人事考課制度を上手につくる8つのポイント(3) -評価結果をどう反映するか?
人事考課の結果をうまく反映できる昇格・昇給制度、降格・降給制度をつくる
人事考課制度を上手につくる8つのポイント
【第1回】人事考課制度を上手につくる8つのポイント(1)-何を評価すればよいのか?
【第2回】人事考課制度を上手につくる8つのポイント(2)-どのように評価すればよいのか?
2回にわたってお伝えしてきた「人事考課制度を上手につくる8つのポイント」。前回までは人事考課制度のつくり方とその運用についてみてきたが、評価される側である従業員にとって最大の関心は「人事考課の結果が賃金や役職にどう反映されたか」だろう。
そこで最終回となる今回は、人事評価結果を適切に賃金や賞与の増減、あるいは配置転換等に反映させる効果的な昇格・昇給と降格・降給制度のつくり方について説明しよう。
この記事の目次
人事考課結果を「⑤賃金」「⑥賞与」「⑦配置転換」に反映する制度づくり
社内キャリアアップの流れ図を作成する
人事評価結果を「⑤賃金」や「⑥賞与」の増減、あるいは「⑦配置転換」として反映させるまえに、社内キャリアップの全体像をデザインしなければならない。
まず、キャリアアップの流れを示し、社員にキャリア構築のイメージを持ってもらうことにより、スムーズなコース管理がわかりやすく管理できるようになる。そこで参考にしてほしいのが下の図だ。
上図のキャリアアップの流れ図では、大学卒は、総合職の2等級からスタートし、キャリアアップを積んでいく。たとえ高卒でも、途中から総合職に移行し、キャリア構築ができるコース設定とされている。
また、降格に関しては、例えば等級として4等級から3等級に下がることや、家庭の事情で転勤ができずに勤務地が限定されることにより、総合職から専門職へと変更になる場合なども考慮した流れ図が大切である。
職務等級をつくり昇格基準と降格基準を設定する
昇格制度では、職務と等級の関係を示す「職務等級」、その等級ごとに必要な能力を定義づけ、また、昇格に必要な基準を定義づけした「昇格基準」を設定する。
しかし、一度昇格・昇給したらそこからは下がらないという既得権のある決まりでは、万一体制の見直しが行われた場合、総人件費は上がる一方になる。それを避けるために、降格基準の設定も行なっておこう。
賃金表の作成、賃金テーブルへの移行
各等級に応じた賃金や賞与を定めた賃金テーブルや賃金表を作成する。
すでに賃金テーブルや賃金表が整備されている場合は、新しい評価制度の等級と整合性がとれているか確認する。とれていなければ、新たな賃金テーブルや賃金表を作成し、期間を決めて新しい賃金体系へ移行しなければならない。
降給・降格には特に要注意!
昇格制度の見直しについては、就業規則の評価、昇格、昇給、賃金などの該当する規則の改定を行う。
降格制度については、就業規則に制度としてあらかじめ該当する規定が存在し、評価制度の範囲内であれば、ほぼ問題なく実施できる。しかし、これらに該当する規定がない場合は、人事権の濫用とみなされ、認められないケースが出てくる場合があるので注意が必要である。
以下に、代表的な降格の代表されるパターンを挙げるので、これを参考に降格基準の設定や就業規則等の該当する規定の整備をおこなおう。
懲戒処分として降格する
懲戒処分として降格が行われる場合は、就業規則に規定する懲戒処分としての要件を満たすことが必要となる。要件としては次の3つだ。
- 降格処分の根拠となる就業規則の規定があり、かつ規定の内容に合理性がある。
- 懲戒すべき事実が就業規則の規定に該当する。
- 懲戒権の濫用ではないこと。
つまり、経営者としては、懲戒処分のルールが就業規則で明文化されている必要があり、処分をおこなうときはルールに沿って適切に処分をおこなわなければいけない。
基準に達しない社員等を人事上の措置として降格する
「面接ではできるヤツに見えたんだけど・・・」
高度な職務遂行能力を期待され高い処遇で入社した社員が、入社してみると全く期待した基準に達していないことが判明し、試用期間中に降格させる等の場合だ。このケースは懲戒処分には当たらず、人事権の行使として降格をおこなうことになる。賃金の減額が伴う降格なので、就業規則にその根拠規定を設けておくことが無難だ。
配置転換により降格する
単なる配置転換に伴い賃金の引き下げを行なうことは、労働者の同意や就業規則上の定めがない限り無効となる。就業規則を整備しておこう。
職能等級を活用した人事制度(職能資格制度)にしたがって降任・降格する
職能資格制度を活用して降給する場合、職能等級のしっかりとした定義づけと運用がなされており、就業規則が整備され、周知が行き届いている限りは、その職能評価によって給与の上げ下げが可能となる。ただし、降格をすることは、労働契約の変更となるので、労働者の同意及び就業規則に根拠となる規定があることが必要となる。
例えば、「以下の者を降格又は降任の候補者とする」というような規定をつくっておくなどである。
- 2人連続でE評価
- 評価に対し、改善の努力・意志が認められない者
- 評価委員会により決定された者
流れとしては、まず当該候補者の上司が決定に対し評価委員会へ意見書を提出する。提出された意見書の内容を考慮し、評価委員会で降格を決定する。
本人の申出による降格
家庭の事情や本人の能力不足によって、社員自ら降任を申出てくる場合は降格が可能だ。しかし、念のため労働契約の個別契約を結び本人の同意を書面でとっておいた方が無難だろう。
効果的な昇格・昇給と降格・降給制度の運用
社員への説明・周知
新しい制度を設ける場合は就業規則の変更にあたるため、制度の趣旨、内容を書面にまとめ、「後で見ておいてください」ではなく、可能な限り時間をとって社員への説明会を実施すべきである。
どんな素晴らしい制度でも事前の十分な説明がないと社員にうまく伝わらず、運用がうまくいかなくなる可能性がある。
運用開始
昇格・昇給、降給・降格の各制度は、スタートしてからの運用が大事だ。評価基準の公平性の意思統一、降格制度の周知、基準にあった賃金への移行期間など時間をかけておこなうこともあり、必要に応じて方向修正ができるよう、見直し期間を設定し運用していくことが大切だ。
「⑧教育訓練」制度を構築する
以上をふまえたうえで、「教育訓練」制度を構築する。
経営側としては従業員ひとりひとりの生産性向上、ひいては企業としての収益性アップが主目的ではあるが、もちろんそれだけでは肝心の従業員自身のモチベーションが上がらない。全ての従業員がそれぞれの個性や適性を発揮しつつキャリアアップを図れるような教育制度を構築しなければならないが、そのためにはしっかりとした人事考課制度があることが前提となる。
この教育を受ければどのようなコースに進めるのか、また希望するコースに進むためにはどの教育を受けなければならないのかといった点を明確にしておくことで、従業員のモチベーションアップにもつなげることができる。
優れた教育制度の構築は、しっかりとした人事考課制度があってはじめて可能になる。
まとめ
第1回の冒頭にお伝えしたとおり、人事考課制度の目的は多岐にわたっている。的確な人事考課制度は、モチベーションアップや業務の効率化、さらには収益性アップにつなげることさえ可能になる。
あらためて重要な点をまとめると、
- 評価制度の目的は、単に賃金や賞与を決定するためのものではない。
- 会社の方針や理念を社員に伝え、社員のモチベーションの維持向上を図り、社員自ら会社の発展に寄与する体制をつくる。
- 定期的にチェック・修正をしながら運用していく。
といったところだろう。人事考課制度の整備がもたらす多大なメリットをふまえ、それぞれの企業に合った人事考課制度を構築していこう。
(監修:社会保険労務士事務所ALLROUND東京北 北條利男 社労士)
(編集:創業手帳編集部)