ニーズはどこにある?コロナ禍で業績を伸ばす世界の注目企業と攻めの事業展開を行う起業家たち
アジアやブラジルで独創的な事業を行う起業家や国内で攻めの経営を行う起業家たちにコロナの影響やシャープな目の付け所を聞いてみました
創業手帳の代表である大久保が理事を務めるWAOJE(日本人起業家のネットワーク)が、2020年9月に開催したTokyo Summit。そこで、逆境を逆手に取り活躍する起業家が語ったコロナの状況や事業への影響などを紹介します。
第一部では、アジア(マレーシア、中国、インド)とブラジルで事業展開する4名の起業家から、コロナで受けた影響やそれに対する取り組み、変化するニーズに対応する新たな事業展開について伺います。
第二部では、コロナ渦で転機を迎えた注目の起業家3名から遠隔医療・地方移住・外国人材活用など 、逆風に負けない事業展開について伺います。
この記事の目次
【第一部】海外レポート~マレーシア編
株式会社UNLOCK DESIGNの山口聖三氏は2013年にマレーシアで起業し、東南アジア・インドでのテックイベントの企画運営や人材事業を行っています。
東京とマレーシアを2大拠点としながら活躍を続ける山口氏に、コロナ禍に起ち上げた事業と注目のマレーシア企業をご紹介いただきました。
コロナで受けた影響とピンチをチャンスに変える取り組み
現地の機関、大学、企業等とコラボし開催するテックイベントは、参加者のIT人材を日本企業に紹介する人材事業の一環の場ですが、コロナショックで開催できない事態になりました。
さらに深刻なことに、クライアント企業が採用の見直しを始め、海外エンジニアは渡航できない状況へと追い込まれました。そこで、リアルイベントをオンラインに移行することを決意。インドで開催予定の “AI & ビックデータカンファレンス”を急遽オンラインイベントにした結果、Google、Amazon、アリババなどのグローバル企業の人材が参加することになりました。
リアルイベントでは到底リーチできない350万人以上の人材にリーチでき、まさにピンチをチャンスに変えた瞬間でした。
コロナ禍で起ち上げた3つの事業
既存事業におけるコロナへの取り組みだけでなく、コロナ禍に3事業起ち上げにも取り組んでいます。
- 企業が海外の人材に対し入札できるサイト
- 国内外のテック人材のレンタルサービス EaaS(Engineer as a Service)
- 日本人留学生向けサブスクの教育メディア (AWAYCollege)
コロナ禍に新事業を加速させるマレーシアの注目企業
マレーシアのスタートアップ支援機関MaGICは、コロナ禍、テック系スタートアップの40%が倒産との予測を発表し、政府も活動制限令後65%以上の企業の業績が対昨年比50%以下との発表をしています。
コロナで深刻な影響を受ける中、マレーシアでは2月から11社がIPO(※)をしました。どのような事業が業績を伸ばしているのでしょうか。
EコマースのBloomThis、フードデリバリーのDahmakan、ビデオストリーミングのiflix、ホームサービスをマッチングするService Hero、若い年齢層と保険をつなげるPolicy Street、患者とヘルスケアのプロをマッチングするBookDocなどが事業を加速しています。政府は約25.5億円の支援ファンドを作り、約80社が支援を受けています。
※IPO:「Initial Public Offering」の略で、「新規公開株」や「新規上場株式」を指す。具体的には、株を投資家に売り出して、証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすること。
【第一部】海外レポート~中国・深セン編
川ノ上和文氏は、2017年に中国で株式会社エクサイジングジャパンを設立し、広大な中国でドローンを活用した物流に参入しました。また、2国を参照しながら、日本でのドローンの立ち上げも構築しています。
ドローンビジネスは機体販売だけでは収益が見込めないため、コントロールシステム、他のハードウェアコンポーネント(一例としてはスマート宅配ボックス)、操作・メンテナンススタッフの配備など、トータルソリューションでの提供が必要です。
さらに、川ノ上氏は2019年から日本発ドローンスタートアップのエアロネクストの現地法人の代表を務め、同年に南方科技大学と共同の研究開発ラボを設立しています。
巨大マーケットが広がる中国でドローン事業はどのくらいの規模を誇っているのでしょうか。中国でニーズの広がるドローン事業の現状と、コロナ禍でも成長を続けるドローン参入企業を紹介していただきました。
コロナ禍でニーズが広がるドローン物流
これまでトライアルや農村部への利用が多かったドローンは、コロナ禍で医療に活用されました。武漢では30kgの物資が運べるドローンが病院への配送に使用され、杭州ではドローンポートが作られ、農村部と中心部の病院間配送が行われています。
目を付けたのは世界一の宅配件数!必要な輸送のスマート化
中国の宅配件数は世界一で、米国の4倍、日本の5.6倍と言われます。中国のEC化は2010年以降うなぎのぼりとなり、アリババの独身の日(11月11日)キャンペーンの売上は4兆円。これは楽天の4年分の売上にあたり、物流のボリュームがいかに桁違いであるかが分かります。
膨大な宅配件数に対し、労働力人口の減少による人件費高騰、荷物の小口化・高頻度化・即時性化、交通が不便な地域の点在化などがコスト増の要因となっています。
輸送は物流コストの50%以上を占めており、人件費・燃料費の抑制、テクノロジーを活用した早急な物流改革の必然性があり、スマート化への取り組みが進んでいます。
中国で注目のドローン参入企業
中国の物流への4大参入産業と代表的な企業、事業内容を見ていきます。
注:【】内が中国企業名、()内が同事業を展開する米国企業
- 物流:【SF EXPRESS】リテールおよび末端配送への展開を強化し、テクノロジーサービス企業を目指す(UPS、DHL)
- EC・リテール:【JD】物流の効率化・無人化を推進(Amazon、Walmart)
- フードデリバリー:【Meituan】スーパーアプリとして、より多くの顧客接点の創出を目指す(Uber)
- テクノロジー・イノベーション:【ANTWORK】運行管理システムを強みとし、都市インフラとしてロボティクス物流ネットワークの構築を目指す(Matternet)
【第一部】海外レポート~ブラジル編
中山充氏は、ブラジル・ベンチャー・キャピタルを設立し、ブラジルのスタートアップへの投資や日本企業が中南米に進出する際の仲介事業を行っています。
コロナで深刻な被害を受けているブラジルではどのようにライフスタイルが変化し、どのような事業が成長しているのか紹介していただきました。
コロナ禍にあるブラジルの今
430万人が感染し、死亡率約3%のブラジルでは、3月から外出禁止、マスクをしていないと罰金、オフィスワーカーは基本的に在宅で仕事をしています。
現在、ブラジルのGDPは世界8位で、人口は5位。国内のスマホ普及率は70%、裕福でない層でもUber Eatsは使われており、コロンビア創業のフードサービスRappiはコロナ禍で一段と後一段と業績を伸ばしています。
多くの日本の起業家をブラジルに進出させてきた中山さんは、「ブラジルは2050年には日本を抜く」と成長力に期待しています。
コロナ禍で新たなニーズをつかみ業績を伸ばしている企業とは
コロナ禍で急成長しているブラジルの10社を見ていきます。
コロナで追い風の医療系企業
Inlocoはソーシャルディスタンス指数を作り国・州・市レベルで感染状況のビッグデータを公開しました。
TestfyはPCRを含めた検査を自宅で行える検査キットの配布・回収・分析サービスを提供しています。
Telavitaは2017年設立のメンタル医療の会社で、コロナの影響で昨年度比10倍の数字を上げました。
Vida Classはブラジルトップの私立病院のCFOたちが立ち上げた会社で、各診療科が相場より安い約600円で遠隔相談サービスを提供しています。コロナ禍において政府が時限立法的に33社を合法とし、遠隔医療が急速に伸張しています。
本質的に価値があるブレークスルー企業
オンラインショッピングのMercado Livre、オンライン決済のiuguのほか、デジタルバンキング事業で350億円の調達をした最新のユニコーン企業Neonは950万人、同業の超大手Nubankは2600万ユーザーを獲得しています。Conta Simplesは企業向けプリペイドクレジットカード事業をしており、売上は4カ月で1000%増となりました。
ARPACはドローンで農薬を散布するアグリビジネスの効率化を推進して、前年比600%増となりました。繁忙期に雇用していた農作業者がコロナ禍で確保できない、作業者を運ぶバスは分乗せざるを得ずコストがかかるなどの理由により、農業ドローンの注文が殺到しています。
【第一部】海外レポート~インド編
Goen Consulting Pvt.Ltdの柴田洋佐氏は、日本人向けフリーペーパー『シバンス』を発行し、インド人エンジニアの人材紹介の事業を行っています。
コロナ禍において、インド・バンガロールで厳しいロックダウンを経験しました。そこで目の当たりにした2つの大きなニーズの変化や、それをきっかけにした新事業について伺いました。
コロナ禍でのロックダウンで生まれた変化とニーズ
インド国内のコロナウイルスによる死亡率は1.64%、1日8~9万人の新規感染のペースで、感染者数はブラジルを抜き世界2位となっています。
厳しいロックダウン下で見られた2つの変化と、変化に対応すべく勢いを増した注目企業について見ていきます。
“コンタクトレス”への意識の高まりからネット社会へ
変化の1つは、“コンタクトレス”への意識の高まりです。コロナ前のインドでは、行列をつくるときに密着状態で並んでいましたが、コロナ後は一定の距離をとるようになりました。
人との接触を避けたいという意識からオンラインサービス利用が急拡大し、新たな事業に注目が集まっています。医師への相談が可能なアプリのDOCSApp、教育サービスのBYJU‘S、大手のネットスーパーのbig basket、フードデリバリーサービスzomatoなどの企業が勢いを増しています。
また、インド国内で初めてアルコールのオンライン販売が一部の地域で認められ、Amazonで販売されました。
健康志向・ヘルシー食志向で新たな市場が飛躍
もう1つの変化は、“健康志向・ヘルシー食志向”です。インドではバターチキンカレーのようにバターと油をたくさん使ったカレーや世界一甘いデザートと言われるグラブジャムンが知られていますが、コロナ禍を追い風に健康食品市場は急成長。
アーユルヴェーダ薬、ハーブなどの製品メーカーDaburは前年同月比300倍の売上を出しました。Daburはこれまであまり行われていなかった効能をうたったプロモーションで注目されています。
健康管理サービスのcure.fitは、食事のデリバリー、オンラインでのフィットネス、ケア、ヨガなど健康維持のための総合的なサービスを提供しています。
ニーズの見極めでピンチ脱出
コロナの影響を受けて、インドの1万人の在留邦人は厳しいロックダウン下にあり約9千人が帰国しました。そのため、日本人向けフリーペーパーを発行し、人材紹介事業を行ってきた柴田氏は大きな影響を受けました。
しかし、それをきっかけにオンラインショッピング化をチャンスと捉えた柴田氏は、日本酒「月の桂」のインド進出プロジェクトにWAOJE京都支部メンバーと取り組み、日本産の他の酒類にも事業展開の予定です。
健康志向が強くなったインドでは、レストラン、ホテル等から、グリーンティ、抹茶のニーズが高まっており、日本茶農家の佐々木製茶株式会社ともプロジェクトを進めています。
【第二部】起業家に起こったコロナ禍での転機と今後の展開
『株式会社ネオキャリア』の西澤亮一氏のファシリテートで3名のゲストをお迎えし、コロナ渦で転機を迎えた注目起業家として遠隔医療・地方移住・外国人材活用などについて、パネルディスカッションを実施しました。
事業内容が異なる3名の起業家が語ったコロナ禍での転機と今後の展望について見ていきます。
医療関係の事業を行う株式会社リーバーの伊藤俊一郎氏
<事業紹介>元々心臓外科医をしており、ホスピタリティの課題を感じて、在宅や訪問医療などの事業を立ち上げ。現在は、コロナ渦の影響もあり遠隔医療の分野を中心に行っています。
<コロナ禍での転機>老人ホームなどの事業がコロナ渦で大きな影響を受け、家族が全く面会できなくなってしまった上に、従業員の体調もしっかりと管理しないといけないといった影響がありました。
遠隔医療事業も相談件数は伸びていたのですが、メンタルケアなどのテレアポが全く機能しなくなってしまい、新たにチャットボットを開発して、AIで問診するといったシステムにビジネス変更しました。
アプリでの医療診断の課金システムも、コロナ渦の最中格安で提供しており、需要が高まってています。
<今後の展開>新型コロナが起こしたパンデミックに対して、日本のマネジメント力は海外に比べ素晴らしいものがあります。今後また日本が輝く時代が訪れるかもしれないので、これをチャンスとして更に事業を広げていけたら良いなと考えています。
アプリの分析や開発を行うフラー株式会社の渋谷修太氏
<事業紹介>主にスマートフォンのアプリの事業をやっており、アプリの分析サービスと、コンサルティングしてアプリを開発するサービスを提供しています。
<コロナ禍での転機>緊急事態宣言の影響もあり、都内から地方に求人の需要が増えており、新潟で事業展開していて人材確保が難しかったところ、コロナ渦の影響でむしろ人材確保は安定して行えるようになりました。
この流れに乗って、今後本社も新潟に移動していき、従業員に対しても家賃補助や給料アップなどを提供することにより、新潟に移住してもらい、コストカットにも繋げていきたいと思います。
ただ、地方といっても地方都市に住みたかったり、のどかな田舎に住みたいなど、それぞれ需要が異なるので、それにどう合わせていくかが課題です。
<今後の展開>世界的に見ると、デンバーなどの自然が豊かなところの人口が増えており、価値が上がっているので、このような流れを利用して地方移住の流れをもっと増やしていきたいと考えています。
外国人向けのプラットフォームを運営する株式会社YOLO JAPAN加地太祐氏
<事業紹介>英会話スクールの事業から発展して、外国人の事業に着目し、事業展開。主に日本に来る外国人のビザデータやSNSデータを含むプラットフォームを運営しています。
<コロナ禍での転機>英会話スクールの家庭教師事業も展開しているのですが、コロナ渦で家庭訪問できなくなり、大打撃を受けました。求人メディアも、主に飲食・ホテル関係を展開していたため、同じく大打撃を受けました。
これらにより、ほぼ運営している事業がなくなってしまい、新たに色んな事業を立ち上げました。
まず、英会話の先生をコロナ除菌をする清掃員に転換して、コロナ渦のニーズに応えられるようにしました。そして、ホテル事業もダメになったので、プレミアムテレワークの事業として転換しました。
更に、デリバリー事業も開始し、日本は外国人を教育する際の助成金がしっかりしているので、そこから教育をメインにするアカデミア事業も立ち上げました。
そして外国人従業員の強みを生かして、ホテルを転用して、国内で留学できるような事業も開始しました。
今持っているものを、コロナ渦に合わせてちょっと転換することによって、利益に繋げる事ができました。
<今後の展開>このコロナ渦の中であっても、やはり人手不足が深刻な状況でして、コロナが去った後は更なる人手不足に見舞われると考えておりまして、これを機に日本にいる外国人のネットワークをしっかり作って、訪れるであろう深刻な人手不足に対応できるように準備したいと思います。
新たなニーズに向けてコロナ禍でも新事業が続々
コロナショックで自社の海外イベントが開催不可能という事態にイベントをオンラインイベントに変更し、功を奏した山口氏のエピソードは、コロナ禍にあり先行きが不透明な状況にある私たちを励ましてくれるものでした。
経験したことのないwithコロナの時代に、知恵を絞り出し対応することがビジネスチャンスにつながるのだと感じました。
コロナ禍に事業を拡大・成長する注目の企業は、今日話を伺っただけでも、アジア、ブラジルにこれだけあります。
川ノ上氏解説の中国の物流市場のスケールは圧倒的で、物流の課題をドローンで解決し、ドローンの利用が日常となる将来を思い描きました。今はコロナの影響で一旦止まっているドローンスタートアップのプロジェクトもいずれ動き出すことでしょう。
中山氏がその成長に期待して移住されたというブラジル、そしてアジアはコロナ禍にあっても熱い、そう実感しました。
コロナをきっかけにインドの人々の生活・行動が変容して生まれたニーズを、日本が世界に誇る日本酒、抹茶と結びつけようとする柴田さんのプロジェクトは、とても印象的でした。
ホスピタリティの課題に注目し、遠隔医療への事業展開を進める伊藤氏の取り組みはwithコロナの時代には欠かせないものとなっています。
人材確保に苦しむ地方で、コロナ禍による人々のライフスタイルやニーズの変化を追い風に、地方の魅力や価値を活かしてビジネス展開する渋谷氏。今後の地方再生に期待です。
加地氏は人材不足の波にのまれないように、既存事業の業態を変えながらその時々に合った展開でうまく波に乗っています。先を見通しながら既存ノウハウや人材を駆使しながら事業展開する姿には学ぶべきものが多々あるのではないでしょうか。
起業家の皆様、ありがとうございました!
創業手帳(冊子版)は、起業家のインタビューを数多く掲載。彼らの経営手腕を知ることができます。起業後のガイドブックとしてぜひお役立てください。
(編集:創業手帳編集部)