リファラル採用とは?導入する際に押さえておきたい労務のポイント
導入のポイントを専門家が解説しました
(2019/02/06更新)
昨今人手不足が深刻になっており、採用に苦労している企業が多くなっています。
また、「せっかく採用してもミスマッチによりすぐに退職してしまう」と悩んでいる創業者の方も多いのではないでしょうか?
このような採用難の中で、すでに働いている社員に人材を紹介・推薦してもらう「リファラル採用」という採用手法が注目を集めています。
今回は、「リファラル採用」についての概要と、実際に導入する際に注意するべきポイントについて、社会保険労務士の寺島有紀さんに解説していただきました。
この記事の目次
リファラル採用とは
リファラル採用とは、「すでに自社で働いている社員の友人・知人を推薦してもらい、採用選考を行うこと」です。社員紹介制度とも呼ばれることが多い採用手法でもあります。
すでに自社で働いている社員の友人・知人を推薦してもらい、実際に採用につなげることができれば、人材紹介会社に高額な紹介料を払わずとも、信頼のできる方を採用することができます。さらに、すでに自社で働いている社員の推薦であれば、自社のことをよく知ってもらってから入社していただけるので、ミスマッチを防ぐこともできます。
このような、メリットから企業からも昨今関心が高いところです。
今回は、このリファラル採用を行う際の注意点を、労務の観点から解説いたします。
法律上の注意点
リファラル採用を導入するにあたって、法律上の注意点があります。
1.労働基準法で注意するべきこと
労働者を保護する法律である「労働基準法」では、「何人も法律に基づいて許される場合のほか、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」という定めがあります。
いわゆる職業紹介事業者として法律に基づいて許可を得ていない場合には、「業として(=ビジネスとして)」職業紹介をすることは禁止されている、ということです。
この「業として」というものの判断基準としては「反復して継続的にやっているかどうか」がポイントとなります。
つまり、「ある1人の社員が大量に毎月のように誰か人を紹介してくれる」といった状況になると、その方は「業として(=ビジネスとして)」職業紹介をしているのでは?とみなされるリスクが高まります。
2.職業安定法で注意するべきこと
一方で、求人や職業紹介について定めた法律である「職業安定法」では、「労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。」という規定があります。
この規定を要約すると、労働者の募集に従事する従業員に対して「報酬を与えること」は原則として禁止されているのですが、「賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合」には例外として禁止ではないという解釈になります。
つまり、人材を紹介してくれたことに対して報酬を払うというのではなく、就業規則・賃金規程に規定されているような賃金・手当といった性質なのであればOKということになります。
労働基準法上も職業安定法上も、ビジネス色が濃くなると違法になってしまうので、そうならないような設計が必要ということになります。
リファラル採用導入のポイント
では、どのような点に気を付けてリファラル採用を導入すればよいのでしょうか。
支給金額の設定に注意しよう
給付金額が一般的な賃金水準に比べ多額の場合、報酬としてみなされやすくなります。
明確な基準はありませんが、10万円~30万円程度であれば多額ではないためリスクは少ないかと考えます。
例えば、100万円などとした場合、転職エージェントに支払う金額(採用予定者の年収の30%等)にも近くなるため、報酬として判断されやすくなる可能性は高まります。
リスクを減らすためには少額に留めておくことをおすすめします。
賃金規程に明記しよう
社員に報酬という形で支払うのではなく、「会社に必要な人材を紹介したこと=会社の必要な業務遂行への貢献したこと」に対して支払う手当という意味合いで「社員紹介手当」のように賃金規程に明記することで、事業で発生する報酬という意味合いが薄れ、逆に賃金性が増します。
リファラル採用でなにかお金を渡したいとなった場合には、賃金規程に明確化しましょう。
また、その支給要件には、「社員紹介手当を支給するのは3人までの紹介に限る」といったように紹介人数に上限を設けると、ビジネスとして行っているとみなされるリスクは減ります。こうした上限の定めを置くことも良いですね。
以上の点を踏まえて、下記のように明記するとわかりやすいでしょう。
(社員紹介手当)
第●条: 会社は、社員(役員は除く。)が知人等を会社に紹介し、採用に結びついた場合には社員紹介手当として100,000円を支給するものとする。
(2)当該手当は、紹介手当の対象となった社員が入社後3か月継続勤続した場合に支給する。
(3)当該手当の支給は、社員一人につき3人の紹介までに限る。
所得税や社会保険の取り扱いに注意
こうした社員紹介手当は、社会保険上も税法上も賃金に該当します。そのため、所得税の課税対象となるだけでなく、社会保険の標準報酬にも加味する必要があります。所得税・社会保険料が上がりますので、注意が必要です。
まとめ
リファラル採用は上手に活用すれば、採用力を高めることができ、また採用した人材もミスマッチが生じにくく離職率の低下にも寄与する可能性があります。
リファラル採用を導入する際には、専門家に相談しながら職業紹介とみなされないような制度設計を行いましょう。
(監修:寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士 寺島有紀 )
(編集:創業手帳編集部)