「中小M&A推進計画」とは?今後5年間に実施すべき官民の取り組みについて
経産省発表の「中小M&A推進計画」について、わかりやすく解説します
2021年4月28日、中小企業庁は「第6回中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」を開催し、中小企業がM&Aを安全かつ円滑に実施できる環境を整えるため、官民が今後5年間に実施すべき取り組みを「中小M&A推進計画」として取りまとめました。
「中小M&A推進計画」では、中小企業が休廃業・解散する理由として以前から多かった「経営者の高齢化に伴う後継者不在」の対策に加え、新型コロナウイルス感染症の影響への対策も講じています。
今回は、この「中小M&A推進計画」について、要点をわかりやすく説明します。
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この記事の目次
「中小M&A推進計画」とは?
「中小M&A推進計画」とは、後継者不足や新型コロナウイルス感染症の影響による中小企業の休廃業を防ぐため、事業承継の手段の一つとして中小M&A(=中小企業を当事者とするM&A)を推進するために官民が2021~2025年度の間に行う取り組みをまとめたものです。
中小M&A推進の目的
これまで中小企業庁は、経営者の高齢化に伴う後継者不在への対応として、2017年7月に「事業承継5ヶ年計画」、2019年12月に「第三者承継支援総合パッケージ」を策定し、中小M&Aを推進してきました。
実際、中小M&Aの実施件数は年々増加しており、中小企業庁の資料によると、近年は年間3,000~4,000件ほど実施されていると推計されています。
しかし、潜在的な譲渡側の数は57.7万にも上ると試算されており、より円滑な事業承継を後押ししていくため、「中小M&A推進計画」がまとめられました。
なお、中小M&Aの意義としては、以下のことが明示されています。
- 中小M&Aの意義
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- 経営資源の散逸の回避
- 生産性向上等の実現
- リスクやコストを抑えた創業
これらのメリットがあることから、事業承継の手段の一つとして中小M&Aが推し進められているのです。
「中小M&A推進計画」の主なポイント
「中小M&A推進計画」においては、以下の3点を主な要素とし、各課題に対する対策を講じています。
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1. 小規模・超小規模M&Aの円滑化
2. 大規模・中規模M&Aの円滑化
3. 中小M&Aに関する基盤の構築
それぞれ課題と対策を説明していきます。
1.小規模・超小規模M&A円滑化への取り組み
小規模・超小規模M&Aは、現状の課題として以下のことが挙げられます。
小規模・超小規模M&Aの課題
・支援を必要としている譲渡側企業数が多く、47都道府県に設置されている「事業承継・引継ぎ支援センター」や民間のM&A支援機関がすべてに対応できていない
・M&Aにかけられるコストに限りがあるため、専門家を上手く活用できていないこともある
課題を解決するために
これらの課題を解決するため、「中小M&A推進計画」では次項以降の対策を講じました。
官民支援機関の連携を強化
支援を必要としている中小企業が多いため、マッチングが成立しない案件も多いのが現状です。そのため、事業承継・引継ぎ支援センターと民間のM&A支援機関の連携を強化し、支援体制を拡充する必要があります。
この課題に対応するべく、以下の取り組みが行われます。
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- 商工団体や金融機関などのM&A支援機関から事業承継・引継ぎ支援センターに引き継がれた案件については、引き継ぎ後も双方が連携して支援を行えるよう、2021年度中に進捗状況や情報共有のあり方が検討
- マッチング成約率向上のため、事業承継・引継ぎ支援センターのデータベースが2021 ~2024年度にかけて段階的に改修
- 事業承継・引継ぎ支援センターにおいては、支援のデジタル化や手続きの合理化を検討していきます。まず、2021年度の対策として、今までは面談が必須だった一次対応(窓口相談)が電話・Webでも可能
- 2021年度から段階的に事業承継・引継ぎ支援センターの職員の増員や人材育成が行われる
安心してM&Aを行える環境を構築
事業承継・引継ぎ支援センターでは、すでに中小企業が弁護士などの専門家のサポートを受けられる体制を構築していますが、M&Aに対応できる専門家の確保が十分ではない地域もあります。
また、会社の規模の小ささゆえ、M&Aにかけられるコストに限りがあり、専門家を活用できない企業もあります。
そのため、以下の取り組みが行われます。
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- 事業承継・引継ぎ支援センターでの専門家の活用支援
- 補助金による支援
まず、「事業承継・引継ぎ支援センターでの専門家の活用支援」については、外部専門家による税務面、法務面に関する相談対応や企業概要書の作成支援などを行います。
そして、「補助金による支援」については、2021年度に表明保証保険(※)の保険料の補助や、引継ぎ型の創業を促進するための「事業承継・引継ぎ補助金における新類型(創業支援型)」が創設されます。
保険料の補助や補助金を活用することで、M&Aにかけられる予算に限りのある中小企業でも負担を抑えながらリスクの低減を図ることができます。
※「表明保証保険」は、買収契約書への記載内容が正しいことを保証し、万が一、表明内容が事実と異なっていた場合には損害を補償する保険のことです。
2.大規模・中規模M&Aの円滑化への取り組み
大規模・中規模M&Aは規模が大きいため、M&Aを行う際のプロセスが複雑になります。そのため、民間のM&A支援機関や専門家の支援を適切に活用できる環境を整備する必要があります。また、M&A実施後の経営統合を推進するためのサポートも行っていく必要があります。
企業価値評価ツールを提供
規模の大きさゆえにM&Aを行う際のプロセスが複雑になるため、M&A支援機関や専門家のサポートが必須となります。しかし、どのM&A支援機関のどういった支援を受ければよいのか判断が難しいのが現状です。
この問題を解決すべく、以下の取り組みが行われます。
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- 簡易な企業価値評価ツールの提供
- 事業承継・引継ぎ補助金等による支援
「簡易な企業価値評価ツールの提供」としては、M&Aを実施するにあたり、中小企業が自社の企業価値を評価できるツールを提供します。
まず、必要な機能を見極めるため、2021年度から一部の事業承継・引継ぎ支援センターにおいて試行的な活用がなされます。そして、2023年度中までに本格的な活用が開始されます。
「事業承継・引継ぎ補助金等による支援」においては、デューディリジェンス(※)に必要な専門家の活用費用だけでなく、2021年度からはセカンドオピニオンとして、ほかのM&A支援機関から意見を求める際にかかる費用も補助対象となります。
※ 「デューディリジェンス」とは、M&Aなどを行う際に買収企業の経営状況や事業内容などから、問題点やリスク、財務・法務状況を調査、分析することです。
M&A実施後の支援制度の強化
M&A実施後の経営統合を支援する体制や機関が不足しているのが現状です。
そこで、以下の取り組みが行われます。
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- 各都道府県に設置されている「よろず支援拠点」における経営戦略策定の支援
- PMI(買収や合併の後に行われる経営統合のこと)に関する指針の策定
まず、国が全国に設置している中小企業・小規模事業者のための経営相談所「よろず支援拠点」において、コロナ禍に対応した経営戦略の策定や経営課題に対応していきます。そしてPMIも含め、M&Aの進行段階に応じた専門機関への橋渡しなど、官民支援機関の連携を強めていくことが明示されました。
また、2021年度中に中小M&AにおけるPMIの指針を策定し、2025 年度までにPMI支援サービスの提供を目指します。
3.中小M&Aに関する基盤構築のための取り組み
企業において、事業承継は早い段階から計画的に進めることが重要です。
しかし事業承継は、他の経営課題よりも後回しにされ、対応が遅れてしまうことが多い傾向にあります。また、中小M&Aの拡大に伴って支援機関も増加するなかで、中小企業が適切な支援を選択できず、トラブルが発生することも多くなっています。
そこで、次項以降の対策が講じられました。
「事業承継診断」から「企業健康診断」へ
現在も、事業承継ネットワークによって事業承継診断の取り組みが進められていますが、事業承継診断票や事業承継計画が簡素であることから、実際に支援に活用するには不十分であることが問題として挙げられています。
そこで、2021~2022年度中にナッジ(=行動経済学)の活用や企業価値評価ツールとの連携が検討されます。事業承継を意識したときだけでなく、常日頃から企業価値を把握できるよう「企業健康診断」の作成・試行が行われます。
その上で、2023年度以降は、全国の事業承継・引継ぎ支援センターや事業承継ネットワーク構成機関にて企業健康診断の提供を行っていきます。
M&A支援機関の登録制度を創設
中小M&Aの拡大に伴い、知見やノウハウが十分でないM&A支援機関の参入が懸念されています。また、M&Aに関する知識が乏しい企業にとっては、適切な支援を選択できないことが問題となっています。
この点においては、2020年3月に「中小M&Aガイドライン」が策定され、以下のことが明示・規定されています。
・手数料の目安を明示
・M&A業者における適切なM&Aのための行動指針を策定
・利益情報の開示など、利益相反のリスクの最小化を規定
・セカンドオピニオンの推奨を規定
そして今回の「中小M&A推進計画」において、新たに以下の取り組みが策定されました。
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- M&A 支援機関に係る登録制度等の創設
- M&A 仲介等に係る自主規制団体の設立
まず「M&A支援機関に係る登録制度等の創設」として、2021年度中に、中小M&Aガイドラインの遵守を要件としたM&A支援機関の登録制度が創設されます。そして、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)においては、登録済みのM&A支援機関を活用した場合のみ、費用の補助が行われます。
次に「M&A仲介等に係る自主規制団体の設立」については、中小企業の保護と中小M&A 仲介の公正・円滑な取引を目的として、中小M&A仲介業者を会員とする自主規制団体が2021年度中に設立されます。
そして、設立後は以下の活動を行うことにより、中小企業が安心して支援を受けられる環境を整えていきます。
・中小 M&A ガイドラインを含む適正な取引ルールの徹底
・中小 M&A ガイドラインの遵守の義務づけ
・M&A支援人材の育成のサポート
・仲介に係る苦情相談窓口の設置
まとめ
事業継承そしてM&Aを完遂するためには、専門的知識が必要不可欠です。
今回取りまとめられた「中小M&A推進計画」において、転廃業や事業継承を考えている中小企業が事業承継・引継ぎ支援センターに相談をした場合、相談から専門家の紹介までノンストップで支援を行っていくことが策定されました。
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