2025年の崖とは?企業が抱える課題・対応策について解説
2025年の崖で大きな経済損失につながる可能性もある!
2018年に経済産業省の「DXレポート」にて提唱された「2025年の崖」問題は、大きな注目を集めました。
2025年の崖問題では、事業を維持・存続するのに影響が出てしまう可能性があり、大きな損失をもたらすリスクとして指摘されていました。
今回は、2025年の崖問題の具体的な内容や、問題解決が難しい理由について解説していきます。また、具体的な対応策についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
2025年の崖とは?
2025年の崖とは、国内企業がシステムの問題解決や経営改革を実施しなかった場合、2025年以降に年間最大12兆円もの経済損失が生じる可能性がある問題です。
この問題に対応できなければ、デジタル競争で他社に負けたり既存システムの維持管理費用が高額になったりするなど、企業に生じるリスクが大きくなります。
そのため、2018年頃から対策が求められてきました。
2025年の崖は、産業に関係なく問題として挙げられる点が特徴です。
近年は、あらゆる産業においてデジタル技術が活用されているため、特定の分野に限らず、どの企業にも当てはまる可能性の高い問題といえます。
また、大手企業は2025年の崖問題に向けた対策に取組んでいました。
しかし、リソースや資金を出すのが難しい中小企業の中には、2025年の崖問題への対策が不十分になっているところもあり、早急な対策が求められています。
日本国内におけるDXの取組状況
独立行政法人 情報処理推進機構の「DX動向2024」によると、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」という企業が2022年度では26.9%だったのが、2023年度には37.5%に増加したことがわかりました。
「取組んでいない」と回答した企業も、2022年度に29.1%だったのが、2023年度には「18.9%」まで減少しています。
このことから、年々DX推進に取組んでいる企業は増えているものの、取組めていない企業も約2割存在していることがわかります。
海外に比べてDX推進が遅れている
日本国内のDXに向けた取組みは徐々に進んでいるものの、海外に比べると遅れている状況です。
IPAが調査した「DX動向2024」では、2022年度のアメリカは「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」と回答した企業が35.5%、「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」と回答した企業が32.6%でした。
約68%の企業は積極的にDXに取組んでいることがわかります。
海外に比べてDX推進が遅れている理由として挙げられるのが、日本と海外ではDXに対する認識が異なる点です。
日本はリスク回避することを目的に、慎重な意思決定プロセスを重ねて実行に移します。
また、ミーティングは情報共有が目的になっていることが多く、その分意思決定が遅れやすいです。
一方、海外はリスク許容度が高く、市場競争も激しいことから、DXをいち早く取り入れて他社と差別化を図ろうとする意識が強い傾向にあります。
こうした理由から、海外のほうがDXへの取組みは進んでいるといえます。
2025年の崖で提示された企業の課題点
DXレポートでは、2025年の崖問題における企業の課題点も紹介されています。具体的な課題点について解説していきます。
レガシーシステム化が進行している
レガシーシステムとは、導入から20年程度経過し、老朽化によって非効率化したITシステムを指します。特に、基幹システムはレガシーシステムになりやすいです。
レガシーシステムはこれまでに部分的なメンテナンスを繰り返してきた結果、複雑化している状況にあります。
また、既存システムはひとつの業務に対して管理しているケースが多く、他のシステムとのデータ連携がスムーズに行えない点も問題です。
2025年以降は、エンジニアの人手不足とアプリケーションのサポートが切れてしまうことで、より一層保守運用が難しくなってきます。
IT人材・DX人材が不足している
IT人材は需要が高い反面、人手が不足している状況が続いています。
特に、2025年以降は人手不足問題がさらに深刻化し、システムの刷新を担える人が少なくなることで、レガシーシステムを使わざるを得ない企業が増えるでしょう。
また、変化が早いIT環境においては従業員を再教育し続ける必要があり、企業にとっても負担が大きくなってしまいます。
システムにかかる費用が高騰している
レガシーシステムはすでに老朽化が進んでいるため、保守・メンテナンスを行う回数が増えます。
そのため、レガシーシステムを維持・管理するためのコストが高まってしまうのです。
また、2025年以降になると維持・管理するエンジニアが不足することから、メンテナンスにかかる費用の高騰が予測されています。
システムにかかる費用の高騰によってメンテナンスが難しくなる企業が増え、経営に大きな支障をきたす可能性が高まるかもしれません。
サイバーセキュリティのリスクが高まっている
システムの保守運用ができるエンジニアの高齢化や、退職による人手不足により、サイバーセキュリティのリスクが高まっていることも指摘されています。
例えば、外部からの不正侵入・ハッキングによって、システム内に保存されていた個人情報や機密情報が流出したり、データを盗まれてしまったりするリスクがあります。
こうしたリスクを防ぐためにも、システムの強化やセキュリティ対策ツールの導入などが必要です。
しかし、対応できる人材が不足すればリスクへの対応も遅れてしまいます。
システム・アプリのサポート期間が終了している
2025年に、SAPやWindows7などのシステムやアプリケーションのサポート期間が終了します。
サポート期間の終了によってセキュリティホールが見つかったとしても、修正プログラムが更新されなければセキュリティリスクが高まってしまうのです。
サポート期間の終了にともなってシステムを見直す必要が生じますが、エンジニア不足やリソースの確保、コスト面に問題が生じる可能性があります。
急速なデジタル化に対応できない
ITサービスやデジタル市場は常に変化しています。こうした急速な市場の変化に対応していくことも重要です。
しかし、レガシーシステムを導入している企業であれば新たな技術を取り入れられず、最新のニーズに合った商品・サービスの提供が難しくなってしまいます。
急速なデジタル化に対応できないことで、売上げなどにも影響が出てしまう可能性もあります。
2025年の崖問題が解決できない要因
2025年の崖問題を解決するためには、DX推進が欠かせない要素になってきます。
2018年から言及されてきた問題でしたが、取組めていない企業が多くあるのも事実です。なぜ問題を解決できないのか、その要因について解説します。
具体的な経営戦略が立てられない
DX推進は一部の部署だけが取組むものではなく、DX推進を取り入れた経営戦略を全体で打ち出す必要があります。
しかし、「DX推進をしたほうがいい」と認識している企業であっても、結局どうすればよいかがわからず、具体的な経営戦略を立てられずにいる企業も少なくありません。
経営者にDX推進に向けた経営戦略がなければ、いくら施策を取り入れたとしても、全社でDX推進を行えない可能性が高いです。
現場からの抵抗も大きい
DX推進を図るためには、レガシーシステムを現代のニーズに合わせた新しいシステムに移行させることが必要です。
しかし、システムの交代によって業務フローやプロセスが刷新されることから、現場が抵抗するケースもあります。
経営陣がいくらDX推進に向けて対策を講じたくても、実際に業務を担うのは現場となるため、現場の理解を得られなければ解決できない可能性もあります。
予算の限界などにより既存のITシステムが複雑化・ブラックボックス化
レガシーシステムを新しいシステムに移行させるためには、コストがかかります。
予算をかけられなければ、既存のシステムがさらに複雑化したりブラックボックス化したりしやすい状況を招いてしまいます。
また、あまり予算をかけられない中小企業・個人事業主は、新しいシステムに移行しにくいケースも多いです。
短期的に現行のシステムを使い続けたほうが安価に収まることから、「まだ大丈夫だろう」と考え、レガシーシステムを使い続けている場合があります。
2025年の崖問題を解決するための対応策
ここからは、2025年の崖問題を解決するための具体的な対応策について解説します。
既存システムの棚卸し
2025年の崖問題を解決させるためには、まず既存システムの棚卸しを行う必要があります。
既存システムが抱える機能をすべて洗い出し、その中から必要とする機能を抽出します。
既存システムの棚卸しにより必要な機能がわかれば、その機能が集約されたERPシステム(企業で発生したあらゆる情報を一元管理するシステム)や、クラウドサービスなどを導入して、レガシーシステムで行っていた業務・役割などを移行させます。
すぐに新しいシステムへ移行させるのではなく、まずは既存システムの棚卸しを行うことで、自社にとって最適なシステムを探しやすくなるかもしれません。
DX推進指標による現状の把握
経済産業省が作成した「DX推進指標」を活用し、自社の現状を把握することも重要です。
DX推進指標では、「経営体制」と「システム面の整備状況」の2つに分けて、それぞれの項目から自社のDX推進状況がどこまで行っているかを評価できます。
DX推進指標を使って評価し現状の推進状況を把握できたら、課題になっている部分を挙げ、目標を設定し戦略を立案していきます。
達成度合いを評価するためには、DX推進への取組みを実施してからも定期的にDX推進指標を使って評価することが大切です。
情報の見える化と分析
経営者が経営課題について認識するために、社内における情報を見える化する必要があります。
特に、レガシーシステムの放置によって起こり得るリスクに関しては、経営陣が正しく認識・理解することが大切です。
また、情報を見える化するだけでなく、診断するための分析スキームを構築することも重要です。分析結果に基づいて改善につながる体制構築を目指してください。
DX人材の確保と育成
DX推進に欠かせない「DX人材」の確保と育成も課題解決には必要不可欠です。
DX人材は単にDXに関する知識・スキルを持っているだけでなく、論理的思考やマネジメントスキル、業務をスムーズに進行させるためのビジネススキルなども持ち合わせる必要があります。
ただし、DX人材は不足しており、採用するのが難しい状況です。そのため、社内での人材育成も視野に入れてください。
DX人材を育成するために、国が行っている認定試験・認定制度を活用してみるのもおすすめです。
近年、リスキリングや学び直しが推奨されており、人材育成を取り入れる際に活用できる補助金・助成金なども存在します。
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- 人材開発支援助成金
- 特定求職者雇用開発助成金
- 各自治体が実施する補助金・助成金 など
こうした補助金・助成金を活用することで、コストを抑えつつDX人材を育成することも可能です。
ベンダー企業との契約の見直し
日本では、上流工程から順番に下流工程に向けて開発を行う「ウォーターフォール開発」が主流でした。
しかし、ウォーターフォール開発は既存システムの再構築を想定しておらず、柔軟なシステム提供には適さないとされています。
新たなシステムに移行する場合、柔軟なシステムの再構築やアジャイル開発など、DXに最適な形態で契約を行えるよう、関係を構築し直すことも求められます。
まとめ・2025年の崖に関連する課題を洗い出し、解決に向けて取組もう
2025年を迎え、今後はレガシーシステムの維持・運用コストが高騰化するリスクが高まります。
長期的な運営を目指すのであれば、早急に2025年の崖問題への対策を講じる必要があります。
まずは現状における課題を洗い出し、自社の状況に合わせて解決に向けた取組みを実践してください。
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(編集:創業手帳編集部)