個人事業主の経費に上限はある?計上時のポイントや不正計上のペナルティを解説

資金調達手帳

経費の上限や範囲を知って正しく計上しよう


個人事業主となった時に、多くの人がまず悩むのが会計処理です。初めて経費を処理する立場に戸惑う人も多いかもしれません。

ここでは、経費として計上できる範囲や上限について紹介します。処理を間違えれば無申告加算税や重加算税の徴収といったペナルティを受ける可能性もあります。
経費を正しく計上するために必要な知識を学んでください。

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個人事業主が知っておきたい経費の上限


個人事業主は、自分で継続して事業を営む立場です。自分で事業所得を生み出すとともに経費も処理しなければいけません。
いくらまで経費を計上できるのか気になる人もいるでしょう。

実は、個人事業主が確定申告で計上できる経費には上限はありません。基本的に事業に必要な支出はすべて計上できます。
企業の経費計上ではクライアントとの会食費用などに上限が設定されていますが、個人事業主だと上限はありません。

ここでは経費の処理に関して上限や範囲といった基本的な内容をおさらいします。

事業に必要な支出はすべて経費になる

個人事業主は、事業を行うにあたって必要な支出は経費計上できます。必要な備品や消耗品、オフィスの家賃や交通費など事業のために支払ったものは経費計上可能です。

ただし、あくまで事業に必要な支出なので、プライベートの支出は経費計上できません。後述しますが、自宅を事業所として利用している場合などは家賃や光熱費も事業用部分に分けて経費計上します。

経費として認められるかどうかの判断は、「事業との関連性」「必要性」「金額の妥当性」という3つの基準です。
つまり、事業の遂行に直接関係しているのか、事業のために本当に必要であり、金額が妥当であるかを判断します。妥当性の判断はその事業の業種によっても変わります。

業種ごとに妥当な経費の割合が異なる

個人事業主が計上できる経費の金額に上限はありません。しかし、あまりに経費が大きいと不正を疑われ税務調査される可能性があります。
妥当性があるとされる経費率は業種によって異なります。一般的には、消費税簡易課税制度で定めらられるみなし仕入れ率が目安です。

以下では、業種別のみなし仕入れ率をまとめました。

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第1種事業 卸売業 90%
第2種事業 小売業、飲食料品の譲渡に係る林業・農業・漁業 80%
第3種事業 第2種事業を除く林業・農業・漁業や製造業、建築業など 70%
第4種事業 飲食業など 60%
第5種事業 サービス業・金融・保険業など 50%
第6種事業 不動産業 40%

手がけている事業の種類に応じて、どの程度の経費率が目安となるか確認してください。

一度に経費として計上できる上限は?


個人事業主は、上限なく経費計上できますが一度に経費計上できる上限決まっていて、青色申告であれば30万円未満とされています。
つまり、事業に必要な機械や設備を購入した場合もそれが30万円未満であれば一括で経費計上可能です。

30万円以上の機械や設備は減価償却資産として分割して経費計上します。30万円未満の減価償却資産は、少額減価償却資産として一括経費計上できます。
しかし、1年間で300万円までしか一括計上できません。
30万円未満の機械を複数台購入した場合でも、一括計上できるのはそのうちの300万円までです。白色申告の場合には、10万円以上の備品を一括計上することはできません。
ただし、10万円以上20万円未満の減価償却資産については3年間で均等償却できる一括償却資産制度が利用できます。

確定申告の種類で異なる経費の範囲


経費計上は、青色申告を選ぶか白色申告にするかによっても異なります。

青色申告は、最大65万円の控除など様々な税制優遇が適用される制度であり、経費の範囲も白色申告とは異なります。
白色申告をするには特別な申請は不要ですが、青色申告にする場合には青色申告承認申請書の提出が必要です。
税制優遇を受ける可能性がある時には、青色申告承認申請書の提出を忘れないように注意してください。

以下は、白色申告と青色申告で異なる経費の範囲を表にまとめたものです。

白色申告 青色申告
10万円以上の備品 一括では経費計上できないが一括償却資産の特例を利用できる 30万円未満であれば少額減価償却資産が適用となり一括計上可能
家事按分 5割以上を事業が占めていないと計上できない 事業に関わる部分はすべて経費計上可能
専従者給与 経費計上できない 経費計上可能

それぞれの経費については以下で解説します。

10万円以上で購入した備品

白色申告では、10万円以上の備品を一括で計上することはできません。その備品の耐用年数に応じて減価償却して経費にすることになります。
青色申告の場合には、少額減価償却資産の勘定科目で30万円未満までであれば一括計上可能です。30万円以上の場合には耐用年数に応じて減価償却を行います。

例えば、24万円のパソコンを購入した場合、青色申告であれば少額減価償却資産の特例により一括で経費計上できます。
白色申告だと耐用年数4年として6万円ずつしか経費にできないのです。

家事按分

個人事業主は、自宅兼オフィスの場合の家賃や水道光熱費、自家用車を仕事で使った場合のように仕事とプライベートが混在してしまうケースも珍しくありません。
事業主の生活費と事業用費を一定の割合で分けることを家事按分と呼びます。
白色申告も青色申告も家事按分はできるものの、家事按分できる割合が変わります。

白色申告では、事業用として50%以上の割合で使用していなければ経費計上が認められません。
一方で青色申告であれば、少しでも事業用として使っているのであれば家事按分できます。

例えば、賃貸マンションを借りて一部仕事場としている場合を考えます。
100平米のマンションのうち10平米をオフィスとして使っている場合には、家賃の10分の1を経費計上可能です。

青色申告者であれば明確に事業として使っている割合を算出できれば経費にできますが、白色申告者では自宅の一部で使用しているようなケースでは経費計上ができません。
同様に水道光熱費やインターネットのプロバイダ料金も家事按分して計算します。

専従者給与

専従者給与は、事業主のもとで働いている家族従業員を指す言葉です。
個人事業主の配偶者などが従業員として働いている時には税法上専従者と呼ばれ、給与が専従者給与となります。

白色申告と青色申告は専従者給与の扱いが異なり、青色申告は青色事業専従者給与者として届け出をすればその給与を経費として計上可能です。
一方で白色申告では、家族への給与は経費計上できず、白色事業者専従者控除を受けて事業専従者として控除ができます。

事業専従者控除を使うことで、配偶者は最高86万円、15歳以上のその他の親族は最高50万円を必要経費とできます。
青色事業専従者給与も事業専従者控除も適用には一定の要件を満たさなければいけません。

個人事業主が経費を計上する際のポイント


個人事業主となって、経費の扱いが難しいと感じるケースはよくあります。しかし、ポイントを抑えておけば正しく経費計上しやすくなります。
どういったポイントがあるのか下記にまとめました。

事業関連の費用とプライベートで使った費用は分ける

個人事業主として働いていると、事業用のお金とプライベートのお金が区分しにくくなることがあります。
計上間違いを防ぐためにもそれぞれの費用は明確に区別するようにします。
具体的には、財布やクレジットカード、銀行口座を仕事用とプライベートで分けたり、いつどこで仕事をしていたかスケジュール帳に記録する方法が良いでしょう。

また、仕事用として別にスマートフォンや車両を購入する方法もあります。
クレジットカードや口座を分けておくと、会計処理もしやすく計上ミスを防げます。
家事按分を利用する時には、どういった基準で案分しているのか説明できるようにしてください。

領収書・レシートなどは必ず保管する

経費を扱う時の基本として、領収書やレシートは必ず保管するようにします。領収書は経費計上する時に使うだけでなく、税務調査でも確認されます。
領収書やレシートは、事業のために必要な支払いであったと説明できるように取引相手や目的といった情報をメモに残しておくと便利です。

さらに白色申告では5年間、青色申告では7年間は領収書を保管しなければいけません。
帳簿や書類が適切に保存されていないと経費計上が認められなかったり青色申告が取り消しになるリスクもあります。
支出の際に受け取ることを忘れないようにして、保管方法についても考えておくようにしてください。

領収書が発行されない取引きには出金伝票を作成する

公共交通機関を使った時や取引先への慶弔費のように領収書が残らないケースも考えられます。領収書がない時には出金伝票を作成します。
出金伝票は、勘定科目や適用を記載するほか日付や交通機関、目的も明記してください。出金伝票も作成、保管しないと税務署から架空計上を疑われてしまいます。
メモ書きなどよりも書式が定まった出金伝票を準備しておくようにしてください。

帳簿は定期的につけておく

確定申告の期間は、毎年原則として2月16日~3月15日です。忙しいからとまとめて処理しようとすると手間がかかる上、古い支出のことは忘れてしまっていることがあります。
確定申告で間違えると、正しく経費計上できず納税額の違っていたり、後から指摘されたりするかもしれません。
帳簿はまとめて処理するのではなく定期的に帳簿をつけるようにします。月に一度、帳簿を記載する日を定めて取り組むといった工夫も検討してください。

経費として認められないものを知っておく

経費計上で間違えやすいパターンとして、経費として認められないものを計上してしまうことがあります。

例えば事業に関係ないプライベートでの支出、飲食代や健康診断費用などは経費計上できません。
また、個人事業主が支払う個人の税金、所得税や住民税も経費計上できない支出です。一方で事業で使用している車の自動車税や固定資産税は経費計上できます。
どういったものが経費として認められないのか事前に確認しておいてください。

経費の正当性を客観的に示せるようにする

経費計上で大切なのは、正当性を客観的に示すことです。なぜ経費として認められるかの根拠を示せるようにしなければいけません。

家事按分する場合も、どういった基準で案分するのか根拠を持って説明します。
車両であれば走行距離、インターネットや光熱費であれば使用時間などを記録しておくことで客観的な根拠となります。
あいまいな根拠では経費計上できないのでどういった根拠、基準で計上しているのか説明できるように準備しておいてください。

個人事業主が経費を不正計上した場合のペナルティ


個人事業主は注意して経費計上しても計上ミスなど間違ってしまうこともあります。また
、税負担を減らすために故意に不正計上するケースもあるかもしれません。
ここでは、経費を不正計上した場合のペナルティについて紹介します。

過少申告加算税

過少申告加算税は、本来支払うべき税額より少なく申告した時に加算される税です。
期限内に確定申告をして納税したとしても、計上に間違えがあれば過少申告加算税の対象です。
過少申告加算税は、事前通知の後に修正申告であれば増差×5%で計算します。

例えば、もともと納めるべき税金が20万円なのに10万円になるように申告していた場合には、差額である10万円×5%で5千円を過少申告加算税としてプラスし、2万5千円を支払う計算です。
加えて当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については10%で算出されます。

しかし、税務署の調査を受けてからの修正申告ではさらに税率が上がり増差×10%です。
さらに、新しく納めることになる税金が当初の申告納税額と50万円のいずれかを超えている時には超えた部分の税率は15%で計算します。

過少申告加算税は、自主的に修正申告することで課税されないケースもあります。
逆に延滞税が課されるケースもあるので問題が発覚した時には早めに修正申告するようにしてくださてください。

重加算税

重加算税は、領収証の偽造、架空の経費計上といった意図的に税金額を減らそうとした時に課されるペナルティです。重加算税の多くは税務調査で問題が発覚します。
過少申告や不納付などの重加算税は、過少申告加算税や不納付加算税に代えて増差額×35%が加算されます。

例えば、本来納税すべき税額との差額が10万円であれば3万5千円を税額に上乗せされるのです。
申告書を提出していない場合には、無申告として原則40%に当たる4万円を支払わなければいけません。

重加算税も延滞税が加算されます。延滞税は、年度によって変動があり、2024年度では原則年7.3%、納期限の翌日から2カ月を経過した日以後は年14.6%です。
加算税制度の改正により短期間のうちに隠蔽や仮装を繰り返すと加算税額が10%増える制度も導入されました。
過去5年内に重加算税を課税されていると45%や50%の税率が適用されます。

まとめ・個人事業主の経費に上限はないものの、適切な範囲で計上することが大切!

個人事業主は、事業とプライベートが混在しやすく経費計上もあいまいになってしまうことがあります。
どういったものが経費として認められるのか、種類や根拠を把握しておいたほうが良いでしょう。
適切に経費を処理していないと、ペナルティが課せられる可能性もあります。経費計上が難しい場合には会計ソフトや専門家の手を借りることも検討してください。

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(編集:創業手帳編集部)

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