【2022年10月から】労働者協同組合とは?設立のメリットや問題点などを解説

創業手帳

地域社会に貢献する新しい働き方が始まります!NPOや企業組合に変わるスタンダードになるかもしれません

2020年12月4日に労働者協同組合法が成立し、持続可能な地域づくりを意識した新しい法人格「労働者協同組合」が設立できるようになります。地域社会に貢献する事業をしたいとお考えの方などは、同法が施行される2022年10月1月までに、一度施行内容を確認しておくのがおすすめです。

そこで今回は労働者協同組合について、概要や目的、ほかの法人格との違い、メリット・デメリットなどを解説します。設立手順や事業事例など、実践的な内容も含めて総合的に取り上げるので、労働者協同組合に関心のある方はぜひご一読ください。

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労働者協同組合とは


労働者協同組合とは、持続可能で活力ある地域社会づくりを目的として、3人以上で資金を出し合い、話し合いながら自分たち自身で働く新しい法人です。2022年10月1日に施行される労働者協同組合法が定める以下3つの基本原理に則って設立・運営されます。

  • 組合員が出資すること
  • その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること
  • 組合員が組合の行う事業に従事すること

労働者協同組合は、労働者派遣事業を除き、あらゆる事業を実施することが可能です。訪問介護などの介護・福祉関連、学童保育などの子育て関連、農産物・加工品販売所の運営などの地域づくり関連をはじめ、地域の需要に応えるためのさまざまことに挑戦できます。ただし、営利を目的とした事業や特定の政党のための利用は認められません。

なお、組合員は組合と労働契約を結びます。剰余金の配当は、出資額を基準にした出資配当ではなく、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行われる決まりです。

労働者協同組合法の背景

少子高齢化が進む昨今、人口が減少する地域社会では、介護・福祉や子育て支援、地域づくりをはじめとするさまざまな分野で、多様なニーズが生じています。こうしたニーズに応える担い手になろうと事業を興す方々は、NPOや企業組合、もしくは法人格を持たない任意団体として活動することが多いです。

しかし、既存の法人格や任意団体の枠組みでは、出資ができない、営利法人である、財産が個人名義となってしまうなどの問題もあり、地域に貢献しようと頑張る人たちが思ったように活動できないケースも存在していました。そこで、地域社会に貢献する事業を行いやすい新しい法人格の枠組みを作ろうと、労働者協同組合法ができたのです。

ちなみに労働者協同組合法の第1条では、同法設立の背景が「各人が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就労する機会が必ずしも十分に確保されていない現状等」と表現されています。

労働者協同組合法の目的

労働者協同組合法の目的は、新しい法人格の枠組みを作り、地域に貢献しようと事業に取り組む方々がもっと自由に柔軟に働ける状況を実現することです。

同法第1条では、「多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、もって持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とする」と書かれています。

株式会社やNPOなど他の法人格との違いは

新しい法人格である労働者協同組合は、株式会社やNPOなど、既存の法人格の枠組みとはさまざまな点で異なります。以下では、いくつかの法人格と労働者協同組合を比較するので、参考にしてください。

株式会社と労働者協同組合との違い

株式会社と労働者協同組合では、出資・経営・労働のあり方が違います。株主が出資し、経営者が事業方針を定め、労働者が事業に従事する株式会社に対し、出資・経営・労働のすべてを組合員自身で行うのが労働者協同組合です。

株式会社では株主や経営者の意向があるため、働く人たちが自分たちの好きなように事業を進めることはできません。一方で働く人自らが出資する労働者協同組合なら、自分たちで意見を出し合って事業のあり方を自由に決められます

また株式会社は利益や事業拡大を目指す営利法人なのに対し、労働者協同組合は非営利法人であることも相違点です。労働者協同組合は、地域社会のニーズに応えるために活動します。

NPOと労働者協同組合との違い

NPOも社会貢献活動を行う非営利法人ですが、労働者協同組合とは異なり、NPOでは出資が認められていません。組合員たちでお金を出し合うことはできず、寄付金や補助金、融資などによって資金を集めます。

またNPOは必要書類を所轄官庁に提出して認証を得ないと設立できない一方で、労働者協同組合は法律に定める基準を満たした時点で、許可・認可を待たずに自然と設立することが可能※です。ちなみにNPOのような設立の形式を「認証主義」、労働者協同組合のような形式を「準則主義」といいます。

そのほか、NPOは設立時に10人以上の組合員が必要なのに対し、労働者協同組合は3人以上で設立できるといった違いもあります。以上より、NPOよりも労働者協同組合のほうが、活動資金を集めやすく、設立もしやすいといえるでしょう。

※登記や届出は必要

企業組合と労働者協同組合との違い

企業組合も組合員が出資し労働する組織ですが、労働者協同組合とは違って企業組合は営利法人です。企業組合では、個人や法人が集まって創業し、利益や事業の拡大を目的に活動します。

また組合員自身が事業に従事する労働者協同組合とは違い、企業組合では出資するだけで働かない組合員も認められており、組合員以外の従業員を雇用することも可能※です。加えて、企業組合の事業に制限はなく、労働者協同組合ではできない労働者派遣事業等を営むこともできます。

なお、「準則主義」の労働者協同組合に対して企業組合は「認可主義」であり、設立するには行政庁による認可が必要です。

※労働者協同組合でも、一部、労働契約を結ばない理事や組合員以外の従業員が認められます。ただし、企業組合よりも認められる割合は少ないです。

農協や生協と労働者協同組合との違い

農協・生協と労働者協同組合が違うのは、労働者協同組合が「協働労働」を目的で設立されることです。農協や生協も協同組合であり、組合員が出資して組織を作る点では共通していますが、農協・生協は農業従事者や消費者にいろいろな恩恵を与えるために存在しています。

農協や生協に加入する目的は、例えば、農業技術の指導を受けるためやコープの宅配サービスを利用するためであって、必ずしも協同組合で働くためとは限りません。事実、農協・生協で働く人は事務所や店舗で雇用された人など、組合員(出資者)でない場合もたくさんあります

一方で労働者協同組合に加入する主な目的は、地域社会に貢献する事業に従事するためです。「自ら出資し自ら働く」、もしくは「働くために出資する」ことが、労働者協同組合ならではの特徴といえます。

労働者協同組合のメリット・デメリット


ここでは労働者協同組合のメリット・デメリットを紹介します。とくに設立をご検討される場合は、両方を理解したうえで判断を行うのがおすすめです。

メリット

労働者協同組合には、以下のようなメリットがあります。

  • 主体的かつ自由度の高い働き方ができる
  • 3人以上の発起人がいれば簡単に作れる
  • 地方自治体と連携した事業も行いやすい

労働者協同組合なら、株主や経営者の意向に左右されることなく、自分たちで意見を出し合って主体的にのびのびと働くことができます。またNPOとは異なり出資ができるため、資金が集まらないことで事業を制約されることも少ないといえるでしょう。

加えて、労働者協同組合は、発起人が3人以上いれば簡単に作れます。設立にあたって所轄官庁から許認可をもらう必要はなく、より気軽に事業を立ち上げることが可能です。

さらに法人格を持つことで地方自治体と業務委託契約を結べるようになり、自治体と連携した事業が行いやすくなるという魅力もあります。そのほか、シニア世代に活躍の場を提供したり、人手不足の産業の担い手を増やすことで後継者問題を解消したりといった効果も期待されています。

デメリット

一方で労働者協同組合には、以下のようなデメリット・問題点も存在します。

  • 労働条件が悪化するかもしれない
  • 合意形成がうまくいかない可能性
  • いわゆる「名ばかり理事」の懸念も

出資・経営・労働が一体となった労働者協同組合では、働くのもお金を出すのも自分たちなので、低賃金労働が起きやすい構造だといえます。労働契約によって最低賃金は確保されますが、とくに事業が軌道に乗らないうちは、出資者・経営者の視点が強すぎるあまり、健全な労働条件の整備が疎かになってしまうこともあるでしょう。

また労働者協同組合では、組合員が自分たちで意見を出し合い、事業を進めるため、合意形成がうまくいかない可能性があることも懸念材料です。意見がなかなかまとまらず、決断が遅れて事業に悪影響をきたす恐れもあります

さらに労働者協同組合法によると、理事の職務のみを行う組合員や監事である組合員とは、労働契約を締結する必要がありません。そのため、専任理事や監事としておきながら、実際は労働契約なしに事業に従事させる「名ばかり理事」の問題も懸念されています。

労働者協同組合はどんな事業が向いている?


労働者協同組合では、労働者派遣事業を除いてあらゆる事業が可能ですが、とくに以下5分野の事業が向いているといえます。

  • 共生ケア(高齢者・障がい者ケア)
  • 子ども・子育ち
  • ともにはたらく(若者支援・自立就労)
  • 建物管理・物流(協同組合間連携)
  • 地域生活産業(農業・食事業・林業・再生可能エネルギー)

上記5つは、労働者協同組合の全国組織である日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)が主に行っている事業分野であり、労働者協同組合との相性が良いです。

また労働者協同組合を取り上げた厚生労働省の特設ページでは、事業の例として「介護・福祉関連(訪問介護等)」「子育て関連(学童保育等)」「地域作り関連(農産物加工品販売所等の拠点整備等)」の3つが挙げられています。

設立手順について

労働者協同組合の設立手順は以下の通りです。

  • 3人以上の発起人を集める:組合員になる意思のある3人以上を見つける
  • 必要書面の作成:設立に必要な各種書類(後述)を準備する
  • 創立総会の公告:総会の2週間前までに日時・場所・定款を公告
  • 創立総会:組合員の半数以上が出席し、定款の承認や収支予算の議決、役員選挙などを行う
  • 出資の払い込み:理事が組合員に速やかな第1回の払い込みをしてもらう(出資一口につき1/4以上)
  • 設立の登記:必要書類を提示・添付し、法務局で手続き。
  • 設立の届出:登記後2週間以内に、行政庁へ組合成立の届出

基本的には3人以上を集めて、登記のための準備をし、法務局で設立手続きを行うだけなので、NPOや企業組合などに比べてかなり簡単に設立できます。

作成すべき必要書類一覧

労働者協同組合の設立には、以下に列挙する各種書類の作成準備が必要です。

  • 定款
  • 事業計画書
  • 収支予算
  • 役員の氏名及び住所
  • 役員となる者の印鑑証明、本人証明書等

なお、定款や事業計画書については、各都道府県における中小企業団体中央会のホームページなどで見本を見ることができます

よくある質問

以下では、労働者協同組合に関するよくある質問にお答えします。

設立時の資本金は必要ですか?

労働者協同組合の設立時には、各組合員による出資金が必要です。出資金は、株式会社の資本金に該当します。

組合員それぞれが一口以上出資し、必要な金額は事業によってさまざまです。

理事及び、監事は誰が選ぶのですか?

理事や監事を選ぶのは組合員です。総会で1人1票の無記名投票による選挙が行われます

「理事の任期は2年以内の定款で定める期間、監事の任期は4年以内の定款で定める期間」と決まっています。

企業組合またはNPOから変更は可能?

労働者協同組合法の施行から3年以内に限り、企業組合やNPOから労働者協同組合に変更することが可能です。変更する場合は組織変更計画を作成し、総会の議決によって承認を得てください。

なお、労働者協同組合は「準則主義」であり、変更にあたって特別な許認可等を得る必要はありません。出資の払い込みや行政庁への届出など、所定の手続きを済ませれば簡単に変更できます。

労働者協同組合と労働組合の違いは?

名前はよく似ていますが、労働者協同組合と労働組合はまったく異なります

上述の通り、労働者協同組合は、地域社会に貢献する事業の担い手が働きやすいように、新たに設けられた法人格の枠組みです。組合員が出資し、意見を出し合いながら自ら事業に従事します。

一方で労働組合は、労働条件の改善や経済的地位の向上などを目的に、労働者が団結して作る団体です。主に会社に対して、賃金引き上げや労働時間の縮減といった要求・交渉を行います。

事例紹介


最後に労働者協同組合に関する事例をいくつか紹介します。なお、2022年7月現在、労働者協同組合法はまだ施行されていないため、以下は労働者協同組合の設立を検討中の事業や労働者協同組合に向いている事業の事例です。

「農と食」で実現するこだわりのデイサービス

埼玉県ふじみ野市にある地域密着型デイサービスの団体は、「自分の親を預けたいと思えるデイサービス」を理念に、農業と食事にこだわった介護事業を展開しています。

施設の周りには畑が広がっており、そこで収穫した野菜を使って自慢のランチを提供。農作業や収穫物の調理など、機能訓練にも畑を生かします

また施設の屋根にはソーラーパネルを設置し、エネルギー消費の観点からも持続可能な地域づくりを目指しています。

不登校・ひきこもり経験者が行う映像・デザイン制作

東京都新宿区で映像制作やパンフレット・チラシ制作を営む株式会社では、不登校・ひきこもりを経験した若者たちが働いています。自分たちが傷づいた経験をもとに、皆で意見を出し合い、お互いにフォローしながら、無理のない働き方を実現しているそうです。

また利益を重視するのではなく、依頼主との関係を大事にし、公共機関やマイノリティ団体から高い評価を受けています。定住先を探す難民に日本を映像で紹介したり、視覚障がい者団体のパンフレット制作を請け負ったり、公共性の高い案件にも定評があります。

現在、皆で意見を出し合って、試行錯誤しながら成長してきた過去を鑑み、「自分たちの目指す働き方に近いな」と労働者協同組合の設立を検討中です。

障がいのある方が河原の竹でストローづくり

岩手県盛岡市で精神障害の方などに就労支援を行う事業所では、竹を使ったストロー作りが行われています。精神障がい者は静かな手作業に適性があると発見したことから、河原で竹を取ってきてストローを製作・販売することを思いついたそうです。

この竹のストロー作りは、障がいのある方に無理なく働ける場所を提供するだけでなく、脱プラスチックのエコな取り組みにもなっています。また山の生態系を壊すともいわれている竹を活用することで、地域の自然環境の保護にも貢献しているといえるでしょう。

同事業所は、「誰もが居場所を見つけて、輝くことができる」という理念を胸に、ほかにも特別支援学校に通う児童に対する送迎や学童保育のサービスなども提供しています。

まとめ

労働者協同組合とは、組合員が出資し、意見を出し合って合意を形成しながら、自らが事業に従事する新しい法人格の枠組みです。地域のニーズに応える事業をするうえで、出資ができない・営利法人である・自由な意思決定が難しいなど、既存の法人格が持っていた問題点が克服されています。

労働者協同組合法が施行し、労働者協同組合が設立できるようになるのは2022年10月1日からです。地域社会に貢献する事業がしたいとお考えの方は、これを機会にぜひ一度労働者協同組合の設立をご検討ください。

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(編集:創業手帳編集部)

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