NOW ROOOM 千葉 史生|今話題の連続起業家に聞くゼロイチ起業のポイント
始まりは副業から。教員志望だった学生が、不動産スタートアップで「暮らすを自由に」の実現を目指すまで
「起業してみたいけど、ビジネスアイデアが思い浮かばない」とお悩みの方は少なくないのではないでしょうか。現状手がけているビジネスは安定していても、「新規事業のアイデアが思い浮かばない」という方もいるでしょう。
そのような思いをお持ちの方々とは対照的に、連続起業家として次々と新しいビジネスを創り上げて成功に導いてきたのが、株式会社NOW ROOMの千葉史生氏です。
現在は、アプリやWebサイトから家具家電付きの短期賃貸物件を簡単に検索・予約することができるマンスリー賃貸プラットフォームのNOW ROOMを運営し、成長を牽引している千葉氏。ビジネス界から注目を集める同氏が歩んできたキャリアや、ゼロイチ起業を成功させるための発想法のポイントなどについて、創業手帳の大久保が聞きました。
1983年神奈川県生まれ。早稲田大学を卒業後、Kings College校でPostgraduate Diplomaを修了する。2009年にNTT Europe LTD. ロンドン支店で法人営業を担当する。2016年に日本に帰国後、クラウドファンディング型・越境ECを創業し、2018年に上場企業へのM&Aを成功させる。日本の住まいの選び方に課題を感じ、翌年7月に「暮らすを自由に」を実現させるべく、株式会社NOW ROOMを創業、代表取締役に就任した。2020年5月に家具家電付き賃貸プラットフォーム「NOW ROOM」をローンチし、マンスリー賃貸・家具家電付き賃貸掲載件数全国No.1を1年で達成した。2021年6月には法人向け社宅手配サービス「NOW ROOM Biz」をローンチさせ、住まい選びの課題解決とサービスの拡充を進めている。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
NOW ROOMの事業概要
大久保:まずは、NOW ROOMの事業概要について教えていただけますか。
千葉:はい。NOW ROOMはマンスリーマンションなどの家具家電付き賃貸物件をアプリやWebサイトから簡単に検索・予約して、契約まで完結できるサービスを提供しています。マンスリー賃貸プラットフォームという位置付けです。また、NOW ROOM Bizは、1年以上の普通賃貸を法人顧客をメインにご紹介するサービスです。より多くの物件を独自の仲介システムを通じ、より安く、多く、見やすく提供しております。
大久保:なるほど。コロナ禍で需要が落ち込んだかと思いますが、そのあたりはどうですか。
千葉:我々としては、マンスリー賃貸を貸し出すホストさんたちにとってコロナ禍で厳しい状況になってしまっている中で、仮住まいや、リモートワーク、自主隔離場所など新しい需要を提供させていただけるチャンスともなりました。NOW ROOMへの掲載料は無料で、オーナーさんたちにはリスクが低い状態で新しい需要層を取り込む機会を提供できたのではないかと考えています。結果的に多くのオーナーさんに掲載していただくことができ、ピンチをチャンスに変えていけたかとも考えています。
コロナ前は、移動コストの低下やインバウンド需要等、マンスリー賃貸需要が5年で約3倍程度まで伸びていました。今後その需要が戻って来れば、さらに追い風が吹くだろうと見込んでいます。
元々は教員志望の学生だった
大久保:学生時代から起業を目指されていたのでしょうか。
千葉:いえ、両親が教員だったので、自然な流れで教員を目指していました。学部も教育学部でしたので、起業を考えたことはなかったです。
大久保:なるほど。教員を目指されていたんですね。
千葉:はい。私が特に影響を受けた教員が小学校、予備校、大学の3人の先生でしたが、教科に加えて、実社会で経験した人生論を教えて頂きました。私自身も、教科を教える技術だけではなく、実社会の経験を伝える事ができる先生を目指していました。
勉学だけでなく、学生時代は多様な経験を積もうと思い、20個ほどの大学のサークルに入ってみたり、家庭教師やカフェ、居酒屋、コンビニの店員等、多くのバイトを4、5個掛け持ちしたり、世界一周をしてみたりとモラトリアムでならではの経験を積みました。
大久保:大学ではビジネスに触れる機会はなかったのでしょうか。
千葉:両親があまり商売に前向きでなかったので、私自身もビジネスを意識する機会は少なかったです。
ところが、当時「変わっているな」と思っていた他大学の友人が新宿でバーを始めるというので、面白い経験ができそうだなと思い、一緒に手伝うところから、ビジネスと私との関わりが始まりました。周りの学生を巻き込み、大学3年制の頃には最終的には3店舗まで運営するようになっていました。
大久保:大学院でイギリスに入学されたんですよね。
千葉:そうですね。まだ教員志望だったので、大学院も教育系の学科に進みました。英語を使って海外で教壇に立つ選択肢や、日本で英語を教える場合でも海外での実体験を伝える方が面白い先生になれるかなと思い、イギリスの大学院に進学したんですね。
NTTヨーロッパでの売れない営業マン時代
大久保:大学院を卒業されてから、民間企業に就職されたんですよね。
千葉:はい。教壇に立ちたいという想いは変わっていなかったのですが、もっと実社会の経験を積んでから教員になりたいと考えました。
大久保:就職も「面白くしてやろう」という気持ちだったんですね。
千葉:はい。人とは違う経験をしたいなと思い、海外での新卒での就職を模索しました。就職活動は、欧州もそうでしたが、アジア圏も足を使って周り、現地の企業に面接に行きました。新卒で海外で就職となるとVISAを取得するのがとても大変なのですが、イギリスのNTT Europeと言う会社がスポンサーになっていただき、無事就職をすることができました。
大久保:この時点でもまだ起業は目指されていなかったんですか。
千葉:いえ、ただ、社会人を経験したら、漠然と個人事業主としての教員か関連分野で起業をしたいと思っており、入社初日に「僕、3年で起業して、辞めます」と宣言しました。大目玉を食らいました。
大久保:そうだったんですね(笑)。
千葉:会社としては、「こっちは苦労して就労ビザまで取ってやったのに、何を言ってるんだ」となるのは、当然だと思いますし、ある意味で自分を追い込む為に言ったのかも知れません。
大ボラを吹いてしまったんですが、営業として入社してから3ヶ月は全く受注できず、本当に焦りました。日系の企業でしたが、就業者は、ほぼ外国人で外国の文化でしたので、「1クォーター目で受注できなかったら、2クォーター目はありません」と言われていました。つまり、クビですね。いきなりクビ寸前まで行きました。
大久保:大変でしたね。
千葉:現地の企業にSIやインフラを販売していたのですが、全然売れなくて。英語ネイティブの営業マンやベテラン営業マンが、大型受注をしているなかで、自信を無くしていました。そんな時、某大大学が研究機関の開発のために、ロンドンに拠点を作る」、というニュースを見つけたんです。「これだ」と思った私は、某大学の教授にプレゼンする機会を頂き、かろうじて初受注を決めました。首の皮一枚つながりまして、その大学からの受注を皮切りに、ほかの日系企業からも受注できるようになり、そこでようやく営業マンとして独り立ちできた感じです。
大久保:千葉さんにもそんな時代があったなんて、意外でした。
千葉:「生き延びる力」というか、「死なない力」はあるんですよね(笑)。いつもギリギリのところで踏ん張る力が湧いてきます。その時も、追い込まれたので馬力が出た感じです。
同世代のIT起業家に感化され副業開始
大久保:ビジネスパーソンとしての千葉さんがようやく見えてきた感じですね。
千葉:学生時代に、飲食店などをやっていた感覚と会社員は全く違うなと学びました。ただ、早合点してしまい、会社員として1年半くらい勤めた段階で「会社員として十分に学んだ」と思ってしまい、起業のほうに興味が移っていきました。
当時、ちょうど私と上の世代のインターネット起業家がメディアに出てきたんです。彼らを見て「俺は何をやっているんだろうな」と思ったんですね。それで試しに現地にいる強みを生かして何かできることはないだろうかと始めることにしました。
大久保:最初はテスト的にスタートしたんですね。
千葉:はい。会社の給料を使い、会社のちょうど真ん前にあるマンションを借り上げて又貸しビジネスを始めました。いわゆる「サブリース」ですね。ヨーロッパに来る日系企業の駐在員や留学生の方々に貸し出しました。
また、ちょうどその頃、リーマンショックがあって超円高が訪れました。イギリスにある小売店が次々に閉店していくのを直近に見たので、「ブランド物が安くなるタイミングだ」と思い、小売店の商品を、サブリースで溜まったポンドを使い買い占める代わりにさらに安く仕入れ、日本向けにWebサイトを作り販売することを始めました。
大久保:不動産ビジネスと輸出ビジネスの両輪を回していたんですね。
千葉:はい。ポンドを不動産で運用し増やす。増えたポンドで現地の商品を購入し、物販で円を増やす。増えた円高の円を使い、現地の不動産を借り上げ、ポンドを増やす。そんなサイクルを回し、1年半後には、現地で55万ポンド(1億5,000万円)相当の不動産を一括購入できるくらい会社が成長しました。
海外の起業は、移民の私にとって現地の金融機関からの借入や調達も難しく、不安要素が多くありましたが、そういった不動産の購入と運用が、事業の安定収入となり、現地で独立するきっかけになりました。
ゼロイチ起業の発想法
大久保:トントン拍子に行ったんですね。
千葉:そうですね。会社は無借金状態で、回ってはいたのですが、「物販ビジネスは流行り廃りが大きく、景気に影響を受けやすいため、販売するプレイヤーではなく販売ツールを提供する側に回り固定収入を得よう」と考えました。
当時、ブランド品のC to Cプラットフォームである「BUYMA(バイマ)」が流行り出していたり、「楽天」などの中小企業から個人商店のような個人輸入を扱うネットショップが多く作られていたのですが、ヨーロッパでは、そういった販売プレイヤーを支える物流サービスがまだ発達していなかったんですね。
そこで、アメリカで流行っている「転送.com」というビジネスを参考にしヨーロッパ版の「転送ユーロ」を始めました。イギリス、イタリアに共有倉庫をもち、ウェブ上で申し込みや手続きを完了させ、中小規模の業者や個人商店でも、発送する際に保証を付けることができて、送料も安く送れる、今で言うところの「物流のシェアリングサービス」です。
こういったサービスが、仕入れなどのリスクを取らなくても手数料を頂ける会社の安定売り上げにつながり、会社の運営自体を任せることができるようになりました。
「30歳までに欧米に加えてアジア全域で5年くらいは海外で暮らしてみよう」と漠然と思っていたので、ある程度安定した会社を社員の方に任せ、シンガポール、中国、インドネシア、フィリピンなど、色々なアジアの国を回って住んでみました。
大久保:スティーブ・ジョブズみたいですね(笑)。
千葉:私がまだ海外にいた2015年頃に、日本でも「スタートアップ」が盛り上がってきていることを知りました。大型の資金調達をして、仲間を集めて一気に世の中を変えるようなサービスを作っていく「スタートアップ」ですね。
私がそれまで経営してきた事業体はいわば全部「スモールビジネス」でしたので、いわゆる「スタートアップ」というものを経営したことはありませんでした。そこで「次は『スタートアップ』をやってみたい」と思い、日本に本帰国しました。
それまでは海外の製品を日本に持ってくる時に、展示会を開催するのが通例だったんですね。ただ、展示会を開催するには時間も費用もかかるので、「展示会コストがあるために海外の製品が日本で広まりにくい」という課題を見つけたんです。そこで、「オンライン展示会のプラットフォームを作ろう」という思いで「DISCOVER」という越境ECを立ち上げ、キャッシュフローが回った1年8ヶ月後に上場企業に売却しました。
大久保:すごいですね。千葉さんのように、次々と成功するビジネスのタネを見つけるにはどうすればいいのでしょうか。
千葉:うまく言えないのですが、「歴史は繰り返す」ということですかね。僕は、天才タイプでも秀才タイプでもないので、完全に新しいビジネスではなくて、要素同士をうまく組み合わせて、アイデアを捻り出す、というイメージでしょうか。
NOW ROOMを創業するまでに作ってきた私のビジネスも、完全にオリジナルなアイデアはないですよね。海外にあるものを参考にしたり、元からあった需要をオンラインに切り替えたりと、多少の創意工夫を加えて創り出しています。
大久保:なるほど。読者の方にも大きなヒントになると思います。
千葉:「DISCOVER」を売却した後で、また「スタートアップ」をやろうと考えていました。当時の私は、状況によって住まいを変える生活をしていたのですが、日本の住まいの環境ではまだフレキシブルに住まいを変える便利さはないな、と感じていたんです。
一方で、海外ではAirbnbのように住まいを自由にするサービスが出てきていました。私自身、海外ではAirbnbなどのサービスを利用していたので、「何かこの領域でできないかな」と考えていました。そういった経緯でNOW ROOMの立ち上げに至りました。
問題がないスタートアップのほうがおかしい
大久保:これまでの起業で得た経験やノウハウで、NOW ROOMで生かされているものは何でしょうか。
千葉:「DISCOVER」をやっていた時の似た領域がCAMPFIREとかMakuakeなどのクラウドファンディングサイトでした。上場会社や資本政策をしている会社は、資本力があり、プラットフォームというビジネスモデルを市場に浸透させることが難しかったんですね。
その時の経験があったので、「プラットフォームビジネスをやるなら、資本政策を最初から考えて、大掛かりに資金調達してユーザーを一気に取りに行かないとダメだ」ということを学びました。NOW ROOMではその学びを生かして、スピーディーに事業を展開してきていますね。
大久保:今時点で、一定程度市場に浸透できている、という認識ですか。
千葉:いえ、まだ道半ばというところですが、NOW ROOMという1年位内の市場においては、狙ったユーザーの獲得ができはじめています。
1年以内市場であるNOW ROOMは、市場タイミングとして「物件獲得」がしやすいため、先ずは物件を増やし、次に「ユーザー」を獲得していくのが、勝ち筋と考えています。
物件の数が増え、SEOが上がり「ユーザー」についても右肩上がりで増えてきていますね。
逆に、1年以上市場である、NOW ROOM Bizは、事業開発を進めながら、法人ユーザー様から先に獲得をしていっています。
大久保:NOW ROOMは2020年5月のローンチから急成長を続けています。急拡大する組織を運営する上で大事なポイントは何ですか。
千葉:それぞれが得意な分野のチームメンバーに一任しながら進めていく事です。各人の裁量も大きく、少人数ながらも、意思決定や事業開発が早く進んでいます。
何か問題が起きた時にすぐ対処することと、違和感があったらすぐにチームメンバーでお互いが納得するまで議論を重ねて、違和感を潰していく、ということを徹底してきています。
逆に、問題が発生しない組織はどこかでひずみが起きてしまうと思いますし、スタートアップをやっていれば、問題はつきものだと思います。
大久保:本日は急成長中のマンスリー賃貸プラットフォームNOW ROOMの千葉さんから貴重なお話をお伺いできました。
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(取材協力:
株式会社NOW ROOM代表取締役 千葉 史生)
(編集: 創業手帳編集部)