テレワークを推進するために必要なインフラとHRテクノロジー【榊氏連載その6】

創業手帳

社会保険労務士の榊氏が徹底解説!スタートアップ/リモートワークのための人事労務×テクノロジー超活用術(全6回)

新型コロナの影響が長期化し、3回目の緊急事態宣言も発布され「テレワーク」がこれまで以上に企業のニューノーマルとして定着し始めています。日本の企業ではまだまだテレワークが進まないという議論もある一方で、大企業では無期限でテレワークを原則として出勤回数を減らすところが増えてきました。

こうした大企業と取引をしている中小企業や起業家にとって、テレワークに対応できるかどうかは今後の関係において重要になってくるでしょう。また、これから優秀な人材を確保するためには、多様な働き方を提供することも重要です。

最終回となる今回は、”HRテクノロジー(クラウドのシステム)”に詳しい社会保険労務士の榊裕葵氏に、中小企業などを中心に基本的なテレワークの導入に必要な基本的な社内インフラやHRテクノロジーについてにご解説いただきます。大企業から選ばれるビジネスパートナーとして、最低限必要なテレワーク用のツールなどを具体的にご紹介します。

榊 裕葵(さかき ゆうき)ポライト社会保険労務士法人 代表
東京都立大学法学部卒業。2011年、社会保険労務士登録。上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、ベンチャー企業に対しては、忙しい経営者様が安心して本業に集中できるよう、提案型の顧問社労士としてバックオフィスの包括的なサポートを行っている。創業手帳ほか大手ウェブメディアに人気コラムの寄稿多数。『日本一わかりやすい HRテクノロジー活用の教科書』(日本法令)を2019年上梓。

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テレワークができない会社は選ばれない

コロナの影響を受けて「テレワーク」や「リモートワーク」が定着しつつある一方で、依然として導入が進んでいない企業も多いのが現状です。東京都の調査によると、2021年3月時点で「企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は56.4%」で、過半数をやや上回る状況のまま頭打ちになっている印象です。

これは、以前から電子契約やクラウドソフトを使用していた企業や、緊急事態宣言を受け積極的にクラウド化を進めた企業とそうでない所の二極化が進んだと言えるのではないでしょうか。

今後は、テレワーク、出勤、それ以外の働き方など、従業員にとっての選択肢が幅広い会社と、そうでない会社にさらに差が広がっていくでしょう。働き方のオプションがあるとなしとでは、どちらが選ばれやすいか、答えは明白だと思います。

今後、コロナの影響が薄れてきたとしても、テレワークの選択肢を用意できない企業は、ますます「選ばれなく」なっていく可能性が高いのです。

テレワークに必要な社内インフラ ベスト4

テレワークを導入するには、営業、広報、総務、人事、経理などすべての業務においてオンライン化を進めることが重要です。特に人事については、クラウドソフトの導入においていくつか注意が必要なので過去の記事をご参考ください。

ここでは、大企業とのオンライン商談など、取引や営業活動において重要となる業務において共通して活用できるインフラ的機能を持ったツール4つを紹介します。

1)ビジネスチャット

チャットと聞くと、カジュアルな会話を楽しむツールと思われるかもしれませんが、ビジネスチャットは、フォーマルなコミュニケーションとして活用できます。テレワークやリモートワークでは、対面でのちょっとした質問や声かけができません。メールだと文面を考える時間がかかってしまいます。しかし、チャットを使えばちょっとした声かけが可能です。

LINE WORKS、Chatwork、Slackなどが主に使われているようです。テレワークで失われがちな社内コミュニケーションも、チャットをうまく使うことで、円滑にすることができます。

2)オンラインオフィス

資料の作成では、ワード、エクセル、パワーポイントといったソフトを利用しているのは、周知の事実です。これまでは、作成した資料を印刷して会議などで配布して確認などをしていましたが、テレワークでいちいち自宅のプリンターで印刷するのは効率的ではありません。また、メールに添付して開きながら…というのも現実的ではありません。

こうしたときに、Googleドキュメントやスプレッドシートといったオンラインで内容を共有できるクラウドファイルを活用するとよいでしょう。共有先のリンクを送付すれば、同時にファイルを編集することもできます。無料のGoogleではセキュリティが心配という場合、有料版のGoogle Workspaceも用意されています。また、マイクロソフト社のOffice365もあるので、いつも利用しているワードやエクセルをオンラインで利用することができます。

オンライン上で資料をやりとりすることで、離れていてもスムーズに業務を進めることができます。

3)クラウドストレージ

オフィスのデスクトップやノートパソコンで仕事している場合、作成した資料などは社内のイントラネット上に保管することができました。しかし、テレワークとなり社外からのアクセスが難しい場合、資料などの保管先はどこにすればよいのでしょうか。メールで都度送付して、それぞれが保管するわけにはいきません。

こうした際にも、Google、DropBox、OneDriveなどのクラウドストレージがあるとよいでしょう。IDとパスワードがあれば、どこからでもクラウドストレージ上に保管してあるファイルにアクセスすることができます。ただし、重度の機密情報を含む書類を保管する場合には、VPN接続により社内のサーバーに保管するのがよいでしょう。

クラウドストレージがあることで、日々の業務の進捗などを共通で管理することができます。

4)WEB会議システム

テレワークで最も重要なのが、意思決定にかかわるコミュニケーション(会議)になります。離れていると仕事の進み具合やつまずきなどが共有しにくくなります。オンライン会議はそうした変化をとらえるために大事な機会となります。電話会議という手もありますが、声だけでは雰囲気やニュアンスが伝わらない場合があります。

一方で、画面が固まったり、音声が聞こえなかったり、システムがあまり機能しないと意味がありません。かつては大掛かりなテレビ会議システムを導入する必要がありましたが、今はzoomやSkypeをはじめとする様々なソフトが登場しています。光回線のような速度が速いネット環境があれば、スムーズなやりとりが可能になるでしょう。

テレワークにおいては必須のインフラといっても過言ではありません。

人事労務が揃えておきたいHRテクノロジー4選

ここまではテレワークを導入するに際して、すべての業務に共通した基本的なインフラとなる仕組みを紹介しました。

次に、人事の業務では、「これだけはあったほうがいい」というクラウドソフトをご紹介します。人事業務は、今後人材育成や開発に注力していく方向にあると思います。できるだけ、労務の所は効率化していくことが望ましいです。

1)クラウド勤怠管理ソフト

オフィスへの通勤頻度が減少傾向になっていくため、タイムカードのような物理的な管理には限界があります。今後、勤怠管理は個人からの申請が重要になります。クラウドソフトがあれば、個人のスマホやPCなどから打刻(入力)することができるので効率的です。特に、勤怠打刻と集計は、効率的になるので導入しておくとよいでしょう。

なお、勤怠管理の打刻漏れに関する注意事項は、過去の記事を参考にしてください。

2)クラウド給与計算ソフト

クラウド給与計算ソフト(例:freeeやマネーフォワード)であれば、どこからでも給与計算ができるだけでなく、WEB給与明細もついてきます。これによって、明細の配布の効率が高くなります。テレワークでなくなっても、給与明細の配布はWEBで完結できるので、利便性が高いソフトと言えます。

3)クラウド人事労務手続きソフト

年末調整など社員から情報を取得しなければならない際に、紙で印刷してデータを打ち込むだけのために出社するなどテレワークが実現できないケースがあります。しかし、電子申請や情報収集ができるソフト(例:SmatHRやオフィスステーション)があれば、入社、退社の手続きもオンライン上で実施することができます。

4)電子契約ソフト

脱ハンコの流れもあるように、契約書の押印を紙で行っていると郵送手続きなどを含め時間がかかります。電子契約であればオンラインで迅速に対応できます。今や電子契約ソフト(クラウドサインやGMO電子印鑑Agree)を利用しておくのは、必須に近い状況になりつつあります。取引先によっては、先んじて電子契約を利用している場合もあるので、対応できるようにしておくとよいでしょう。

新しい働き方の実現には適切なツール選びから

テレワークを始めるのはまだまだ先と思っていても、取引先や競合他社が導入を進めている可能性が非常に高くなってきました。働き方の多様化が進んでいる時代に乗り遅れないように、上記の基本的なインフラ整備をいますぐに始めていただきたいと思います。

また、テレワークを導入することで、効率的な働き方を実現するほかに、生産性が高まることが考えられます。確かに、現時点では社内コミュニケーションがうまくできなかったり、自宅でのテレワーク環境が整わなかったりと、生産性を阻害することもあるかもしれません。しかし、今後テレワーク環境が整備され、コミュニケーションにも慣れてくれば、迅速な対応ができるので、生産性がこれまで以上に高まることも期待されます。

さらに、アフターコロナの時代には、新しいイノベーションができる人材を育成開発していかなければならない企業が多くなるでしょう。こうしたときに、人事労務業務に工数がかかってしまうのは機会損失です。さらなる効率化のためにも人事関連業務へのクラウドソフトの活用は重要です。

導入せずに機会を逃すのはもったいないです。コロナを契機に自社の働き方を大きく見直してみましょう。

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(取材協力: ポライト社会保険労務士法人代表 榊 裕葵
(編集: 創業手帳編集部)

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