企業売却の相場はどのくらい?売却価格の算出方法や高く売るためのポイントを解説

創業手帳

企業売却ではあらかじめ相場を把握しておこう


企業売却は、企業の株式を第三者に譲渡することをいいます。会社の所有者である株主が、買い手との間で株式譲渡契約書を取り交わして会社を売却します。
企業売却は、従業員の雇用維持と株主の資産形成のために計画的に進めてください。売却する時の相場を知らなければスムーズに企業売却できないかもしれません。

あらかじめ企業売却の相場を把握して、準備を進めることをおすすめします。

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企業売却の相場はどのくらい?


経営者の中には、企業の将来や自分の働き方を見据えて企業売却を考えている人もいるかもしれません。自社がいくらで売れるのか気になっている経営者も多いでしょう。
会社を売却してからリタイアしたいと考える経営者にとって、企業がいくらで売れて手元にどれだけ残るのは大きな関心ごとです。
ここでは、企業売却の相場がどのくらいなのか紹介します。

企業売却価格を計算する方法


企業を売却する際には、企業の価値評価や売却価格を計算しなければいけません。企業の売却価格を計算する方法について紹介します。

コストアプローチ

コストアプローチは、売却企業の純資産に着目して企業価値評価を行う方法です。貸借対照表の各数値から計算でき、比較的容易に客観的な算定が可能です。
コストアプローチの代表として、「時価純資産法」や「簿価純資産法」があります。

時価純資産法

時価純資産法は、企業の保有している資産の時価総額から負債の時価総額を差し引いた金額を計算する手法です。
具体的には、以下の計算式で求めます。

企業の保有資産の時価総額−負債の時価総額

純資産は、過去に生み出した利益の蓄積です。成熟期にあり社歴が長い企業に適している方法です。

また、時価で計算するため含み益も含めた正確な計算ができます。
例えば、土地や建物などが値上がりしている場合、簿価純資産では固定資産税評価額で評価されます。
一方で、時価純資産法では取引価額で計算できるので、より有利に進めやすくなるでしょう。

簿価純資産法

簿価純資産方は、企業の貸借対照表に計上されている資産から負債を差し引くことで企業価値を算定する方法です。以下の計算式で求めます。

簿価純資産-簿価負債

簿価純資産方は、誰が評価しても基本的に同じ結果が出るため、客観性を維持できる点がメリットです。ただし、帳簿と時価が大きく離れている可能性もあります。

また、利益の積み上げから企業価値を算定するため、将来のことは加味していません。
企業を買う側は、その企業がどれだけ利益を生み出すかを重視しているため、簿価純資産法では適切でない可能性があります。

年買法(年倍法)

年買法(年倍法)は、税引き後の営業利益の3年~5年分に時価純資産の金額を加えて計算する方法です。以下の計算式で求めます。

営業利益の3年~5年分+時価純資産

純資産で評価される企業価値は客観性に優れている一方で、企業の将来的な収益力を考慮できません。
技術やノウハウ、人的資産を将来的な収益力として評価する時に用いられているのがのれんです。
年買法(年倍法)は、のれんを加味して計算できるため、より適正な価値を計れます。ただし、任意要素が多く主観的な評価になってしまうことがあるので注意してください。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、その企業と同じ市場に属する他社の株価を比較、もしくは類似した会社や取引事例などに着目する評価手法です。
市場における同業他社の価格動向を参考にするので客観的な評価が可能な上、現在の市場動向を反映できる点がメリットです。

マルチプル法(類似企業比較法)

マルチプル法(類似企業比較法)では、企業価値を測るためにその会社と規模や業種が類似している会社を数社選定します。
事業や財務といった類似性を考慮して複数選定した後は、その会社の指標を計算します。指標は、売上高や営業利益、EBITDAのように複数使用するのが一般的です。

その後、各種倍率を算定してください。利益に対する倍率や純資産に対する倍率を計算して、評価対象企業の各種財務数値に乗じて企業価値を算定します。

市場株価法

市場株価法は、証券取引所市場で取引きされている株価をベースにして株式価値を算定する評価手法です。
一般的には、1カ月~6カ月の平均株価を取り、それをもとに株式価値を算定します。対象となる企業が上場している場合に良く採用される手法のひとつです。

多数の主体が参加して市場取引が行われているのであれば、評価対象会社の将来性や収益性といった要素が加味されているため、客観性も高いといえます。
ただし、株価が正確な評価とはいえません。

株価は様々な要因で変動するため、本来の価値に見合っていないことがあります。
また、未上場株式の場合にはこの方法は利用できません。上場会社であっても、取引きが少なくて流動性が低い場合にも適していません。

インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来見込まれる収益の価値に着目した評価手法です。将来獲得される利益やキャッシュフローまたは配当を現在の価値に還元して求めます。

DCF法

DCF法は(Discount Cash Flow)の略称で、企業が生み出すキャッシュフローに注目して企業価値を算出します。
フリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて計算する方法です。以下のステップで計算します。

①フリーキャッシュフローの設定
DCF法では、まずフリーキャッシュフロー(FCF)を計算します。
フリーキャッシュフローは企業が自由に使えるお金で、企業はフリーキャッシュフローを使って借入金の返済や株主への返済を行います。

フリーキャッシュフローの計算式は以下のとおりです。

フリーキャッシュフロー=営業活動によるキャッシュフロー+投資活動によるキャッシュフロー

②割引率の算定
計算したフリーキャッシュフローを現在価値に割り引くために、加重平均資本コストが一般的に使われています。
加重平均コストは、資金調達する際の「借入コスト」と「株主資本コスト」を加重平均で計算したものです。

計算式は以下の通りです。

負債コスト×(1-実効税率)×〔有利子負債総額÷(有利子負債総額+株式の時価総額)〕+資本コスト×〔株式の時価総額÷(有利子負債総額+株式の時価総額)〕

③ターミナルバリュー(TV)
ターミナルバリュー(TV)は、以下の式で計算します。

予想期間の最終年度のフリーキャッシュフロー÷(割引率-永久成長率)

ターミナルバリュー(TV)を設定することで、事業計画期間以降のキャッシュフローを事業価値に取り込めます。
上記の手順で計算した現在価値のフリーキャッシュフローとターミナルバリューを合算することで、企業価値を算出できます。

配当還元方式

配当還元方式は、非上場で取引相場がない企業に用いられる方法です。過去の配当額から将来の配当額を予想して、そこから該当企業の株式価値を計算します。

配当還元方式を使うには、まず平均配当金額を以下の式で計算します。

年配当金額=直前期末以前2年間の配当金額÷2÷1株当たりの資本金額を50円とした場合の発行済株式数

次に以下の計算式で配当還元価額を算出します。
配当還元価額=(年配当金額÷10%)×(1株あたりの資本金額÷50円)

配当還元方式は、その企業の配当政策の影響を強く受ける点に注意してください。少数株主のように配当目的で株式を所有する場合の評価に配当還元方式は使われています。

企業売却で相場より高く売るための事前準備


企業の売却では、本来の価値よりも低く評価されてしまうこともあります。ここでは、相場より高く売るためにできることをまとめました。

経営を安定させる

企業売却の評価は、会社の経営状況の影響を受けます。経営が安定していて財務状況が健全な企業はより高く評価されます。

将来にわたって安定した収益が見込める会社であると評価されるためには、日ごろから適切な財務データを整備し、透明性を保ってください。
法令順守や良好なブランドイメージの維持も重要です。安定した経営には顧客や取引先との信頼関係が欠かせません。

買い手に経営が安定していると評価されるためには、高い市場シェアや顧客満足度といったデータも武器になります。

優秀な人材を確保する

企業の買い手は、優秀な人材の有無もチェックしています。その企業にノウハウや経験が豊富な人材がいれば、企業の将来も安心です。

ただし、優秀な人材がいきなりあらわれることはありません。
従業員の育成プログラムを整備したり、知識を共有しあう組織文化を醸成したりすることで、優秀な人材を育ててください。
従業員のモチベーションを高めて、離職率を減らすのにも有効な手段です。

買い手には、優秀な人材確保のための研修や成功事例を伝えるとともに、人材のスキルや企業文化がどのように成果につながっているのかをアピールするように努めてください。

将来性のある事業を展開する

買い手が企業を評価する時に、重視しているのが将来性です。将来性がある企業は、買われてからもさらなる成長が期待できるため、相場よりも高く評価されます。

将来性のある事業は様々ですが、基本的には市場自体の成長性が高いケースと競争優位性があるケースがあります。
また、開発中の新規事業があるようなケースも潜在的価値が評価されるかもしれません。

ただし、将来の成長や収益拡大には実現可能性がなければいけません。売り手側は、説得力があるビジョンや経営計画を伝えるようにしてください。

企業価値を下げないよう注意する

企業売却を進める中で企業価値が下がっていくケースも少なくありません。
企業売却では、定款や就業規則、株主総会議事録といった資料が必要です。
しかし、それらの資料が整備されていない場合には、整備するためのコストが発生して企業価値が下がってしまうリスクがあります。

また、買い手が実施するデューデリジェンスの時に求められた資料がすぐに用意できないケースでも、評価に影響する可能性があります。
何らかの問題を隠蔽していると疑われ、信頼できない相手と判断されるためです。

さらに、簿外債務がデューデリジェンスで発覚すれば買収金額を減額されます。マイナスの要素になりうる不要な資産や事業、簿外債務などは事前に対処し、早い時期からマイナス要素を減らしてください。

企業売却時、相場より高く売るためのポイント


企業売却の時に、相場よりも高く売るためのポイントをまとめました。

交渉は複数の企業と実施する

同じ企業の売却であっても、買い手が変われば企業価値の評価、買収金額も大きく変化します。
自社が持っている技術やノウハウが買い手の企業にとって必要なものであれば、高く評価されます。

そのため、複数の企業と交渉して、自社が持つ経営資源を高く評価してくれる企業に売却してください。
複数の企業と交渉することによって、自社の評価されるポイントやマイナスの要素にも気づきやすくなります。

適切なタイミングで売却する

企業売却のタイミングも重要なことです。買い手はビジネスの将来性を評価するため、市場や業界が成長しているタイミングは評価も高くなる傾向があります。
タイミングを計るためには、業界動向や経済情勢を把握するとともに、自社の事業を客観的に評価しなければいけません。

会社の業績が上がっている時は高く売りやすいタイミングです。
しかし、会社の業績は景気などの外的要因の影響を受けます。翌年以降の業績予測も考慮して業績が右肩上がりの時にはチャンスを逃さずに売却を進めてください。

強みを明確化させてアピールする

買い手の企業は、売り手企業を分析して評価するものの、売り手側からアピールしなければ伝わらない強みもあるかもしれません。
自社が保有するノウハウや人材などは積極的に伝えるようにしてください。

客観的なデータや他社との比較結果などを用いて、自社が有している強みや経営課題を明確に伝えることが重要です。
強みの内容によっては、買い手企業が買収することによってシナジー効果を得られるケースもあります。自社の強みを活用してくれそうな買い手を探すことも効果的な手段です。

企業売却の専門家に相談する

企業を売却したいと考えても、そもそもどのように進めればいいのかわからない人も多いでしょう。
会社の売却の相談先として、弁護士や民間のM&A仲介会社や金融機関があります。
また、事業引継ぎ支援センターや商工会議所、日本政策金融公庫でも相談を受け付けています。

相談内容によって適した専門家は異なりますが、企業売却について全般的な相談をするならM&A仲介会社、法務であれば弁護士、企業売却の相場については公認会計士が一般的な選択肢です。

企業売却は、財務や法務、労務まで関係するため、相談先も多様です。
それぞれ守備範囲や得意不得意があるので、何を相談したいのか明確にしてから相談先を選ぶようにしてください。

まとめ・企業売却の相場を把握して少しでも高く売れる方法を試そう

企業売却の相場は、企業の決算内容や業績、のれんといった様々な要素で総合的に判断されます。
そのため、自社がどれだけの売却金額になるのか客観的に把握するのは困難です。

具体的に企業売却の話を進める段階にいない人も、企業価値の算定方法を使ってシミュレーションしましょう。
また、企業売却に備えて、早めに自社の価値を高めるための行動を取り、専門家の意見も参考にしてください。


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(編集:創業手帳編集部)

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