BCC 伊藤一彦|経営戦略を重視した会社運営で上場!IT営業アウトソーシング事業とヘルスケアビジネス事業で社会課題を解決
400社以上の審査や支援!BCC代表取締役社長と並行し中小企業診断士としても活躍する視点で語る会社運営の極意
中小企業やベンチャー、スタートアップが勝ち残るために重視すべきなのが経営戦略です。企業規模が小さい会社はリソースが少ないため、徹底して考え抜いた戦略に基づきながら戦術を定めて戦う必要があります。
ところが、戦略を考えることすらできていないという経営者が少なくありません。
こうした経営戦略に関する問題を注視し、警鐘を鳴らすのがBCCの代表取締役社長を務める伊藤さんです。創業から20年以上という長きにわたり、成長企業の舵取りを担ってきました。
同社はIT営業アウトソーシング事業とヘルスケアビジネス事業の2つを軸に、経営戦略を基に先を見据えたビジネス展開で成功を収めています。2021年7月に東証マザーズ(現グロース)に上場を果たし、現在も積極的に新たな事業に取り組むなどチャレンジを続ける企業です。2023年4月には経営戦略の課題解決を目的とした経営戦略を推進するクラウドサービス「bizcre(ビズクリ)」をローンチしました。
また同社代表と並行し、中小企業診断士としての活動や数々のビジネスコンテストで審査員を務めたり支援を行うなど、これまでに400社以上を見てきました。
今回は伊藤さんの起業までの経緯や、IT業界における営業の必然性と、業種を問わず経営者に必須とされる経営戦略の重要性について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
BCC株式会社 代表取締役社長
1998年 大阪市立大学卒業、日本電気株式会社(NEC)入社。IT営業の経験を経て、ベンチャー企業に転職。2002年 当社の前身となる営業創造株式会社を設立し、代表取締役に就任。2012年 スマイル・プラス株式会社をグループに迎え、ヘルスケア分野に参入。2016年 グループ全社を合併し、当社代表取締役社長に就任。2018年 大阪市立大学(現大阪公立大学)医学研究科 客員教授を歴任。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
IT業界が抱える問題に直面!課題解決を目的に営業を創造する会社設立を決断
大久保:まずはご経歴についてお聞かせ願えますか。
伊藤:大阪市立大学の出身なのですが、入学時に抱いていた将来の夢は教師でした。理学部に在籍し、理科の先生を目指していたんです。
その在学中に20代の経営者が率いるベンチャー企業のお手伝いをする機会があって、誰もが生き生きと働いている環境に触れたことで「こんな世界があったんだ!」と大きな刺激を受けたんですね。
そこで思い切って進路を変更し、「起業家を目指そう」と決意しました。
ただし当時はすぐに起業という選択は難しかったこともあり、まずは企業に属して経験を積むことにしたんです。これからの世の中で重要性が増す領域を熟考した結果、「IT業界だろう」と。
こうした経緯で1998年4月、NECに新卒入社してIT営業としてキャリアをスタートさせました。
大久保:明確な将来像を描きながら、その都度ご決断されたんですね。そこから現在のBCCに至るまでを時系列でお教えください。
伊藤:NECで3年間、IT営業の経験を得てベンチャー企業に転職しました。そこでマネジメントやベンチャーのノウハウを学んでから、2002年にBCCの前身となる営業創造を設立し、代表取締役に就任しました。
2016年9月にグループ全社を統合してBCCに商号変更しています。2021年7月には東証マザーズ(現グロース)に上場を果たしました。
大久保:「営業を創造する会社」というコンセプトがユニークですね。なぜ営業アウトソーシング事業を選んだのでしょうか?
伊藤:NEC時代の所属チームをはじめ、多くの部署の悩みが「営業人材の不足」だったからです。そしてこの問題はIT業界全体の共通課題で、私自身もIT営業として働きながら痛感していました。
IT業界ではエンジニアを戦略的に採用し、専門教育を施しながら育成しています。教育カリキュラムが豊富ですし、当時から民間のプログラミングスクールも充実していました。
一方、営業は採用人数が少ないことに加え、高度な専門知識やスキルが必要にもかかわらず「とにかく現場に行ってOJT」という状態だったんです。
「このままでは優秀な営業になれる人材をどんどん失ってしまう」と社会問題として危機意識を持つようになり、IT営業を育成する会社として事業運営を開始しました。
IT営業不要論にNO!2002年の起業時に法人営業の需要拡大を予測した先見性
大久保:伊藤さんが起業された時期のIT業界では「IT営業不要論」が飛び交っていました。そのなかでIT営業に特化した事業を起こされた伊藤さんの視点で、この不要論についての率直な見解をお聞かせください。
伊藤:確かに「これからの時代はインターネットが普及するからIT営業は必要ない」という論調がありましたが、私自身は「今後、情報通信ネットワークが登場するたびに法人営業の需要が拡大する」と考えていました。
私が起業した2002年は、ちょうど一般家庭向けのブロードバンドが出始めた時期です。インターネットが世の中に登場してから初めて「会社でインターネットを使うより、家で使ったほうが早い」という逆転現象が起こっていました。
家庭向けブロードバンドの市場展開で実感したのは「個人顧客は自分の判断でインターネットサービスを選んでいくが、法人は導入するにあたって必ず相談しながら進める」ということです。つまり確かな専門知識を持った人間が必要なんですね。
だから私は「IT営業が不要?違う、逆だ」と。新たな情報通信技術が広まれば広まるほど、どこの企業でも自社で判断して導入することが難しいからこそ、今よりもっとIT営業が求められる時代が来ると予測しました。
さらに「急速に法人向けサービスが広がっていく」と分析し、法人向け光ファイバーの代理店として出発したんです。そこで準備を整え、2005年4月から本格的にIT営業アウトソーシング事業を始めました。
大久保:顧客にとって、自社の課題やニーズを深く理解しながら適切なサービスを提案してくれる営業が欠かせないということですね。
伊藤:はい。あれから時代ごとにクラウドコンピューティングなど新しい情報通信ネットワークが登場し発展してきましたが、弊社の需要は拡大する一方です。
もちろんIT業界にとってエンジニアは大事ですが、顧客の観点から捉えると「エンジニアに直接会う必要はなく、むしろ自社に合ったサービスを相談しながら選ぶためのコンシェルジュとして営業の存在が重要」なんですね。
会社設立から20年以上経過しましたが、ますますこの流れが加速していると感じています。
大久保:御社では8割以上の未経験者を大手IT企業に派遣できるレベルのIT営業として育成されていると伺っています。人材育成のコツについてお聞かせください。
伊藤:弊社独自の教育プログラム「BCC-LaPTプログラム」のポイントは、大きく分けて2つです。
まず1つ目は、一人ひとりの属性に合わせて足りない知識やビジネスマナーなどをきちんと把握し、それぞれに最適なカリキュラムを組んでいること。
そして2つ目は、創業時から運営している代理店事業に携わらせ、実際に法人向けインターネットサービスを売れるようになった段階で顧客企業に派遣していることです。
単に座学で学ばせるだけではなく、営業現場で経験を積んで「営業マインド」「営業スキル」「IT知識」を習得させるなど、IT営業としての実践力を擁する人材の育成を重視しているんですね。
現在、大手IT企業約30社でおよそ130名が稼働していますが、おかげさまで継続して高評価をいただくほど順調に活躍できているのは教育プログラムを確立させた結果だと自負しています。
IT営業アウトソーシングとヘルスケアビジネスの2つを事業の柱に据えビジネス展開
大久保:御社の事業概要についてお教えください。
伊藤:弊社では「創造・誠実・躍進」を企業理念に掲げ、IT営業アウトソーシングとヘルスケアビジネスの2つを事業の柱に据えてビジネスを展開しています。
IT営業アウトソーシング事業は「営業アウトソーシング事業」と「ソリューション事業」で構成されていることが特長です。
先ほどお話しした「営業アウトソーシング事業」では、大手IT企業の営業部門を強化または補完するため、営業人材を中心とした営業支援サービスを提供しています。「ソリューション事業」は、創業時から継続している代理店事業です。中小企業のIT化推進を目的に新規開拓営業を行っています。
一方、ヘルスケアビジネス事業は「介護レクリエーション事業」と「ヘルスケア支援事業」で構成されています。
「介護レクリエーション事業」では介護レクリエーションの普及と介護関係者とのネットワークを構築。「ヘルスケア支援事業」はこのネットワークを用いて、ヘルスケア・リビングラボの取組みを基にしたヘルスケア関連施設の運営およびヘルスケア分野で新規参入・事業拡大を目指す企業へ市場調査やプロモーション支援などを提供しています。
大久保:ヘルスケアDXの実現も目指していらっしゃるので、今後は2つの事業のシナジーも期待できそうですね。先日ローンチされた新サービスについてもお聞かせください。
伊藤:2023年4月に正式版を公開した「bizcre(ビズクリ)」は、「経営者のガイドランナーとして経営戦略を推進する伴走支援」をコンセプトに開発した経営戦略を推進するクラウドサービスです。
「bizcre」の中心となる「ビズクリクラウド」の大きな特徴は「Q&A型戦略策定」「ビジネスフレームワークサポート」「目標設定の最適化」の3つで、独自の戦略策定プロセスだけでなく、あらゆるビジネスに対応した戦略フレームワークを搭載しています。
また、経営戦略をより深く学ぶことができるWebメディア「ビズクリナレッジ」、企業経営の専門家の支援を受けることができる「ビズクリサポーター」といったサービスもご提供しています。
経営者のガイドランナーとして経営戦略を推進する伴走支援を実現したソリューションです。
経営戦略の課題を解決!経営戦略を推進するクラウドサービス「bizcre」を開発した理由
大久保:「bizcre」の開発を決めた背景についてお聞かせください。
伊藤:経営戦略の策定および実行が苦手な経営者が多く、「企業の長期的かつ持続的な繁栄や経営目標の達成をサポートする必要がある」と課題意識を持ったことがきっかけです。
私は弊社の運営と並行し、中小企業診断士としてあらゆるベンチャー企業の相談を受けたり支援を行ってきました。同時に、大阪で開催される数々のビジネスコンテストで審査員を務めたり支援を行うなど、これまでに約400社を見てきています。
そこで常々痛感していたのは、ビジネスモデルの実行過程を疎かにしがちな企業が多いということです。
非常に興味深いビジネスモデルで、プレゼンテーションもものすごくうまい。ところが、きちんと経営戦略を立てて実行していく部分を軽視してしまっているんですね。「ちゃんとやればもっと成長するのに」と惜しく感じていました。
大久保:ビジネスモデルの作成とアピールにばかり力を注ぎ込んでいるんですね。
伊藤:はい、弊社と真逆なんですよ。
弊社のビジネスモデルはそれほど面白いといえるものではありませんが、先を見据えた綿密な経営戦略を策定し実行を続けてきましたので、こうして成功して上場を果たすことができました。もちろんKPI作成も行い、PDCAサイクルを回しながら管理しています。
この方針は資金調達のときにも必ずプラスになるのですが、こういう基本的なことを苦手とする経営者が意外なほど多いんです。そのせいで大きなチャンスまで逃してしまっているんですね。
だからこそ「オンラインで経営戦略の学習・作成・サポートまでトータルで提供するプロダクトが必要だ」と。
こうした経緯で「bizcre」を開発し、β版を経て正式公開しました。ぜひスタートアップをはじめ多くの方々にご利用いただきたいです。
大久保:営業活動もそうですが、実行の徹底が重要ですよね。
伊藤:おっしゃる通りです。それからベンチャーは環境変化が激しいので、できれば3ヶ月ごと、少なくとも1年に1回は経営環境を見直し、適宜戦略の追加・修正していくことをおすすめしています。
強み・弱みを含めて総合的にSWOT分析などを行い、「こういう戦略でやっていこう」と周知徹底しながら運営していくと会社は大きく変わっていきますよ。
さらなる発展を目指す!今後も各業界の課題解決と活性化に貢献しながら成長
大久保:業界の動向を含めた今後の展望についてお聞かせください。
伊藤:まずIT業界についてですが、今後ますますクラウドやSaaSを活用したサービスが増えていくと予測しています。そのため、さらにIT営業が重視されるのは間違いありません。
顧客にとって必要なものをきちんと理解して提案する力がある人材は、専門知識やコミュニケーション能力などあらゆる要素が必要です。弊社では今以上に高いスキルと人間力を兼ね備えた人材の育成を確立させ、IT業界の活性化に貢献したいと考えています。
大久保:会社設立時に描いた未来を現実のものとして実現されていることが素晴らしいですね。続いて、ヘルスケアビジネス事業と新サービスの「bizcre」についてもお願いします。
伊藤:ヘルスケア領域に関しては慢性的な人材不足という大きな問題を抱えていますので、従来以上の生産性向上が求められています。
この問題を解決する手段のひとつが、介護ロボットをはじめとする高度技術の導入です。テクノロジーの力で高齢者を支える業界へと進化し、ITとヘルスケアがつながっていきます。
現在、弊社でも営業アウトソーシング事業とヘルスケアビジネス事業を横断する案件が増えていますが、さらなるシナジーを生み出しながら事業推進を行っていきたいです。
最後にローンチしたばかりの「bizcre」についてですが、これからの時代は経営戦略を策定および実行できる経営者が成功するため、サービス拡大を見込んでいます。
なぜならビジネスモデルの飽和により差別化が難しく、戦略で他社との違いや個性を打ち出しながら会社運営を行う必要があるからです。だからこそ、経営者は経営に関する学習が大事になってくると考えています。
起業家が意識したい、企業経営についてきちんと学んで会社を存続させる重要性
大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。
伊藤:「企業経営についてきちんと学んだほうが会社を存続させることができる」ということをお伝えしたいです。
法務・財務・組織論など、経営するうえで必要となる知識を身につけている方はやはり強いんですね。上場企業で比較してみても、経営者が学んでから上場された会社のほうが長い目で見て成長しています。
勉強方法は、私のように中小企業診断士やMBAでもいいですし、先人が執筆された書籍を熟読するのでも構いません。独立してからでも間に合いますので、ご自身に合ったやり方で経営全般を学んでいただきたいです。
結果として資金調達時にも役に立ちますし、組織の成長や新規事業の成功にもつなげることができます。ぜひ「学び」を重視していただけたらうれしいです。
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(取材協力:
BCC株式会社 代表取締役社長 伊藤 一彦)
(編集: 創業手帳編集部)