キャリアアップ助成金のまとめ。令和3年4月1日以降の変更点を確認しよう
キャリアアップ助成金を活用して人材を確保しよう!
キャリアアップ助成金は、時代や社会の変化に応じて変更がその都度加えられます。
今までは助成金の対象にならなかった場合でも、改正によって助成金の対象になる可能性もあります。
キャリアアップ助成金を活用する場合には、各コースの期間や手順をチェックしましょう。
キャリアアップ助成金で助成対象となる制度は、多くの人が働きやすい環境を整備するためにも有効です。企業の成長に合わせて優秀な人材の確保、育成を目指してください。
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キャリアアップ助成金とは?
時代の変化とともに働き方、雇用形態が多様化しています。特に、近年増加しているのが、有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者といった非正規労働者です。
非正規労働者の中には、より長期的に安定して働きたいと考えて正規労働者を目指す人も少なくありません。
キャリアアップ助成金は、非正規労働者の人々の企業内でのキャリアアップを促進することを目的にした制度です。
非正規労働者の正社員化、処遇の改善といった取り組みを実施している事業主に対して、助成金を支給しています。
キャリアアップ助成金は、今後企業のために優秀な人材を社内で登用したい、また、育成したいと考えている事業者にとって有用です。
キャリアアップ助成金を活用し、従業員の意欲やスキルを高めて、優秀な人材確保を目指しましょう。
キャリアアップ助成金を受給できるのは?
キャリアアップ助成金を受給するためには、以下の要件を満たさなければいけません。
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- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況などを明らかにする書類を整備している事業主であること
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
新型コロナウイルス感染症拡大に係る特例措置もある
最近で雇用状態に大きく影響した変化といえば、新型コロナウイルスが挙げられます。キャリアアップ助成金では、新型コロナ感染症拡大にかかる特例措置も実施しています。
対象になるのは、令和2年1月24日以降に新型コロナウイルス感染症の影響により離職して就労経験のない職業に就くことを希望する者を、紹介予定派遣の後、派遣先の事業所が正社員として直接雇用した場合です。
特例措置として、対象となる労働者の方の直接雇用前に当該事業所に従事していた期間が、通常6カ月以上必要であるところ、2カ月以上~6カ月未満でも支給対象となります。
自己都合の退職であっても、新型コロナウイルス感染症の影響によるものであれば支給対象になります。
例えば、家族が新型コロナウイルス感染症になって看護や介護が必要になった、職場で感染者が発生したといった場合にも対象です。
制度が以前よりも使いやすく拡充されているので、対象になるかどうかチェックしておくようにしてください。
キャリアアップ助成金を利用するときの注意点
キャリアアップ助成金は、助成金の中でも利用しやすく人気がある制度です。しかし、利用者が多いからこそ注意しなければいけない点もあります。
キャリアアップ助成金を受給するときの注意点を紹介します。
事業所の実地調査が求められることがある
キャリアアップ助成金を受給するには、各コース実施日の前日までに「キャリアアップ計画」(労働組合などの意見を聴いて作成)などの書類を作成し、提出します。
労働局・ハローワークが、就業規則の改定方法の相談などをしてから、実行に移して支給申請をする流れです。
労働局・ハローワークは申請に対して支給審査、決定を行います。ただし、場合によっては事業所を実施調査される場合もあります。
実施検査に協力できない場合は、不支給決定になってしまうので注意してください。
この実地調査は、総勘定元帳等の書類や法定帳簿の確認などもあり、さらに、予告なしのケースもあります。
いつ実地調査が行われても問題ないよう、書類の整備と適正な経営を心がけましょう。
一度提出した書類は事業主の都合で差し替えできない
キャリアアップ助成金は原則的には、提出された書類によって審査を行います。不正受給を防ぐ目的から、一度提出した書類の差し替えや訂正は認められていません。
提出書類は、慎重に嘘がないように記載してください。
もしも、支給要件に照らして、申請書や添付書類に疑義がある場合には、都道府県労働局長が追加的に書類を求めたり、書類の補正を求めるたりする可能性もあります。
都道府県労働局長が指定した期日までに提出がない場合、不支給が決定します。必ず書類が適正か、スケジュールに問題がないかチェックしてください。
不正受給が発覚した場合、助成金を返還
当然ですが、キャリアアップ助成金の不正受給は決して認められない行為です。
助成金の支給が決定してから不正受給が発覚した場合には、助成金を返還しなければいけません。
返還に際して、受給した日の翌日から返還を終了する日までの期間に対し、年3%の延滞金が付されることに加え、返還額の20%の額が違約金として請求されます。
加えて、申請代理人が不正受給に関与した場合や不正の事実を知っていて黙認した場合にも、申請代理人も返還の連帯債務を負います。
不正受給すると、それから5年以内は助成金は受給不可です。
事実を偽って本来受けられない助成金を受給、または受けようとすれば、どこかで食い違いが起きて不正が露見します。
例えば、実際は事業主都合の離職であるにもかかわらず、助成金受給のために自己都合にした場合も不正受給になります。
不正受給することによって評判や従業員からの信頼を損ねる可能性もあるため、自社の将来や成長を望むのであれば、決して不正受給になる行為はしないようにしてください。
生産性要件とは?
キャリアアップ助成金を受ける時に、受給金額に影響するのが生産性要件です。
生産性要件とは、日本の労働力不足を補うために労働生産性を高める取り組みを実施して、効果があった場合に支払われる助成金の上乗せです。
助成の割り増しを受けられるかは、生産性要件を満たしているかによって決まります。
生産性要件とは、助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること、もしくは、3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていることです。
生産性の計算は付加価値÷雇用保険被保険者数で求められます。
付加価値は、企業の場合、営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課で計算します。
直近もその3年前もプラスでなければ対象にはなりません。
計算に手間がかかりそうと感じるかもしれませんが、厚生労働省のホームページでは、生産性要件を算定するための「生産性要件算定シート」を掲載しています。
損益計算書や総勘定元帳から勘定科目を転記すれば、生産性を算定できる仕組みです。
生産性要件はキャリアアップ助成金だけでなく、人材確保等支援助成金や両立支援助成金など多くの助成金で設定されています。
助成金を利用する場合には、生産性要件の条件を満たしているかどうかも確認しておきましょう。
キャリアアップ助成金は令和3年4月1日以降に何が変わった?
キャリアアップ助成金は、社会情勢や雇用の変化に応じて内容が変わることがあります。令和3年4月から何が変わったのでしょうか。
「正社員化コース」支給要件の変更
「正社員化コース」では、支給要件に変更が加えられています。
今までの「正社員化コース」では、正規雇用などへ転換等をした際、転換等前の6カ月と転換等後の6カ月の賃金を比較して5%以上増額が要件でした。
支給要件が新しくなり、規雇用等へ転換等した際、転換等前の6カ月と転換等後の6カ月の賃金(基本給および定額で支給されている諸手当を含む賃金の総額であり、賞与は含めない)を比較して、3%以上増額していることになりました。
賃金の増減率は引き下げられましたが、基準となる賃金から賞与が差し引かれることに注意してください。さらに、加算要件にも変更があります。
今まで支給の加算措置の中から、若者雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等したケースは廃止されています。
一方で、ほかの派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者として直接雇用した場合や母子家庭の母等、または、父子家庭の父を転換等した場合の加算措置はそのままです。
勤務地・職務限定正社員制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換または直接雇用した場合には、新しく短時間正社員制度が追加されました。
「障害者正社員化コース」の新設
令和3年度改正によって「障碍者正社員化コース」も新設されています。これは、もともとあった障害者雇用安定助成金の令和2年度末での廃止に伴う措置です。
障害者雇用安定助成金(障害者職場定着支援コース)の「正規・無期転換」措置を、キャリアアップ助成金の「障害者正社員化コース」に移管しました。
「諸手当制度等共通化コース」の変更
「健康診断制度コース」は、有期雇用労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上実施した場合に助成が受けられる制度です。
「健康診断制度コース」は、令和3年度から「諸手当制度等共通化コース」に統合されました。
「諸手当制度等共通化コース」は、有期雇用労働者等に関して正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設けて適用した場合のほか、有期雇用労働者等を対象にした「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上実施した場合に助成が受けられるコースです。
令和3年度からの変更に伴って、対象になる手当に、退職金と健康診断制度がプラスされました。
「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」の時限措置の延長
「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」は、その雇用する有期雇用労働者等について、働き方の意向を適切に把握して、被用者保険の適用と働き方の見直しに反映させるための取り組みを実施することで、新しく被保険者とした場合に助成が受けられるコースです。
このコースはもともと令和2年限りとなっていた措置が、令和4年9月末まで(従業員が100人を超える事業主は、一部の加算措置を除いて令和3年9月末まで)延長されました。
「短時間労働者労働時間延長コース」の時限措置の延長
「短時間労働者労働時間延長コース」は、有期雇用労働者等の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合に助成が受けられるコースです。
「短時間労働者労働時間延長コース」も、令和2年度限りとしていた措置を、令和4年9月末まで延長が決まっています。
キャリアアップ計画書とは?
キャリアアップ助成金を受けるためには、支給要件を満たすとともにキャリアアップ計画を作成しなければいけません。キャリアアップ計画書について紹介します。
キャリアアップ助成金を受給するまでの流れ
キャリアアップ助成金を受けるためには、事業主がキャリアアップ計画の作成と提出を行い、労働局・ハローワークはキャリアアップ計画の作成援助を実施します。
キャリアアップ計画は労働局・ハローワークに提出して管轄労働局長の認定を受けなければいけないので、計画よりも1カ月前には提出してください。
キャリアアップ助成金を受給するまでの流れはコースごとに違いますが、基本的にはキャリアアップ計画を作成して認定を受けて、実施、期限内に支給申請を行います。
申請は計画的に行うようにしましょう。支給申請にかかる書類は厚生労働省ホームページから取得可能です。
支給決定の通知書が交付されると、指定口座に助成金が振り込まれます。
キャリアアップ計画の作成方法は?
キャリアアップ計画は、決して難しく考える必要はありません。
有期雇用労働者等のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、今後のおおまかな取り組みのイメージを記載します。
具体的には、キャリアアップ計画の対象者や目標、実施期間、目標を達成するために事業主が行う取り組みを、あらかじめまとめておきます。
キャリアアップ計画は、あくまで当初の予定を記載するものであり、変更も随時可能です。
キャリアアップ計画を変更するときは、変更後必ず管轄労働局に「キャリアアップ計画変更届」を提出してください。
変更届が提出されていない場合、助成金を受給できない可能性があります。内容に変更が生じた場合は、速やかに変更届を提出しましょう。
キャリアアップ計画書とキャリアアップ変更届は、厚生労働省のホームページからダウンロードして使用可能です。
まとめ
キャリアアップ助成金の受給には、事前準備からキャリアアップ計画の策定、認定と実施、支給申請と時間がかかります。スケジュールを把握し、計画的に進めてください。
今後、人材の確保や、非正規労働者の正社員登用、手当の拡充による社員のモチベーションを向上を考える事業主は、キャリアアップ助成金の概要を知っておきましょう。
(編集:創業手帳編集部)