世界屈指の人材輩出国スウェーデンは、なぜ少数精鋭の組織を創れるのか?

創業手帳

社員のモチベーションを維持し、適材適所に配置する仕組みとは

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(2017/02/16更新)

前回の記事(スウェーデンってどんな国?)では、スウェーデンという国の概要を知って頂くべく、彼らの国民性、大切にしていること、そして移民の力、などについてお話ししました。 

今回は、スウェーデンが人口1千万ながら、なぜ国際的な人材・企業を多く輩出できたのか、少数精鋭の組織を作り出すことができたのか、その裏側を探っていきます。

そしてどうしたら一人一人のモチベーションをあげ、思っている以上の力を出すことができるのか、そのためにはどんなサポートが必要なのかを紹介していきます。

会社のポジションは、応募制度

スウェーデンの企業の人事制度は、日本とかなり違います。
何が違うのでしょうか?

日本の人事制度は、多くの企業で定期異動が採用されていて、社員はこれを業務の一環として受け入れることが定着していると思います。もちろんこの制度は、社員にとっていろいろな職種を経験でき、多くの人と仕事をするチャンスに恵まれるなどメリットもあります。

実は、スウェーデンでは、マネージャーのような役職はもちろんのこと、一般社員のポジションも「応募制」となっています。ですから、新たな仕事にチャレンジしたい、あの部署で働いてみたい、と思えば、そこのポジションに応募することができます。

もちろん、ポジションに空きがあった場合の話で、その部署に「募集」がなければ、応募することはできません。

また、応募したからといって、そこに異動できるわけではありません。まずは、そこの部署のマネージャーと面接をし、双方が合意をしたら、異動の手続きへ進むことになります。ここまでの間に、直属の上司が介入することはありません。

一般的に、上司は部下から、「他の部署への異動が決まった」と話があれば、それに対して「ノー」ということはできません。もちろん、すぐに辞められてしまっては、仕事に支障が出てしまいます。ですから、異動先の上司、直属の上司を交え、話し合いのうえ、異動日を決定します。

双方の上司は、本人にとって何が一番良いのか、そして会社にとって何がベストなのか、に主眼を置いて決めます。ごくまれに、異動が却下される場合もありますが、基本的には、条件付きでOKとなることが殆どです。

そのため、上司に自分のやりたいことを日頃から話しておくことが、非常に重要となります。そして、上司はそれに合わせて、部下のキャリアプランを一緒に考え、サポート・応援します。ですから、上司は部下が自分にあった仕事を見つけてきたときには、残念と思いながらも、「頑張れ!」と、送り出してくれます。

それには年齢や性別は関係ありません。
若くてもマネージャーやリーダーのポジションを得ている人は多くいます。実際、私も、プロジェクトをリードしていた時は、年上のメンバーが殆どでした。

彼らは、私が女性であるとか、年齢がどうだとか、まったく気にせず接してくれました。なぜなら、一番大切なのは、このプロジェクトをどうやって成功させるか、予定期間内に、決められた予算で、いかに良いものを作り上げるか、ということだからです。

そのための議論はたくさんしました。時には、意見がぶつかることもありました。でも、それは私が「女性だから」とか、「日本人だから」ということではないのです。
プロジェクトへの熱い思いが、活発な意見交換につながり、そしてチームを団結させていきました。

話が少しそれましたね。

ポイントは、日頃から、あなたの会社のスタッフが「目指している事・やりたい事」などを、こまめに聞いておく、ということです。その人たちにあったキャリアプラン、そして適材適所な人員配置が、社員のモチベーションをあげ、会社の生産性をあげることにつながります。

一見簡単なようですが、あなたの会社では、「適材適所」ができていますか?
社員の「やりたい」というモチベーションや向上心は、決して侮れませんよ!

キャリアダウンで、次のアップにつなげる

さて、「ポジション応募制」は、キャリアアップのためだけではありません。
特に、「こうなりたい」と明確な目標がある場合は、そこに到達するために、わざわざ回り道をする場合があります。

たとえば、「私は、いずれ○○事業本部を統括する役職につきたいのです。オペレーションの経験はあるのですが、あのポジションにつくには、セールス部門での経験があったほうが良いとされています・・・」などの場合です。

そうすると、全く経験のないセールスをするのですから、もしかしたら「階級」が今の仕事より下がるかもしれません、また、給料も下がるかもしれません。
それでも、現在のポジションに固執するよりも、その先にあるゴールを達成するために、必要であれば、キャリアを落とすことも厭いません。今いる会社でポジションが見つからなければ、他の会社への転職も視野に入れます。給料や役職が下がることになったとしてもです。 

交通渋滞にあった時、抜け道を探し「ちょっと距離は有るけど、こっちのほうがトータルでは早く着くかも」と、別ルートを選ぶのに、少し似ているかもしれません。

キャリアダウンを恐れずに、新たな経験を積み、次のキャリアにつなげる。かなり勇気がいりますが、挑戦にはリスクがつきものです。スウェーデンでは、このリスク許容範囲が、日本人よりも大きいのではないでしょうか。

また、暗闇に入っていくのが怖いのは、誰でも同じです。でも一歩踏み出したとき、変化がおきます。
自分のやりたいことに向かって、自分で道を選び、つかみ取る。 そのためには、自分自身が力を付ける必要がある。目的に向かって、努力をおしまず、リスクを恐れず、挑戦する姿勢が成功する多くの起業家を輩出した要因の一つと言えるでしょう。

あなたは、リスクをとっていますか?

教育費が無償で、いくつになっても勉強できる

新しいことに挑戦しようと思ったとき、とても助けになるのがこの国の教育制度です。
たとえば、「もう一度大学で勉強したい」、「今の職業をやめて○○になりたい」、などの場合です。

スウェーデンは、教育費が大学まで無償です。
でも、無償だからと言って、大学で遊んで過ごすということはほとんどありません。まさにその逆です。
なぜならスウェーデンのジョブマーケットは、とても競争が激しいため、良い仕事を得るには大学でよい成績をとっておく必要があるからです。そして、大学は3年で学士がとれるようなカリキュラムになっています。 実際には、大学へ進学する殆どの人が、マスター(修士)コースまでを通常4年のプログラムで取得しています。 つまり、かなり詰まった内容ですので、しっかり勉強しないと、単位がとれません。

「大学に入学すること」が目的となっている日本とは、かなり違いますよね。また、4年間で大学院に当たる修士コースまで終える、というシステムも見習うべきポイントかもしれません。

そして、最大のメリットは、いつでも学びたいと思ったら、授業料の心配をせずに大学に行けることです。
ですから、社会人になってから大学で学ぶ人も多いんですよ。

私の友人のお母様は、仕事をしながら50代で大学に入り直し、博士課程まで修了されました。この間、会社は、正社員であった彼女に、短時間勤務を許可してくれたそうです。

ある友人は、配管工事の会社を経営していました。経営はうまくいっていて、長時間働かなくても、かなりの収入を得ていました。ですが、ある時、「もっと子供と関わる仕事がしたい」と、自分の会社を売って、保育園の先生になるべく、学校に通い始めました。ちなみに、奥様とお子さん2人(小学生と中学生)がいらっしゃいます。

そして、会社の同僚でも、大学に通っている人が何人かいました。

このように、「学ぶ」環境が整っていることはとても羨ましく思います。でも、それだけでなく、年齢などに関係なく、挑戦する意欲に感動しました。

そして、「やりたい」と手を挙げたときの、会社からのサポートも大きな要素です。
会社は、個人の能力があがると、それが会社にとってもプラスと考えます。
それによるネガティブな面より、ポジティブな面を考えサポートしてくれるのです。

スウェーデンの会社は、「人」をとても大切にします。
IT先進国のスウェーデンであっても、「人は財産」を基本とした経営を進めています。

高い大学進学率、そして個人の力を信じる社会が、少数精鋭で国際競争力が高い国を作り出している要素とも言えるでしょう。私たちは、会社のスタッフを「将棋の駒」のように扱っていないか、彼らの能力を最大限に引き出すサポートをしているか、今一度見直す必要がありそうですね。

家族の強いサポート

あなたが新しいことへの挑戦を躊躇しているとき、それを阻んでいるものは何でしょうか?
「自信がない」、「周りの目」、「お金のこと」、「将来性」、そして「家族」、などが理由の一つにあがるかもしれません。

スウェーデンで感じたのは、○○をやりたい、と本人が話した場合、よっぽどのことがない限り、家族は「ノー」とはいいません。むしろ「頑張って!」と応援してくれます。

もちろん、悪徳商法やカルト宗教のように「法律違反・洗脳」に等しいようなことをやりたいと言ったら、それは全く別の話です。

ですが、通常は本人の「やりたい」を尊重します。万が一、それが失敗に終わるかもしれないものであったとしても、それも貴重な経験の1つとして受け入れます。

先の例のように、妻であり母であり会社員である女性が、大学に通いながら、しかも働き続ける場合、家族のサポートが必須となります。でも、家族全員が、「頑張って!」と応援してくれたそうです。

幼稚園の先生になりたいと、自分の会社を売った男性の場合も、奥様がその間の生活を支えてくれていたといいます。以前の私だったら、心配が先にたち、応援するどころか“そんな無茶なことは考え直すように”、と反対していたかもしれません。

本人の「やりたい」を優先する。 そして、自分のやりたいことも、きちんと伝え、話し合う。
意見が違っていたとしても、きちんと話しあって、合意する。そして、それをサポートしあう。
これが、スウェーデン流 「家族円満」の、秘訣のようです。

まとめ:「やりたい」を応援しよう!

スウェーデンで暮らしていて感じたのは、とても「自由」で、「フレキシブル(柔軟)」いうことでした。
大学に入る前に社会勉強を積む、一度海外で働いてからスウェーデンに戻ってくる、転職して更なる挑戦をする、などなど。

そして、その逆もありです。
自分にあっている会社であれば、転職せずに、そこでエキスパートとして定年まで貢献する。
実は、このような人も結構います。

つまり、何を望んでいるか、どうなりたいかによって、「人生を自分で選択できる環境」があるということです。日本のように、「あなたは○○すべきだ」、という家族や社会の声はありません。 万が一、あったとしても、決めるのは自分です。

あなたの会社で、社員の「やりたい」をサポートできる環境があると、適材適所がスムーズに進み、自然と社員のモチベーションがあがり、生産性の向上にもつながるのではないでしょうか。 そして、あなたのサポーターも増えることでしょう。

やらないで後悔するより、「挑戦し、失敗をも糧にする」。そして柔軟な思考で「自分と違う価値観を受け入れる」。これが多くのイノヴェーションを生み出す秘訣の一つかもしれませんね。

是非、あなたの「やりたい」、家族の「やりたい」、社員の「やりたい」を応援してあげてください。

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(監修:ソルローズ株式会社 正木 美奈子
(編集:創業手帳編集部)

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