損害保険とは?企業が備える保険の種類や選び方・ポイントを解説
損害賠償のリスクに備えるなら損害保険
企業活動には、事故や災害などの様々なリスクがあります。想定外の損失が起きれば事業継続が難しくなることも考えられます。
リスク対策として効果的なのが企業向けの損害保険です。万が一の際にも迅速に対処できます。
しかし、企業向け損害保険の具体的な内容や種類など、不明な点も多いかもしれません。
そこで今回は、企業向け損害保険について解説すると共に、種類や選ぶ際のポイントなどを解説していきます。
損害保険への加入を検討している企業経営者や損害保険について知りたい人は、ぜひ参考にしてみてください。
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この記事の目次
企業向け損害保険とは
まずは、企業向け損害保険について解説していきます。
損害保険は損害を補償する保険
保険は以下の3種類に大別できます。
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- 第一分野:生命保険
- 第二分野:損害保険
- 第三分野:傷害保険、医療保険など
今回紹介する損害保険は第三分野となり、事故や災害に備えるための保険です。
台風や地震、火事や交通事故、盗難といった予期せぬ出来事によって受けた被害や第三者への賠償責任をカバーする目的があります。
保険契約者が保険会社に対して保険料を支払い、損害が発生すれば保険会社から保険契約者もしくは被害者に対して保険金が支払われる仕組みです。
例えば、火事が発生して自宅が被害を受け、建物を直すための費用や燃えてしまった家具や家電の買い替え費用など、全部で1,600万円が必要になったとします。
火災保険に加入していれば、保険金額の設定や保証範囲によっては1,600万円分をカバーできます。
生命保険と損害保険の違い
生命保険は第一分野に当てはまる保険で、人的な損害を補償するためのものです。死亡リスクに備えるための保険として、終身保険や収入保障保険などがあります。
また、将来の資金不足に備えるための保険として、子どもの学費を積み立てることが目的の学資保険や、老後資金を準備するための個人年金保険など、貯蓄性のある生命保険もあります。
生命保険は病気や怪我といったヒトに対するリスクを保障してくれる保険ですが、損害保険は家や車といったモノを対象にしたリスクに備えるための保険です。
生命保険には契約した一定額が保険金として支払われる定額払い方式が採用され、損害保険には実際の損害額が支払われる実損払い方式が採用されています。
個人向け損害保険と企業向け損害保険の違い
個人向け損害保険と企業向け損害保険の主な違いとして、契約者や被保険者、保険の目的などが挙げられます。
個人向けの場合は個人が契約者・被保険者となりますが、企業向けは法人が契約者となり、事業活動や従業員が被保険者です。
個人向けは個人の資産や生活を守ることが目的ですが、企業向けが事業活動におけるリスクをカバーすることが目的です。
企業向けの損害保険の種類
企業向けの損害保険には、以下のような保険があります。
種類 | 補償対象 | 例 |
---|---|---|
財産保険 | 物理的な損害 | 火災保険、動産総合保険など |
賠償責任保険 | 他者への損害賠償 | PL保険、施設賠償責任保険など |
休業保険 | 営業不能時の利益損失 | 休業補償保険など |
従業員保険 | 労働中のケガなど | 労災上乗せ保険など |
経営者保険 | 役員の賠償責任など | D&O保険など |
自動車保険 | 社用車の事故 | 自動車保険(法人契約) |
企業財産に関する保険
台風や火災、地震や落雷といった自然災害によって企業財産が直接的に損害を受けた際のリスクを補償してくれる保険です。
企業財産には、建物や設備、什器や商品などが当てはまります。
企業財産の復旧や買い替えには多くの費用がかかるため、法人向け損害保険による補償がなければ事業継続が難しくなるかもしれません。
損害の一例としては、以下のようなケースが考えられます。
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- 火災による施設の損害
- 落雷による設備の損傷
- 台風による看板の破損
- 地震による工場の損傷
企業向けの火災保険や地震保険、動産総合保険などに加入していれば、これらの損害をカバーできるため安心です。
賠償責任に関する保険
取引先や顧客といった第三者に対して、思わぬ損失を与えてしまった時の損害責任をカバーするための保険が賠償責任に関する保険です。
第三者に経済的損失や身体的損失、精神的苦痛を与えた際に、損害賠償責任が発生する懸念があります。
このような事態に陥った時でも保険に加入していれば損害をカバーしてくれます。
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- 店舗内の商品が倒れて顧客にぶつかり怪我をさせてしまった
- 製造した弁当によって食中毒を発生させてしまった
- サイバー攻撃によって個人情報が流出した
- 建築現場の資材が落下して近隣住宅が損傷してしまった
上記のような問題が発生すれば、損害賠償請求を受ける危険性や治療費の請求、訴訟の際の弁護士費用の請求など、あらゆる責任が発生する可能性があります。
生産物賠償責任保険(PL保険)や施設賠償責任保険、請負業者賠償責任保険やサイバー保険などに加入をしていれば、補償を受けられます。
事業運営に関する保険
事故や災害による事業の遅れや休業時の利益損失に対する備えが事業運営に関する保険です。
事業に遅れが生じたり休業したりすれば、本来得られたはずの利益を受けられなくなります。
企業向けの損害保険では、間接被害となる利益損失に対する備えもカバーしてくれます。例えば、以下のような被害です。
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- 建物火災による休業
- 食中毒発生による休業
- 災害発生によるイベント休止
- 業績悪化による取引先倒産
火災や水害などが発生して建物や設備が損傷すれば休業を余儀なくされ、利益を上げられません。
一方、休業補償保険に加入していれば利益損失や各種費用の補償を受けられます。
なお、船の沈没や座礁、悪天候による荷物の破損など、海上輸送中の様々な事故による荷物の損害を補償する外航貨物海上保険もあります。
従業員に対する保険
企業向け損害保険には、従業員の業務中の怪我や事故に対する保証義務をカバーするものもあります。
従業員に対する損害保険には労災保険もありますが、労災保険だけではカバーできないケースや企業側の過失が問われることがあるかもしれません。
法人向け損害保険への加入で補償を強化できます。
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- オフィスでの転倒による負傷
- 高所からの落下による怪我
- 業務中の事故での死亡
- 業務における心理的負荷による精神障害
- ハラスメント行為による訴訟
近年では、パワハラやセクハラによる訴訟リスクも増加しているため、ハラスメントに関わる備えも必要です。
経営者や役員に対する保険
会社の役員として行った行為に起因した損害賠償請求をカバーする保険もあります。
例えば、長時間労働で従業員が死亡すれば、従業員の親族が第三者訴訟を提起するケースです。
裁判所が取締役の責任を認めて損害賠償の支払いを命じれば、その費用を保険でカバーできます。
いじめやハラスメント行為などでも経営者や役員が損害賠償請求を受けるケースがあるため、会社役員賠償責任保険(D&O保険)や雇用慣行賠償責任保険(EPL保険・特約)などに加入しておくと安心です。
社用車に関する保険
法人が所有する自動車事故の損害をカバーする保険です。社用車による交通事故の可能性はゼロではありません。
交通事故に巻き込まれれば修理や保証が必要になり、企業の財産を圧迫する可能性があります。
また、事故だけではなく駐車中の盗難や自然災害が原因の損傷なども考えられます。これらの損害をカバーする保険が法人向けの自動車保険です。
補償内容や保険料、保険金の支払い限度額は保険を提供している企業によって異なるため、あらかじめ確認してください。
事業全般に対応する保険
企業向け損害保険には様々な種類があり、どの保険に加入すれば良いかわからず悩むケースもあります。また、加入漏れがあれば万が一の際に補償されません。
そこで、事業活動全般をカバーできる保険への加入がおすすめです。
事業全般に対応する保険に加入していれば、財産に関する補償や休業に関する補償、賠償責任や労災事故に関る補償をひとつの保険でカバーしてくれます。
契約手続きは1回で終わるので、契約時の負担を軽減できる点も魅力です。
企業が損害保険を選ぶ際のポイント
企業向け損害保険は多種多様で、選択に苦労するかもしれません。以下のポイントを意識して保険を選んでみてください。
補償内容と料金のバランスを考えて選ぶ
保険に加入する場合、気になる点といえば費用です。安い保険料であればコストをかけずに加入できますが、必要な補償を受けられなければ意味がありません。
しかし、過剰な補償を備えれば保険料が高額化する可能性があるため、経営上の負担になることも考えられます。
そのため、保険を選ぶ際には業務内容や考えられるリスクを正確に把握し、本当に必要な補償であるか見極めることが重要です。
事業規模を考慮して選ぶ
事業規模を考慮することもポイントのひとつです。
広く浅い事業リスクに対応する保険よりも、発生する可能性があるリスクに対して個別に対策がとれる保険を選んだほうが損害をカバーできる可能性があります。
中小企業や個人事業主の場合は、リスク対策を充実させることも必要ですが、保険料をできる限り抑えて、管理や手続きの負担を軽くすることも大切です。
また、包括的に補償してくれる総合保険を選ぶほうが様々な負担を抑えられます。
総合保険であれば、ひとつの保険に加入するだけで複数のリスクに対応でき、手続きが1度で済むため、手間や負担を少なくできます。
重複している補償・必要ない保険を避ける
保険を選ぶ際には、重複している補償や必要のない保険を避けることも大切です。複数の保険に加入すれば、補償内容が重複する危険性があります。
従業員が自社で保有しているトラックで事故を起こして、第三者に怪我をさせたとします。
その場合は、賠償責任保険を使ってカバーしようと考えるかもしれません。しかし、企業向け自動車保険に対人賠償が含まれている可能性があります。
適用される補償内容を見定め、重複している保険がないか確認してください。
また、自社にとって必要ない保険に加入すればコストが膨らみます。
例えば、工事を請け負っていないのであれば、工事の遅延が要因による遅延金支払いをカバーする補償は不要です。
包括的な保険よりも特定業種で起こりがちなリスクをカバーしてくれる賠償責任保険のほうが、事業に合う補償内容が組み込まれているかもしれません。
包括的な保険は1度の手続きのみで幅広いリスクをカバーしてくれる点がメリットですが、事業内容によっては不要な補償内容が含まれている可能性が高いです。
本当に自社に合った保険なのか、しっかりと見定めてから加入するようにしてください。
定期的に見直しをする
企業向け損害保険には様々な種類があり、補償内容もそれぞれ異なります。
加入した当時は最適な内容だったとしても、経営環境や社会情勢の変化などで自社に見合う保険の種類が変わる可能性もあります。
そのため、企業向け損害保険に対して定期的な見直しをするようにしてください。見直しをすれば経費削減を目指せる可能性もあり、コストを抑えたい場合にも有効です。
保険のプロに相談する
自社に合う保険がわからなければ、プロに相談することを検討してください。
複数の保険会社の商品を取り扱っている保険代理店に相談をすれば、業種や規模に応じた保険プランを提案してくれます。また、見積もりの比較や契約の手続きも可能です。
なお、ひとつの保険会社のみを扱う専属代理店であれば比較ができないことに注意してください。
まとめ・自社に合う最適な損害保険を選ぼう
企業を取り巻く様々な損害を補償するための保険が企業向け損害保険です。
物理的な損害や他社への損害、利益損失や従業員の怪我など、あらゆるリスクをカバーしてくれる商品が各社から提供されています。
自社の業務内容や規模に合う最適な保険への加入を検討してみてください。
創業手帳(冊子版)では、リスクマネジメントに関する問題や対策方法なども紹介しているので、事業に役立てるためにも参考にしてみてください。
(編集:創業手帳編集部)