GLOBIS CAPITAL PARTNERS 仮屋薗 聡一|「金額が大きければ良いわけじゃない!」グロービスパートナーに聞く、ベンチャーキャピタル出資のポイント
【インタビュー前編】急成長している時こそ資金繰りに注意!
(2017/01/12更新)
GREEやユーザベースなどに投資したグロービスの仮屋薗氏に、出資か融資かを決める際の判断基準、資金調達のタイミング等についてお伺いしました。
GLOBIS CAPITAL PARTNERS マネージング・パートナー。株式会社三和総合研究所での経営戦略コンサルティングを経て、1996年、株式会社グロービスのベンチャーキャピタル事業設立に参画。1号ファンド、ファンドマネジャーを経て、1999年エイパックス・グロービス・パートナーズ設立よりパートナー就任、現在に至る。
2015年7月より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会会長を務める。
慶應義塾大学法学部卒、米国ピッツバーグ大学MBA修了。
著書に、「機関投資家のためのプライベート・エクイティ」(きんざい)、「ケースで学ぶ起業戦略」(日経BP社)、「MBAビジネスプラン」(ダイヤモンド社)、「ベンチャーキャピタリストが語る起業家への提言」(税務研究会)がある。
1.融資は「安定性」、出資は「成長性」が期待されている
融資は安定性が一番の評価チェック基盤
仮屋薗:融資は、元本・金利を一定の期間において返済することが義務となりますので、金融機関が見るのは事業の安全性です。
それから、一定期間ごとの元本回収、金利の回収なのか、期日における一括返済なのかの判断において、事業計画との整合性を見ていきます。
ですので、融資では「安定性」が一番の評価チェックの基盤になります。
投資は成長性が一番の評価軸
仮屋薗:一方で、投資については、投資した株式の価値の上昇、もしくは投資に付随して得られる配当が見返りとして期待されています。
その源泉になるのは売上及び利益の大きな成長です。つまり、出資では「成長性」が評価軸となります。
相手のニーズに合ったコミュニケーションを
仮屋薗:融資と出資では安定対成長という全く異なる説明が求められます。
融資であれば、銀行や信金に対しては安定性の説明を行い、出資であればベンチャーキャピタル・エンジェル・その他投資家に対して成長性を説明する。
相手のニーズに従ったコミュニュケーションを行うことが大事だということになります。
2.事業フェーズによって融資か出資かの判断を決めるべき
出資・融資の判断は自社の事業フェーズをどう読むか
仮屋薗:CEO・CFOとして、自分の携わっている事業フェーズが安定的な成長及び資金回収という状況だと読むのか。
それとも競争が急成長する市場で、マーケティングや研究開発などキャッシュアウトが大きい状況を経て大きな果実を手にする状況と読むのか。
どちらの事業内容、もしくは外部市場環境なのかということによって、調達の手段というものを選ぶべきだと思います。
判断を読み違えると黒字倒産の可能性も
仮屋薗:判断する上では、逆になった場合どうなるかということを考えてみるといいと思います。
例えば、外部環境および競争環境が安定していて、自分たちのポジションが築けている状況で投資を受けるケースを考えてみます。
安定した利益が出るものの、キャピタルゲインを狙えるような急激な成長は当然ながら達成できるものではないと思いますので、投資家の期待するリターンの実現は非常に難しい。
そういう際には安定的な運転資金として調達した義務に対してお答えできるような融資が当然合います。
一方で、市場側の急成長、競争の激化のためにマーケティングや研究開発コストが大きくなるケースを考えてみます。
融資という方法で資金調達をしてしまうと、成長途上にもかかわらずキャッシュアウトによる倒産だったり、黒字にも関わらずキャッシュフローが大きく赤字で黒字倒産をしたりということにもなりかねない。
こういったケースで、短期的には大きな赤字が発生したとしても最終的には株式価値の向上という形で大きな果実を得る目的を持った投資家と組んだほうが、財務戦略として正しい選択になると思います。
3.会社の成長に応じた資金ソースを選ぶということが重要
大型調達がかっこいい、といった外形的な基準では判断を誤る
仮屋薗:資金需要の時間軸と深さ、内容、そしてその会社自体が置かれている外部環境、これらの条件を踏まえたうえで融資と出資を適切に選択するということが基本中の基本になります。
VCから調達するのがかっこいいとか、すごいねと言われるからというのは愚の骨頂だと思います。
一方で、VCから投資を受けると当然ながらガバナンス、レポーティング等々経営の責務が発生します。そういった責務を避けてなるべくやらないほうがいいという言い方もあると思います。
もっとも大切にすべきは適切なタイミングに適切な資金とその性質のお金を調達するということです。
経営が安定しないという状況は何よりも避けなければならないので、かっこいい、もしくは経営権を譲るのが嫌だとかそういう外形基準的なものでは無くて、会社の成長に応じた資金ソースを選ぶということが大事だと思います。
4.攻めの交渉を行うには早めに取り掛かることが重要
PLだけ見ていては穴がある
仮屋薗:簡単なPLの計画まで作るところは多いと思いますが、BSやキャッシュフロー、資金繰りの計画まで考えられている経営者の方は少ないです。
財務責任者においてもPLを管理することと、キャッシュフローを管理することは似て非なるものであったりするので、まずは資金繰りというものをしっかりと見ましょう。
PLだけを見ていては穴があります。特に成長段階では売上以上に組織規模が大きくなっていき、例えば採用した従業員の研修期間が伸びたりすると黒字倒産になりかねない。
典型的な成長企業に起こる問題ではあると思うのですが、そういったポイントを見逃さないようにすべきではないのかなと思います。
急成長している時こそ資金繰りには注意すべき
仮屋薗:そうですね。成長からくる運転資金、もしくはそのほかのキャッシュフローの入りと出の差ですよね。ここが見逃されがちです。
そういった状況の場合、借入だとすぐに融資限度に達してしまうことから、出資が基本的な選択肢になると思います。
ただ出資だと、入金まで早くて2.3か月ですから、これも時間差があるので、財務戦略としては色々な意味で早め取り掛かることが重要です。
余裕がないと調達の条件も含めて、条件交渉が難しくなってきます。財務戦略は早めに余裕を持って動くべきです。早めに動いて攻めの交渉ができるようにすることが大事だと思います。
5.出資のバリュエーションはどう考えるべきか
表面的な評価額だけでなく、契約内容とのバランスで考えるべき
仮屋薗:バリュエーションを考えたら、表面的なバリューは高いほうがいいには決まっています。
ただし高いバリュエーションがついた際には、表面的なバリュエーションと同時にリスクに対するリターンの設計をすることになります。
具体的には、会社清算時・M&A時の優先的に資金を回収する権利や、次に入ってくるファイナンスで損をしないような条件付けだったり、上場に向けての期間に期限を設けたり、M&Aに誘導するための条件など、全ての状況をセットで投資契約を設計していくことになります。
ですので、いわゆる株価と言われる額面の金額のみで一気一優するのは本質的ではありません。そのトータルの条件によって合理的にバリュエーションが決まっていくため、全ての条件のバランスを見て判断すべきかと思います。
仮屋薗:はい。条件のセットを見るべきだという事です。
6.出資者の選び方・どこから出資を受けるべきか
出資者から得られるリソースを重視すべき
仮屋薗:バリュエーション以外にもよく言われることですけれども、出資者からは資金提供以外にも具体的な支援が得られることになります。
その時に経営として資金以外にも何を得たいのかということですね。
我々グロービスに来るケースの多くは経営のアドバイスであったり、様々な知見者ですとかアライアンスに向けてのネットワークですとか、なによりも信頼ですよね。
グロービスの資金が入ると、銀行・パートナー様から有望なベンチャーとして注目が集まることになります。
資金獲得以外の様々な経営資源の獲得を求めて、我々のところにくる起業家の方は多いです。
そういった経営資源というのは、お金で買えないもので、条件以上に見えません。
信頼でしたり、ネットワークというものが単純に資金を投下しても獲得ができない、もしくはそれ以上にお金がかかるものといえます。
そういった点も踏まえたうえで、出資によってどういった有形・無形の資源・資産を獲得できるのか考えるべきかと思います。
調達における優先順位を明確にしてから出資に望むべき
仮屋薗:そうですね、これも経営者にとっては何が調達の中での優先順位かというのがあって、タイミングや考え方で違いますよね。ネットワークは既に持っていて、純粋に持分の希薄化を最も小さくして資金調達を行いたいといったケースもあると思います。
仮屋薗:そうですね。色々なポイントに何があるかということだけ整理されていれば、あとは優先順位をつけるだけになります。
1社だけでなく2,3社のポートフォリオを組んだほうがいい
仮屋薗:エクイティーファイナンスって1社からだけやるというケースは、稀ではないかと思います。
1社よりは2.3社ポートフォリオを組んだ方がいいと。
例えば、グロービスからは経営アドバイスを一番メインとして獲得する。事業会社系のVCからは、仕入れの部分プラス顧客基盤のトラフィックを圧倒的に供給してもらう。
それから金融系のVCからは融資とセットで資金提供してもらうなど、コンビネーションで全てを獲得できる可能性があるため、目的に応じてバランスを取るという考え方が重要になります。
インタビューは後編に続きます!次回もお楽しみに。
(取材協力:グロービス・キャピタル・パートナーズ/仮屋薗聡一)
(編集:創業手帳編集部)