Sun Asterisk 小林泰平|グローバルな開発体制でサービス開発する際のポイントとは?
世界中の価値創造のインフラを作る。デジタル・クリエイティブスタジオ Sun Asterisk
世界中のデジタル人材が協力しあってサービス開発するデジタル・クリエイティブスタジオ、Sun Asterisk。同社はベトナムのデジタル人材と協働してサービス開発するところから事業を始め、現在ではベトナム以外にもさまざまな海外デジタル人材と協働して、グローバルな開発体制を有し、さまざまな企業のデジタルサービス開発を牽引されています。
今回は、そんなグローバル開発体制を有するSun Asteriskの小林泰平氏に、グローバルに各国のデジタル人材と協働しながら開発する際のポイントなどを創業手帳の大久保が聞きました。
早稲田実業高校を中退。その後、ITエンジニアとなりソフトウェア開発会社に就職。ソーシャルアプリの開発プロジェクトにて中国、ベトナムのエンジニアとのグローバル開発を経験。アジアの若い才能が未来を創っていくと確信し、2012年7月よりFramgia(現Sun*)の立ち上げのため、ベトナムに移住しCOOとして従事。2017年12月より同社の代表に就任。2020年7月にグロース市場へ上場。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
多数の新規事業開発を支援する
大久保:どのような事業を展開されているのでしょうか。
小林:クリエイティブ、ビジネス、テック、この3つのそれぞれに長けた人材を集めて、これらの人材によってスタートアップを中心とした企業のサービス開発や新規事業開発を手がけています。簡潔にいえば、「アイデアを形にするためのデジタル・クリエイティブスタジオ」です。
大久保:なるほど。どのようなアイデアでも構わない、というスタンスなのでしょうか。
小林:そうですね。スタートアップのサービス開発も手掛ければ、大手企業の新規事業開発をアイデア出しから支援することもあります。基本的に、新しい価値創造に関することであれば何でもやっています。
大手企業の新規事業も広い意味での「スタートアップ」として捉えたときに、スタートアップを始める際の「人」「コト(アイデア)」「お金」など必要になるものすべてを支援できる企業を目指しています。
スタートアップを始めるにあたり、障害となるあらゆるモノを除外して、価値創造に集中できる環境を提供するのが弊社の事業ですね。
大久保:それぞれの企業ごとに新しいサービスや事業開発をするにしても、開発においてはある程度共通するやり方やノウハウはあるのでしょうか。
小林:新規事業づくりやサービス開発のノウハウはどんどん蓄積されていっていますね。弊社には、さまざまな業種のサービス開発の汎用的な作り方に関する知見があります。
大久保:クライアントにはスタートアップと大手企業の両方いるということですが、それぞれの割合はどの程度なのでしょうか。
小林:4分の1が大手企業で、残り4分の3はスタートアップ、というイメージでしょうか。ただ、大手企業の場合ですと、アイデアづくりの段階からお手伝いしたりすることもありますし、複数プロジェクトが走っていることもありますので、案件の規模感で言えば半々くらいの感覚です。
創業時からベトナムを開発拠点に選んだ理由
大久保:どのような経緯で創業されたのでしょうか。
小林:エンジニアとして2010年に就職した会社で出会ったクライアントが、今の共同創業者です。その共同創業者と話していたときに、「ITを使ったビジネスづくりをするために毎回ゼロから開発チームを組成するのが大変」「毎回外注するから、会社にビジネスやサービスを成長させるためのノウハウが溜まっていかない」という話になりました。
そこで、「ITを使った事業を同時多発的にバンバン立ち上げる、スタートアップスタジオのような会社を創ったらいいじゃないか」ということで、2012年に当社を創業しました。
大久保:ということは、創業当初からベトナムで開発されていたのですか。
小林:そうです。最初からベトナムで開発していました。
スタートアップを創るにあたっては、ビジネスとクリエイティブとテック、この3つの領域で人材が必要になります。とりわけ多くの人材が必要になるのはテック領域、つまりエンジニアです。
特に、ソーシャルゲームの開発などにおいては、クリエイティブ領域についても理解があるエンジニアが必要になります。そのため、クリエイティブなエンジニアチームをいかに組成するかが勝負です。
創業当初の日本では、そうしたスタートアップを立ち上げるに相応しいエンジニアに恵まれていませんでした。そこで「海外の若いエンジニアを育てよう」と決めたのです。
大久保:なるほど。海外で新サービス開発に長けたエンジニアを育てようと考えられたわけですね。なぜベトナムを選んだのでしょうか。
小林:次の3つの要素がある国がいいなと思ったんです。まず、人口が多いこと。理系の教育に国として力を入れていること。そして、理系のトップ大学を卒業した人がエンジニアを目指す土壌があること。この3つを備えている国がどこかな、と考えた結果、ベトナムに決めました。
優秀な人材がいるかどうかは確率論的な部分もあるので、純粋に人口が多いベトナムであれば、優秀なエンジニアを育てられる可能性も高い、と思ったんです。
グローバル開発のコミュニケーションのコツ
大久保:グローバル開発をするにあたり、言語の壁や習慣の壁などがあってコミュニケーションは日本人同士のように上手くいかないケースが多いと聞きます。上手くコミュニケーションを取るためのポイントを教えてください。
小林:言語や習慣が違う人とコミュニケーションを取るからといって、コミュニケーションのポイントは基本的に変わりません。
会話をしながら共通言語を探っていったり、主語述語の関係をしっかりさせたりなど、日本人同士であってもやっていることを、海外の人に対してもやればいいだけです。
逆に、海外の人とのコミュニケーションになるからといって、そうした当たり前の気遣いを忘れてしまう方も多いんです。
大久保:確かに、海外の人になると日本の人に対してやっている気遣いを忘れてしまう、ということはあるかもしれません。
小林:別に特殊な方法があるわけではなくて、普通に気遣えるかどうかの問題ですね。
例えば、コロナ禍の前にはリモートだけで仕事をして一切顔を合わせないということはなかなかなかったですよね。ところがこれがグローバル開発になると、一度も会うことなしにいきなり開発を始めてしまったりする。それがよくないですよね。
大久保:なるほど。
小林:よく聞きますが、「外国人だからこう」みたいにカテゴライズするのは日本人の良くないところだと思います。それぞれの人に合わせた対応やコミュニケーションをする、それを心がけるべきだと考えています。
例えば耳の聞こえない人とコミュニケーションする場合はチャットや手話でコミュニケーションするとか、そういったレベルの話です。カテゴライズから自由になって、しっかりと一人ひとりと向き合うコミュニケーションをすることが大切です。
大久保:逆に、日本人側がやりがちな失敗はありますか。
小林:日本語はすごく曖昧なので、曖昧さをなくすように意識したほうがいいですね。
例えば、「大丈夫」という言葉があるじゃないですか。この「大丈夫」はYesなのかNoなのかわからないですよね。だからなるべく言葉の意味をはっきりさせるよう意識したほうがいいです。
優秀なエンジニアを採用する仕組みづくりが重要
大久保:ベトナム以外にも開発拠点はあるのでしょうか。
小林:フィリピンとカンボジアにそれぞれ拠点があります。
大久保:それぞれの国で優秀なエンジニアを採用できるのはなぜなのでしょうか。
小林:「日本のサービスを作りたい」というエンジニアはそう多くないので、最初は育成するところから始めました。現地の大学と連携して、日本語とITを教えるコースをベトナム、インドネシア、マレーシア、ブラジルにそれぞれ開設しています。コミュニケーションに関する授業も同時に提供しています。
そうした環境づくりをするところから始めることで、ようやく日本語も開発もできる優秀なエンジニアを採用できるんです。
大久保:日本と海外とでは、どれくらいの比率で行き来されているんでしょうか。
小林:コロナ禍の前までは日本5割、ベトナム4割、その他の国1割という程度でした。今は100%日本にいますが、これからはまた海外での活動比率を増やしていく予定です。
インターネットに対する感動が原動力
大久保:高校を中退されたと伺いました。
小林:そうですね。最初の頃は高校に行っていたのですが、音楽に夢中になっていたので中退することにしました。親に家も追い出されて、一時期はホームレスになっていた時期もあります。その後見かねたライブハウスの店長に住み込み付きで雇ってもらってようやく住処を得ました。
それから10年くらいの空白期間があってエンジニアになり、今に至ります。
大久保:波瀾万丈な人生ですね。エンジニアになったのは何か理由があったんですか。
小林:インターネットが昔から好きだったからですね。音楽に夢中になっていた時期も、インターネットを使って音楽を聞いたりするなかで感動していました。
でもインターネットの本当のすごさに気づいたのは、エンジニアになってからです。エンジニアになってシステムを作っているときに、「プログラミングって、すごいな」とあらためて感じました。
みんなが「エラー」と呼んでいるものは、人間の「エラー」ですよね。でも、プログラムは書いた通りにしか動かないので、基本的に「エラー」はあり得ないんです。逆に言えば、書いたことは100%実行してくれる。それがすごいな、と思いました。
コンシューマー向けのアプリを作るようになって、「目の前で書いているコードが世界中の何千万人もの人が使うようになるのか」と思うとすごく感動して。当時、「Facebookのユーザー数がインドの人口を超えた」というニュースを見たときにも、あらためて「インターネットってすごいな」と感動した覚えがあります。
僕がやっていた音楽では、数千万人を感動させるのは難しい。でも、プログラミングとインターネットを掛け合わせればそれができる。そこに醍醐味を感じます。
大久保:エンジニアの文化は世界共通ですしね。
小林:世界のエンジニアがGitHubに集って知恵を出し合ったり、オープンソースを一緒に作ったりと、エンジニア文化はボーダーレスなんですよね。英語ネイティブの人にとっては当たり前の世界観ではあるのですが、冷静に考えてみると、それってめちゃくちゃ面白いな、と感じます。
海外エンジニアが獲得できる最後の時代
大久保:今展開されている国以外にも進出する予定はありますか。
小林:もちろんあります。規模も広げていきたいですし、エンジニアの獲得元の国もベトナムだけにこだわるつもりはありません。今は日本のマーケットに注力していますが、日本経済の先行きを考えると、北米やアジアにも展開していきたいですね。
今、日本では円安が進んでいますが、今後、ASEAN諸国などとの国力の差がますます縮まってくると、採用競争力もそれに比例して低下してくるはずです。そうなると、今採用できている海外のエンジニアも採用できなくなる可能性は非常に高いです。
大久保:どれくらいの期間でそんな未来が訪れますかね。
小林:もう3年〜5年程度の間隔ではないでしょうか。今はまだわざわざ日本に来て就職してくれるエンジニアもいますが、今後はわかりません。
だから今このタイミングが、海外の優秀なエンジニアを獲得したり、現地のエンジニアとパートナーシップを組む最後のチャンスとも言えます。
なので弊社は、海外のコア人材をすでに抱え込むように動いています。弊社だけそうであってもダメなので、他の日本企業にも同じように動いてもらうべく、啓蒙したり、人材を紹介したりもしています。海外のエンジニア人材とパートナーシップを組むのが当たり前の世界観にしていかないと、日本は本格的にヤバいな、と感じているからです。
日本はそもそもIT人材の総数が圧倒的に不足しています。メルカリなどのトップIT企業でさえ、海外に人材を求めにいっているくらいです。だから多くの企業に「もっと海外のエンジニア人材に頼るべき」と言いたいですね。
実際に、調達した資金の大半を注ぎ込んで日本人のCTO人材を高額で雇ったけれども、実はそこまで優秀じゃなく、内部の予算を燃やして結局辞めてしまった、といスタートアップの話はよく聞きます。それは非常にもったいない。それであれば、弊社のサービスを利用して助っ人CTOチームを組成したほうがよっぽどおすすめです。
大久保:最後に、起業する人に向けてメッセージをお願いします。
小林:せっかくこのタイミングで日本で起業するなら、日本の社会課題を解決するようなサービスを展開したらいいかな、と思います。それか、最初から海外の人材と組んで、海外展開を目指すか、ですね。
海外のエンジニア人材と組めば、もっといろいろなモノが作れます。ぜひ海外エンジニアと組む選択肢も頭に入れておいてほしいなと思います。
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(取材協力:
株式会社Sun Asterisk代表取締役 小林 泰平)
(編集: 創業手帳編集部)