社会保険料 計算方法のポイント

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社会保険料計算とは? 人事が知りたい各保険料の計算方法と給与計算時の注意点を紹介


社会保険料とは一般的に、健康保険料と厚生年金保険料を指しています。企業では、人事や総務担当者が従業員の社会保険料計算を行うことが多いでしょう。

社会保険料は改定や変更があり、ずっと同じではないため、計算ミスなどが起こりやすいものです。
正しく反映させないと、従業員の不利益につながり、修正の処理に追われることとなります。
社会保険料計算の際には、適宜変更を反映させ、十分注意して行うことが大切です。

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社会保険料とは?


社会保険料とは、社会保険を利用するために納めている保険料のことです。
社会保険とは暮らしを守るための公的な保険であり、国民が加入する義務を持つものです。

社会保険料計算のルールを知る前に、まず社会保険の種類、社会保険の対象者は誰か知っておきましょう。

社会保険の種類

社会保険は以下の通り全部で5種類あります。
社会保険は暮らしの中で起こりえるリスクを想定したものであり、以下の5つの保険によって病気や怪我、加齢や介護の必要性、失業や労働災害に備えています。

・健康保険
健康保険の種類は、市区町村の国民健康保険と健康保険組合の健康保険の2つです。
企業に勤めている場合には、その企業が加入している健保組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)の保険に入ります。
大企業では自前で健保組合を設立することが多いですが、それ以外は協会けんぽに加入することが多いです。

・厚生年金保険
厚生年金保険は、加齢によるリスクに備える公的年金保険です。
公的年金は20歳以上60歳未満の全ての人が加入する必要があり、厚生年金保険の適用を受けた会社に勤めている場合に、厚生年金保険に加入します。
それ以外の人は国民年金、もしくは公務員などが対象の共済年金に加入しなければいけません。

・介護保険
介護保険は、高齢になった時の介護のリスクを支える保険です。自立支援、利用者本位、社会保険方式の考えの下、制度が作られました。
介護保険は40歳から加入が義務となり、64歳まで保険料は健康保険とともに徴収されます。

・雇用保険
雇用保険は企業で働いている間に保険料を納め、失業した際に所得保障や再就職支援を受けられる保険です。
労災保険とともに労働保険と呼ばれ、広義の社会保険のひとつとなっています。
雇用保険の加入条件は、労働条件によって決まっており、条件によっては雇用保険の対象にはなりません。

・労災保険
労災保険は、業務上の労働者の怪我や病気、障害や死亡の際に本人やその遺族のために保険給付をする保険です。
雇用保険とともに広義の社会保険とされていますが、雇用保険と労災保険を合わせて「労働保険」として狭義の社会保険からは外れることもあります。
労働保険は、雇用形態にかかわらずすべての労働者が対象です。

※労災保険料以外の保険料は会社と従業員双方が負担することとなります。

社会保険の対象とは

社会保険の対象となる人を知るためには、事業者と従業員の条件をそれぞれに確認する必要があります。
対象となる企業に勤務しており、さらに労働者としての条件を満たしていることが社会保険の対象となる条件です。

対象となる事業者

社会保険は、法人であればたとえ社長1人の会社でも加入義務が発生します。
また、個人事業の場合には、従業員5名以上(一部適用対象外)雇用していると加入対象となるルールです。社会保険に加入している事業者は適用事業所と呼ばれます。

対象となる従業員

社会保険適用事業所に勤務していても、条件によっては対象とならない従業員もいます。
社会保険適用事業所で働いている従業員のうち、加入対象となるのは、正社員、法人の代表者、役員です。
また、アルバイトやパートも、正社員の4分の3以上の労働日数、または以下の加入条件を満たしていれば、対象となります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月給8万8,000円以上
  • 1年以上働く見込みがある
  • 学生以外
  • 厚生年金保険の被保険者数が一定数以上の事業所で働いている

社会保険料の計算方法


社会保険料の計算方法は、保険の種類によって異なります。社会保険料ごとに計算方法を確認しましょう。
また、社会保険料の計算の際に必要となるデータも紹介します。

標準報酬月額とは

健康保険や厚生年金保険では、毎月の給料の金額に応じて段階的に区分した金額の範囲で保険料の金額を決定することになっています。
その区分を決める毎月の給料などの報酬の月額が「標準報酬月額」です。
標準報酬月額には、基本給のほかに役付手当や勤務地手当、家族手当や通勤手当、住宅手当、残業手当などが含まれます。

標準報酬月額の区分や保険料の金額は、等級表で調べられます。
標準報酬の等級は、健康保険は第1級の5万8千円から第50級の139万円まで、厚生年金保険は1等級の8万8千円から32等級の65万円までです。

新入社員の標準報酬月額の決定

毎月の給料で決める標準報酬月額ですが、新入社員に場合には標準報酬月額がありません。
そのため、新入社員の標準報酬月額の決定は、残業代などの変則的な給与を見積もり、固定給に加えて行います。

標準報酬月額が年度の途中に変わる場合

標準報酬月額は、定期的に改定されますが、人によっては年度の途中で変わることもあります。例えば、基本給や手当の変動があった場合、雇用契約の内容が変わった場合は、年度途中で見直しが必要です。

標準報酬月額が途中で変わった場合には、随時改定を行います。
随時改定を行うのは、固定賃金の変更があった、支払基礎日程が17日ある、変動した月から3カ月の平均の月額が変動前と比べて2等級以上差がある場合のみです。
すべてに当てはまった場合には、月額変更届を提出し、改定を行います。

社員の標準報酬月額の定時決定

社会保険料の標準報酬月額は、毎年4~6月までの3カ月間の報酬平均額によって決定します。社員の標準報酬月額を決定し、算定基礎届を提出するのが、定時決定です。
支払った報酬月額を提出すると、その年の9月から翌8月までがその金額で保険料を決めることになります。4~6月の報酬を3で割った金額が標準報酬月額です。

報酬月額を決定するのに使えるのは、支払われた日数17日以上ある月です。
4・5月が17日以上働いて報酬が支払われ、6月は16日しか働かなかった場合、決定には4・5月のみを使います。

健康保険料の計算方法

健康保険料の計算は、健康保険組合や都道府県によって料率が異なるため注意が必要です。基本的には、以下のような計算式で算出されます。
健康保険組合の場合には、その組合の料率で、協会けんぽの場合には都道府県の料率で計算してください。
会社と折半になるため、従業員負担額を出すためには2で割ります。

健康保険料(従業員負担額)=標準報酬月額×健康保険料率 ÷ 2

令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)|全国健康保険協会

厚生年金保険料の計算方法

厚生年金保険料率は、以前は毎年改定されていましたが、2017年以降は固定されています。
厚生年金保険料も会社と折半になるため、健康保険料と同じく2で割っています。

厚生年金保険料(本人負担額)=標準報酬月額×18.300%÷2

令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表

介護保険料の計算方法

介護保険料の支払いが会社として必要となるのは、従業員が40~64歳の場合のみです。40歳を過ぎたら第二被保険者となり、健康保険料にプラスして支払います。
65歳を過ぎたら、第1号被保険者になり、会社に勤務している場合でも個人で支払うことになります。
介護保険料の計算は以下の通り、上記の保険料とともに従業員分は会社と折半です。

介護保険料(本人負担額)=標準報酬月額×介護保険料率÷2

雇用保険料の計算方法

雇用保険料は、雇用保険料率を用いて計算します。雇用保険料率・従業員と事業主の負担率は事業によって異なり、毎年料率は見直されますが、変更のない年もあります。
雇用保険料の計算式は以下の通りです。

給与額(賞与額)×雇用保険料率

労災保険料の計算方法

労災保険料は、従業員の賃金総額に労災保険料率をかけて計算します。毎月の給与や賞与などをもとに総額を出し、業種ごとに異なる労災保険料率を乗じます。
保険料率が業種ごとに異なるのは、業種によって危険度が異なるためです。

労災保険料=従業員の賃金総額×労災保険料率

労働保険である労災保険と雇用保険は、年度当初に概算で申告・納付して、翌年度の当初に確定申告の上精算します。手続きの期間は原則、例年6月1日~7月10日です。

社会保険料計算の注意点


社会保険料計算では、いくつか注意しなければいけない点があります。
料率の改定もあり、社会保険料ごとに計算式も違い、煩雑になりますが、決して間違いが許されない業務です。
社会保険料計算を行う担当者は、注意点を踏まえて慎重に進めていきましょう。

料率改定を計算に正しく反映する

社会保険料の計算では、それぞれの社会保険に用いるべき保険料率を正しく反映させることが大切です。
昨年と今年が同じであったとしても、今後変わる可能性のあるものもあるため、しっかりと料率改定を把握しておきましょう。

標準報酬月額の変更を忘れずに

社会保険料計算で重要となる標準月額が変更する可能性があるのは、定時決定と随時改定、資格取得時です。
資格取得時とは、従業員の入社を年金事務所や健康保険組合へ届け出て、従業員が被保険者としての資格を取得した時という意味です。

これらのタイミングでは標準報酬月額が変わるので、その後の給料計算の際に注意が必要です。
全員の見直しを行う定時決定では作業量が増えるため、ミスが増えるリスクがありますし、随時改定や資格取得時にはイレギュラーな事態なので、変更し忘れのリスクがあります。

賞与も社会保険の対象

社会保険料計算は賞与についても必要です。賞与は給与とは異なり、毎回の賞与ごとに計算することになっています。
賞与が支給された時には、標準賞与額に保険料率をかけて保険料を計算します。

標準賞与額とは

標準賞与額とは、1000円未満を切り捨てた賞与額のことです。標準賞与額は年3回以下の回数で支給されたものが対象、さらに上限が決められています。
健康保険では4月1日から翌年3月31日の1年間で累計573万円まで、厚生年金保険では1カ月あたり150万円です。
健康保険と厚生年金保険では賞与の上限が異なるため注意が必要です。

厚生年金保険の場合には、例えば年二回150万円ずつ支給した時はそれぞれ150万円で算出します。
また、1回は150万円、もう一度の賞与が150万円を超えた場合にも、それぞれ上限の150万円で算出するルールです。

まとめ

社会保険料計算は、企業で従業員を雇用している場合には避けられない業務です。
各種保険料ごとに計算方法が違い、保険料率も違うため、一つ一つ慎重に行う必要があります。また、加入対象となる人、ならない人もあり、従業員ごとの判断が必要です。

社会保険の手続きや保険料の計算は適宜正確に行わなければいけません。注意点を押さえて、間違いのないように計算や手続きを行いましょう。
毎年の料率改定はもちろん、入社や雇用条件変更などの変化にも欠かさず対応することが大切です。

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(編集:創業手帳編集部)

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