システム構築で注目!「レベニューシェア」の仕組みやメリット・デメリットを解説
注目度が高まるレベニューシェア。知っておきたい契約書の作成ポイントや事例
様々なビジネスモデルの中でも近年特に注目を集めているのは、レベニューシェアという契約形態です。
もともとはIT業界で多く見られていましたが、最近は各業界におけるビジネスでも活用される機会が増えてきました。
今回は、注目度が高まるレベニューシェアの仕組みや利用するメリット・デメリット、実際の事例などを紹介します。
レベニューシェアを活用したい方やトラブルを回避したい方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
レベニューシェアとは?
レベニューシェアとは契約形態に分類されるもので、主に発注者側と受注者側で利益・リスクを分配しシステム構築や運用を行うモデルです。
レベニュー(revenue)とは「収益」を意味し、シェア(share)は「共有」を意味しています。名称からも、発注者側と受注者側が収益を共有する形態であることがわかります。
レベニューシェアは、基本的に分配する収益が明確になりやすいITソリューションやWebサイトの構築などで多く見られる契約形態です。
分配する収益の割合は発注者・受注者で話し合い、事前に決めておきます。
レベニューシェアの仕組みを知ろう
従来、ITシステムを構築する場合は受託開発で行われることが多く、要件を定義した上でその範囲内の開発を依頼し、内容にともなう金額を支払う「発注形式」が一般的でした。
しかし、この形式だと発注者側は依頼したシステムのクオリティを途中で確認できず、さらに初期投資も大きいため負担が増えてしまいます。
特に、最初は小規模でスタートさせ、後からシステムを大きくしていく流れで運用する場合、要件の範囲を策定することも困難になります。
こうしたデメリットを解消したのが、レベニューシェアです。
例えば、発注者が自社のECサイト制作を希望した場合、レベニューシェアで契約をすると受注者は無料または安い価格でサイト制作に取り組み、完成後も保守作業を請け負います。
発注者は完成したECサイトで売上げが発生した場合に、その収益の一部を受注者にも支払います。これがレベニューシェアの仕組みです。
「プロフィットシェア」との違い
レベニューシェアと似たような契約形態に、「プロフィットシェア」があります。
こちらも成功に応じて受注者に報酬が発生する契約形態で、あらかじめ設定していた配分率に基づき売上げが分配されます。
プロフィットシェアとレベニューシェアで異なっている点は、分配する収益の対象です。
プロフィットシェアだと、売上げから経費を差し引いた利益を分配することになります。一方、レベニューシェアは、売上げそのものを分配します。
例えば、ビジネスが失敗して赤字が発生した場合、プロフィットシェアの場合は利益がない状態なので受注者に報酬が発生しません。
発注者にとってはリスクが低くなるものの、受注者側はいくら売上げが出ても経費がかかればその分報酬が少なくなってしまいます。
レベニューシェアを利用するメリット
レベニューシェアを利用すると得られるメリットは、発注者側と受注者側で異なります。それぞれどのようなメリットが得られるのかを解説します。
発注者側のメリット
発注者側がレベニューシェアによって得られるメリットは、以下の3点です。
初期費用を抑えられる
レベニューシェアはシステムを構築する際の初期費用を、受注者側に一部または全額負担してもらう形になります。
初期費用が抑えられれば、システム構築だけでなく別の部分に資金を投じることも可能です。
また、初期費用が抑えられることで、万が一ビジネスがうまくいかなかった場合のリスクを減らせるなどのメリットもあります。
事業が失敗した時のリスクが低い
スタートさせた事業が必ず成功するとは限りません。
事業が失敗に終わってしまった場合、従来の契約形態ではすべて発注者側の責任となりますが、レベニューシェアだと受注者側とリスクを分散させることが可能です。
レベニューシェアは事業における成功とリスクを発注者・受注者で共有するのが特徴です。
成功とリスクを共有することで、受注者側も事業を成功させようと仕事の質が高まることも考えられます。
維持・刷新する際の費用を受注側と共有できる
システムを構築し、そこから新しいサービスを作った時に、運用維持や刷新する際にかかった費用も受注者側と共有できます。
維持費用や刷新するのにかかった費用を共有すれば、その分発注者側にかかる負担は低減します。
受注者側のメリット
レベニューシェアで契約することで、受注者側には以下の3点がメリットとして得られるようになります。
継続的な利益につながる
システム構築は従来買い切りの受託開発が主流となっていました。レベニューシェアの場合は開発・構築から運用に至るまで、長期間担当することになります。
また、従来の受託開発では、受注者側が初期構築・改修など必要に応じて仕事を受注し利益が発生する形式となっていました。
これではいつ発注が入るかがわからず収益も安定しませんが、レベニューシェアだと長期間・継続的に利益が発生することから、安定した収益につながります。
費用で断念していた顧客も獲得できる
顧客の中には、システム開発を前提にサービス運用も手掛けたいと考えていた場合でも、多額の初期投資が必要だったり、受注開発の範囲がうまく策定できず諦めたりするケースもあるかもしれません。
スタートが切れていれば、後は優良な商品・サービスによって成功の道筋が立っていたと後悔する顧客もあったはずです。
レベニューシェアなら費用で断念せざるを得ない顧客を、初期費用とリスクを受注者側が共有することで獲得できる可能性が高まります。
仕事へのモチベーションが向上する
レベニューシェアは事業の収益が増えれば増えるほど、分配される報酬額も増えていきます。
報酬額が増えていけば、自然と受注者側のモチベーション維持・向上にもつながってくる可能性もあります。
また、収益だけでなくリスクも共有されることで責任感が生まれやすくなり、仕事に対するやりがいも感じられるようになるでしょう。
レベニューシェアを利用するデメリット
様々なメリットを紹介してきましたが、発注者側・受注者側それぞれにデメリットも存在します。どのようなデメリットがあるのかを詳しく解説します。
発注者側のデメリット
初期費用を抑えられ、事業が失敗した場合のリスクを低減できるレベニューシェアですが、以下のようなデメリットも存在します。
関係が悪化すると継続して利用できなくなる
レベニューシェアは基本的に長期にわたって受注者側とやり取りをすることになります。
契約上、システムの所有権や著作権が受注者側に属する場合、関係が悪化してしまうことでシステム自体を使用できなくなる恐れがあります。
従来の受託開発であれば買い切りだったため、受注者側と関係が悪化しても別の受注者に依頼してビジネスを継続できていましたが、レベニューシェアでは難しいことを理解しておくことが必要です。
成果が高ければ高いほど報酬額も増えてしまう
レベニューシェアは契約時に配分比率を決定し、事業で発生した利益に応じて受注者側に報酬を支払います。
事業の利益が増加していった場合、その分報酬額も増えていくので発注者側のコストが増えてしまいます。
また、配分比率によって報酬額は固定ではないことから、コストをあらかじめ正確に予想できないこともデメリットです。
素早い意思決定が難しくなる
レベニューシェアは基本的に2つ以上の企業が提携し、業務を行うことになります。
この場合、双方が意思決定者を持つことになるため、事業に対して判断が必要になった時に双方から合意を得なければなりません。
素早い意思決定が必要となった場面で、レベニューシェアがデメリットに働く場合もあります。
受注者側のデメリット
事業が成功し収益が増えれば、その分報酬額も増えていく受注者側にもデメリットがあります。受注者側は以下の3点に注意してください。
利益の見込みが付けにくい
レベニューシェアで分配する利益の対象になるのは、事業の売上げそのものであると前述しましたが、これが受注者にとってデメリットとなる部分もあります。
例えば、他業種の企業とレベニューシェアを契約する場合、ビジネスの見通しがわかりづらく、どれくらいの収益が見込めるのか予想が立てづらいことがあります。
本来なら利益の見込みがほとんどない事業でも、判断できず契約してしまうケースもあるかもしれません。
コストを回収するまでに時間がかかる
事業にかかる初期費用を一部またはすべて受注者が負担することになります。
この時にかかった初期費用は報酬によって回収していきますが、事業がうまくいかず利益が出なければ報酬も発生しない仕組みです。
そのため、場合によっては初期費用のコストを回収できるまでに、かなりの時間がかかってしまうかもしれません。
責任を押しつけられる可能性もある
レベニューシェアでは利益とリスクを共有することで、双方が責任感を持ちながら事業を進めていくことになります。
しかし、万が一事業を進めていく中でトラブルが発生した場合、リスクを共有していることで責任の押しつけあいになってしまい、最終的に責任を取らされてしまうこともあるかもしれません。
責任の押しつけあいを防ぐには、契約時にトラブル時の責任の所在がどちらになるのか、明確に決めておくことが大切です。
利益の配分比率に決まりはある?
レベニューシェアの配分比率は各契約によって異なり、特に決まりもありません。
これは、事業の状況・利益率・経費などで配分比率に大きな差が生まれてしまうためです。
ただし、レベニューシェアの場合は受注者側が初期費用を負担することを担うため、固定報酬に比べると高額になるよう配分比率を設定するケースが多いようです。
さらに、報酬だけでなくプラスで月額費用を支払っている事例や受注者側の初期費用が回収されるまで配分比率を高くし、回収できたら配分比率が変更される事例もあります。
レベニューシェアの契約書を作成する際のポイント
レベニューシェアの契約形態でトラブルを避けるためには、契約書を作成する段階から注意しておく必要があります。
どのようなポイントに気を付けて作成すれば良いのかを紹介します。
契約書に記載すべき項目
契約書では発注者側と受注者側の間で役割をどうするか、責任の所在をどうするか明確にしておく必要があります。
後で困らないように、契約書の内容はできるだけ詳細に作成してください。
例えば、以下の項目を記載しておくとトラブル回避につながります。
-
- 配分比率
- 分配の対象
- 分配金を支払う期間
- 消費税の有無
- 著作権
- システムの運用者や保守管理者
- 消費者向けの問い合わせ窓口
- セキュリティ事故や想定外のトラブルが発生した場合の対応について など
どちらかに負担が偏っていないか気を付ける
発注者側・受注者側のどちらかに負担が偏っている場合、たとえ事業で利益を出せていたとしてもレベニューシェアは失敗に終わるケースが多くあります。
発注者側は、わざわざ受注者を共同事業者に置かなくても初期費用をかけてシステムを構築すれば、すべての売上げが自社のものになります。
受注者側も、発注者のコンテンツを活用しなくても自社のビジネスで利益が上がる見通しが立てばレベニューシェアを行う必要はありません。
レベニューシェアは双方にとってメリットが多く、シナジー効果が期待できる相手と平等に利益・リスクを負担することで成功につながるといえます。
レベニューシェアの事例
実際にレベニューシェアを採用した結果、成功した事例ももちろんあります。どのように取り入れたのかを参考にしてみてください。
複合ビル内の入退場管理システム
複合ビルを運営するA社が、情報サービス企業のB社とレベニューシェア契約を行い、ビル内に設置された展望フロアや美術館などの入退場管理システムを構築しました。
入退場を管理するためのゲート・発券端末などの設備費用はB社が準備し、A社は入場者数による利益に応じて報酬を支払っています。
A社は初期費用を減らしつつ運用をB社に任せているため、その負担も減らせました。
また、B社もクラウドでサービスを提供することにより、リスクの低下につなげています。
電子書籍の印税
紙で作った書籍の印税は、刷部数に応じて決定する刷部数印税であることがほとんどです。
刷部数印税は、書籍の価格×印刷部数×印税率によって算出し、印刷されるタイミングに一括で支払われます。
しかし、電子書籍は売上げの部数に応じて印税が決まる実売印税が一般的です。
出版社(著作者)と電子書籍の販売サイトを運営する企業の間で、レベニューシェア契約が適用されています。
これにより、販売サイトから出版社への入金をもとに売上げが分配され、印税として毎月支払われています。
まとめ
契約形態に分類されるレベニューシェアは、発注者側と受注者側で利益やリスクを分配し、システム構築や運用を共同で行うものです。
発注者側と受注者側がどちらもメリットを享受し、Win-Winの関係を構築できれば、強力なパートナーとして長く付き合っていけます。
デメリットに注意しつつ、それぞれシナジー効果が期待できる相手を見つけましょう。
(編集:創業手帳編集部)