創業期のDX成功の鍵はクラウドサービスの積極的な導入にあり hacomono代表の蓮田健一氏にDX活用のヒントを聞く

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年01月に行われた取材時点のものです。

国内フィットネスクラブ業界を中心にクラウド型の会員管理・予約・決済システム「hacomono」を展開する蓮田氏に、自社サービス、起業の想い、DX化のアドバイスを伺いました。

株式会社hacomonoが開発した会員管理・予約・キャッシュレス決済システムの「hacomono」は、2019年3月にサービスをリリース。フィットネス業界にターゲットを絞り、わずか1年半で導入店舗が200店舗を突破する躍進ぶりです。代表の蓮田健一氏に創業のきっかけや「hacomono」への想いを語っていただくとともに、創業期や中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)導入のポイントについても伺いました。

蓮田健一(はすだけんいち)株式会社hacomono 代表取締役
株式会社エイトレッドの製品開発マネージャとして、ワークフロー製品X point、AgileWorksを生み出し業界No.1プロダクトへ。2013年7月株式会社まちいろ創業。b-monster、クリスプサラダワークスなど、業界で話題となる店舗のデジタル化を推進。2019年3月hacomonoリリース。2021年1月商号をhacomonoに変更。

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コロナ禍で注目度がアップした非対面、非接触の会員管理・予約・決済システム「hacomono」の魅力

―フィットネス業界をターゲットにした会員管理・予約・決済システムの「hacomono」ですが、どのようなサービスなのかご説明いただけますか。

蓮田:サブスク型リアル店舗業界向けの会員管理・予約・決済システムなのですが、フィットネスクラブでのお客さまとのやり取りをECサイト化したイメージというと分かりやすいでしょうか。お客さまと非対面、非接触で、お客さまとのやり取り、店舗と本社のやり取り、スタッフ間のやり取りなど、業務フローをオンライン化することができるシステムです。

―フィットネス業界に注目された理由はなんでしょう?

蓮田:暗闇ボクシングフィットネスの「b-monnster」のデジタル化を手掛けた経験が大きかったですね。事業企画の段階で相談をいただき、日本で最先端のフィットネスクラブを作ろうというテーマで、テクノロジーブランディングからCRM、予約、キャッシュレス決済までを関わることができたのですが、日本のフィットネス業界をリサーチしたときに、業界全体のデジタル化の遅れに気づきました。顧客情報自体は非常に取りやすい業務フローの業界なのですが、顧客情報を持ちながらそれを活かしていない。


国内では類を見ないテクノロジー連動の暗闇フィットネススタジオ「b-monster」

海外のフィットネスクラブでは、Webサイトから当たり前のように予約や決済ができます。ところが、日本ではなぜかそれができない。私もジムはよく利用しますので、自分でも不便を感じることが多々ありました。日本だってみんな普通にECサイトは利用していますし、ネットで旅行の手配だってしますよね。使う準備はできているのに、それができない状況なんです。

これはフィットネス業界の各事業者さんの問題ではなくて、恐らくそうしたシステムを提供しているシステム会社の問題が大きいと思います。選択肢が少なくて、本当に必要なシステムを作ろうと思ったら自社開発するしかない。それなら我々が開発しようと思いました。

―社会課題の解決も意識されていたとお聞きしています。

蓮田:ええ。実は「まちいろ」を創業する前は、父から事業を引き継いで介護事業会社の経営を行っていました。そのとき思ったのは、要介護度が高くなってから、健康を取り戻させようと思っても本当に難しい。予防介護やリハビリ介護にもっと力を入れて、鍛えるよりも、身体を動きやすくするための介護をしないと、すぐに人は動けなくなってしまいます。

先進国の中でも、日本のフィットネス人口はとても少ない。社会福祉関係の理事などもしていたので、区役所にフィットネス課を作ろうと提案したこともあるんですよ。悪くなってからの医療費にお金をかけるのではなく、とくに若いころから生活習慣病にならないための取り組みをすることが大事だと思います。それができれば、健康寿命が延び、結果として医療費削減につながり、日本のためにもなるわけです。

―店舗スタッフやジムを利用するお客さまからの反応はいかがでしたか?

蓮田ほかのジムから転職してきたスタッフが、「こんなにやることがないんですか?」と驚いていたという話を聞きました。例えば21時閉店のフィットネスジムなら、普通だとそこから締め処理が始まって、さらに日報を書いて、ようやく退社ということになります。そうなると、残業は1時間では足りないですよね。そうしたジムで働いていたスタッフからすると、「えっ、閉店時間に帰っていいんですか?」と驚くことになるわけです。スタッフの定着にもつながりますし、離れた店舗でも安心してスタッフに任せることができます。

エンドユーザーであるご利用者さまの感触もよくて、予約システム導入の話をしたところ、お客さまから歓声があがったとジムの方からお聞きしました。別の年配のお客さまが多いジムでは、システムの導入を機にスマートフォンを買われた方がいたり、スタッフとの新たなコミュニケーションが生まれているとも聞いています。ネガティブな反応をされるお客さまもいるかと思っていたのですが、多くの方がシステムの導入をポジティブにとらえていて、これは本当に嬉しかったですね。


フィットネスジム「予約画面」

説明書レスを目指すスーパーマリオ戦略。直感的な操作を可能にする計算されたデザイン

―「hacomono」ではスーパーマリオ戦略というデザインを用いて、操作が直感的に分かるように工夫をされているとか。

蓮田:家電でも、プラモデルでも、インターネットのルーターでも、どんな製品を買っても最初は説明書を読むと思います。理想は説明書が分かりやすいうえに、読み込まなくても使い始められるもの。さらにいいものなると、例えばiPhoneとかのレベルになると最初から説明書が入っていないですよね。

最初立ち上げて、ボタンひとつで次が始まるみたいな世界観。説明書レスというのが理想的なプロダクトなのかなと思ったわけです。ゲームのスーパーマリオって、ユーザーは説明書がなくても失敗しながらゲームを進められますよね。そこには、右に向かって行くだけのシンプルなルールがあって、説明されなくても操作ができるわけです。

「hacomono」というプロダクトは、フィットネスクラブのWeb入会だったり、予約だったりをエンドユーザーに操作してもらわないといけません。説明を増やさずに、ルールをシンプルにすること、ひとつの画面に、次に進むボタンはひとつだけにするとか、直感的に操作が分かるデザインを取り入れています。

―システム開発者でありながら、デザインへの想い、こだわりがすごいですね。

蓮田:デザインやブランディングの学習は、個人的にかなり力をいれてきた部分です。完全キャッシュレス店舗のセルフレジ、デジタルサイネージなどの企画・開発を行った「クリスプ・サラダワークス」というカスタムサラダ専門のレストランがあるのですが、この店舗にある端末には、触った人だけが五感で感じるすごさがあるんです。

操作性とアニメーション、「おお、これはすごい!」と誰もが感じるはず。たとえばスーパーに入っているような一般的なレジシステムでの筐体とは明らかに違うんです。なにが違うかというと、心の揺さぶり方が違う。開発の世界観が違う。触った人だけが分かる顧客体験です。クリスプのデジタル化は、そこが大きなポイントでした。ワンタップで「おおっ!」と感じます。


「クリスプ・サラダワークス」完全キャッシュレス店舗のセルフレジ

ディズニーの映画を見ていると、人の心を動かすアニメーションのポイントが全編にあふれています。ディズニーのアニメーションはプロのクリエイターが作っていますが、業務向けのレジシステムに、そうしたアニメーションの基本を押さえて作られたものって、たぶん、日本にいままで少なかったと思うんですね。クリスプは宮野社長のこだわりやセンスの部分も大きく、業務向けシステムの中ではかなり洗練されている方だと思います。

ベジェ曲線っていいますが、人が気持ちいいポイントって数字で表せるんですよ。それにのっとって、音とアニメーションの速度を変化させ、人にとって気持ちのよいアニメーションを研究して作り込んでいます。

創業期のDX成功の鍵はクラウドサービスの導入にある

―「hacomono」導入企業の成功例を伺うと、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)導入のヒントがありそうですね。

蓮田:「hacomono」の導入により、雑務から解放されたスタッフが、本来力を発揮すべき仕事ができるようになっています。デジタル化で業務を良い方向に変化させているひとつの例ですね。

―DXを成功させるポイントがあれば教えていただけますか?

蓮田:創業手帳の読者さんは、まだ会社を始められたばかりの方が多いと思います。そうしたフェーズでのDXを考えるなら、世の中で多く使われているクラウドサービスに乗っかることが大事かなと思っています。まずは、パソコンにインストールするタイプのソフトではなく、クラウドタイプのものを使うところからスタートして欲しいですね。

たとえば会計ソフトであるならfreeeやマネーフォワード、人事労務ならSmartHR。導入前と導入後で、業務の変化が非常に大きいと思います。ソフトを入れたパソコンでないと、その業務ができない状況が変わり、どこにいてもその作業ができるようになります。

DXと聞くと、なんだか難しいことに感じますが、インフラとして月額制で世の中でたくさん使われているクラウドサービスに乗るだけで、当たり前のようにさまざまな業務をオンラインで行うことができるようになりますし、リアルタイムでさまざまな確認業務も行えるように会社のインフラを整えることができるわけです。

―新しいシステムを導入するとき、その良し悪しを判断するのは企業にとって本当に難しいことだと思うのですが、たとえばUI/UXでこんなことを意識することが大切など、なにかアドバイスをいただけますか?

蓮田:本格的なUIまで考えるのは難しいことだと思いますので、まずはやはり、クラウドサービスの導入から始めて、業務をオンライン化させることに注力されてみてはいかがでしょう。ホームページを作るにしても、メールにしても、いまは無料でセキュリティもしっかりしたものがたくさんあります。

そういったものに乗っていくことで、都度都度、業者にお金を払う必要もなくなりますよね。DXの前提条件をそこに合わせれば、事業のスピード感も間違いなく上がると思います。オンライン化によって無駄な業務がなくなれば、本来力を発揮すべき場所に人材を配置することも可能になるというメリットも大きいですね。

東日本大震災 父の会社を継いで立て直しに奔走 そして起業

―東日本大震災後、お父さまの会社を継ぐためにエイトレッドを退職されていますが、経緯を伺ってもよろしいですか?

蓮田:父の会社は東京電力の下請け中心の業務内容で、母が同じ会社の中で介護の仕事をしていました。東日本大震災で東京電力があのような事態になりましたから、介護中心に業務を切り替えて、傾いた経営を立て直そうとしました。私が経営者になったのは、資金面でのサポートという意味合いが強かったですね。

システムのプロダクト開発の仕事にはやりがいを感じていましたし、会社に愛着もありましたが、両親には学生時代に好きなことをさせてもらったし、その親が大変なときに、一度くらい親孝行をしてもいいかなと思ったんです。

―2013年7月には「まちいろ」を創業されています。短期間で業績を回復させて、新しい道を進まれているのですね。

蓮田:いえ、そんな順調なものではなかったですよ。毎月のように月末になると資金が足りなくて、本当に大変でした。介護保険制度自体が事業者側が利益を出しづらい仕組みになっていて、介護保険以外で利益を得られる仕組みを作るしかなかった。そこで力を入れ出したのが介護タクシーの事業です。

会社は練馬区の中でも埼玉の県境で交通の便が悪い所にあるのですが、若い人は都心に引っ越していて、お年寄りたちはどこに行くのもタクシーかバスで交通弱者が多い。介護タクシーなら半分は介護保険が使えますし、民間の事業者として料金をもらえる制度を作りました。

タクシーの台数も増やして、一台ごとにスマートフォンを持たせ、位置情報を本社側で見られるようにしました。お客さまから連絡があると、一番近い車を手配できるようにしたんです。いまでも練馬区の介護タクシー業界ではナンバーワンの存在だと思います。介護タクシーひとつで経営がなんとかなるわけではないですが、こうした工夫をいくつも積み重ねて業績を改善していきました。

―「まちいろ」を創業された想いは?

蓮田:コモディティ化している今の日本で、もっと個性が生きる世の中にしたい想いを持って会社を立ち上げ経営しています。創業時の社名である「まちいろ」の“いろ”は彩(いろどり)の意味を込めたもの。コモディティ化した製品を作るとか、誰でも作れるサービスではなくて、なにかに特化して、その結果、私たちが作ったプロダクトの先で個性を持った人たちが活躍できるような世界につながるものを会社としてやりたいと思いました。

―創業手帳のユーザーには、これから会社を成長させようとしている若い経営者がたくさんいます。最後に、先輩からアドバイスをお願いできますか?

会社をやる理由をしっかりと考えて、経営の意味に向き合えるといいと思っております。会社は作るのは簡単ですが、会社である以上、社会における固有の役割が必要だと思います。ただ儲けたいだけじゃなくて、どういう責任を果たしたいのかまで考えると、経営者本人も従業員の方も会社の社会的意義、仕事の意義が出ると思う。ただ儲けたいだけなら、会社にしなくても、フリーランスで稼げますから。

会社を作って人を雇えば、その人たちの人生にも関わることになります。父の会社を継いで本当に苦しい思いを味わいましたが、IT業界にいたままでは分からなかった商売は人と人とのかかわりなんだということを学ぶことができました。人が人らしく働ける環境を作り、信頼できる仲間と一緒に成長して欲しいと思います。

創業手帳は会社の母子手帳のように、創業期はもちろん、事業のステップアップにあわせて役立つ経営ノウハウをまとめています。起業の成功率を上げる経営ガイドブックとしてご活用ください。

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(取材協力: 株式会社hacomono/代表取締役 蓮田健一
(編集: 創業手帳編集部)



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