キャッシュアウトとは?会社法におけるキャッシュアウトについてもあわせて解説
キャッシュアウトには2つの意味があります。それぞれの内容を理解して正しく使おう
一口にキャッシュアウトといっても、2種類の意味があることをご存じでしょうか。文脈と使い方によっては、まったく異なる意味を持つ言葉です。
まずは、企業資金の流出を意味するキャッシュアウトフローの意味や原因、似ている言葉との違いを解説します。
次に、会社法のキャッシュアウトについて、手法や実際の企業事例、メリットと注意点を紹介します。
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この記事の目次
キャッシュアウトには2つの意味がある
キャッシュアウトは、2つの意味で用いられます。
第一は、企業活動によって企業の現金が一定期間外部へ流出することを指します。これは、キャッシュアウトフローの意味で用いられている言葉です。
反対に、会社から現金が流入することをキャッシュインまたはキャッシュインフローといいます。
第二に、会社法においては、少数株主に対し現金を対価とすることで会社から排除し、完全子会社化を実施する取引きの意味です。
別名でスクイーズアウト、または、マイノリティ・スクイーズアウトとも呼びます。
意味が異なるため、文脈によってどちらの意味かを判断することが必要です。
キャッシュアウトフローとは?
2つの意味があるキャッシュアウトですが、まずはキャッシュアウトフローについて詳細を解説します。
意味やキャッシュフローとの違い、言葉の使い方などについて見ていきます。
キャッシュアウトの意味
キャッシュアウトとは、企業資金の流出と流出した金額のことです。
設備投資や商品の仕入れといった企業活動を発端とし、企業の資金が一定期間において外部に流出すること、流出した資金のことを意味します。
ここでいう資金は、手元の現金や普通・当座預金です。原則として、資金流出を指しますが、簡単に現金へ変換できる現金同等物も含まれることがあります。
また、元々は企業の金融用語として使われていましたが、近年広まっている金融サービス「キャッシュアウトサービス」としても使用されている言葉です。
キャッシュアウトサービスとは、消費者が商品を購入する際にデビットカードなどを利用して店舗から現金を引き出す仕組みです。
本来の意味とはやや異なって使用されることもありますが、基本的には企業資金の流出とその資金を意味します。
キャッシュアウトの原因
企業資金が流出するキャッシュアウトは、具体的にどのような要因で起こるのでしょうか。発生する原因は以下の通りです。
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- 営業面:商品の仕入れなど
- 財務面:社債の償還・借入金の返済など
- 投資面:設備投資・有価証券といった固定資産の購入など
企業活動における様々な場面で資金が流出することが原因で、キャッシュアウトは発生します。
キャッシュフローとの違い
似ている言葉に「キャッシュフロー」があります。企業の事業活動や財務活動において、実際に得られた収入から支出を差し引き、手元に残る資金の流れを指す言葉です。
財務諸表のひとつに「キャッシュフロー計算書」があり、資金をどこに使い、どのように増やしたかを把握するものです。
この際に、資金の流出が発生する場合はキャッシュアウトを意味し、反対に資金が流入する場合はキャッシュインを意味します。
つまり、資金の流れをキャッシュフローといい、そのうち流出する資金がキャッシュアウトを指します。
使い方と誤用に注意
2つの意味があるだけでなく、似た意味の金融用語も存在し、文脈によっては違う意味になってしまうため注意が必要です。使用例と誤用について解説していきます。
使用例
企業資金の流出やその金額として使用する場合の使用例を確認します。
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- 新商品の仕入れがあったため、キャッシュアウトをした。
- 今キャッシュアウトをすると財務状況が厳しいため、商品購入は保留してほしい。
- 設備投資をし、キャッシュアウトをできるだけの資金がある。
営業面や投資面など複数のシーンがあるため、間違いがないように注意してください。
資金ショートとは異なる
複数の意味があることから誤用されるケースがあります。
2つの意味があるため、使用例によっては意味がわかりにくい場合もありますが、ほかの言葉と誤用してはいけません。
例えば、資金ショートも混同される言葉のひとつです。「アウト」には、尽きる・なくなるなどの意味を持つ熟語もあり、間違った認識につながった恐れもあります。
会社法におけるキャッシュアウト
次に、会社法のキャッシュアウトについて解説します。概要や手法、実際にキャッシュアウトを行った企業事例を紹介していきます。
概要
会社法のキャッシュアウトは、現金を対価とし、少数株主を企業から撤退させる方法です。別名で、スクイーズアウトとも呼びます。
2014年6月に成立した改正会社法によると、株式を90%以上所有している大株主が少数株式に株式全部を売り渡すように請求する株式等売渡請求が可能となりました。
これにより、少数株主を企業から撤退させることができ、従来に比べて簡単な手続きで迅速に実施することが可能です。
また、キャッシュアウトによって、会社の株主を大株主のみにできる点も特徴です。
そのため、上場企業が非上場企業になって子会社となるための準備に用いられることがあります。
なお、会社の規模に関係なく適用され、定款に株の譲渡に関して定められていてもキャッシュアウト規定が優先されます。
キャッシュアウト(スクイーズアウト)の手法
具体的にどのような方法があるのでしょうか。キャッシュアウトには複数の手法があり、以下に4つの手法について概要を説明します。
株式等売渡請求
株式の議決権を90%以上保有している特別支配株主が、少数株主に対して保有する株式のすべてを自分に売り渡すよう請求することです。
企業が承認すれば、少数株主は株式売買を実施しなければなりません。そのため、少数株主が保有する株式などを強制的に取得することが可能です。
例えば、A社がB社の議決権90%以上を保有する場合や、A社とA社の100%子会社である企業を合わせてB社の議決権90%以上を有している場合、A社はB社の特別支配株主です。
こうした要件を満たしているケースでは、株式等売渡請求を実施できます。
全部取得条項付種類株式
株主総会の特別決議によって、すべてを取得できる株式を指します。
会社では通常の普通株式以外に、定款の規定により内容の異なる種類株式があり、全部取得条項付種類株式は種類株式のひとつです。
全部取得条項付種類株式のよるキャッシュアウトの流れは以下の通りです。
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- 会社が発行する全株式を、全部取得条項付種類株式へ変更する
- 全部取得条項付種類株式のすべてを取得し、普通株式を対価にする
- 株式の端数を売却し、少数株主に対して現金を渡す
なお、全株主に対して金利が平等に与えられる普通株式だけを発行している企業の場合は、株主総会における特別決議の権利により変更できます。
株式併合
100株を併合して1株にするといった、複数の株式をひとつにする方法です。株式併合をする場合、最終的に少数株主の株式が1株未満になるようにします。
例えば、会社が発行している全株式が100株あり、株主3人の配分が90株、6株、4株と仮定します。
この時、10株を1株に併合すると決議された場合、9株、0.6株、0.4株の配分です。
持ち株が1株未満になると株式としての効力がなくなるため、株主として権利が行使できません。そのため、前述の例では0.6株と0.4株になった株主が該当します。
1株未満を所有する少数株主は、現金交付を受ける形で排除される規定です。
なお、端数となった株式は合算され、1株になった段階で時価として売却がなされます。
株式併合は、会社法で定められている通り、議決権の3分の2以上で株主総会の特別決議を実行できます。
株式交換の応用
親会社と子会社の株式を交換する手法で、ある会社がほかの会社に対して出資し、株主になっている場合に用いることのできる方法です。
これを応用し、子会社の株式を親会社がすべて取得して活用できます。一般的には、子会社の少数株主を排除したいケースなどに有効です。
子会社の株式をいったん親会社の株式へ交換します。
ここで親会社の株式併合を実施することで株式保有割合を調整し、少数株主の株式を1株未満とすることで少数株主を排除できます。
また、交換するのではなく、現金を付与する現金対価も手法のひとつです。この手法は株主総会の特別決議で決定されれば実施が可能となります。
キャッシュアウト(スクイーズアウト)のメリット
キャッシュアウトを行うことによるメリットは、複数考えられます。
例えば、M&Aにより他社を子会社にした場合、完全子会社にする手法として有効です。スムーズな手続きで株式の取得が可能なため、これによって完全子会社化に効果があります。
また、事業継承によって後継者に株式を集中させたいケースでも効果的です。
合法的に少数株主を取り除くことができ、株主が多数いる場合や、少数株主が株式の譲渡をしてくれない場合、容易に手続きが進むため有効な手法となります。
ほかにも、コスト負担などの回避や株式譲渡におけるスケジュールの短縮化、新株予約権の売渡請求ができるなどがキャッシュアウトのメリットです。
キャッシュアウト(スクイーズアウト)の注意点
自社に適した手法を選択することがポイントです。それぞれに特徴や注意点があるため、それを理解した上で手法を決めてください。
まず、自社の状況によって利用できる手法が異なります。
特別支配株主に該当する場合は株式等売渡請求を利用でき、親会社が子会社をキャッシュアウトをする場合は株式交換を利用できます。
それ以外の場合は、株式併合または全部取得条項付種類株式を利用する形式です。
また、要件を満たす割合で株式を保有できていることが前提条件です。どの手法においても、一定の株式を保有していなければキャッシュアウトはできません。
元々、大株主が少数株主から株式を得られるという特徴があり、それに応じた株式を保有していることが必要です。
なお、少数株主の権利が保障された上で成り立っている仕組みです。場合によっては、少数株主の権利を保護するための裁判が実施されることもあります。
自社の状況と注意点を確認した上で進めていくことが不可欠といえます。
キャッシュアウト(スクイーズアウト)の事例
最後に、キャッシュアウトが行われた企業の事例を紹介します。今回は、「株式会社雪国まいたけ」と「パイオニア株式会社」を例に、詳細を見ていきます。
株式会社雪国まいたけ
「株式会社雪国まいたけ」は、マイタケやブナシメジといったキノコの栽培と、それを用いた加工食品や健康食品を製造・販売する企業です。
2015年にアメリカの投資ファンドである「ベインキャピタル」によって、株式公開買付けとキャッシュアウトが行われました。
これによって、完全子会社化され、2015年6月には上場廃止となっています。
2020年9月には再上場を果たしましたが、ここでは割愛します。
経営陣による不適切な会計が告発され、経営から創業者が退きましたが、新経営陣の中でも衝突が続いている状況でした。
こうしたトラブルに乗じて「ベインキャピタル」が買収を仕掛けたことで、キャッシュアウトが成立しています。
最終的に、「ベインキャピタル」はアメリカの大手卸業者に保有株式の半分を売却して、利益を得ています。
パイオニア株式会社
「パイオニア株式会社」は、カーナビやカーオーディオなどに特化した電機メーカーです。
カーナビやプラズマテレビ事業などの不調が影響して、長い間業績不振に陥っており、2018年に上場廃止を発表しました。
その際、香港の投資ファンドである「ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア」が支配株主となり、株式併合によるキャッシュアウトが実施されました。
これによって、2019年には「パイオニア株式会社」は完全子会社化されています。
上場廃止と子会社化されたことによって、目先の業績ではなく、中長期的な計画で経営再建を図ることになりました。
まとめ
キャッシュアウトには2つの異なる意味があり、内容や使用される文脈を正しく理解しましょう。
企業資金の流出を意味するキャッシュアウトは、営業面や財務面など、起業活動の様々な場面で使用します。キャッシュフローなど類似する言葉もあり、誤用には要注意です。
また、会社法のキャッシュアウトは、別名スクイーズアウトとも呼ばれます。
複数の手法があり、株式の保有状況で実施できる方法が異なりまするため、事前の確認が不可欠です。
(編集:創業手帳編集部)