【専門家監修】キャリアアップ助成金 2022年4月における変更点とは

創業手帳

キャリアアップ助成金の変更点を把握し、積極的な利用で雇用促進を図ろう

キャリアアップ助成金
事業をより一層拡大していくためにも、企業への貢献度の高い社員を戦略的に雇用することは必要不可欠です。

しかし、社員登用には企業側に一定の負担が増えるため、二の足を踏むケースもあります。

そこで考えてほしいのが「キャリアアップ助成金」の活用です。

キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善等の取組を実施した事業主に対して助成する制度です。

キャリアアップ助成金は、時代や社会の変化に応じて変更がその都度加えられる助成金なので、変更点をきちんと事前に把握しておき、戦略的な雇用を検討していきましょう。

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キャリアアップ助成金とは

キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善などの取り組みを実施した事業主に対して助成金を支給する制度です。

現時点では、全部で以下の6つのコースがあります。

キャリアアップ助成金 6つのコース

  1. 有期雇用労働者等を「正規雇用労働者」「多様な正社員等」に「転換」または「直接雇用」した場合の
    正社員化コース
  2. 障害を持つ有期雇用労働者等を「正規雇用労働者」「無期雇用労働者」へ「転換」した場合の
    障害者正社員化コース
  3. すべて、または一部の有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を、増額改定し、昇給した場合の
    賃金規定等改定コース
  4. 有期雇用労働者等と正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成・適用した場合の
    賃金規定等共通化コース
  5. 有期雇用労働者等に関して正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設け、適用した場合、または有期雇用労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、のべ4人以上実施した場合の
    諸手当制度等共通化コース」(※従来の「健康診断制度コース」もここに統合)
  6. 短時間労働者の週所定労働時間を3時間以上延長し、新たに社会保険を適用した場合の
    短時間労働者労働時間延長コース

正社員化コースを一例に挙げると、6カ月以上雇用実績のある契約社員やパート社員を正社員に登用し、さらに6カ月継続雇用しており、かつ正社員登用前の6カ月と登用後の6カ月の賃金(賞与除く)を比較した時に、転換時期に応じて3%以上増額していると、該当者1人につき57万円(大企業の場合は42.75万円)が支給されるというものです。

社員の採用は事業を拡大していくために必然のことですが、社員を雇うということは企業にとってもそれなりの決断が必要になります。

しかしキャリアアップ助成金をうまく活用することで、企業側の負担を少なくし、社員を更に雇用することができます。積極的な利用を検討していきましょう。

キャリアアップ助成金 2022年4月以降の変更点とは

いくつかのコースにおいて、2022年4月1日以降の制度見直しが発表されました(※)。各コースにおける変更点をみていきます。

※令和4年度予算の成立及び雇用保険法施行規則の改正が前提のため、今後、変更される可能性があることにご注意ください。

正社員化コースの変更点ー雇用形態変更の助成が一部廃止ー

正社員化コースのみの変更点として、雇用形態の変更への助成が一部廃止されます。

変更前までは、「有期雇用労働者から正規雇用労働者」・「有期雇用労働者から無期雇用労働者」・「無期雇用労働者から正規雇用労働者」の3つのケースでの助成を設置していましたが、2022年4月1日以降は「有期雇用労働者から正規雇用労働者」・「無期雇用労働者から正規雇用労働者」の2つのケースでの助成となります。

有期 → 正規 1人当たり 57万円 変更なし
有期 → 無期 1人当たり 28万5千円 廃止
無期 → 正規 1人当たり 28万5千円 変更なし

2021年12月21日に新設された「人材開発支援助成金の特定の訓練修了者を正社員化した場合の加算」については、今後追加される予定とのことです(時期未定)。

正社員化コース・障害者正社員化コースの変更点
ー正社員と非正規雇用労働者の定義の変更ー

正社員化コース・障害者正社員化コースの両コースにおいては、正社員と非正規雇用労働者の定義についても変更されます。

正社員定義 非正規雇用労働者定義
現行 同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者 6か月以上雇用している有期または無期雇用労働者
改正後 同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者
ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る
賃金の額または計算方法が「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6か月以上受けて雇用している有期または無期雇用労働者
例)契約社員と正社員とで異なる賃金規定(基本給の多寡や昇給幅の違い)などが適用されるケース

定義についての適用は、2022年10月1日以降の正社員転換が対象となります。

賃金規定等共通化コースの変更点
ー対象労働者(2人目以降)の加算廃止ー

賃金規定等共通化コースとは、有期雇用労働者等に関して正社員と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に助成対象となります。

中小企業の場合、助成額は1事業所当たり57万円で、共通化した対象労働者(2人目以降)について、助成額が対象労働者1人当たり20,000円加算されていましたが、この加算が廃止されます。

諸手当制度等共通化コースの変更点
ー新設制度と対象労働者(2人目以降)の加算廃止ー

諸手当制度等共通化コースは、賞与・退職金制度導入コースと名称変更され、支給要件も変更されます。

有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給または積立てを実施した場合に助成対象となります。

旧制度では、賞与、退職金、家族手当、住宅手当が正社員と同額または同一の算定方式である必要がありました。

新制度では、諸手当等(賞与、退職金、家族手当、住宅手当、健康診断制度)の制度共通化への助成を廃止し、賞与または退職金の制度新設への助成へと見直されます。

また、正社員との共通化は必須ではなく、 非正規雇用労働者に対する制度新設のみで助成可となります。

旧制度 新設制度
① 賞与 ① 賞与
② 退職金
② 家族手当(廃止)
③ 住宅手当(廃止)
④ 退職金
⑤ 健康診断制度(廃止)

また、賃金規定等共通化コースと同じく、共通化した対象労働者(2人目以降)について、対象労働者1人当たり15,000円の助成額加算は廃止されます。

短時間労働者労働時間延長コースの変更点
ー支給要件の緩和および時限措置の延長ー

短時間労働者労働時間延長コースとは、有期雇用労働者等の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合に助成対象となりますが、社会保険の適用拡大を更に進めるため、以下が変更となります。

  • 延長すべき週所定労働時間の要件を緩和 (週5時間以上 → 週3時間以上)
  • 助成額の増額措置等を延長 (2022年9月末 → 2024年9月末(予定))

シリウス総合法務事務所 代表 寺内氏のコメント

今回のキャリアアップ助成金についての変更ポイントについて、シリウス総合法務事務所代表の寺内正樹氏にお話を伺いました。

寺内 正樹(てらうち まさき)
シリウス総合法務事務所 所長
特定社会保険労務士・行政書士。1974年生まれ、神奈川県出身。
慶應義塾大学卒業後、イベントディレクターを経て、2002年、事務所を開設。
中小企業の仕組みづくりを得意とし、全国の500社以上の「起業」から「企業」
への成長を助成金等を活用しながらトータルにサポートしている。
著書は「個人事業のままでは損!会社にするとゼッタイ得する!」ほか4冊。

助成金の中でも人気の高いキャリアアップ助成金ですが、今回の改正は、全体的に見れば、申請のハードルが少し上がった印象を受けます。

理由は、現状、最も活用されているであろう正社員コースの改正にあります。

まずは、有期雇用労働者から無期雇用労働者への転換が廃止されることになりました。

今までは、6か月や1年といった期間雇用のパート、アルバイト、契約社員等を契約期間のない形に転換をすれば、助成金の対象になっていました。

しかし、2022年4月1日からは、6か月や1年といった期間雇用のパート等を正社員へ転換するか、もともと契約期間のないパート等を正社員へ転換することで助成金が受けられることになります。

また、用語の定義が変更されることで、結果として、受給するための条件が厳しくなりました。

そもそもどのような方が正社員であるのかは法律上明確な基準はなく、その会社の就業規則等で正社員と定められた方が、その会社における正社員となります。

そのため、助成金申請上の「正社員」の定義も同じように考えられていました。

しかし、今回、その定義が変わり、キャリアアップ助成金を受給するための「正社員」には、①賞与(ボーナス)か退職金の制度②昇給の両方が適用されているという条件が加わりました。

雇用契約書や労働条件通知書には、これらの項目を記載することになっていますが、今までは、正社員で賞与も退職金も昇給もなかったとしても特に問題はありませんでした。

今後は、そのような方を正社員としている会社は助成金の受給が難しくなるため、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則等の再度の見直しが必要となります。

さらに、見直しの時期ですが、定義の変更は、2022年10月1日以降の正社員への転換に対して適用されるため、一見して、まだ余裕があるように見えます。

しかし、今回、同時に正社員転換前の「非正規雇用労働者」の定義も変更されています。

具体的には「賃金の額または計算方法が「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6ヶ月以上受けて雇用している」ことが求められています。

つまり、2022年10月1日に正社員転換をすることを考えると、その前段階で「非正規雇用労働者」であるためには、正社員と異なる雇用区分の就業規則等の適用を6ヶ月以上受けていないといけないことになります。

そのためには、6ヶ月前である2022年4月1日には、正社員と異なる雇用区分の就業規則等の適用がされている必要が出てきます。

すなわち、パート、アルバイト、契約社員等の賃金の額や計算方法が正社員と異なる雇用区分を明確にした上で、それらの雇用区分用の就業規則等を作成し、適用を始めないといけないことになります。

今後、正社員化コース、障害者正社員化コースの活用を考えられている場合は、早めに就業規則等の見直しをしていただくように注意する必要があります。

他方で、新設の「賞与・退職金制度導入コース」は、家族手当、住宅手当、健康診断制度については廃止されることになりましたが、残される賞与と退職金については、活用しやすくなりました

従来の諸手当制度等共通化コースは、非正規雇用労働者と正社員の制度を共通化させることが求められていました。

今後は、制度の共通化は必須ではなくなり、非正規雇用労働者に対する制度を新設することで条件を満たせるようになります

パート、アルバイト、契約社員等の非正規雇用労働者に、賞与を支給したり、退職金を支給する制度を設ければ良いということになります。

助成金の申請にあたっては、今回の変更点以外にも細かな条件がありますので、それらにも留意しつつ、助成金の条件を満たせる制度を社内に整備していく必要があります。

とは言いながらも、社内の制度を変えていくことは、今後の経営にも影響を及ぼすため、助成金のためだけに制度を変えることは本末転倒です。

助成金が出されるということは、その方向性を国が求めているとも言えます。

まずは、求められている制度の趣旨と内容をよく理解することが大切です。その上で、それが自社の進む方向性と合致し、取り入れられるようであれば、ぜひ積極的に活用をしていただければと思います。

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(監修: シリウス総合法務事務所 所長 寺内正樹
(編集: 創業手帳編集部)

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