スタメン 大西 泰平|エンゲージメントプラットフォーム「TUNAG」でエモーショナルな社内交流を推進
企業の要望を最適化し、エンゲージメント向上をサポート
メンバーが一丸となって、同じ目標に向かえる組織は強く、成長を持続できると言われています。強い組織になるために必要になるのが、エンゲージメント(※1)の向上です。
それぞれの企業が求める形にソリューションを最適化し、社内のエンゲージメント向上をサポートしているのが「TUNAG」を運営しているスタメンの大西さんです。
そこで今回は、スタメンの創業ストーリーやTUNAGにより実現した企業運営のあり方について、創業手帳の大久保が聞きました。
※1:エンゲージメント・・・仕事に対してポジティブで充実した心理状態
株式会社スタメン 代表取締役社長
1984年生。大阪府出身。
筑波大学卒業後、大手広告会社などを経て、2014年よりITベンチャーのベトナム拠点事業責任者として、海外子会社をゼロから2年で200名を超える拠点として立ち上げる。帰国後、取締役として、加藤、小林と共にスタメンの創業に参画。創業事業であるTUNAGの立上げを統括するとともに、営業、マーケティング、デザイン、開発、財務などの幅広い職能を活かした全社最適な経営戦略の推進を担う。2023年より現職。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
専門分野を持つ3名で「スタメン」を起業
大久保:まずは創業までの流れを教えてください。
大西:2016年1月に株式会社スタメンを登記し、2016年8月に創業して本格稼働を始めました。
創業メンバーは私含め3人で、全員がスタメンを立ち上げる前にそれぞれ経営経験があり、私を除いた2人は役員として前職でIPO(新規上場株式)まで経験しています。
創業代表の加藤は「エイチーム」という東海地区で最大規模のIT企業で長く最年少役員を務めており、未上場時に現場から入り、上場を経験していました。
創業CTOの小林はソーシャルゲーム大手の「GREE」の初期メンバーで、開発担当執行役員として上場を経験しています。
そして私は「モンスターラボ」の初期メンバーとして、ベトナム拠点を立ち上げる時の事業責任者として海外で経営に携わってきました。そこから日本に帰ってきて加藤、小林とスタメンをゼロから起業したという経緯となります。
大久保大西さんのキャリアのスタートについて教えていただけますか?
大西:私は新卒で大広という広告会社に入社し、40名ほどいた同期の中で、ほとんど配属されることのない地方拠点である名古屋支社に単独で配属となりました。
それまでは縁もゆかりもない街で、地方拠点だったということもあり、私より一回り以上年上の先輩ばかりの環境で揉まれました。
クライアントは規模も大きく、大手自動車部品メーカーや、化粧品会社、ガス会社などを担当させていただきました。
しかし、クライアントが大きいということもあり、入社当初の私の仕事は先輩営業マンのアシスタントのような業務が中心でした。
入社して2年目になると「もっとこういうことができないか」という意識が強く芽生え始めるのですが、自分のメインクライアントを持たない中ではやれることは限られており、その状況を打開しなければと感じ始めていました。
そんな中、何とか自分で開拓した初めての担当クライアントさんが「エイチーム」でした。
「地方×ITベンチャー起業」を強みにスケール
大久保:それが加藤様との出会いだったのですね。
大西:その通りです。当時、マスコミュニケーションにも力を入れ始めており、上場準備に入っているタイミングで、一緒に仕事をし始めたのがクライアント側にいた加藤でした。
加藤と色々な案件を一緒にやらせてもらった後、私は、大広を4年半で退職し、グローバル関連の仕事に色々と携わるようになりました。そのため、名古屋を離れ、フィリピンやベトナムにいたため、加藤との直接的な関わりはなくなりました。
その後、ベトナムで興した事業が大きくなり、別拠点・別事業を立ち上げる準備をするために、日本に戻ってきた際に、ちょうど加藤から久しぶりに会わないかと連絡を受けました。
そこで、独立してゼロからの起業に挑戦するから一緒にやらないかと誘われました。
すぐに一緒に会社を立ち上げる決心を固めた後、IT企業として開発技術のスペシャリストが必要だという話になり、加藤が過去に一緒に仕事をしたことのある小林に声を掛け、3人で起業する流れとなりました。
大久保:そのような経緯で3名が集まったのですね。
大西:大手IT企業やスタートアップなどで実績を積んだ方々が起業する際の選択肢は、その大半が東京でした。
一方で、名古屋をはじめとした地方で起業するというケースは、当時はかなり少なかったと思います。
スタメンを立ち上げたと同時に、すぐに採用活動をウォンテッドリーを活用してスタートさせましたが、IPO経験もあるような実績のある面々が、地方でIT企業をゼロから立ち上げるのは面白い、良いチャンスだと思ってくれた人が、創業から1ヶ月も経たない間に数名集まりました。
スタメンの起業当時から東京オリンピックがある2020年に上場することを目指しており、実際に、創業から4年4ヶ月後の2020年12月に上場することができました。
大久保:名古屋企業のメリットを最大限活かしたんですね。
「複数名で起業」のメリット・デメリット
大久保:複数名で起業することのメリットは何だと思いますか?
大西:メリットとしては、それぞれのスペシャリストが集まったからこそ、事業が立ち上がり始めるまでの準備期間がかなり短く済みました。
起業したばかりの頃は、やらなければいけないことがたくさんあります。
特に私達は、創業時から上場を目指していたため、本格的なガバナンス構築(※2)もしなければいけないですし、営業やその後のソリューション活用支援もしなければいけません。
我々の場合は創業時に、事業立ち上げと人事が得意な加藤、開発が得意な小林、そして、広く浅く様々な業務を担うことのできる私と、立上げ段階から幅広い領域をカバーできるメンバーが揃っていたからこそ、スピーディーに軌道に乗って事業を形にすることができたと思っています。
ただ、能力的に人員が揃っていたとしても、考え方がバラバラだったら、1つにまとまりません。
スキルは別々だけど、企業経営における思想や、人と組織を大事にするという考え方が一致していたため、合意形成が取りやすかったです。
この考え方が共通しているかどうかという部分は、実際に一緒に仕事をしはじめてみないとわからないと思っています。
そのため、ここは運でしかないため、ある意味で複数名で起業する時のデメリットにもなりえるな、とも感じます。
※2:ガバナンス・・・健全な企業経営を行うための管理体制
上場する過程で得たメリットとその後の目標
大久保:上場して変化はありますか?
大西:上場するまでの過程・プロセスにメリットがあったと思っています。
上場準備の過程で、ガバナンス面や会社の意思決定フロー、リスクケアなど、企業としての足腰を強く整えられたのは、その後に大きな事業成長を目指していくためにも、非常に重要だったと思います。
上場後のメリットとしては、ある程度、ビジネスが上手く回っている会社と思ってもらいやすくなるところでしょうか。いわゆる、社会的信用力の高まりを得られるので、それはプラスになっているように感じます。
デメリットとしては、上場準備費用や上場維持費用に多くのコストがかかってしまうことです。
大久保:IPO後の目標はどういったところにあるのでしょうか?
大西:上場は通過点にしかすぎません。
創業から短期間で、比較的スムーズに上場を達成することができたので、そこで燃え尽きることもありませんでした。
ただ単純に上場しただけでは、会社としての価値や与える影響はとても小さいです。そのため、本当の意味でのプライム企業(東証1部上場企業)になりたいと思っています。実績も含めた形で、日本を代表する企業の仲間入りをまずは形にできればと考えています。
また、日本のIT企業は、そのほとんどが海外展開に苦戦しているため、そこを突破できるような企業になっていきたいです。
組織のエンゲージメントを向上させる「TUNAG」とは
大久保:改めてサービスについて、教えていただけますでしょうか?
大西:仕事を進めていく上では、チーム内でのコミュニケーションが欠かせません。社内コミュニケーションを適切に取れているか否かが、企業の生産性の多寡に与える影響は非常に大きいものだと、私達は考えています。
そのような考えのもと、「TUNAG」は様々な業種業態の企業に対して、それらの企業に適した形での社内コミュニケーションの活性化ソリューションを提供しています。
例えば、組織力を向上するためにITサービスを活用するといっても、実際に企業がやりたいこと、実現したいことは様々です。
従業員満足度を上げて離職を下げたいという考え方もあれば、離職の回避よりも中間管理職のマネジメント力の向上を優先したいという会社もあります。
さらに、経営方針やパーパスをもっと上げたい、アルバイトやパートに対して仲間意識を上げたい、など目的が多岐に渡ります。
大久保:組織内のコミュニケーションは、永遠の課題のように思えます。
大西:コミュニケーションを構成する最小要素は、情報のインプットとアウトプットのやり取りだと思いますが、どういった場面で、どういった量の情報を、どういった人に向けて、どのくらいの頻度で受発信した方が良いかというのは、本当に企業の業種業態や組織規模、業績やそこで働く人材のタイプなどなどによって、最適解が変わり続けます。
そのため、良好なコミュニケーション環境を構築し、組織を活性化するためには、企業がその時々によって、情報設計を行い、内容を伝えたい部門や職種、伝達したい目的や内容に合わせて、必要な情報の出し分けや重要度合いの濃淡を調整できるようにする必要があります。
また、TUNAGでは、情報アウトプットの形式を型化したり、指定することも可能です。
このように、インプットとアウトプットの切り分けをカスタマイズできるところが、TUNAGの主要な強みの一つだと思っています。
大久保:具体的にどのような機能でしょうか?
大西:具体的には、どのような方やどの取り組みが、誰に届くようにするのかを調整でき、必読として届くのか、見たい人だけ見れば良いという形で切り分けられます。
あとは、アウトプットの形式を指定することも可能です。
このように、インプットとアウトプットの切り分けをカスタマイズできるところが、一番意味ある部分だと思っています。
大久保:経営者が伝えたい内容や方針を、上手く現場に伝えるためのフォーマットや、逆に現場の情報を齟齬なく吸い上げるための方法を提供されているということですね。
大西:はい。さらにTUNAGでは、様々な情報の伝達具合がデータで詳しく分析できるようになっているのも競争力になっていますね。
TUNAGのピボット期に行ったプライシングの工夫
大久保:TUNAGのサービスにおいてピボット期(※3)はあったのでしょうか?
大西:TUNAGがエンゲージメントを高めるための法人向けサブスクリプションサービスであるという点においては、創業から変わりなく来れていますが、メインの機能はピボットしています。
TUNAGは当初、福利厚生の運用強化に特化したサービスを提供していました。
福利厚生領域のクラウド型ポイントサービスといった要素が強かったのですが、システム利用料だけでプライシングできず、ポイント分を還元するための原資が必要でした。
そのため、販売単価をどうしても高くする必要があり、想定していたより販売に苦戦してしまいました。
そこから、仕入れ費用が必要になることのないサービス形態に切り替えたことで、徐々に契約獲得が進むようになっていきました。
大久保:サービスの本質は変えずに、プライシングや提供価値をチューニングしたということですね。
※3:ピボット期・・・事業や経済の転機や変革の時期
コロナ禍で変化した社内コミュニケーションの円滑化にTUNAGが活躍
大久保:コロナによりリモートが普及し、プロダクトはどのように影響を受けましたか?
大西:プロダクト自体への影響はあまりなく、事業的な数字や営業フローに変化がありました。
リモート商談が増え、営業メンバーが1人あたりで対応することのできる商談数が増えました。
ただコロナ中は、サービスの良さは感じてもらえたものの、コスト増が懸念となり受注までは至らなかったケースも多かったので、実態経済の市況感が回復してきたことにより、足元で売れ行きが回復してきているように思えます。
大久保:コロナによって、お客様の変化などがあれば教えていただけますか?
大西:アフターコロナにおける組織運営の経営判断に問われている企業さんが増えてきたと思っています。
会議の実施方法(オンラインorオフラインなど)や、リモート勤務の許容度合いなどによって、組織内コミュニケーションのあるべき姿が変わりますので、どういった組織体でどういったコミュニケーション設計を行っていくかをセットで検討する必要が増しています。
具体的には、達成懇親会などのオフサイトの場を復活させるのか、実施しない場合は代わりに何をするのか、それは各企業が自社のポリシーに則って決めるのですが、企業側が組織運営にあたって「何を重要視するか」が問われるフェーズにきていると思っています。
大久保:エンゲージメントを高めるためのコツがあれば教えていただけますか?
大西:一番大事なのは、社内の取り組みを形骸化させないことです。
社内の人たちがやり続けている意味がわからなくなっている取り組み、存在はするけど全く使われていない社内制度、こういったものを放置しておくのではなく、時には止めるジャッジをする、時には目的を周知して再活用をプッシュする、などメリハリを付けたアクションをしていくことが大切です。
社内に形骸化した取り組みが蔓延してしまうと、企業としての言行不一致がたくさん生まれてきてしまい、それが組織内の不信感に発展してしまうことも少なくありません。
こういったことをやりましょう、といっておいて必要なくなったから放置する、といったことを重ねると、信頼が減っていきますので、企業として、言行の一致にこだわることが大事になってきます。
他のコミュニケーションツールとTUNAGの大きな違いは「感情」
大久保:日報を送るツールであれば、他社でもありますが、差別化という点でどういったものが挙げられるのでしょうか?
大西:特に、モバイルでの活用に力を入れています。
TUNAG内でやり取りされる情報の中には、直接的にはビジネスに結びつかないけど、組織のエモーショナルな部分に作用するようなコミュニケーションも多く存在しています。
例えば、何かのミーティングの準備を先回りで対応してくれて、ありがとうという気持ちを、口頭で伝えるのも大事ですが、TUNAGを使ってサンクスメッセージを送ると、その会議には参加していなかった他のメンバーにも、気の利いたその人の対応を知ってもらえる機会が増えるので、お礼を伝える価値が一段高まります。
そういったシチュエーションでは、即時性がとても大事になってきます。即時性があるからこそ、気持ちの込もった「生のコミュニケーション」になりえるので、その点でPCではなく、いつでもどこでも活用できる、気軽なスマホでの利用を重視しています。
大久保:何気ないことだからこそ、気軽に忘れないうちに御礼を伝えられる、といった感じでしょうか?
大西:そういった肩ひじ張らない気軽さが大事だと思っています。
起業の成功率を上げるポイントは「一手先の準備」
大久保:最後に、起業家へのメッセージをお願いします。
大西:創業から今に至るまでの中で、やっておいて良かったと思ったことは、色々な先回りの対応です。
組織運営にしてもリスク管理にしてもガバナンスにしても、できるだけ「いざ問題になる」前に事前にその時に向けた準備がやれていると、事業運営の成功確率はかなり高められるな、という実感があります。
もちろんこういった先回り対応は、やり過ぎると無駄や徒労に終わってしまうこともあるため、現在地点の何歩も先までやり過ぎてしまうのも逆効果です。
一手、二手先くらいの近い未来への準備や先読みしたアクションをやれると、成功確率がグンと上がると思っています。こういった先回り対応がやれるか否かで、会社業績の伸び具合にかなり大きな差が生まれると考えています。
実際に我々の場合は、上場準備においてガバナンス面などに早い段階から着手していたことが、会社としての足腰強化に繋がり、健全な事業成長を続けてこられている原動力になっていると思います。
会社を創業された起業家の方々は、まずは足元を固めるのに忙しいと思いますが、数ヶ月、1年先の準備だけでも先回りできると、旨みがとても多いのでぜひ気に留めていただけたらと思います。
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(取材協力:
株式会社スタメン 代表取締役社長 大西 泰平(おおにし たいへい))
(編集: 創業手帳編集部)