個人事業主が加入を検討すべき保険を徹底解説!

創業手帳

公的社会保険だけでなく、民間の各種保険もご紹介

個人事業主がリスクに備えて知っておくべき保険について、その種類や内容などをわかりやすく解説します。個人事業主は、会社員や公務員とは、加入する公的社会保険の内容が異なります。それを踏まえたうえで、どのような民間保険の加入を検討すべきか考えていきましょう。各種保険の内容について具体的にご紹介します。

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個人事業主と社会保険制度

社会保険とは

社会保険は、労働者の病気やけが、老後の生活資金、労働災害、失業などのリスクに備える国の保障制度です。

社会保険には、公的医療保険(健康保険)、年金保険、介護保険、労働者災害補償保険(労災保険)、雇用保険の5つがあります。
公的医療保険と年金保険、介護保険を「社会保険」、労災保険と雇用保険を「労働保険」と区分することもあります。

個人事業主と会社員: 社会保険の違い

「介護保険」は、個人事業主も会社員も同じ制度に加入しますが、その他の社会保険については加入する制度が異なります。個人事業主と会社員ではどう違うのでしょうか?

個人事業主の場合、公的医療保険は「国民健康保険」、年金保険は「国民年金保険」に加入します。
一方、会社員の場合、健康保険組合(会社単独またはグループ会社が共同で設立)や全国健康保険協会(主に中小企業が加入)が運営する「健康保険」、年金保険は「厚生年金保険」です。

また、個人事業主には、労災保険や雇用保険が適用されません

保険料の支払いに関しても、会社員は給与天引きで保険料(労災保険は会社が全額負担)を支払うのに対し、個人事業主は自分で保険料を納めなければなりません。

なお、75歳になると、だれもがそれまで加入していた健康保険から脱退し、後期高齢者医療制度に加入することになります。保険料は、原則公的年金から天引きされます。

個人事業主は、会社員と比べると、勤務先からのサポートがないだけでなく、健康保険や年金保険の給付でも一部限定的なところがあります。その足りない保障については自分で準備しなければなりません。主に「休業時の収入を補うための保障」と「老後に備える保障」などが考えられます。

また、会社員の扶養家族は会社の社会保険に加入できますが、国民健康保険や国民年金保険には扶養という仕組みがないため、個人事業主の配偶者や子どもの扱いが会社員の場合と異なり、家族のいる個人事業主は注意が必要です。
自分にとって優先すべきは何かを考え、民間保険を含めてしっかり検討していきましょう。

個人事業主が加入できる社会保険

国民健康保険

「国民健康保険」は、個人事業主らが、病気やけがをした時などに必要な保険給付をおこない、日常生活の安定を図ることを目的とした制度です。

「国民健康保険」に加入する場合は、被保険者の資格取得日から14日以内に加入の届出をする必要があります。会社員であれば会社が一定の割合を負担してくれていた保険料も、個人事業主は全額自己負担です。

療養給付の一部負担、高額療養費、出産育児一時金などは、会社員が加入する健康保険と同じですが、「国民健康保険」では、傷病手当金および出産手当金は基本的にありません

傷病手当金は、病気やけがのため会社を休んだ際、要件を満たせば、休業4日目以降、給与の3分の2を最長1年6か月間支給されます。出産手当金は、出産のため会社を休んだ際、給与の3分の2を出産日以前42日から出産翌日以後56日目までの範囲内で支給されます。

というわけで、個人事業主は、病気やけが、出産で仕事ができないとき、社会保険からの給付が期待できない点を覚えておきましょう。

「国民健康保険」には扶養という仕組みがないことは前述しました。
会社員の扶養家族(配偶者や子ども)は、「被扶養者」として会社員の健康保険に加入することができます。会社員1人分の健康保険料で、扶養家族全員が健康保険の給付を受けることができるわけです。

一方、個人事業主が加入する「国民健康保険」では、1契約につき1人しか保険加入できません。扶養家族(配偶者や子ども)はそれぞれが保険料を支払って保険加入する必要があります。

ただし、国民健康保険料は世帯単位で納付するため、実際には世帯主が家族の分をまとめて支払うことになります。

介護保険

「介護保険」は、介護が必要な場合にその費用を給付する保険です。

運営主体は、全国の市区町村。40歳以上65歳未満の公的医療保険加入者は、健康保険の保険料と一括納付します。65歳以上は、公的年金から天引き、あるいは口座振替や納付書による納付で徴収されます。

国民年金

「国民年金」は基礎年金ともいわれ、国民皆年金制度により、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の人はすべて加入しなければならない公的年金です。

一定額の保険料を納めることで、老齢・障害・死亡によって、その人と家族の生活が脅かされないように保障します。要件に該当すれば、老齢基礎年金が支給されます。

老齢基礎年金は、65歳以降に一生涯給付される年金です。保険料納付済期間が原則20歳から60歳まで40年間あれば、年金額は満額の78万900円(令和3年度)が受給できます。

一方、「厚生年金保険」に加入する会社員は、上記の老齢基礎年金に加えて、老齢厚生年金を受け取れます。また、遺族厚生年金は、高校生までの子どもがいなくても受給できるので、老後の遺族保障としての役割が期待できます。障害厚生年金は障害等級3級でも支給されるなど、年金受給の要件が広がっている点が特徴です。

個人事業主は、会社員と比較すると、年金額が低くなったり受給要件が限定されたりする場合があることを理解しておきましょう。

個人事業主の年金保険についても、健康保険と同様、扶養という仕組みがないので、扶養家族は個人事業主とは別に保険に加入しなければなりません。

会社員の被扶養配偶者は基礎年金の給付に必要な資金が厚生年金保険から拠出されるため、「第3号被保険者」として無料で国民年金に加入できます。一方、個人事業主の配偶者は「第1号被保険者」として保険料を支払って国民年金に加入する必要があります。

労災保険の特別加入制度

労働者の安全を守る労災保険は、個人事業主には原則適用されません。したがって、仕事中にけがをして働けなくなっても、個人事業主には社会保険からの給付はありません。

ただし、特例があります。所定の要件を満たした中小事業主や、労災リスクの高い個人タクシー業者や大工など(いわゆるひとり親方)は、労災保険に特別加入することができます。労災保険は手厚い補償内容が特徴なので、特別加入の要件を満たす個人事業主にはおすすめです。

会社員から個人事業主になった場合の特例

会社員を卒業して、個人事業主として独立したいと考えている人もいるでしょう。その際、見落とされやすい特例があるので、ご紹介します。

会社員時代の健康保険の任意継続

会社員から個人事業主になった場合、希望すれば、在職していた会社で加入していた健康保険を2年間継続することが可能です。

申請は、自宅の住所を管轄する全国健康保険協会の都道府県支部でおこないます。

「継続して2か月以上の被保険者期間があること」「資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に申請すること」という条件があるので、注意が必要です。条件を満たしていれば、配偶者や子どもも、引き続き扶養に入れられます。

保険料は全額自己負担。正当な理由なく納付期日までに保険料を納めない場合は、納付期日の翌日で資格を喪失します。

個人事業主に民間保険加入をすすめる理由

個人事業主には、会社員と違って会社の後ろ盾がありません。

また、前述した通り、個人事業主は、「傷病手当金を受給できない」「老齢年金の金額が少ない」「遺族年金・障害年金の受給要件が限定されている」など、公的な社会保険では保障内容が手薄になる場合があります。それらを補う手段のひとつとしておすすめするのが、民間保険の加入です。

個人事業主が加入を検討すべき各種保険

個人事業主が加入を検討すべきなのは、①休業時の収入を補うための保障、②老後に備える保障、③死亡時の遺族に対する保障に関する保険です。それぞれについて見ていきましょう。

以下に挙げた保険のすべてに加入する必要はありません。ご自身の資産状況や生活背景に合わせて、優先順位をつけて必要性の高い保険から選んでください。

休業時の収入を補うための保障

医療保険

「医療保険」は、病気やけがで入院・手術をした場合、給付金を受け取れる保険です。入院時の手術だけでなく、外来で受けた手術も保障の対象となる保険も増えてきました。

「医療保険」は、特約の種類も豊富です。先進医療を受けた場合の保障、三大疾病(がん・心疾患・脳血管障害)になった場合の保障、所定の介護状態や認知症になった場合の保障、病気やけがで働けなくなった場合の保障、死亡保障などがあります。希望に応じて、保障を手厚くすることができます。

生命保険文化センターの実態調査では、個人事業主世帯の約95%が医療保険や医療特約に加入して備えていることがわかりました。

就業不能保険・所得補償保険

個人事業主には、休業時の事業継続に必要な資金をカバーする保険の準備が必要です。

「就業不能保険」や「所得補償保険」は、病気やけがで一定期間以上働けなくなった場合に、保険金が毎月支払われる保険です。

病気やけがによる入院だけでなく、医師の指示による在宅療養も保障されるので、国民健康保険では受給できない傷病手当金を補填する意味でも個人事業主にとって必要性の高い保険です。

「就業不能保険」は、支払い要件が障害等級と連動しているものもあるため、障害年金の不足分をカバーすることが可能です。

一方、「所得補償保険」の免責期間は7日程度と就業不能保険よりも短く設定されています。

保証期間は、最大で1~2年と就業不能保険よりも短いです。中には免責0日、一定の条件であれば年齢制限を設けないという商品もあり、就業不能保険よりも保険料が安いため、コロナ禍で働けなくなった個人事業主に人気が出たようです。

長期間にわたって働けなくなるリスクに備える場合は「就業不能保険」、短期間の働けない状態に備える場合は「所得補償保険」を考えると良いでしょう。

ただし、両保険とも、うつ病や統合失調症といった精神疾患では、保険金が支給されない場合や給付期間が制限される場合があります。特に、「所得補償保険」は、基本的に精神疾患が保障されない点に注意が必要です。

老後に備える保障

個人事業主で夫婦とも国民年金であれば、満額支給でも月に10数万円程度です。

老後の生活費は夫婦で月に約27万円といわれていますから、公的年金だけでは家計収支は大幅な赤字になります。
もちろんできるだけ長く働くという選択肢もありますが、安定した生活を手に入れるには、老後の生活費を準備する必要があります。

終身保険

「終身保険」は、一生涯の死亡保障を得られる保険です。一定期間経過後に解約すると、支払った保険料以上の解約返戻金を受け取れる場合があります。

葬儀費用や遺品の整理費用などに必要な費用を準備する手段として活用されています。また、解約返戻金で老後資金や子どもの教育資金としての準備もできます。

個人年金保険

「個人年金保険」は、10年から30年くらいの長期間にわたり掛金を積み立てて、老後の年金を自分自身で準備する保険です。

年金の受取方法には、10年や15年など所定の期間、年金受取人の生死に関わらずに年金が支払われる「確定年金」と、一生涯にわたって年金を受け取る「終身年金」があります。払込保険料が同額であった場合、「終身年金」の年金額は、「確定年金」よりも少なくなるのが一般的です。

生命保険文化センターの調査では、個人年金保険に加入している世帯主が設定している年金給付期間は「10年間の確定年金」という人が43%と最も多く、次が「終身年金」の18%でした。

死亡時の遺族に対する保障

定期保険・収入保障保険

個人事業主の世帯主が死亡した場合、公的年金から遺族基礎年金が支給されます。

年金額(令和3年度)は、基本額の78万900円に、子どもの人数に応じて加算されます(第1子・第2子は1人につき22万4700円、3人目以降は7万4900円)。また、末子が高校を卒業すると遺族年金は終了します。いずれにしても、遺族が生活していくには大幅に不足すると思われます。

「定期保険」と「収入保障保険」は、どちらも一定期間の死亡保障を得られる掛け捨て型の保険で、高額な死亡保障を準備することができます。

「定期保険」は、保険期間中に被保険者が亡くなったり所定の高度障害になったりした場合、保険金が一括で支払われます。そのため、葬儀代や遺品の整理代、子どもの進学資金など、まとまった支出に備えやすい保険といえます。

「収入保障保険」は、死亡・高度障害状態の場合に、毎月一定額の保険金が保険期間の満了まで支払われる保険です。残された家族の生活費などに備えるのに適した保険です。

家族のいる個人事業主は、「定期保険」と「収入保障保険」を組み合わせて備えるのが良いでしょう。

火災保険・地震保険

個人事業主が、事業経営で自宅を店舗とする場合やテナントを借りた場合、「火災保険」・「地震保険」の加入を検討する必要があります。

「火災保険」は、店舗など建物や家財・備品などが火災や風災(竜巻・突風など)等で損害を負った場合に補償される保険です。
店舗や事業所が賃貸の場合も、建物内にある家財を補償の対象にした「火災保険」に加入していると、事業継承に必要な機器類の損害に対して保険金が支払われます。

また、地震によって発生した火災や津波による浸水で負った損害を補償するには、「地震保険」に加入しなければなりません。
「地震保険」は単独で加入できず、「火災保険」に付帯する必要がある点に注意してください。

その他個人事業主が利用できる制度

国民年金基金

「国民年金基金」は、個人事業主など国民年金の第1号被保険者のために、老齢基礎年金に上乗せする年金制度です。

掛金の上限は、月額6万8000円(次に紹介する確定拠出年金の個人型年金に同時加入する場合は、その掛金と合わせて6万8000円)。掛金月額は、選択した給付の型、加入口数、加入時の年齢、性別によって決まります。

1年分の前納により、掛金が割引される仕組みがあります。1口目は必ず終身年金、2口目以降は終身年金または確定年金から選択できます。

確定拠出年金(個人型年金iDeCo)

確定拠出年金は、掛金(拠出額)はあらかじめ決まっていますが、将来の給付金が運用実績によって変動する年金制度です。

「個人型年金iDeCo(イデコ)」の実施主体は国民年金基金連合会で、国民年金の第1号被保険者である個人事業主は、年額81万6000円まで掛け金を拠出することができます。

小規模企業共済

「小規模企業共済」は、個人事業主が事業を廃止した場合などに、共済金(退職金)が支払われる制度です。独立行政法人中小基盤整備機構が取り扱っています。

個人事業主は会社員と違って定年がなく、自分の意思で続けられるというメリットはありますが、退職金がありません。それを補完するのがこの制度です。

「国民年金基金」や「確定拠出年金の個人型年金」と重複して加入することができます。掛金の月額は1000円から上限は7万円(500円単位)。いつでも解約可能で、受取方法は、一括、分割、併用があります。

また、取引先からの支払いが滞って資金繰りが困難な場合や新規事業の立ち上げ資金が必要な場合、共済に積み立てた金額を上限に資金の借り入れができます(契約者貸付制度)。
ただし、加入期間が短いと、元本割れするリスクがあるので、長期の契約を念頭に置いて検討しましょう。

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中小企業退職金共済

「中小企業退職金共済」は、個人事業主を対象にした退職金制度で、独立行政法人勤労者退職金共済機構が取り扱っています。

事業主が毎月一定額の掛金を支払うことで、退職金が支払われる仕組みです。従業員が退職した時には、同共済から従業員に直接退職金が支払われます。

中小企業という名称が付いていますが、従業員を雇用している個人事業主であれば加入できます。原則従業員は全員加入。従業員である実態があれば、家族従業員も加入できます。

掛金の月額は、従業員1人につき5000円から上限3万円。従業員が短時間労働者の場合は、2000円から4000円の選択が可能。

新たに加入する事業主は、加入後4か月目から1年間、国から掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5000円)の助成を受け取ることができます。

まとめ

個人事業主は、会社員と比較すると、社会保険(公的医療保険と年金保険)の給付が限定されているところがあります。

傷病手当金を受給できない、老齢年金の金額が少ない、遺族年金・障害年金の受給要件が限定されているなど、公的社会保険だけでは補償内容が手薄になりがちです。

また、労災保険や雇用保険が適用されません。

そのため、個人事業主は、社会保険では不足する保障を自分で準備しなければなりません。

さまざまなリスクが考えられますが、「休業時の収入を補うための保障」と「老後に備える保障」を軸に、優先順位をつけて必要性の高い保険選びましょう。複数の保険会社の商品から比較・検討し、最適な保険を提案してもらえる無料の保険相談窓口もあるので、上手に利用しましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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