民間企業が「AI小説執筆」に挑む Books&Company代表が見据える出版業界のこれから
Books&Company 代表取締役社長 野村衛インタビュー
(2018/12/25更新)
あらゆる業界で、AI技術を取り入れたサービス・プロダクトの開発が進んでいます。Books&Companyは、出版業界でAIの活用に取り組んでいるベンチャー企業で、電子書籍の出版と、カンボジアのキリロム工科大学と提携して進めているAIによる小説執筆事業の2本柱をサービスに掲げています。
2016年に公立はこだて未来大学や名古屋大学を中心とした合同チームが開発したAIが書いた小説が、理系文学賞の「星新一賞」の1次審査を通過し話題を集めました。出版でのAI活用はまだまだ研究段階の領域が多い中、Books&Companyが民間企業としていち早く特にAI小説の事業化に取り組むようになったのはなぜでしょうか。代表取締役社長の野村衛氏に創業ストーリーを聞きました。
東京都出身 都立小石川高校卒 慶応義塾大学経済学部卒。1989年集英社入社。女性誌でアート・カルチャー・人物・トラベルを担当したのち、書籍編集を経験。ECサイトの立ち上げやウェブ事業、版権事業にも携わる。2017年株式会社Books&Companyを設立。日本ペンクラブ・日本出版学会会員。地元市川市では民間図書館の運営やブックフェアの開催も行う。
“7秒で25行” AI執筆のワクワク感
野村:当社は、出版社向けの電子書籍ソリューションを提供するサービスを祖業として2017年9月に創業しました。同時に先端技術とコンテンツとの融合で、新しい価値創造ができないかと模索しているうちに、AIによる小説執筆事業へとつながっていきました。
野村:28年間出版業界に身を置いていましたが、好調だったのは最初の8年間だけで、あとの20年間は常に右肩下がりの状態でした。出版不況なのに新しい打ち手を講じることができない状況を打破したいと思い、起業しました。紙のまま埋もれてしまっているコンテンツの電子化を進めることで、良質なコンテンツを半永久的に残すことを事業として始めようと思ったわけです。
野村:紙からデジタルへのシフトに完全に失敗しているのが出版業界です。デジタルによって何が変わるのかを考えるとともに事業や顧客の再定義が必要です。その中で、AIはコンテンツ制作のムダを圧倒的に省き、投資対効果を劇的に向上できると考えています。具体的には、AIによって解析された良質なコンテンツを大量に作り、流通の前に厳しいチェックをすれば、粗製乱造を防ぎ、結果的には、「売れるコンテンツ」だけを流通(配信)していけると思っています。
野村:電子出版のBPO(業務を専門業者に委託すること)の提携先を探しに展示会に行ったのがきっかけです。そこでキリロム工科大学に勤めている知人と再会し、話が徐々に進んでいきました。やはり人脈というか、ご縁というか、人間関係からビジネスが生まれていくことを実感しています。
野村:家族の説得です。拙速に物事をすすめず、理解が得られるまで、十分に時間をかけてから起業しました。残された人生の時間でやっておきたいことを考えたら、起業という答えになりました。何度も話合っていくうちに、最後は、何を言ってもムダと思ってくれたようです。
野村:民間ではだれも着手していない分野なので、進展がある度にワクワクしています。すでにAIは文章生成を始め、わずか7秒で25行の文章(小説)を書き始めました。人間にはとても真似できないスピードです。こういう場面に立ち会えることが幸福です。
カスタマー・サクセスを常に考えながら事業を進める
野村:カスタマー・サクセスを常に考えて行動しているつもりです。我々自身には大したお金はありません。お金は社の外から、当社へめぐってきます。だから、当社にお金をお支払いいただけるよう、サービス設計しなければなりません。そのためにはお客様が何を喜ぶのかを考えて行動する必要があるのです。
野村:AI事業が軌道に乗れば、コンテンツ制作は劇的に変化し、また進化します。AIがどんな物語を紡ぐのか、それに刺激された人間はどんな物語にチャレンジしていくのか、今から楽しみです。
野村:起業も経営もわからないことだらけです。一緒に困難を乗り越えて、新しい社会、未来、時代を作っていきましょう。
(取材協力:Books&Company/野村衛)
(編集:創業手帳編集部)