年末調整をしないとどうなる?罰則やデメリット、手続きの基本などを徹底解説
年末調整をしないと国税から罰則を受ける可能性もある?
年末調整は所得税を正しく納めるために不可欠な作業ですが、実施しないとどうなるのでしょうか。
実は、従業員は所得税の還付や各種控除を受けられない恐れ、事業者側は罰則のリスクがあるのです。
今回の記事では、年末調整をしないとどうなるのかを詳しく解説します。
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この記事の目次
年末調整とは何か
そもそも、年末調整とはどのようなもので、なぜ必要なのでしょうか。年末調整の役割を知ると、しないといけない作業であることがわかります。
年末調整の概要と必要性
年末調整は、あらかじめ従業員の給与から天引きした源泉徴収と、本来の所得税額の差異を調整する作業です。
本来支払うべき所得税と源泉徴収には差額が生じるため、年末調整によって源泉徴収の過不足を算出し、還付や追徴を実施します。この調整は、年末調整が必要とされる主な理由の一つです。
もう一つの理由に、所得控除があります。所得控除とは特定の条件ごとに適用される控除制度で、税金のかかる所得額を軽減するものです。
年末調整により所得控除が適用されることで所得の総額が圧縮され、結果的に所得税の総額も減額できます。
年末調整の期限
年末調整の各書類の提出期限は、年末調整をした翌年の1月31日までです。計算した源泉徴収税は1月10日までに納付します。
会社は11月ごろから準備を始め、従業員の給与が確定するまでに必要書類を集めなくてはなりません。書類の配布と回収、所得税の計算のすべての工程に余裕を持って進めなくては、期限に間に合わない恐れがあります。
年末調整と確定申告の違い
年末調整は、従業員を雇用している会社が、従業員に代わって所得税の計算を行うものです。
一方、確定申告は、雇用主のいない個人事業主や給与所得以外の所得を得た人が、自分自身で所得税を計算し、届け出ます。
なお、給与所得者でも副業で別に所得を得た場合は、年末調整の対象にはなりません。確定申告を行わなくてはならないため、注意が必要です。
年末調整をしないとどうなる?罰則やデメリットについて
会社側のミスなどが原因で年末調整をしないとどうなるのでしょうか。会社にも従業員にも、多くの問題が起こる可能性があります。
税法に違反し罰則のリスクがある
所得税の納付については所得税法によって規定されており、年末調整は従業員を雇用する会社に義務付けられています。従業員側としても、年末調整を受けることで正しく納税しなくてはなりません。
年末調整に係る源泉徴収義務を怠れば、罰則として1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科されます。
徴収した税金を納付しないなどの悪質な場合は、10年以下の懲役・200万円以下の罰金のどちらか、または両方が科される重罪です。
さらには追徴課税として、罰金とは別に以下の支払いが命じられることもあります。年末調整の未実施や所得税の納付ミスには十分気をつけましょう。
種類 | 概要 |
---|---|
延滞税 | 税金の納付期限を過ぎた場合に、期限の翌日からの日数に応じて決まる |
過少申告加算税 | 納めるべき税金の金額を少なく申告していた場合に、本来の納税額に加算される |
重加算税 | 虚偽の申告をしたり、事実を改ざん・隠ぺいしたり、その手口が悪質と判断されたりした場合に科せられる |
所得税の還付が受けられない
年末調整をしないと、従業員側には所得税の還付を受けられないデメリットが生じます。
会社は従業員の給与から源泉徴収税を天引きしていますが、所得税額が確定した後の金額よりも多く徴収していることがほとんどです。
そのため年末調整を行えば、たいていの場合は従業員に過剰な分の所得税が還付されます。年末調整を行わないと還付を受けられず、税金を支払い過ぎたままになるのです。
余計な税金の負担が増える
年末調整を行わないと所得控除が適用されず、従業員の所得税や住民税が上昇する恐れがあります。
所得税は課税所得が多いほど、住民税は所得税が多いほど高額になる仕組みです。通常は年末調整にて所得控除を適用することで課税所得が下がり、それぞれの税金も低くなります。
年末調整で適用される各種控除は以下のとおりです。
控除の種類 | 概要 |
---|---|
基礎控除 | 所得のあるすべての人に適用される、最低48万円から受けられる控除 |
配偶者控除/配偶者特別控除 | 配偶者の所得総額が一定以下の場合に適用される控除 |
扶養控除 | 子供などの扶養者がいる場合に適用される控除 |
社会保険料控除 | 健康保険や厚生年金などの社会保険料を支払った場合に適用される控除 |
生命保険料控除 | 生命保険や介護保険などの保険料を支払った場合に適用される控除 |
地震保険料控除 | 地震保険の保険料を支払った場合に適用される控除 |
住宅借入金等特別控除 | 一定の条件下で住宅ローンを組んだ場合に適用される控除 |
年末調整は払いすぎた所得税を調整するだけでなく、所得控除を正しく適用することで税金の負担を抑えているのです。
ふるさと納税のワンストップ特例の対象外になる
従業員がふるさと納税を行なっている場合、年末調整をしなければワンストップ特例が活用できません。
ふるさと納税は自治体への寄附金であり、実施すれば寄附金控除が適用されます。控除の適用には確定申告が必要ですが、年末調整を受ける人に関してのみ、確定申告なしで控除が受けられるワンストップ特例が使えるのです。
しかし、年末調整を行わない場合にはワンストップ特例が適用されず、従業員自身で確定申告しなければなりません。
従業員側に確定申告の手間がかかる
年末調整が未実施であれば、従業員自らによる確定申告が必要です。所得や控除の計算などをすべて自分でしなければならず、大きな手間が発生します。
年末調整も確定申告もしない場合、所得税の還付や控除の適用を受けられません。年末調整が未実施の中で還付や控除を受けるには、個人での確定申告をせざるを得ないのです。
所得が一定以上あれば、年末調整か確定申告のどちらかが求められます。従業員の負担軽減はもとより、会社の義務として年末調整を実施しましょう。
年末調整をする?しない?条件別に解説
年末調整は基本的にしなくてはならないものですが、例外的に必要のないケースもあります。
年末調整をすべき人と、しなくても問題ない代表的なケースをピックアップしました。
年末調整をしないといけない人
以下の条件を満たす従業員については会社が年末調整をしなくてはならないので、把握しておきましょう。
-
- 当年12月31日時点で会社に雇用されている人
- 扶養控除等申告書を提出している人
アルバイトやパートで働く人でも、上記の条件に当てはまる場合は勤務先での年末調整が必要です。
アルバイトやパートを2社以上掛け持ちしている場合は、給与の多い会社で年末調整を受ける必要があります。
上記以外に、従業員の退職などで年の途中に年末調整の必要が生じる場合もあります。特殊なケースで年末調整しなければならない人の条件は、国税庁のホームページを確認しましょう。
年末調整をしなくてもいい人
以下のような条件の人は、会社で年末調整をする必要がない、あるいはできない人です。
-
- その年の給与が2,000万円を超える人
- 災害減免法が適用される人
- 日雇い労働者や業務委託契約者にあたる人
- 中途採用で、前の会社から源泉徴収票をもらっていない人
など
以上の人は、ケースにもよりますが、自ら確定申告を行う必要があります。
【事業者・従業員】年末調整でしないといけないこと
年末調整は、事業者と給与所得者の双方にやるべきことがあります。どちらか片方だけの手続きでは進行できません。
事業者と給与所得者、それぞれのやるべきことを知り、年末調整を円滑に進めていきましょう。
事業者側がやるべき年末調整の手続きは?
事業者側が行うべき年末調整の手続きは、主に以下のとおりです。
-
- 申告書の準備、配布、回収
- 申告書の記載内容の確認、添付資料との照合
- 所得税の年税額の計算
- 所得税の還付、徴収
- 源泉徴収票の発行
事業者側は、必要な書類を従業員に記入してもらい、その照合や所得税の計算を行います。
各従業員が本来納めるべき所得税がわかったら、それぞれ還付または追加徴収を行いましょう。さらに源泉徴収票も発行し、従業員に配布します。
従業員側がやるべき年末調整の手続きは?
給与所得者側である従業員は、主に次の手続きの準備を進めます。
-
- 各申告書への記載
- 各申告書と控除証明書の提出
給与所得者は、年末調整に必要な申告書への記載を行います。配偶者や保険の有無など個々人で書くべき欄が変わるため、申告書をよく確認しましょう。保険料控除を受けるには、保険会社から発行される証明書も必要です。
多くの場合は期限が定められることとなるので、会社から通達された期日を守るようにしましょう。
事業者・従業員が作成しないといけない書類は?
年末調整には多くの申告書類が必要となり、事業者・従業員ともに関わることになります。
両者が準備すべき書類について、以下にまとめました。
申告書の種類 | 事業者 | 従業員 |
---|---|---|
基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書 ※ | 準備、配布、回収、確認をする | 必要欄に記入する |
扶養控除等申告書 | 準備、配布、回収、確認をする | 必要欄に記入する |
保険料控除申告書 | 準備、配布、回収、確認をする | 必要欄に記入する |
住宅借入金等特別控除申告書 | 回収、確認をする | 準備、必要欄に記入する |
各種控除証明書 | 回収、確認をする | 準備、添付する |
※令和6年度分については「年末調整に係る定額減税のための申告書」としても扱われます。
事業者側が行うのは、各種書類の準備と従業員への配布、回収、確認です。記載内容に誤りや漏れがないかチェックし、所得税の計算に活用します。
従業員側は配布された書類の記入がメインですが、住宅ローン控除申告書や各種保険料の控除証明書は自身で準備が必要です。いずれも管轄の場所から送られてくるので、大切に保管しておきましょう。
年末調整を忘れてしまった場合の対処法
もし、年末調整の手続きを忘れてしまった場合は、どうすればよいのでしょうか。
確定申告を行う
年末調整を忘れてしまった場合は、従業員が個々に確定申告を行わなければなりません。紙書類で作成するか、電子申告もできます。
確定申告書のほかに、以下のような書類が必要です。
-
- マイナンバーカードか、マイナンバーを確認できる書類と住民票の写し・運転免許証・健康保険証などの本人確認書類を各1つ
- 銀行口座の通帳
- 所得が証明できる源泉徴収票(税務署で申告する場合)
- 所得控除を受けるために必要な各種証明書
還付申告を行う
年末調整で所得控除や所得税の還付を受けられなかった場合、還付申告を行うことが可能です。
もともとは、確定申告が義務付けられていない人に対して設けられた制度であり、確定申告と同じ手順を踏んで手続きを行います。
還付申告は、その年から5年以内に行えば問題ありません。
年末調整を円滑に行うポイントは?
本来すべき年末調整をしないと多くの問題が発生しますが、作業に手間がかかるのも事実です。
できるだけ円滑に年末調整を行うためのポイントを以下にまとめました。
年末調整を電子化する
年末調整を電子化すると、従業員と事業者の双方で大きなメリットが得られます。
従業員は国税庁の「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」を使うことで記入の手間が省けるほか、控除額の計算が自動化されるのでミス抑制にも効果的です。
入力漏れといった不備のチェックも自動的に行われるので、事業者側が確認する必要がありません。電子データは書類のような紛失・汚損リスクが少なく、管理にかかるコストも低下します。
電子化すれば年末調整の時短や効率化に伴い、コア業務に割く時間も拡大するでしょう。
会計ソフトなどの電子ツールを活用する
年末調整には、給与や税金の計算を効率化できる電子ツールの活用がおすすめです。年末調整の手続きを容易にするのはもちろん、日常の経理業務にも活かせます。
年税額の計算ミスといったヒューマンエラーが減少し、正確な納税の実現にも寄与するでしょう。
会計ソフトは自社に合ったものを第一に、導入や維持にかかるコストとあわせて検討が必要です。
年末調整を代行してくれるサービスを使う
煩雑な年末調整の手続きを代行してくれるサービスがあります。代行サービスでは、記載の済んだ申告書の確認作業や、従業員ごとの年税額の算出などを依頼可能です。
所得税の過不足がないかの計算も任せられるほか、源泉徴収票の作成まで担ってくれます。
年末調整の手続きは1年に1回であるため、担当者であっても慣れにくいことが予想されるでしょう。代行サービスにスポット業務として依頼すれば、年末調整に手間を割くことなく、他の必要な作業に集中できるのです。
依頼報酬を踏まえたうえで検討し、年末調整をスムーズにする手段として利用してください。
計画を立てたうえで年末調整を進める
年末調整は場当たり的に行うのではなく、あらかじめ計画を立てて進めるのが理想です。提出期日があるため、逆算して計画的に手続きを進行しましょう。
担当者が把握しておくことはもちろん、従業員にも周知させ、期限内に申告書を記載してもらう必要があります。
可能であれば、申告書の記載手順を記したマニュアルを整備しておくとスムーズです。修正があると従業員に差し戻す手間が発生するため、そのリスクを低減する手段として検討しましょう。
まとめ・年末調整をしないリスクを理解して実施しよう
年末調整を行わなければ、従業員の負担が増えるだけではなく、会社側にも罰則が科されます。
年末調整担当者は、多忙や作業の煩雑さで作業がおろそかになってしまう場合もあるかもしれませんが、そのようなケースを防ぐのが作業の電子化です。電子化に対応したツールをうまく利用して、スムーズに業務を行うようおすすめします。
年末調整をしないことで発生する様々なリスクを避けるためにも、確実に手続きを行いましょう。
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(編集:創業手帳編集部)