「教えて!千保さん」東大発ベンチャーCFOの「生き残るための資金調達術」
金融機関とのコミュニケーション術もお教えします
(2018/03/13更新)
スタートアップにとって、大きな課題として何度も立ちはだかってくるのが「資金調達」です。起業家のみなさんも、このことで頭を悩ませているかと思います。
そこで今回は、東京大学発のベンチャー企業 株式会社情報基盤開発のCFOで、融資による資金調達を得意とする千保 理 氏に、スタートアップの資金調達術についてお話を伺いました。
今の会社状況を考えながら、必要な資金調達方法を探してみましょう。
株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)
ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。
資金調達の前に、「どれだけ資金を手元に残せるか」を考える
千保:まず意識しておきたいのは、「先にお金が出ていくことが多い」ということです。オフィスの家賃は先払いですし、信用力がない段階では商品の仕入れも前金を要求されます。
手元に資金がなければ事業が続きません。プロジェクトの期間が長い仕事は、特に要注意です。
千保:代表的な資金調達方法を図でまとめてみました。
資金調達方法 | メリット |
寄付 | 返済義務がない
資金提供者に対する報酬が不要 |
助成金 | 返済義務がない |
融資 | 資金提供者との関係性に期限を設けることができる |
出資 | いつでも取り組める |
最初に、「寄付」に関してのメリットは返済義務がないことと、資金の提供者に対する報酬が不要であることです。ですが、法人税・贈与税などの対象になってしまうため、満額を受け取ることができないので、注意が必要です。
助成金も、寄付と同じく返済義務がないのがメリットです。ですが、時期を選ぶことができない・後払いになることが多いので、手元に資金を残しておかないと活用することが難しいというデメリットがあります。
融資に関しては、資金提供者との関係性に期限を設けることができるのがメリットです。ですが、業績に関係なく、支払いの義務が発生してしまうことが難点です。
最後に、出資に関しては時期に縛られずに、正式な手続きを経たらいつでも始めることができるのがメリットです。ですが、出資者から要求される収益率が高いことがデメリットだと思っています。
それぞれのメリット・デメリットを把握して、今の経営状況にあった方法を選んでみると良いかと思います。
理解してもらうための心構えは「急がば回れ」
千保:相手に自分のことを一度で理解してもらうことは難しいです。
例えば、営業や採用などの現場で、繰り返しコミュニケーションが求められるように、正しく物事を伝えるためには時間がかかります。
金融機関に対しても同じことが言えます。初めて融資を申し込む際、営業担当者が出てくる、審査担当者が出てくる、信用保証協会の担当者が出てくるというように、多くの関係者と対話をします。自らのコミュニケーションコストの削減を狙って、「弊社の売上予想の根拠については既に営業担当者へ報告しましたので、後で確認してください」と伝言ゲームのような状況を作ってしまうと、かえって危険です。
融資を受けた私の知人は「あとからあとから質問がやってきて、心が折れそうだった」と言っておりますが、まず必要なのは、相手に対しての丁寧な対応だと考えています。「急がば回れ」ということですね。
もちろん、金融機関に融資を申し込んでも、すぐには実行されないケースがあると思います。
「融資を申し込んだのに、なかなか実行されずに時間切れとなってしまった・・・。」とならないように、資金ニーズがない時期でも将来融資してほしい金融機関と定期的に情報交換をしておきましょう。
情報交換した時に、計算書類や会社のパンフレットなどを渡して、概要を説明しておけば、いざ資金が必要になった時に相談すると具体的な提案を引き出せることがあります。融資をどのように返済していくのか、利益をどう出していくのか、計画に妥当性はあるのか、将来の見込みについて詳細に説明することができると良いですね。
また、実際に金融機関とやりとりすることになった場合、データ消失のリスクを回避するために、金融機関に提出した書類は全てコピーしてまとめておきましょう。
あとで財務担当者に引き継ぐ時にも、この書類が役に立ちます。
千保:売上は最小に、費用は最大に見積もることです。
大なり小なり、予想は外れてしまいます。外れた場合に利益が増えるのか減るのかが判らないと、経営者の精神的負担は大きくなってしまいます。
ですが、最初に売上を低く見積もっておくことによって、売上が伸びる方向にのみ、ズレを限定することができます。同じように、費用は大きく見積もっておくと、利益が出る仕掛けを計画に織り込むことができます。
利益が増える方向にズレを誘導することができれば、将来の見込みを立てやすくなると思います。
ピンチに耐えられるように準備することが、CFOの仕事
千保:ビジネス経験がない人が多いので、用語がわからない、商慣習がわからない、相場がわからないといった印象を受けることが多いです。また、研究発表とピッチ(プレゼン)との違いに戸惑っている起業家も多いようにも感じます。
学問的な厳密性が要求される世界と、ルールの範囲内で利益を出し続けていく世界では、取引先や社内でのコミュニケーションの内容が異なります。学生の中でこれから起業しようと考えている方は、この点に注意した方がいいかもしれませんね。
千保:CFOの役割は、資金管理を通して、会社の将来の選択肢を広げていくことだと思っています。
財務の仕事は将来を予測する仕事なのですが、予測が当たることにはさほど意味はありません。これから訪れるチャンスを逃さないように、ピンチに耐えられるように、準備することの方が重要です。それがうまくいった時に、やりがいを感じます。
もしかしたら、段取りを考えることが好きな「鍋奉行タイプ」の人に向いているかもしれませんね。
千保:CFOが暗い顔をして働いていては、周りにいる社員が動揺してしまいます。
会社がどんな状況にあっても、「態度に出さない度胸」と「最後は何とかする技術と心意気」が求められると思います。
千保:ビジネスは成功率が「千三つ(せんみつ)」とも言われる世界です。千三つとは、3/1,000という意味で、成功率は0.3%だということです。なので、コロンブスのような探検家になったつもりで、且つ、生還する段取りもきちんとして、挑んでいただけたらと思います。
(取材協力:株式会社情報基盤開発/千保 理)
(編集:創業手帳編集部)