suswork 田岡 凌|「No.1になれる市場を創り出す」カテゴリー戦略とは
AI時代に勝つ起業家のための思考法

「いい商品なのに売れない」「なぜかお客さまに選ばれない」
そんな悩みを抱えていませんか?
起業家や経営者が直面する普遍的な課題を「カテゴリー戦略」で解決に導き、企業が独自の市場でNo.1になるための事業成長を支援しているのが、suswork株式会社です。
代表取締役・田岡凌さんの著書『カテゴリー戦略』(クロスメディア・パブリッシング)は「実務者が選ぶマーケティング本大賞2025」大賞を受賞し、注目を集めています。
今回のインタビューでは、数々のマーケティングの現場や起業初期の試行錯誤から生まれた独自の視点と、「新しい事業の勝ち筋」を見つけるための具体的なアプローチについて詳しく伺いました。
suswork株式会社 代表取締役
京都大学卒業後、ネスレ社にてネスカフェ、ミロのブランド担当。外資系ブランドマーケティング責任者を経て、マーケティングスタートアップ CMOに。
現在、suswork株式会社 代表取締役として、大手企業を中心に約30社の事業成長、カテゴリー戦略を支援。著書に「急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略」。ギャラップ社認定クリフトンストレングスコーチ。
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この記事の目次
京大→ネスレ→WeWork。異色のキャリアの先に見た「日本の未来」
田岡:弊社は「カテゴリー戦略」を起点に、企業の事業戦略を支援する会社です。具体的には、顧客の潜在課題を捉え、新しい市場価値をつくるための戦略策定から実行支援までを行っています。スタートアップから大手企業まで、現在支援している企業は30社ほど。新規事業の立ち上げ支援も多く、そこから派生してタクシー広告やエレベーター広告、動画チャンネルなどのブランディング支援も手がけています。
田岡:京都大学経済学部を卒業後、ネスレ日本に入社しました。新卒として社内で初めてマーケティング部門に配属され、カプセル式のコーヒーマシンなどのブランドマーケティングを担当。そのほか、家庭外のコーヒー需要を開拓する新規事業にも取り組みました。
その後、WeWorkに入社し、日本市場参入のタイミングでブランドマーケティング責任者を務めました。そこからスタートアップのCMO(最高マーケティング責任者)を経て、susworkの立ち上げに至ります。
ふり返ると、マーケティングと事業戦略の領域で、10年以上経験を積んだことになりますね。どのポジションでも共通していたのは、事業の収益・売上に直接責任を持ち、様々なマーケティング施策を組み合わせて成長を実現する役割を担っていたことです。
田岡:もともと学生時代から、自分で何か事業を起こして世の中にインパクトを与えたいという想いがありました。ただ、実際に起業を決断した大きなきっかけは、子どもが生まれたことです。
自分の子どもがこの先20年、30年後にどのような日本で生きていくのかを考えたときに、「このままの日本で、本当にこの子たちは豊かに暮らせるのだろうか」という危機感を抱いたんです。
とくにAI時代になり、仕事を生み出せる人、本質的な価値をつくれる人が減っていくのではないかと。本質的な価値とは、誰かの課題を解決し、新しい市場をつくることです。だからこそ、日本から新しい事業や産業を生み出す人材を増やし、彼らの成功を支援する仕組みをつくるために起業しました。
バリューチェーンの現場から学んだ「顧客理解」の重要性
田岡:「顧客理解」、つまり「本当のお客さまは誰なのか」を見失わないことの大切さです。大企業にいると、つい社内の上司や経営陣が“顧客”になってしまいがちですが、本来ビジネスの起点は常に「実際のお客さま」であるべき。ネスレでは実際にお客さまに会う機会が多くあったので、この感覚を現場で掴めたことは本当に貴重でした。
田岡:私が定義する「マーケティング」とは、お客さまの課題を解決し、行動を変え、市場をつくっていくことです。テレビCMやデジタル広告だけではなく、商品開発、パッケージ、サプライチェーン、広報など、事業全体に関わる仕事だと思っています。でも世の中では「マーケティング=広告宣伝」と狭く捉えられがちで、本質的な部分の10%程度しか語られていないんです。
では、その事業全体を動かすために何が必要か。それが「顧客理解」です。ネスレ時代は、実際にお客さま向けのイベントを開いて直接お話を伺ったり、インタビュールームに来ていただいて話を聞いたりするほか、ご自宅を訪問してヒアリングを行うホームビジットも行っていました。
なかでも私が最も大事にしていたのは、現場に足を運んで「観察する」こと。カフェ事業を担当していたときは、様々な店舗を回り、実際にお客さまがどう行動しているかをひたすら見ていました。何も言わずにその場に佇んでいると、お客さまが「このメニューを選ぶときに時間をかけている」「不安そうにしている」といった細かな仕草が見えてきます。そうした観察の中に、本質的な課題のヒントがあるんです。
1本のnote記事が最初のクライアントにつながった
田岡:かなり前向きに受け止めてもらえました。というのも、妻も起業していて、アパレルブランドを運営しているんです。むしろ「もっと大きなことを成し遂げよう」と背中を押してくれました。今でも一番の理解者であり、支えてくれる存在です。
田岡:ありましたね。起業してすぐ、プロダクト開発に専念しようとすべての仕事をリセットしたんですが、これがうまくいきませんでした。
働く人のウェルビーイングを高めることを目的とした、企業向けのプロダクトを作ろうとしていたのですが、大手企業に提案しても反応が薄かったんです。「面白いですね」とは言っていただけるものの、「で、これは何のサービスなんですか?」と聞かれ、うまく答えられませんでした。
そのとき気づいたんです。問題は「そのプロダクトがどのようなカテゴリーに属するのか」を自分たちでも明確に定義できていなかったことだと。世の中にない価値を伝える難しさを痛感しました。これが後の「カテゴリー戦略」につながる原体験になっています。
ただ、不思議と不安にはならなくて。「プロダクトがダメなら、まずは自分にできる価値提供から始めよう」とすぐに切り替えて、企業のマーケティング支援にシフトしました。今思えば冷静さに欠けていた部分もあったかもしれませんが、直感を信じて動くことができたのは良かったと思っています。
田岡:プロダクト開発がうまくいかず悩んでいたとき、試しに一本のnote記事を書いたんです。「マーケティング戦略組織づくり100」という自分のマーケティング経験を全部詰め込んだ内容でした。

今振り返ると荒削りな部分もあったんですが、それを読んだ企業の方から「うちのマーケティング戦略を見てもらえませんか?」と問い合わせをいただいて。それが最初のクライアントになりました。
シェア争いは不要!?新しい市場をつくる「カテゴリー戦略」とは
田岡:カテゴリー戦略とは、「自分たちがNo.1になれる独自の市場をつくること」です。もう少し丁寧に言うと、「新しい市場をつくり、そこでNo.1ブランドとしてポジションを築くこと」。
なぜ今、カテゴリー戦略が重要なのか。それは、先行き不透明なVUCA時代を迎えているからです。AIをはじめ、昨日までできなかったことが今日できるようになる。新しい課題が次々と生まれるなか、既存カテゴリーの2位・3位が選ばれる機会は減り続けています。
そもそも人は、1つのカテゴリーで思い出せるブランドは1〜2個が限界と言われています。だからこそ人は、迷わず選べる「その分野で一番有名なもの」に頼るようになるんです。結局、No.1しか選ばれないのが現実。既存カテゴリーでのシェア争いより、「独自の価値から新しいカテゴリーをつくる」ほうが勝ち筋が見えやすいんです。
たとえば、スキマバイトの『Timee(タイミー)』、ロボット掃除機の『ルンバ』、グミサプリの『UHA味覚糖』、スポットコンサルの『ビザスク』など、これらはいずれも新たに独自のカテゴリーを生み出し、その代名詞的存在になった例です。

田岡:まず押さえておきたいのは、カテゴリーはお客さまの頭の中にあるということ。企業側が勝手に決めるものではないんです。どれだけ「私たちは〇〇です」と主張しても、お客さまがそう認識しなければカテゴリーは生まれません。
つまり、「お客さまにどのような新しい言葉を所有してもらうか」を考えることが一番重要。そのために着目すべきなのが「お客さま自身も気づいていない潜在課題」なんです。
たとえば新規事業を始めたい企業には、「顧客が誰か分からない」「どんな課題を抱えているか分からない」という悩みがありますよね。その潜在課題に対し、「市場の一次情報を持つ専門家にすぐ話を聞けるサービス」を提供したのが『ビザスク』です。これはまさに「潜在課題から新しい価値を生み出し、そこにラベルを貼る」、つまり「カテゴリーをつくる」好例ですね。

既存の市場を疑え。顧客の「潜在的な課題」を見抜くコツ
田岡:まず大事なのは、「誰のどんな課題を解決するのか」を定義することです。
たとえば「渋谷でカレー屋を始める」という起業の例を考えてみましょう。この場合、最初に考えるべきは「どんなカレーを売るか」ではなく、「ターゲットは今どこでランチを食べているか」です。カレー屋、ラーメン屋、コンビニなど、選択肢はいろいろあるでしょう。
そのなかで、コンビニで足早にドライカレーを買っている人たちがいたとします。彼らにとって、渋谷の高層ビル街では、ランチの内容そのものより「ランチの時間がない」ことが課題なのかもしれません。エレベーター待ちで10分以上時間がかかる場合もありますからね。
さらに観察を深めると、別の課題も見えてきます。リモートワーク中心から出社体制に戻った企業が「出社のきっかけづくり」に悩んでいる。社員は「わざわざ出社する理由」を求めている。そこでようやく、「時間がない」「出社の理由がない」という2つの課題を解決するための事業アイデア、「有名なカレー屋を日替わりで呼ぶデリバリー社食」が浮かんでくるのです。
つまり、カレー屋の顧客は「お腹を空かせた個人」ではなく、「社員のモチベーションに悩む企業の人事部門」かもしれないんです。
田岡:おっしゃる通りです。だからこそ、まずは現場に行って観察する。お客さまが「今何をしているか」「何に困っているか」を、自分の目で確かめることから始めてほしいですね。
シンプルな“勝ち筋”を見つけるための「アウトプット習慣」
田岡:カテゴリー戦略の本質は、お客さまが特定の問題に直面したとき、「真っ先にあなたの事業を思い出す」状態を築くことにあります。
そのためには、知らない人にも一瞬で理解できる言葉で事業を定義しなければなりません。私が日々意識しているのは、この言葉を見つけるためのアウトプットです。
具体的には、学んだことを家族や友人に説明するなど、まったく知識がない人にどう伝わるかを常に試しています。自分のビジネスを一言で説明できないなら、お客さまの頭にも残りません。この「言葉を削ぎ落とす」訓練が、シンプルなコンセプトを生み出す力になるのです。
もう一つ大切にしているのが、「普通の感覚」を持ち続けること。新しいカテゴリーは、生活者のリアルな課題から生まれます。
たとえば私は、YouTube Premiumには入っていません。広告を見ない環境に慣れると、一般の人がどんな広告に触れているか分からなくなってしまうからです。なるべくタクシーを使わず、山手線や地下鉄に乗るようにしているのも同じ理由です。駅構内の雰囲気や広告、通行人の動きなど、そこに生活者の潜在的な課題が隠れていますから。
田岡:私たちは企業が新しい市場をつくり、そこでNo.1になるための支援に特化したカテゴリー戦略ファームです。「日本の未来を開いていく」というパーパスを掲げています。
そのアプローチ方法は2つあります。1つは、グローバルで日本企業が新産業を生み出せるよう支援することです。世界の時価総額トップ企業を見ると、どの企業もその分野のカテゴリーリーダーです。検索エンジンのGoogle、パーソナルコンピューターを普及させたApple、電気自動車のTesla。こうした存在が国の象徴になっています。日本からも、そうした企業を生み出したいんです。
もう1つは、カテゴリー戦略の思考法そのものを社会に広めることです。顧客を理解し、現場に足を運び、課題から勝ち筋を見出す。この思考はあらゆる人にとって大切なビジネススキルだと思うんです。この考え方を学べるラーニングプログラムもリリース予定です。この思考法が社会に広まれば、日本全体のビジネスが底上げされると確信しています。
あなたの「言葉」と「行動」が未来を開く
田岡:「いい商品なのに売れない」「なぜかお客さまに選ばれない」といった悩みを持つ方は本当に多いと思います。でも、それは“お客さまの頭の中にあなたがいない”からなんです。
どうすれば頭に浮かぶ存在になれるのか?その答えはやはり「顧客を理解すること」です。そして実際にその声を聞きに行くことです。繰り返しになりますが、これだけは絶対に実践してほしいですね。
その上で、「自分は何屋なのか」「何を解決する人なのか」を一言で言えるようにする。その言葉は、必ずしも多くの人に届く必要はありません。シンプルでかまわないので、世の中にどんな新しいことを提案するのかを、徹底的に言語化しましょう。あなたのその言葉、つまりカテゴリーこそが、ビジネスを切り開く力になります。
そして何より、悩む前に行動すること。「今が一番若い」と思って、直感を信じて行動してください。足を動かせば、必ず何かが返ってきます。愚直な行動の積み重ねが、あなたにしか作れない市場を切り開いていくはずです。
(取材協力:
suswork株式会社 代表取締役 田岡 凌)
(編集: 創業手帳編集部)







