経営計画書作成のステップを徹底解説!ー利益計画・販売計画編ー【飯島氏連載その3】
スパッと解決・経営改善のプロ、飯島彰仁氏に聞く、社長のための経営計画作り・超入門
本シリーズでは企業の成長に必要な「経営計画書の書き方」を飯島氏にご紹介いただいています。経営計画書の具体的な項目は、前半部分が経営理念で、後半部分が利益計画や販売計画といった定量的な部分となります。前回は、前半部分の経営理念の書き方について説明していただきました。3回目の今回は、経営計画書のかなめでもある利益計画や販売計画の書き方について説明していただきます。次期の利益目標をどのような基準で算出すればよいか、業態別の販売計画について具体例を用いてご紹介します。
株式会社古田土経営 代表取締役社長
2005年に古田土会計公認会計士・税理士事務所(現 税理士法人古田土会計)に入所。現在は、同法人含むグループ企業の株式会社古田土経営 代表取締役社長。経営計画を主力商品とする古田土会計グループにおいて、営業活動することなく年間100~150社の新規開拓をするスキームを作り上げ、現在2,300社超の中小企業を指導する。経営計画書の作成については毎年400社以上を指導しており、作成した会社の黒字割合85.8%を実現している。(日本企業の黒字率 34.2% 国税庁H29年より)また、同ノウハウを同業者である会計事務所にも提供する会計事務社経営支援塾を運営。同業者に対する経営計画作成支援実績330事務所は日本No.1を誇る。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
ブラックにならない数値目標はどうやって作成するのか
大久保:前回まで、経営計画書の定性的な部分を聞いてきましたが、今回は中核部分とも言える利益計画や販売計画など「数字」を示すところについて教えてください。
率直に、どのように作ればよいのでしょうか。一般的には、厳しい計画を作りすぎるとブラックと言われてしまいますが。
飯島:利益計画や販売計画など数値目標を伴う計画書を作成するとき、トップダウンで押しつけるのはあまりよろしくないでしょう。モチベーションがないところに厳しい目標を押しつけても成果は上がりにくいといえます。
会社の規模にもよりますが、利益目標を部門で振り分け、部門から個人別の目標にブレイクダウンする際、一方的になってはいけません。それぞれに、仕事のスタイルに合わせながら設定するとよいでしょう。数字を示しただけでは「ノルマ」となり、ブラックになってしまう可能性があります。
ただ、利益計画は企業経営にとって、重要であることに間違いありません。会社の継続のためにも必要なものですし、目標値は社員からの理解がなければ達成できません。その目標の根拠を説明することが重要です。
経営計画書に記すことで、いつでも社員との共有ができます。例えば、来期の利益目標を3億とした場合に、経営計画書の発表会を通じて根拠を説明するのです。3億円を達成してどうなるのか、社会へのインパクト、会社の成長へのインパクト、社員個人の給与への影響など、かみ砕いて説明するとよいでしょう。
大久保:利益計画や目標も、社員との「コミュニケーション」が大切なのですね。具体的に利益目標を作成するためには、いつぐらいから始めるのがよいのでしょうか。
飯島:利益計画を含め、販売計画などの数値目標については決算月の1、2か月前くらいから検討を開始します。この時期であれば、本年度の業績が確定してくるので見通しが立てられる時期でもあります。
このタイミングではっきりとした数値目標を立てるのは確かに難しい状況もあるので、正確さよりもざっくりとまずは100万円の単位くらいで「決める」ことが大切です。もし、期初に立てた数値目標が達成が難しいということであれば、期中で見直せばよいでしょう。
利益計画の目標の策定は借入金を考慮して
大久保:利益計画を策定するにあたり、目標の数字はどのような手順で考えればよいのでしょうか。
飯島:よく利益目標の数値を考えるときに、「○○円達成!」と売上げの額にする人がいるかもしれませんが、これだとかかる費用が考慮されていません。いうまでもありませんが、会社には、商品の原価や人件費を含む費用が必要となります。利益目標を立てるときには、費用や借入金などの全てを把握し「経常利益」を想定して考えなければいけません。
経常利益をどのくらいにするか、なんとくなくこんな感じだからーというような思いつきではいけません。一定の判断基準が必要です。目標の設定方法の具体例は次の通りです。
- 社員一人当たり100万~200万を基準として社員数にかける
- 過去2~3期の実績が黒字の場合、推移から見込み額を算出
- 過去2~3期が赤字の場合、累積赤字額を埋める額
- 年間返済額から割り出す
→できるだけ簡単に作ってみたいなど、経営計画書や利益計画書を初めて作る方に向いている方法。
→過去の数字にひっぱられるので目標値が低め(消極的)になりがちな方法。
→会社の危機的状況なので危機を脱するための方法。
→年間返済額から減価償却費を引いたものの2倍を目標値として設定方法。
一般的には、金融機関からの借入れをしている会社が多いと思うので、中小企業では年間返済額から割り出すという方法が用いられることが多いようです。しかし、この算出方法だと非現実的な利益目標を導くことになってしまう場合もあるので注意が必要です。
例えば、2億5千万の借入れを5年で返済する予定の商品販売会社があるとします。
年間の返済金額は5,000万円なので、税などを考慮して経常利益は1億必要ということになります。
この会社の固定費が2億だと、粗利では3億必要です。商品の粗利利益率が15%だとすると、売上では20億円が必要となります。20億の売上をあげるということは会社によっては並大抵では達成できない数字かもしれません。利益目標としては現実的ではありません。
こうした数字の「罠」にはまらないためにも、上記のように利益のシミュレーションをしっかりするとよいでしょう。
大久保:利益のシミュレーションは重要ですね。他に、目標を策定するにあたり考慮すべきことはあるでしょうか。
飯島:目標は達成することも大事なのですが、消極的になって「対前年比を少し上回る」といったような甘い数値設定は意味がありません。理想としては、「現実的な経常利益」と「頑張ればなんとか届く」というぎりぎりのバランスを見つけるとよいでしょう。
こうすることで、社員にもあと一押しで実現できるかもしれないというモチベーションアップも期待でき、全社一丸となることが期待できます。また、万一達成が難しくても、挑戦することは社員にとっても自信や次のビジネス開発につながるかもしれません。
利益計画の目標を実現するためには販売計画(営業の指針)が重要
大久保:目標を実現するには戦略的な営業の指針だったり、販売計画がやはりかなめとなりますね。この計画を経営計画書にはしっかり掲載しなくてはいけませんよね。
飯島:販売計画は、誰が、どこで、何を売るかを策定したものです。ここで、おさえなくてはいけないのが事業の実態に合わせた計画を策定することです。
自社の事業が、見込み事業なのか受注事業なのかによって計画の作り方は変わってきます。見込み事業とは、家電、自動車、飲食など、不特定多数のお客さまをターゲットに、商品やサービスを提供している業種のこと。変動費が大きく在庫をかかえることで、倒産に陥る可能性があります。
一方、受注事業は、造船、運輸、設計・デザインなど、特定少数のお客様をターゲットに、注文をとる営業スタイルの業種。固定費が大きく、お客様からの継続がないと倒産の危機になります。
見込み事業の業態では、まず商品別販売計画を先に立てて、どのような販売網で何をどの程度販売するか決め、新しい商品開発の計画も加えます。
受注事業の場合は、お客様の信頼が大変重要となるので、お客様別販売計画を策定します。どのお客様に何をどの程度販売するかを決めます。
なお、販売計画の策定ステップとしては、過去の販売実績から予測を立てるという方法があります。具体例は次の通りです。
- 過去2、3期の販売実績表を作成し、実績の推移と傾向を読み取る
- 当期計画をおおまかに記入する(経営者の思いや感覚的なところ)
- 2に基づき、当期年度の売上高の予測をたてる
- 利益目標で設定した売上高と比較し、予測との差をどう埋めればよいか検討する
大久保:特に、中小企業ではリソースを考慮して、重点的にはどのお客様や商品を販売していくのか、戦略的に計画することが大切そうですね。
飯島:おっしゃる通り、コロナの影響で事業の転換をはからなければならない今だからこそ、選択と集中の時代です。販売計画でも、どの商品、どのお客様が自社にとって優先度が高いのかを判断していくプロセスが必要です。
まさに、先行きが不透明だからこそ、利益計画や販売計画をしっかりと策定したいですね。それを経営計画書に示し、社員の目に触れるようにしておけば、目標の達成が効果的なものとなるでしょう。
大久保:この2回で経営計画書が理念と数値目標の策定ステップを解説していただきましたが、次回以降は「起業家」にとっての経営計画書について説明をしていただければと思います。
(次回に続きます)
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(取材協力:
株式会社古田土経営代表取締役社長 飯島彰仁)
(編集: 創業手帳編集部)