個人事業主の開業届が必要なケースとは

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個人事業主の開業届の基本ルールを解説!必要性とメリット・デメリットとは

個人事業主の開業届が必要なケースとは
事業を始める際の手続きの中に、開業届の提出があります。開業届は、個人事業主として事業を始めるにあたって提出することになっている書類です。
開業届は書き方や提出方法自体に難しさはありませんが、中には出さずに事業を始める人もいるようです。

開業届の必要性や義務などのルール、提出することのメリットやデメリットを解説します。
義務であれば出すのは当然ですが、デメリットがある場合には出すタイミングに注意が必要です。

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個人事業主の開業届とは?

開業届とは、個人が事業を開始した時、事業所を新設した際に、納税地の所轄税務署へ提出する書類のひとつです。
正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、開業した時だけでなく廃業した時にも同じ書面を使って「廃業届」として提出します。

「開業」とは、一般的には個人事業主としての事業の開始を意味する言葉です。
法人として会社を設立する際には、納税地の所轄税務署へ「開業届」ではなく「法人設立届出書」を提出します。

事業にあたるケースとは

個人でお金を稼ぐ行為としても、事業にあたるものとそうではないものがあります。
事業にあたるのは、生産や営利などある目的を持って行う仕事で、一時的なものでなく継続的に行われるものです。
不要品を売却して金銭を得た場合や、趣味程度に行う副業で収入を得た場合には事業とは認められません

事業にあたると判断されると、確定申告で事業所得として申告できます。
ただし、開業届を提出していても、事業にあたらないと判断された場合には、事業所得として確定申告はできません。

本業でも副業でも出す

開業届は、基本的には出すことが義務であり、本業でも副業でも「事業」を行う場合には提出する必要があります。開業届を提出することで、個人事業主として認識されます。

開業時には収益が安定しないこともあり、将来的に事業所得と認められるかどうか分かりません。
しかし、基本的には収益が安定していなくても、開業届を提出しておき、収益の安定を目指して事業を進めましょう。
また、開業届を出すことは義務でもありますが、いろいろなメリットを得るための布石でもあります。

個人事業主が開業届を出すメリット・デメリット


個人事業主にとって開業届の提出は義務ですが、メリットやデメリットもあります。
メリットを生かすためには忘れずに提出しなければいけませんが、デメリットも考えて出すタイミングや出した後の対策も考えておきましょう。

開業届を出すメリット

個人事業主が開業届を出すことには、ビジネスを進めやすくなるメリットがいくつかあります。
実質的に個人事業主として働きやすくなることもありますし、メンタル面での影響も見逃せません。

屋号でビジネス用口座を作れる

個人事業主が開業届を出すと、様々なシーンで屋号を使えるようになります。
開業届には屋号を記載する欄があり、そこに自分で決めたお店の名前、事務所の名前などを記載できます。
屋号を付けることは義務ではありませんが、屋号を付けておくとビジネス上便利です。

屋号があると、銀行口座を屋号でビジネス用口座として開設できるようになります。
ビジネス用とプライベート用の口座を分けることで、個人のお金と事業のお金を区別でき、経理処理も楽になるでしょう。

また、名刺を作成する時も屋号を書き添えることができますし、事業が発展していく中で屋号がブランド化することもあります。

小規模企業共済に入れる

個人事業主が開業届を出すと、小規模企業共済に加盟できるようになります。小規模企業共済とは、個人事業主などの小規模企業を対象とした積み立て式の退職金制度です。
積み立てた掛け金に応じて、退職金のように共済金を受け取れます。掛け金は全額所得控除の対象となり、節税に効果的です。

また、共済金の受取方法を一括にすると退職所得扱いとなり、受取りでも節税効果が期待できます。

個人事業主としての自覚が生まれる

個人事業主が開業届を出すと、精神的な変化も起こります。これから事業を行っていくという自覚が生まれ、新しいスタートを気持ちよく切れそうるでしょう。

特に副業で事業を起こした場合や、自宅兼事務所で働いている場合など、精神的にメリハリがつかずだらっとしてしまうこともあります。
しかし、開業届を出すことで、本気でやっていく気持ちを再確認できます。一人で仕事をしている場合、メンタルのコントロール方法も重要なものです。

青色申告できるようになる

個人事業主は、開業届を提出することで「所得税の青色申告承認申請書」も提出できるようになります。同じ日に提出することも可能です。
所得税の申告方法には、白色申告と青色申告があり、青色申告は、前に申請書を提出しないと選択できない確定申告の方法です。
青色申告にすることで、白色申告よりも節税効果が高くなります。

青色申告なら控除額が増える

青色申告で確定申告を行うと、青色申告特別控除を受けられます。青色申告特別控除は、控除が最大65万円です。
白色申告には、こうした特別控除はありません。課税対象の所得額を大幅に減らすことができるため、収入の多かった年には重要な控除となります。

青色申告なら家族の給料を経費にできる

青色申告では、家族に支払った給料を青色事業専従者給与として全額経費として扱うことができるようになります。
白色申告では一部のみ可能ですが、青色申告なら全額を経費処理することができ、大きく課税所得を減らすことができます。

青色申告なら赤字繰り越しができる

青色申告の場合、白色申告では得られなかった赤字の際のメリットも得られます。青色申告で赤字の際にできることは、赤字の繰越し、繰り戻し、他の所得との相殺です。

青色申告では、本年度の赤字を翌年以降3年まで繰り越して、その年の利益と相殺できます。
また、過去にさかのぼって過去の税金の還付を受けることも可能です。さらに事業所得を不一定の順序に従って他の所得と損益通算することもできます。

開業届を出すデメリット

開業届を提出することで、一部の人に不利益が生じることもあります。
開業届を提出するのは義務ですが、場合によっては開業のタイミングをずらすなどして対応したほうが良さそうです。

扶養から外れる恐れがある

配偶者の扶養に入っている場合、開業届を提出すると社会保険の扶養から外れる恐れがあります。
社会保険の扶養については、配偶者の入っている健康保険組合ごとにルールが決められているものです。
そのルールで個人事業主になると扶養に入れないと定められている場合、開業届を提出すると扶養からはずれ、自分で国民健康保険と国民年金に加入することが必要となります。

配偶者の社会保険に外れる場合には、自分で保険料を支払わなくても良かったのに、扶養になれなければ余計な出費が加算でしまいます。
当てはまる人は事前に健康保険組合のルールを調べ、事業所得と認められる程度の収入が見込めるまでは開業届の提出を待つなどの対策をしましょう。

失業手当が受給できなくなる可能性がある

失業手当を受給している人、受給予定の人も開業届を出す際は注意が必要です。失業手当は、会社の雇用保険に加入していた人が退職した時に受け取れる手当です。
失業中で仕事を探している人が対象であり、開業届を出して個人事業主となったら失業手当の受給者ではなくなります。

会社を辞めて個人事業主になる場合には、失業手当を受けている間に起業の準備を行い、失業手当が終わった段階で起業するという手もあります。
開業のタイミングを失業手当の受給終了まで待つか、失業手当を受けずに開業するかのどちらかを選びましょう。

青色申告は手間がかかる

開業届を出して、青色申告で節税したいと思っても、青色申告は書類作成に手間がかかり、難しいと感じることもあります。
また、青色申告の申請をしてしまうと収入がない時でも確定申告を行うことが必要です。
そのため、開業届を出しても青色申告を出すのは収入が増えてからにするといったことも検討しておきましょう。

開業届を出さなくてもいいケース


開業届は義務なので、基本的には出す必要があります。しかし、罰則はないため出さない人もいるようです。
また、開業届を提出しなくてもいい人に当てはまっている場合には、出さなくても問題ありません。

副業の範囲で稼ぎたい人

副業の範囲で働いている場合には、そもそも事業所得とは認められにくく、開業届を提出する必要がありません。確定申告の必要のない、年間所得20万円が目安です。
また、確定申告をする場合にも、副業の場合には事業所得ではなく雑所得で申告することになります。

突発的な収入・継続性のない収入を得た人

継続性のない収入や事業所得と認められない所得を得た場合も、事業所得と認められず青色申告もできないため、開業届を提出するまでもないケースです。
雑所得などで処理され、白色申告一択となります。

白色申告したい人

開業届を出したとしても白色申告は可能ですが、青色申告をするつもりのない人は出さないこともあるようです。
いざ収入が増えた時のために、前もって出すことをおすすめしますが、上記のデメリットもあって事業として始めるタイミングを見たい場合には、仕方ないこともあります。

開業届の提出の仕方


開業届は、開業日から1カ月以内に所轄の税務署長に提出すると定められています。
開業届は税務署で受け取ることもできますし、国税庁のホームページ、各種会計ソフトなどで作成、プリントすることも可能です。

必要事項を記載して、所轄の税務署へ提出します。記載すべき内容には特別に難しいことはありませんが、事業内容を選ぶ際には少し注意が必要です。
以下の注意点も理解した上で提出しましょう。

開業届を出す際の注意点


開業届を出す時には、いくつかの注意点があります。デメリットを避け、今後の手続きをより有利に行うために、必要なポイントを押さえましょう。

職業によっては「個人事業税」がかかる

職業によっては「個人事業税」がかかるので、事前の確認が必要となります。事業所得がかかる職業のことを「法定業種」と言います。
個人事業税がかかるのは所得が控除額である年間290万円を超えた場合のみです。
個人事業税は都道府県に納める地方税のため、不明点はそれぞれ所在地に問い合わせてみましょう。

法定業種に含まれていない場合、事業所得が290万円を超えても個人事業税がかかりません。
法定業種は70種類ありますが、第一~第三区分まで分かれており、それぞれ区分ごとに税率が異なります。

同時に青色申告承認申請書も出す

青色申告承認申請書は、あらかじめ期限内に提出しておかないとその年度の申告で青色申告を選べません。期限は開業から2カ月以内となっています。
開業届を出すと同時に青色申告承認申請書を出すこともできるため、青色申告を希望する人は2つ同時に済ませたほうが安心です。

失業手当を受給する場合は受給が終わってから

失業手当を受給する予定の人は、退職から一定期間は起業準備期間に充てて、失業手当を受給し終えてから開業することもひとつの方法です。
失業手当の受給と個人事業は平行して行うことはできないため、後悔しないように冷静に行動しましょう。

すぐに開業したい人は失業手当の受給はできませんが、その分前倒しで事業に踏み出すことができます。早く始めた分軌道に乗るのも早くなるかもしれません。
一方で、退職してから準備を行う際には、失業手当の受給期間を使うことで、収入がゼロになる焦りを感じることなく準備を進められます。

コピーを取っておく

開業届を出すことで、小規模企業共済への加入などのメリットが得られますが、その時に必要となるのは、開業届のコピーです。
開業届を提出する際には、あらかじめコピーを取っておき、提出の際にコピーに受領印をもらいましょう。
受領印のあるコピーを開業届の控えとして各種手続きの際に使えます。

まとめ

個人事業主が事業をスタートさせる際には、基本的に開業届の提出は必須となっています。
ただし、副業や一時的な収入の場合には、事業にはあたらず、必要ない場合もあります。

個人事業主の開業届は、提出によって受けられるメリットも多くなりますが、その人の状況によっては不利益を被ることもあるものです。
気になる人は、開業届を出しても問題ないか確認し、問題があるようならタイミングを見計らって自分の都合の良い時に起業しましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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