千葉県流山市長 井崎義治|人口増加率 5年連続で日本一!人口減少時代に選ばれる自治体になるために
子育て環境を整え、「母になるなら、流山市」のキャッチフレーズで転入超過数、人口増加率とも5年連続全国792市中1位!
世界中で少子高齢化が問題となる中、5年連続で転入超過数、人口増加率ともに全国792市で1位を誇る自治体がある。「駅前送迎保育ステーション」や「マーケティング課」などで話題となった千葉県流山市である。
市長である井崎氏は、アメリカに長年住んで都市計画コンサルタントとして働き、永住権も取得していたという異色の経歴の持ち主。日本に帰国する際に自ら住む場所として選んだ流山市だが、その後、深刻な危機に直面しつつあった市をなんとかしたい、と市長に立候補したという。
多くの人を動かした柔軟な発想力と行動力を持つ井崎氏に、創業手帳代表の大久保が話をうかがった。
千葉県流山市長
1954年、東京都生まれ。1989年より流山市在住。立正大学文学部地理学科卒。サンフランシスコ州立大学大学院人間環境研究科修士課程(地理学専攻)修了。1981年より、Jefferson Associates Inc、1993年からは、Quadrant Consultants Incに勤務。1988年より(株)住信基礎研究所、1989年に帰国し、(株)エース総合研究所を経て、2003年に流山市長就任。2019年より5期目を迎え、現在に至る。趣味は登山、サイクリング、タウンウォッチング、筋トレ。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
人口減少時代に、それでも選ばれる街であるために
大久保:市長になる前は民間でキャリアを積まれていたのですよね。なぜ政治の道に入ったのでしょうか。
井崎:自分のことを政治家というより、自治体の経営者だと思っています。
サンフランシスコ州立大大学院を修了後、現地の会社に就職し、都市計画や地域計画に携わっていました。その後帰国が決まり、アメリカでの住経験も踏まえてどこに住もうかいろいろと考えた結果、緑豊かでつくばエクスプレスの開業が予定されていた流山市を選んだんです。
ただ、流山市は少子高齢化で人口は低迷、場当たり的な都市計画で地域経済は衰退し、財政も悪化していました。街としての流山市に可能性を感じていたからこそ選んだわけですが、その可能性を引き出しカタチにしないと意味がありません。そこで思い切って市長選に出ることにしたのです。
政治家になりたかったわけではなく、あくまでも自分にとっては自分が選んだ街の可能性を形にするための手段が市長だったというわけです。
大久保:移住者には補助金を出すという施策を実行されている自治体もあると思いますが、流山市の場合は補助金で来ているわけではなく、人が来たくなってきているわけですよね。素晴らしいと思います。
井崎:流山市の場合、メインターゲットを共働きの子育て世代と定めたんです。最初は議会でも「メインターゲットなんて決めてしまっていいのか」という声があったり、高齢者の方々に「わたしたちのことも忘れないでよ」と言われたりしましたが、3〜4年経つと街中で子どもたちの声がするようになり、高齢者の方々にも「元気がもらえていいね」と言ってもらえるようになりました。
大久保:もともと流山市の土地的な条件としてはどんな可能性があったのでしょうか。
井崎:良質な住環境はありましたが、都内へのアクセスに時間がかかりました。それまでは専業主婦の子育て世帯が多かった流山市ですが、つくばエクスプレスの開業によって時間が短縮され、共働きの子育て世帯の需要が見込めるようになりました。
他の自治体では補助金、医療費など、現金支給の施策をしているところもありましたが、共働き世帯が欲しいのは現金ではなくて、子育てしながら仕事もできる仕組みや環境なのです。
大久保:具体的にはどのような施策を取られたのでしょうか。
井崎:まずは待機児童をゼロにするために保育園を整備し、平成22年度の17園から、令和4年度に100園になり、12年間で6倍になりました。それでも、大きなマンションができるとすぐに保育園が足りなくなってしまうので、200戸以上のマンションには保育園を併設する条例を制定しました。
また、子どもが別々の保育園に通っている場合や、通勤する方向とは逆の方向に保育園がある場合など「送迎が大変」という苦情の声をいただくことがあり、その対応策として、厚生労働省の通達で「駅前送迎保育ステーション」というシステムを知り、即刻、導入に取りかかりました。
流山おおたかの森駅と南流山駅の駅前ビルに「駅前送迎保育ステーション」を設置し、朝、ここにお子さんを連れてきていただくと、市内の指定保育所への送迎をバスでサポートする仕組みです。このシステムでもっとも重要なのは安全性を確保するということですね。利用者の評価は高く、このサービスがあることで流山市に転入を決められた方も多く、市の行政サービスとして高評価をいただいています。
行政に「マーケティング」という意識を持ち込んだ
大久保:マーケティング課を作られたことでも話題になりましたが、どういった発想で作られたのでしょうか。
井崎:アメリカでは都市計画コンサルタントをしていたんですが、30年~40年前のアメリカの大都市は、人口数十万人クラスであれば、全米に向けて「こんな企業に来て欲しい、こんな人に住んでほしい」というようなターゲッティングやマーケティングの部署がありました。日本に帰国して驚いたのは、日本だとパンフレットを作って売り出すのは工業団地ができたときや駅前再開発で商業ビルが作られたときぐらいですよね。
そうではなくて、恒常的に自治体のよさを発信していくパンフレットやそのための部署が必要と感じたので、マーケティング課を作りました。全国初の試みだったのですが、いまだ全国でひとつしかないのは残念ですね。
大久保:なかなか行政でマーケティングという発想はそれまでなかったのではないですか。
井崎:そうですね。そもそもマーケティングという概念がありませんでしたし、行政には必要ないものとみんなが思っていたようなところがありました。そんな中での設置には、当然抵抗もありました。
ただ、その中で市長として一貫して言っていることは「やるリスク」より「やらないリスク」を考えるようにということです。まずは市の職員の意識改革が必要でしたが、言い続けることで、機会損失などを考えて合理的に動けるようになりました。
大久保:全国を回って起業に関するセミナーをやっているのですが、中には最初から問題に対して向き合わずにあきらめてしまっているような自治体も残念ながらあるように感じます。
井崎:流山市は地味で知名度もあまりなかったので、それが逆によかったですね。思い切っていろいろな施策に取り組んだ結果、独自性をアピールすることができ、海外からも取材が来るようになりました。
市長就任時、市民からの苦情やお叱りの手紙しか来なかったのが、いろいろなことを変えていって、職員への感謝の手紙が届くようになり、国内外さまざまなメディアから取材が来るようになると、職員たちも成功体験を得ることができ、最初は受け身だったのがどんどん自発的に改善や改革を進めていけるようになっています。
大学生のインターンに「役所の職員の方々がこんなに生き生きと、前向きに働いているとは思わなかった」と驚かれたこともあるぐらいです。
大久保:行政というと変化を嫌い、黙々と地味に働いているイメージがどうしてもありますよね。やはり海外からも少子化対策という意味で注目されているのでしょうか。
井崎:12〜13年前に初めてテレビ取材が入り、ここ数年は韓国教育TV、CNA、ロイター、アルジャジーラなどから取材依頼がありました。今や少子高齢化は世界共通の課題だということですね。
ただ、日本における少子高齢化は40年前からわかっていたことでもあります。日本の場合は課題がわかっていても、政治家も学者も話ばかりで解決策の実行をせず、解決しようとしていないことに不満を感じます。
流山市では人口増加率も出生率も増えています。民間企業がやっているように、本気で目標を達成しようという意志があれば達成するための手段を考え、成果を上げることができるはずです。
有権者はシニア世代の方が多いので、高齢者向けの施策が優先されることが多いですが、脱少子高齢化が社会全体にどういう影響を与えるのか示すことが大切だと考えます。
次は「起業するなら、流山市」
大久保:起業を支援する制度にも力を入れていると聞きましたが、どんな制度なのでしょうか。
井崎:1つは平成27年度から流山市で実施している女性向け創業スクールです。自分の能力を生かして何かしたい、流山にいながら何かできないかといった女性向けに開講しており、「将来何かしたい」から「実際に起業を検討している」という方まで幅広い方がいますが、175人の卒業生のうち42人が実際に起業しています。
また行政書士に無料個別相談が行えるのが「創業コンシェルジュ」です。こちらは個別なのでみんなの前では聞きにくいような個人的なことでも気軽に聞いていただけます。
このような支援の仕組みがあり、既に起業しているロールモデルが続々、誕生しています。充実した子育て環境がありますので、起業するならぜひ流山市でとお伝えしたいですね。
大久保:人口増加率という数字でも、順調に結果を出されていると思いますが、今後はどのようなところに力を入れていきたいとお考えですか。
井崎:以前は流山市ってどこにあるの、といわれてしまう街でしたが、人口増加などが話題になり、知名度が上がったことについては素直に嬉しいですね。
ただ、人口増加については社会的なインフラを整え、働こうと思っても諦めなくていい街、自己実現ができる街といった目標を大切に各施策を進めてきた結果であり、快適な都市としての適正な人口密度というものがあるため、人口が単純にこのまま増加し続ければいいとは思っていません。
これからも少子高齢化においても人口が減らない流山市、世界的に知られる、環境が整った良質な街を目指していきたいですね。
(編集:創業手帳編集部)
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