ArtBiz 大河内薫|「お金の教育」の重要性を説く!芸術学部出身の税理士が挑む日本におけるお金の教育の変革
異色のキャリアが強みに!芸術学部出身の税理士が語る「お金に関する知識」を学ぶべき理由
原油をはじめとする資源価格の高騰の影響を受け、ガソリンや電気代など幅広い品目で価格が上昇。貿易における稼ぎやすさを表す交易条件も悪化が続いており、エネルギー自給率が低く、資源の大部分を海外からの輸入に頼る日本の経済情勢が注視されています。
こうした背景を踏まえ、日本人のお金に対する意識の変化を促し、日本社会の改革を提唱しているのがArtBizの代表取締役社長を務める大河内さんです。「芸術学部出身の税理士」という異色のキャリアを持ち、SNSやオンラインサロンで情報発信を行いながら「お金の教育」を変えるための活動に取り組んでいます。
今回は大河内さんの起業までの経緯や、「お金に関する知識」を学ぶ理由と重要性について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
株式会社ArtBiz 代表取締役社長
税理士。㈱ArtBiz代表。㈱あるやうむ・ふるさと納税NFTアンバサダー。SNS総フォロワー50万人超。日本にはお金の教育がないことに違和感を覚えて、YouTubeや音声メディアVoicyを使ってお金の基礎知識を発信。また、日本全国および海外の日本人学校で、無償にて”お金の授業”を展開。著書である、老若男女が笑ってお金について学べるギャグ漫画「貯金すらまともにできていませんが この先ずっとお金に困らない方法を教えてください!」は、発売1年で10万部突破。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
「国家資格を取る」と決め、芸術学部から税理士を目指した稀有なキャリア
大久保:まずはご経歴についてお聞かせ願えますか。
大河内:日本大学芸術学部演劇学科を卒業し、会計事務所などを渡り歩きながら税理士の資格取得を目指して猛勉強の末、2011年に税理士試験合格、2013年に税理士登録しました。
それからコンサルティング会社や税理士法人に勤務してキャリアを積んでいます。2016年8月に株式会社ArtBiz創業。その後、2017年2月に税理士として独立開業し、ArtBiz税理士事務所を設立しました。
大久保:税理士で芸術学部出身というのは非常にめずらしいですね。演劇学科を卒業して税理士を目指した理由についてお聞かせください。
大河内:もともと芸能人になりたくて名古屋から上京してきたのですが、私にはその道に進むのは難しいなと諦めたんです。ただ、夢を追いかけて出てきたのに、うまくいかなかったからといって尻尾を巻いて帰るのは嫌だったんですね。
それで「とにかく自立して稼げるようになろう」と考えました。そのための方法を模索するなかで「国家資格を取ろう」と。
次に、弁護士・会計士・司法書士・税理士の4つを並べて「働きながら取得できる資格」を条件に検討した結果、税理士を選びました。
当時の私は士業についてなにも知りませんでしたが、だからこそ「人の3倍勉強しよう」と決意したんです。量でカバーしながら合格することができました。
大久保:社名に「Art」が入っているのも、そのご経歴が関係しているんですね。
大河内:「Art」を入れたのは意地ですね(笑)。「ずっとアート系には関わっていきたい」という想いから名付けたんです。
設立時のコンセプトが「クリエイターを支える税理士事務所」で、芸能・芸術系クライアントに特化した事務所として展開してきました。
日本社会を良くしたい。SNSで「お金に関する知識」を無料提供する活動で成功
大久保:税理士業界はその歴史の長さゆえに、革新性が受け入れられにくいのではないか?という印象があります。SNSやオンラインサロンでの情報発信を中心とした活動に取り組んでいる大河内さんから見た税理士業界についてお聞かせください。
大河内:私も税理士として独立後、「古い業界だな」と感じました。ただ「業界を変えよう」というような想いは一切ないんです。
私にとって税理士は、社会と関わるうえでの手段なんですね。交通機関や徒歩で移動する手段と同じ。もちろんSNSなどを活用した積極的な発信も同様です。
日本社会を良くするための手段として税理士の仕事を選び、税理士の社会貢献のひとつとしてお金に関する情報発信の手段にSNSを使う。ただそれだけのことです。
活動開始当初は税理士でSNSを活用する人がほとんどいなかったのですが、税理士の名を汚すことさえしなければ業界内で咎められることはありませんでした。税理士は平均年齢が高くてご高齢な先生も多い。私のことなど、知らない・まったく気にならない諸先輩方なんだろうなあと。思った以上に寛容な業界ですね。
大久保:結果的に広く発信する活動が多くに支持され、インフルエンサーとして有名になったんですね。フォロワーを増やすコツがあればお教えください。
大河内:特に戦略を用意したわけではないのですが、あえてコツといえば「ひたすらコツコツ、毎日発信を行う」「広く世間に情報提供する」「お金に関する専門知識を無料で届ける」という3つの理念で続けたことでしょうか。
まず1つ目の「毎日発信」ですが、当初は「税理士事務所の規模を拡大しよう」と考えていましたので、その目的のために必ず1日1回何かしらの形でネット上で発信を行っていました。
この継続が功を奏して、開始からおよそ5ヶ月経過した頃にTwitterがバズったんです。フォロワーが一気に1万人くらいになりました。
2つ目の「広く情報提供」については、最初から「大衆に向けて発信しよう」という意識でTwitterをスタートしたんです。そのおかげで書籍出版に繋がり、ベストセラーになったんですね。それからYouTube、Voicy、オンラインサロン、Instagram、TikTokという感じで広げていきました。
「専門分野に関する知識がない一般層にわかりやすく伝える」という姿勢は、発信を続けるうえで重要ですね。
大久保:継続性とわかりやすさは、業界を問わず大切なことですよね。続いて、3つ目の「お金に関する専門知識を無料で届ける」についてもお教えください。
大河内:一般的に税理士は税務・会計の専門家として、主に確定申告の代理や税金に関する知識やノウハウを伝授する立場です。それを「無料でお届けしよう」と決めて続けたことも、認知度向上に成功したポイントです。
お金に関する知識は誰もが学んでおかないといけないのですが、日本の教育上、きちんと勉強する機会がないために知らない方が多いんですね。
そこで小難しく解説するのではなく、多くの人が身につけておきたい基本をわかりやすく配信し続けたんです。その結果として、需要と供給がマッチして「お金の知識をわかりやすく=大河内薫」というポジション取りに成功しました。
日本がこれまで疎かにしてきた、日本人がお金に強くなるための取り組みに尽力
大久保:これまで積極的にSNSなどで発信し、日本における「お金の教育」の変革に携わってきた大河内さんにとって、現在使命感を持っていることについてお聞かせください。
大河内:最もやらなくてはならないのは、日本社会がお金に強くなる取り組みをすることです。日本ではこれまで疎かにしてきた分野なんですね。
ただ、なんとなく社会全体が気づき始めているなと。お金の基本から応用まで学べる書籍が売れ、書店の専門コーナーが拡大し、ビジネス系YouTuberが流行りだすなど、明らかに風向きが変わってきたんです。
「もっとお金のことを知ろう」という雰囲気が出てきましたので、そこから一歩先の教育を拡充させたり、お金について話す・学べる社会構造モデルを構築するチャンスが到来したと感じています。
私としてはこの機運と税理士という立場を活かしながら、日本社会を良くする活動をしていきたいです。
大久保:現在の日本では収入がなかなか上がらない一方で、税の負担率が増えているため手取りが減少の傾向にあります。この状況下で、日本人が今やるべきことについてもお教えください。
大河内:やはりお金の本質を学ぶことではないでしょうか。お金を増やしたり稼ぐための手段は給料だけではないからです。
まずは「自分の予算を増やし、使えるお金の量を増やす」「使うべきときに適切に使う」の2つを心がけてみてください。
予算を増やす手段として副業を検討すると同時に、お金の使い方には投資も含まれますので資産運用を考えてみるとよいでしょう。
通常は「お金を使う」と物品を得たりサービスを受けられますよね。ギャンブルならゼロになってしまう可能性もある。一方、投資に使えばお金を増やすことができます。
特にアメリカの株を中心に、コツコツと積立投資するのがおすすめです。時間をかければ増えていきますからね。貯金と併用する選択肢として活用してみてください。
大久保:いずれも非常に大切なポイントだと実感しました。大河内さんは日本人が自然とこうした視点を持ち、「お金に強い社会」になるためにご尽力されてらっしゃるんですね。
大河内:はい。お金の扱い方をきちんと知ったうえで、その選択肢を増やすこと。そのためにも、まずはお金について学ぶこと。それから、お金についてみんなで話し合うこと。
日本人がお金に強くなり成長できるように、これらを当たり前のように行える社会を構築していきたいですね。
まずは起業家に重視してほしい「製品の値上げを躊躇しない」理由と重要性
大久保:起業家が現在の日本で会社運営を行うにあたって、重視すべき点についてお教えください。
大河内:いくつかあるのですが、一番お伝えしたいのは「製品の値上げを躊躇しない」ということです。
日本では政治家から経営者まで、値上げに対して後ろ向きな方がものすごく多いんですね。そして「なぜ値上げをしてはいけないのか?」について深く考えようとしません。
日本社会全体で、値上げができないマインドに陥ってしまっている。これは非常に厳しいです。日本だけで完結するならそれでもいいですが、輸出入を頻繁に活用する日本の貿易構造を考えると自ら首を絞めているだけなんですね。
たとえばコロナ禍やウクライナ危機の影響による原油価格の高騰に伴い、原価も高くなる一方です。にも関わらず値上げができないなら、日本経済はますます悪化します。この「値上げは悪である」という日本特有の風潮はウィークポイントでしかありません。
そうではなくて、しっかりと値上げをして、世間がついてくるようにする。その結果、売上が上がり給料が増えるわけです。まず日本のボトルネックになっている問題について、起業家の方々には立ち向かっていただきたいですね。
大久保:確かに日本人は「値下げが善で、値上げは悪である」という、世界の潮流から大きく外れた道徳観が身についてしまっていますね。
大河内:値上げをすると文句を言い出す国民性なんですよね(苦笑)。
大久保:値段を上げるのは決して悪ではなく、それだけ価値を創造しているわけですよね。
大河内:はい。だからこそ「適切な価値」を理解して、「適切な値段」をつけることが大事なんです。
そして極論を言ってしまうと、価値はさておき値上げをする勇気を持っていただきたいですね。なぜなら原価が上がっているので、値上げをしても企業の利益幅は変わらないからです。値上げに踏み切らないと、売れば売るほど赤字になってしまいます。
この観点を失念している日本人が多い。その理由は、あらゆる面で思考力が足りなかったり、もっと言うとこうした仕組みについて学んでこなかったためにわからないという日本の教育事情が絡んでいます。だから安易に「値上げは悪である」という固定観念に縛られて批判に走ってしまい、企業も厳しい状況に追い込まれてしまうんです。
ぜひ起業家の方々には、「適切な価値」に対して「適切な値段」を付ける意識徹底をしていただきたいですね。まずはこの負の連鎖を断ち切ることが大切です。
大久保:値上げを前提にビジネスモデルを組む必要があるわけですね。
大河内:はい。自社製品の中で1つ、2つは利益が出ないものがあってもいいですが、全体で黒字にするためには自信を持って値上げに踏み切る姿勢を持っていただきたいです。
大久保:世の中全体で足並みを揃えて値上げに成功すれば、多少のインフレにはなりますが、それ以上に景気が良くなりますよね。値上げ時の価格設定のコツなどがあればお聞かせください。
大河内:「原価が上がった分だけ上乗せするのではなく、原価以上に値上げする」ということです。もちろん価値を上乗せする努力も忘れずに。
原材料の高騰分だけ製品価格を上げても、企業の利益が変わらないので必然的に給料も変わりません。これでは景気対策にもならないんですね。
値上げを頻繁に行うのは難しいですから、原価が上がったことを値上げのチャンスと捉えていただきたいです。なにもないときのほうが値上げはしづらいですから、さらに考えて価格設定したほうがいいですね。ぜひピンチをチャンスに変えてください。
起業家に伝えたい、お金の知識と仕組みを理解して経営に取り入れる姿勢
大久保:最後に、起業家に向けてのメッセージをいただけますか。
大河内:繰り返しになりますが、ぜひお金のことをもっと学んでいただきたいです。財務はもちろんですが、収入や税金など、基礎はすべて勉強しておくことをおすすめします。
お金の知識をしっかりと身につけておけば「原価が上がったら値上げをする」という当たり前の結論にも至るのではないかなと。「なぜ原価が上がり利益が圧迫されているのに、値上げをしないんだろう?」との疑問も抱けるようになります。
日本は経営層や決定権者でもお金の知識が足りないため、お金に関する意思決定ができない傾向があり、これが景気悪化を招いている原因のひとつなんです。と同時に、日本経済の現状を理解するために消費者側も学ぶ必要があります。
経営者だからといってお金に強いというわけではありませんので、まずは学んで、知って、きちんと考えられる起業家を目指す。お金の仕組みを理解したうえで、賢く経営に取り入れていただきたいですね。
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(取材協力:
株式会社ArtBiz 代表取締役社長 大河内 薫)
(編集: 創業手帳編集部)