現預金とは? 会社の適正額はいくら? 元銀行員がわかりやすく解説!

資金調達手帳

手元現預金の必要額の決め方。「月商の3カ月分必要」は正しいのか

最近ではコロナショックの影響で資金繰りが詰まってしまい、非常に残念ながら経営破綻を余儀なくされた会社が出ています。また一方で、緊急対策融資を活用し、潤沢ともいえる借入を実施した会社があると一部では言われています。

コロナのような未曽有の事態に遭い、「手元に置いておく資金」について考えを巡らせた経営者の方は多いのではないでしょうか。

そこで、元銀行員で現在はCVCで経営管理を行っている斎藤氏に、「企業の適正な手元キャッシュはいくらか」、「適正の考え方」など、手元に置く現預金について詳しくお聞きしました。

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取材にご協力いただいた元銀行員の斎藤氏
大学卒業後、メガバンク、コンサルティングファーム等を経て事業会社の経営管理部門の責任者を務める傍ら、CVC運営会社の投資担当役員としてベンチャー企業投資に従事。ファイナンス、経営管理、経営企画がキャリアの中心。早稲田大学大学院修了(MBA)。

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現預金とは


預金とは、現金と預金のことです。別名「現金預金」ともいわれています。現預金があるのは、貸借対照表です。貸借対照表の資産の部で、現金・普通預金・当座預金・定期預金などを含んでいます。

会社経営で現預金が重要とされるのは、現金と預金がないと資金繰りが苦しくなるためです。手元にまったくお金がなければ、新たな商品の仕入れも投資もできません。ここで注意したいのは、貸借対照表の資産の部に資産があるとは違う点です。いくら売掛や不動産があったとしても、すぐに現預金にできなければ意味がありません。

企業の一般的な現預金の水準

企業経営者から、「現預金は月商の〇カ月分持っておかなくてはならない!」とか、「銀行は必要な時にお金を貸してくれないので、借りられる時に最大限借りておかなくてはならない」といった、資金繰りに関する話をよく聞きます。

一体「適正な」現預金水準とはどのくらいなのでしょうか。手元キャッシュの金額について考えてみたいと思います。

本記事で言う現預金とは、金融機関に預け入れされている、当座預金、普通預金、および社内に保管されている現金のことを指しています。

企業の現預金水準は経営者の考えや置かれている状況によりケースバイケースです。

総資産の90%以上を現預金相当の資産で占めている企業もありますし、逆に効率性を追求して月商の0.5カ月分相当で資金をやりくりしている企業もあります。

一般に現預金は、過年度の利益の蓄積の場合と、借入により計上されているパターンのどちらかです。

昨今の銀行預金金利はゼロに限りなく近く、預金として眠らせておいても十分な金利収入は期待できません。

前者のように過年度の利益を「必要以上」に蓄積している場合、より利益を生み出せる新規事業等の投資機会に投資を行い、しっかりとした利益を生み出すべきと一般的な資金繰りの教科書には書かれています。

また、後者の借り入れによって「必要以上」の現預金を保有している場合は、低金利とはいえ金利負担が重くのしかかり、こちらも効率的な経営ということはできません。

月商ベースで必要資金を決めるのは危険

では、「必要以上」とされてしまう現預金水準とはどの程度なのでしょうか?

「現預金は月商の〇カ月分持っておけば安心」といった考え方も耳にしますが、月商を基準にして現預金水準を考えるのは危険です。なぜなら、月商は業種・業態によって幅があるからです。

では、何を基準に考えるのが良いのでしょうか。それをご説明するために、ここでは運転資金(WC:Working Capital)について触れたいと思います。

運転資金の計算式
運転資金=売上債権(売掛金+受取手形)+在庫-支払債務(買掛金+支払手形)

事業運営をするにあたり、仕入れを行い(買掛金の発生)、在庫を持つ。そして、販売を行い(売掛金の発生)、売掛金を回収するといった一連の流れの中で、会社が事業を続けて行くのにいくら必要となるのか? を示す計算式で、運転資金を表します。

仮に、A社という、年商6億円、売上債権1.0億円、在庫0.5億円、支払債務0.5億円の小売業を営む企業があったとします。

  • A社の月商:0.5億円(年商6億円÷12カ月)
  • 運転資金:1.0億円(売上債権1.0億円+在庫0.5億円-支払債務0.5億円)

A社に必要な運転資金は、月商の2カ月分であることが分かります。

別にB社という、年商12億円、売上債権3.0億円、在庫1.0億円、支払債務3.0億円の製造業を営む企業があったとします。

  • B社の月商:1.0億円(年商12億円÷12カ月)
  • 運転資金:1.0億円(売上債権3.0億円+在庫1.0億円-支払債務3.0億円)

B社の運転資金は、月商の1カ月分と同じ金額です。

B社の月商はA社の2倍ですが、運転資金はA社と同じ1.0億円です。

運転資金は、会社が事業を続けてゆくのに必要な金額とご説明しました。運転資金はイコール外部調達を要する金額ともいえます。

年商規模は2倍の開きのあるA社とB社ですが、最低限必要な金額(=外部調達を要する金額)は同じであると言えます。

では仮に、現預金は月商の3カ月分持っておけば大丈夫! といった場合、A社に必要な現預金は1.5億円で、B社は3億円です。これは、特にB社においては、必要な運転資金を大きく上回っています。

このように、月商ベースだけで考えると過剰な現預金を持つことになりかねません。

業種業態によって月商や運転資金の水準が異なることから、特性を考慮せず一括りに月商ベースだけで手元の現預金水準を考えることは危険といえます。

自社のリスクを確認する

企業経営はリスクとの戦いです。経営者は常に自社に降りかかるリスクを念頭に置き、「万が一」を想定した企業経営を行わなくてはなりません。

先ほどの運転資金の構成要素をもとに、企業経営に潜在的に存在するリスクを考えてみましょう。

売上債権においては、売掛先の支払い不能リスク(貸し倒れリスク)が考えられます。特に大口販売先に大きく依存する企業は、一つの販売先が支払不能に陥ってしまうと、自社も連鎖的に資金繰り破綻に陥ってしまうリスクがあります。

在庫に関しては、保管倉庫の火災による滅失リスクや、トレンドを外した商品仕入れによる価値減少リスク。賞味期限や有効期限切れによる廃棄リスク。また、誤った見込みにより、必要以上に多く仕入れをしてしまったことによる在庫過多のリスク等が考えられます。

いきなりすべての販売先が破綻したり、ぱったり商品が売れなくなることや、在庫全てが陳腐化して廃棄を余儀なくされるといった突発的要因は稀かもしれませんが、企業経営においてはどのような不運かつ不測な事態が、どれくらいの確率で発生するかを常に考えていかなくてはなりません。

危機を察知してから手当てするまで、急場をしのげる水準を確保すべき

運転資金の議論を踏まえると、月商ベースで必要現預金水準を考えることが危険なことがわかりました。

最低限の資金繰りを考えたとき、運転資金相当額の現預金は持っておきたいところですが、プラスアルファの現預金水準についてはどのように考えたらよいのでしょうか?

万が一の事態は、売上入金はピタっと止まり、在庫は不良在庫と化しますが、支払だけは待ってくれない状況かと思います。

先のA社の例では支払債務の0.5億円、B社の例では3.0億円ということになります。

この支払債務が支払えないと会社は破綻を余儀なくされることから、何があってもこのお金は支払えるようにするべきです。

では、最低限持っておきたいと述べた運転資金に加え、支払債務全額を常に現預金として保有しておけばよいのか? といえばそうではありません。

今回のコロナショックにおいてもそうであったように、企業が緊急事態に陥った場合、金融機関に相当額の支援を求めることになります。

従って、手元においておくべき金額は、「まさか!」と危機を察知して金融機関に融資申し込みをし、必要額の借り入れ実行がなされるまでの間に必要とされる金額が適正ではないでしょうか。

一般的に金融機関への借り入れ申し込みから融資実行まで1カ月~2カ月程度かかることが通常であることから、概ね2カ月間をしのぐことを前提に現預金水準を考えるべきです。

気を付けなくてはならないのは、どんなに借り入れ実績があっても、その時の経済環境や自社の業績状況によっては希望通りの融資を受けられないことがあることです。そのため、余裕をもった融資申し込みと、必要度や緊急度に応じて複数金融機関へ融資申し込みを検討する必要があります。

金融機関の融資審査は個々の規定によって行われており、ある銀行で希望通りの融資が認められない場合であっても、他の金融機関では希望通り融資してくれる可能性があります。

緊急的な資金需要にも関わらず、期待通りの融資条件での融資が受けられなかった場合、1つの金融機関だけに依存した状況では万事休すの状況となってしまいます。

家賃や給与など商取引以外の支払いも見込む

運転資金における支払債務とは、あくまでもバランスシートに計上される商取引における支払の義務のことです。

しかし、企業経営においては、従業員への給与支払いや家賃支払い、水道光熱費の支払いや税金支払いといった、商取引以外の支払いも多々存在します。

入金が一切ストップするといった最悪の緊急事態においてでも、そういった商取引以外の諸々の支払いについても急場をしのがなければなりません。

従って、現預金水準を考える際には、そういった商取引以外の支払いについても綿密に把握しておく必要があります。

【まとめ】資金繰り表を作成し入出金の管理をする

適正な現預金水準を考えるということは、自社の運転資金を基礎に、いざというときに急場をしのぐことができる現預金について綿密な計画を立てることが肝要だということがお分かりいただけたかと思います。

元銀行員としては、入出金管理に精緻な資金繰り表の作成をオススメします。

創業時の資本金や創業融資の実行直後などは余裕ある現預金が残高として確保されており、当面の資金ショートは想像もしたくないかと思います。

ただ、事業が拡大し、巡航速度に乗ってくればくるほど取り扱う金額が大きくなり、資金管理が大雑把になりがちです。そういうタイミングこそ、入金と支出を精緻に管理することで、効率的な資金運用ができるようになります。

そのためには最低でも月次、可能であれば週次、日次の資金繰り表を作成し、管理することをおすすめします。

「日次の資金繰り管理なんて、行き詰った会社がすることなんじゃない?」と思われる方がいるかもしれませんが、効率的な財務経理管理ができている会社の経営者ほど日次の入出金管理をしっかりし、目に見えづらいアラートを「肌感覚」で察知しているものです。

また、肌感覚で最低限自社が必要な現預金水準を理解することで、「不安だから」とか「万が一に備えて十分すぎる借り入れを」といった、非効率な資金繰り運営をすることがなくなり、無駄な支払い金利を抑制することもできます。

資金繰りが潤沢なうちから精緻な資金繰り管理を行うことで、経営者自らが自社のお金の流れを綿密に把握することができ、事業の変革が必要になった際に抜本的な改革を迅速に行えると思われます。

できれば何でも相談でき信頼できる専門家を、早めに見つけておくことをおすすめします。資金繰り表や売上計画など、専門家にチェックしてもらうことで安心して事業展開できるでしょう。

しっかりとした現預金管理と入出金管理を行い、間違っても「黒字倒産」などを起こさない、鉄壁な財務経理運営を身に着けていきましょう!

いかがでしたか。必要な手元キャッシュを考えるヒントにしていただければ幸いです。創業手帳では、この他にも資金の調達方法や創業フェーズに必要な情報を掲載している「創業手帳冊子版」を発行しています。お取り寄せは無料ですので併せてご覧ください。

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(編集:創業手帳編集部)

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