、テンプレではなく相手ごとに内容を変えて個別のメッセージを送りました。「一世一代のチャレンジです」という気持ちを込めて。CLACKの初期メンバーからも「目が本気だった」とよく言われます。

ー資金が集まった後は、どのように進められたのでしょうか?

平井:正直に言うと、当時は僕自身プログラミングが得意ではなかったんです(笑)。プログラミングができる友人やボランティアに協力してもらいながら、少しずつ教育体制を整えていきました。ありがたいことに、クラウドファンディングを通じて教材会社を紹介してくださった方もいて、無償でライセンスを提供していただけることになりました。

ー肝心の生徒はどうやって集めたのでしょうか?

平井:大阪の工業高校や商業高校、通信制高校などを一校ずつ訪ねて回る、いわゆる「足で稼ぐ営業」です。電話もしましたし、先生方が集まるイベントで直接声をかけることもありました。

ー先生方の反応はいかがでしたか?

平井:正直、かなり悪かったです(笑)。「よくわからない」と言われることばかりで。先生方自身がITに苦手意識を持っている場合も多く、「うちの生徒には難しいんじゃない?」と言われることもよくありました。

ただ、中には話を丁寧に聞いてくださる先生もいて、「一度、興味ありそうな生徒に説明会をやってみようか」と機会をつくってくださったんです。そして実際に体験会を行うと、印象ががらっと変わるんです。今まで何をしても続かなかった子が夢中になってプログラミングに取り組む姿を見て、「こんなに楽しそうにやるんだ」と驚く先生も多かったですね。発表会に来て感動してくださる方もいて、そこからさらに紹介が広がっていきました。

年間収入2.5億円。急成長を支えた要素とは?

ー現在、CLACKはどれくらいの規模になっているのでしょうか?

平井:年間の収入がだいたい2.5億円ほどです。プログラムの受講生も約1,000名弱にまで増えました。NPO法人としては全国的に見てもかなり多い方だと思います。ここ数年は毎年倍々くらいのスピードで成長してきました。

その成長を支えた最大の要因は、やっぱり「人に恵まれた」ことですね。自分で全部やろうとしなかったのが良かったと思います。

私自身、得意・不得意の凸凹があるタイプなので「苦手なことは得意な人に任せる」「それぞれの分野で自分よりできる人を集めて、その人に判断してもらう」といった“任せる力”が成長を支えたんじゃないかと思います。

たとえば、仕組み化が得意なメンバーに組織構築を任せたり、発達障害のある子や不登校経験のある子との関わり方を体系化するために外部講師を呼んだり。採用の段階でも「この仕事には合わないな」と感じた方には、申し訳ないですがお断りしていました。そのおかげでチームとして良い状態を保てたと思います。

ー経営に関して学ぶことも大切にしていましたか?

平井:はい。「MAKERS UNIVERSITY」という起業家コミュニティに参加したのが大きかったです。同期の仲間や先輩起業家と事業の悩みや学びを共有できました。

また、大阪の「にしなかバレー」というシェアオフィスでは、株式会社i-plugの中野智哉さんなど、尊敬できる経営者に直接相談させてもらえました。本当にお世話になった場所です。

起業家の先輩たちは、「どうやって最初の一件を取ったか」といったリアルな話をしてくれました。それを聞くと「それなら自分にもできるかも」と思えるんです。大事なのは、教えてもらったことをすぐ実践すること。柔軟に取り入れて試す、というスピード感が自分の強みかもしれません。

融資のハードルは高い?NPOの資金調達のリアル

ー活動を続ける中で、NPOならではの資金調達の難しさもあったのでは?

平井:そうですね。NPO法人は株式によるエクイティ・ファイナンスはできません。融資もハードルが高い。NPOの収入源は大きく4つ——①寄付、②助成金、③事業収入、④行政からの委託金がありますが、私たちに一番合っていたのは「企業からの寄付」でした。

ー特に転機となった支援があったのでしょうか?

平井:株式会社セールスフォース・ジャパンが寄付をくださったことは、間違いなくCLACKの成長を後押ししたポイントでした。しかも複数年にわたって支援していただけたんです。セールスフォースさんには「1-1-1モデル」というCSRの仕組みがあって、利益・製品・社員の時間の1%を社会貢献に使うという制度があります。

ただ、最初から大きな支援があったわけではありません。立ち上げ当初から担当者の方とつながりがあって、一緒にドローンイベントをしたり、プログラムを共催したりしているうちに、信頼関係が築けていきました。

そしてあるとき、私から中期経営計画をまとめた60枚ほどのスライドをお渡しして、「今後3年間でこういうことを実現したい」という提案をしたんです。

実はこのとき、まさに「鶏が先か卵が先か」といった状態でした。「生徒を集めないと企業も協力してくれない」けど、多くの生徒を集めるには「場所も教材もパソコンも資金も必要」。何もない状態ですべてを同時に進めるしかなかったんです。

「ないものをどう見せるか」「未来をどう信じてもらうか」——その突破の鍵は、想いを語るだけでなく、数字やロジックで裏付けることでした。

「この支援を受けられれば、こういう成果が生まれる」「その成果が積み重なれば、将来的にはこんな社会になる」といった形で、段階的に仮説を立てて説明していくんです。もちろん確証があるわけではないですが、小さな根拠を一つひとつ積み重ねて、全体として説得力のあるストーリーにする。それを資料にまとめて伝えました。

セールスフォースさんはそれを真剣に受け止めてくださって、大きな支援に繋がったんです。信頼を一歩ずつ積み重ねていった結果だと思います。

国内・海外のIT企業を中心に寄付や機器の寄贈等で活動を支援(CLACKホームページより)
ー最近は、NPOを支援する仕組みも増えてきているんでしょうか?

平井:そうですね。「子ども支援」「若者支援」などの分野では、数百万円~数千万円規模の資金が比較的集めやすくなってきています。10年以上使われていない休眠口座のお金をNPOなどに助成金として再分配する仕組みがあるんです。

IT企業の創業者が上場後に数億円単位で寄付してくださるケースも増えていますし、社会全体の寄付文化は少しずつ根付いてきています。ただ、新しい事業を立ち上げる時の資金繰りはまだ難しい。最初の2~3年は助成金や寄付でカバーできますが、その後の「持続資金」をどう生み出すかが課題です。

「インパクト雇用」を生みだし社会課題解決の次のステージへ

ー今後の展望を教えてください。

平井:2024年12月に株式会社CLACKを立ち上げました。NPOとしては年間1,000名以上の高校生にアプローチできるようになった一方で、新しい課題も見えてきたんです。

AI技術の急速な発展で、IT業界そのものが変わってきています。以前は「IT人材が79万人不足する」と言われていましたが、今は逆に「スキルが十分でないエンジニアが淘汰される」時代になり、IT業界で働くハードルが高くなっているんです。そうなると「IT以外の領域で、困難を抱える人たちが良い仕事に就けるようにするにはどうすればいいか?」という問いが出てきました。

一方で日本全体を見ると、少子高齢化によって2040年には約1,100万人の人手不足が起こると予想されています。特に介護・医療・製造・運輸といった「エッセンシャルワーク」の領域で深刻です。でも、僕らが関わる高校生たちは「リモートワーク」や「IT職」を目指す子が年々増えている。このミスマッチを埋めることが、社会全体の課題だと感じたんです。

エッセンシャルワークにも、労働環境の改善に取り組んでいる良い企業が増えています。そうした企業と未経験者をマッチングする仕組みを作りたい。その最初の対象として、CLACKの活動を通じて「働きづらさ」の声を直接聞いてきたシングルマザーに注目しました。

私たちはこれを「インパクト雇用」と呼んでいて、2040年までに社会全体で100万人の雇用創出を目指しています。そのうち20万人を株式会社CLACKが担う計画です。このスピード感で進めるには、株式会社として大きな資金を動かし、持続可能なビジネスモデルでスケールさせる必要があったんです。

ー最後に、これから起業を目指している方にアドバイスをいただけますか?

平井:まず、「車輪の再発明をしない」こと。新しい事業を作るときにありがちなのが、すべてをゼロから生み出そうとしてしまうことです。でも実際は、業界や職種が違っても真似できるやり方ってたくさんあるんですよね。過去の起業家たちの経験から学ぶことが大切です。

そして、自分がやり続けられる理由をちゃんと持つこと。社会課題の解決は本当に大変なことも多く、報われにくい場面もあります。だからこそ、「目の前の誰かを助けたい」という気持ちだけでなく、もっと深い自分自身の動機、「自分がこうありたい」という根っこの部分を持ち続けることが大切かなと。

私自身は「自分の境遇や運命に抗う人をエンパワーメントしたい」という軸と、「誰もやらないことに取り組む」楽しさが原動力です。人によっては「人に感謝されること」でも「お金持ちになりたい」でもいいと思います。大事なのは、自分の欲求とちゃんと向き合うこと。社会課題の解決は苦しいことも多いけれど、「楽しみながら」やれることが大切。十年続けられたら、きっと道は開けます。

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(編集:創業手帳編集部)

(取材協力: 認定NPO法人CLACK  理事長 平井 大輝
(編集: 創業手帳編集部)

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