TCFDとは?気候変動リスクに関する情報の開示内容と重要性を解説
これからの会社経営には、世界中で注目されているSDGsの一環として「TCFD提言」が重要になってきます
2015年9月に行われた国連サミットで、計17の目標を掲げた「SDGs」が採択されました。それ以降、世界中の企業が環境問題への取り組みを、これまで以上に推進しています。
そのSDGsの一環として企業ができるものに、気候変動リスクの情報開示をする「TCFD提言」があります。
2022年4月に行われる東証の市場再編で、最上位のプライム市場に上場する企業にはTCFD提言が義務付けられます。
そこで本記事では、このTCFD提言に関する詳しい内容とTCFD提言の重要性について解説していきます。
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この記事の目次
TCFDとは?
まずは、TCFDがどういうものかを簡単に解説します。
TCFDは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略称で、意味は気候関連財務情報開示タスクフォースです。
気候変動が世界経済のリスクになっていることに伴い、気候変動によって企業経営にどのような影響を及ぼすのかという情報が、特に金融市場で(投資家から)必要とされています。そのため、企業が投資家などに対してTCFD提言をするように促すために設立されました。
つまりTCFDは、気候変動による経営リスクを含めた気候関連の財務情報を、企業からもっと積極的に開示させて、金融市場の透明性と安全性に取り組んでいます。
このTCFD提言により情報が開示されることで、投資家にとってはより安全かつリターンのある投資を、企業は投資家からの投資機会を得やすくなります。
TCFD提言の内容とメリットなどの詳細は後述します。
TCFD誕生の経緯にパリ協定がある
TCFDの誕生には、パリ協定があります。
パリ協定とは、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定のことで、2015年12月12日に採択されました。このパリ協定の目的は、世界中の平均気温の上昇を、産業革命前と比較して2℃未満に抑えることです。さらに加えて、1.5℃未満に抑えることも一緒に目指しています。
パリ協定が採択された年には、持続可能な17の開発目標というSDGsも採択されています。
そのため温暖化に繋がる行為は極力しないようにして、温暖化を止めるための活動を団体や学校レベルで進めるようになっています。それらの一環として、TCFDが設立されました。
企業はTCFD提言をして、環境問題などの気候リスクを意識した経営をします。そして投資家は、より環境にやさしいプロダクト・サービスを提供する企業に投資することで長期的に、環境問題への改善に繋がげていくことが期待されています。
TCFDで必要な開示情報とは?
TCFD提言では、企業が気候リスクに関する情報開示をすることを解説しました。
そのTCFD提言の開示に必要なのは、主に4つの情報です。
- ガバナンスについて
- 戦略について
- リスク管理について
- 指標と目標について
上記の4つの要素を開示しなければいけません。
それぞれ詳しく解説していきます。
ガバナンスについて
気候関連による経営リスクと、機会(気候変動が起きた際の対応)などの企業・組織のガバナンスについて開示します。
TCFDでは、気候変動の影響を経営戦略などに反映させるために、役員などの経営陣を含めた体制が必要だとしています。
例えば、TCFDに賛同して「TCFD対策をするためのチームを結成」をした、環境目標などの方針を「取締役会で審議・決議する」というような組織の体制などを分かりやすく示す必要があります。
戦略について
気候変動による事業や財務などの影響リスクを短期・中期・長期に分けて情報開示して説明します。
先述したとおり、パリ協定で世界全体の平均気温の上昇を、産業革命以前と比較して2℃よりも低く保つことが目標にされました。さらに、可能な限り1.5℃に抑える努力を追求するとされています。
これらの2℃以下シナリオを含めた様々な気候関連シナリオに基づいた検討、組織の戦略のレジリエンス(上手くいった結果)などを説明する必要があります。
リスク管理について
リスク管理は、気候変動によって起こる問題やリスクを把握して、管理します。
具体的には、以下の内容を開示します。
- リスクをどのように特定(把握)、評価して低減(改善)するか
- リスク管理や優先順位について
どのような方法で気候変動リスクを把握するのかなど具体的なプロセスも含めた情報開示が求められます。
例えば、政府が脱炭素(二酸化炭素の排出を抑制)を促すために炭素税を導入したり、課税水準を上げるとします。製造業の場合であれば、どれくらいのコスト(炭素税)がかかるのか、材料の変更に伴う材料コストがどうなるかなどを想定して、リスクと優先順位などを示す必要があります。
指標と目標について
気候変動のリスクや機会に対して、どのような指標(データ)で判断しているのか、そしてリスクに対してどのような目標を立てているかを開示します。
日本政府は「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」という方針を発表しました。その目標に対して、自社ではどのような取り組み・目標を持っているかなどを示します。
例えば、現時点(仮に2020年とする)の二酸化炭素の排出量を、2030年までに40%削減、2040年までに90%削減するなどの目標を設定して、その目標達成のための対策を記載します。
TCFDに対応した企業の事例
TCFDの情報の開示内容などを解説しましたが、具体的なことが分かりにくいと思うので、実際にTCFDに対応させた企業の事例を紹介します。
今回紹介するのは、東証一部に上場している味の素(株)です。
まずは、味の素グループがどのようなことをしている企業なのかも紹介します。
味の素グループは、アミノ酸のはたらきを利用して食習慣や高齢化に伴う課題に対して、食と健康の課題解決企業になることを目指しています。企業の規模としては、2021年3月期の売上高が約1兆700億円という大きさです。
そんな味の素グループは2011年10月から11月にかけて、タイで発生した大洪水によって現地にある5つの製造拠点が被災しました。その結果、自社生産ができなくなる事態が起こっています。
これらの被害を含めた気候変動リスクをもとに、以下の取り組みをしています。
味の素が行った取り組み
味の素グループは、まず2019年5月にTCFD提言に賛同して、TCFDコンソーシアムへの参加も表明しました。
TCFDコンソーシアムはTCFD提言で開示した情報を、金融機関等の適切な投資判断に繋げる取り組みの講義を行う組織です。
TCFDに賛同してからは以下のような取り組みを行っています。
- TCFDに関する対応を検討するチーム作成
- シナリオ分析として、洪水による工場設備の被害などを把握
- 2018年度は東南アジアを対象として、分析を実施
- 2019年はグループ全体の全拠点を対象として、分析を実施
味の素グループでは、社内で水リスク対策を検討していたチームを、新たにTCFD対応を検討するためのチームに役割を変更させたようです。
分析結果と期待される効果
リスクやシナリオ分析としては、洪水による工場設備の被害や物流停止だけでなく、渇水による工場の操業停止、干ばつによる原料の調達不全、台風の被害などを想定しました。
また、2019年に行ったシナリオ分析の結果、平均気温が2℃上昇した場合でも味の素(株)が調達する原材料への影響・需要の変化は比較的小さく、利益への影響は大きくないことが分かっています。
しかし、その一方で脱炭素社会に向けた、炭素税の増加によって約80〜100億円の財務リスクがあるということが判明しました。このように味の素では、リスクになり得ることを明確化して、具体的にどれくらいの影響・財務リスクがあるのかを明示しています。
企業のTCFDに関する取組事例は、A-PLAT(気候変動適応情報プラットフォーム)というサイトのトップページから事業者の適応>TCFDに関する取組事例というページで見ることができます。TCFDに対応する際に参考にしてみてください。
今後の会社経営におけるTCFD提言の重要性は?
会社経営をする上で、TCFD提言(情報開示)は今後さらに重要になっていきます。
その理由は主に3つあります。
- 2022年4月の市場再編でTCFD提言が必要
- 世界中の投資家がESGに注目している
- 企業の信頼性・社会貢献のアピールに
起業したての経営者や将来的に起業しようと考えている方は、今はあまり関係ありません。しかし会社を成長させて、特に上場も目指すという方に関しては必須になると言っても過言ではありません。
そのため最低限、TCFD提言の重要性・メリットなどは知っておくべきでしょう。
2022年4月の市場再編で情報開示が必要になる
これが最重要ポイントです。
2022年に東証の市場が再編されますが、その際にTCFD提言をすることが上場の審査基準に追加されることになっています。
現在の東証は、市場再編によってプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つになる予定です。この3市場のうち、最上位にあたるプライム市場で、TCFD提言が必要になります。
東証一部に上場済みの企業も、今後TCFDに関する情報開示・取り組みをしていかなければなりません。他にも上場基準が変更されるので、TCFD提言をしていても審査落ちしてしまう可能性があるので注意です。
世界中の投資家がESGについて注目している
近年、世界中で環境問題などが話題になっていて、投資家はESG(ESG投資)に注目しています。ESGには以下の3つの意味が含まれています。
- Environment(環境)
- Social(社会)
- Governance(ガバナンス)
この環境、社会、ガバナンスが企業が成長していく上で重要と考えられています。TCFD提言をすると、上記3つの要素を含めたESG評価も高めることができます。
ESGが注目されるようになった背景とESG投資について深堀りします。
2015年にできたSDGsでESGが最注目された
2015年に「持続可能な開発目標」としてSDGs(エスディージーズ)ができました。それ以降、会社経営において環境や社会に配慮したESGも再注目されるようになりました。
ESGでは、二酸化炭素の削減や環境問題への取り組み、ジェンダー(男女の性区別)などの社会問題、情報開示などをする企業が評価されます。
このESGの視点において、TCFD提言は会社経営をする上で重要な要素となります。
ESG投資が急拡大している
世界中の投資家が企業業績や財務情報だけでなく、非財務情報(ESG)も投資判断の評価要素に加えるようになってきています。
これをESG投資と言い、日本では2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が投資判断にESGの視点を組み入れるをことを発表(署名)してから急拡大しています。
その理由は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が世界でもトップレベルの機関投資家だからです。投資額が大きなGPIFが、ESG投資をしていくというのは投資家にとって見逃せない情報です。
実際、世界のサステナブル投資額は年々増えています。また、日本のサステナブル投資残高の推移は以下のようになっています。
必然的に企業も環境への取り組みが求められるようになり、SDGsやESGに合わせてTCFD提言をすることが重要になっています。
企業の信頼性・社会貢献をアピールできる
上記で解説したとおり、TCFD提言をすることでESG評価も良くなるので、信頼性や社会貢献をアピールすることができます。
会社の信頼性、経営の透明性などは一朝一夕にできることではありませんが、TCFD提言は比較的に簡単にできて、効果も分かりやすい対策です。企業の認知度向上にもつながるので、経営者は積極的にやっていきたいところです。
TCFDに賛同する方法
TCFDに賛同する方法は、TCFD公式サイトにアクセスして、組織名や業種などの必要項目を入力して提出するだけです。
賛同ページは全て英語で、入力も英語にする必要があるので注意してください。
日本企業のTCFD賛同状況
TCFDコンソーシアムによると、2021年10月27日時点の日本のTCFD賛同数は542と世界トップです。
542の機関の内訳としては、金融機関が130、非金融機関375、その他が37になっています。
まとめ
TCFDに賛同してTCFD提言(気候リスクの情報開示)をすることは、地球環境の意識につながるだけでなく、投資家からの投資機会も増えやすくなります。
そのため経営者は今後、TCFDに対応させることが重要になります。既に経営者の方も、これから起業して経営者になりたいという方もTCFDのぜひ覚えておきましょう。
(編集:創業手帳編集部)