Nobest 石井宏一良|経済的価値と社会的意義の両立で環境問題解決に挑む

創業手帳

小学生時代に芽生えた環境問題への使命感をビジネスで実現


太陽光発電所の管理・監視システム「Nobest IoT」を提供する株式会社Nobestは、AIと気象データを活用した太陽光発電の効率向上と運用コスト削減を実現するスタートアップ企業です。代表の石井さんは小学生の頃から環境問題に関心を持ち、その想いをビジネスとして形にするまでに様々な挑戦を重ねてきました。今回は石井さんにNobestの事業内容と、理念と経済性を両立させる経営哲学について伺いました。

石井 宏一良(いしい こういちろう)
株式会社Nobest 代表取締役
小学生の頃に行っていたゴミ拾いをきっかけに環境問題解決に関心を持ち、大学卒業後は半導体企業に配属。会社員の傍ら災害の復興支援や自己資金での特許取得など環境問題解決のための事業立ち上げを目指し、2022年に株式会社Nobestを設立。「環境問題の解決」と「経済的価値」の両立を目指して参加したアクセラレータープログラムを通し、2025年に太陽光発電のAI監視・管理システム「Nobest IoT」をローンチ。

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「なぜゴミ拾いをしたら褒められる?」そんな疑問が、環境問題との出会いだった

ー環境問題に取り組むようになったきっかけについて教えてください。

石井:小学1年生の時に公園でゴミ拾いをして母親に褒められたことがきっかけです。当時は褒められたことが嬉しく、小学2年生になると学校の行き帰りでもゴミ拾いをするようになり、近所の方から「偉いね」と言われました。どうしてゴミ拾いで褒められるのかという疑問から、図書館や本屋で環境問題について調べるようになったんです。

その中でも特に問題だと感じたのが地球温暖化です。当時、地球温暖化が少しずつ社会問題として取り上げられ始めていたなかで、宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」に出会いました。偶然にもナウシカの公開日が私の誕生年と同じだったこともあり、環境問題解決が自分の人生のテーマだと感じるようになったんです。小学生ながら「ナウシカのような世界にしない」ことを人生の目標に定めました。

ーその後はどのように環境問題に取り組まれたのですか?

石井:中学生になると「二酸化炭素を酸素に変える機械」を作りたいと考え、先生にアドバイスを求めるようになりました。ただ、当時は環境問題を専門とするような先生はおらず「まずは技術を身につけては」という助言をもとに、工業高校、大学へと進学しました。学業以外においては、植林活動や被災地支援なども行っています。被災地支援については現在も継続しており、直近では能登半島地震のボランティアに参加しました。

大学卒業後は、環境問題解決に役立つ太陽光パネルや蓄電池制御の技術を深めたいという想いで就職した派遣会社では株式会社三洋半導体に出向。その後、株式会社ユビキタスや株式会社村田製作所で開発職に従事しながら、2021年には自己資金で特許も取得しました。

ー起業を意識し始めたのはいつ頃からですか?

石井:28、29歳の頃です。それまでは会社の中で自分のアイデアや技術を活かして環境問題を解決したいと考えていました。というのも、経営そのものがやりたかったわけではなく、技術こそが解決策だと思っていたからです。

転機となったのは、ユビキタスで働いていた時の先輩からのアドバイスでした。「ミッションやビジョンは企業の魂であり、共有化できない」「Job to be Doneの対象が違うんだ」と言われたんです。当時の私は「なぜよいアイデアなのに、会社は事業化してくれないんだ?」と思うことが多くありました。しかし、先輩の言葉で「人生のテーマにするほど環境問題に強い想いを持っていながら、リスクは他人任せのままでよいのか」と気付かされたんです。自分が本当にやりたいことを実現するには、自分自身でリスクを取って起業するしかないと決心できました。

それ以降は「エネルギー見える化のためのスマートグラス」や「環境配慮型のECサイト」など、自己資金を投じて環境問題の解決に通ずるサービスづくりに試行錯誤していました。ビジネス度外視でいろんなことに挑戦していたので「これで本当に環境問題解決につながるのか?」と自問自答の日々でした。そして「キャンプ場情報サイト事業」を主力ビジネスに、2022年の地球の日に、株式会社Nobestを立ち上げたんです。

ー現在の主力事業は、AIを活用した太陽光発電の遠隔監視ソリューション事業ですが、ピボットの経緯を伺えますか?

石井:アクセラレータープログラムへの参加と、現場の方からの声がピボットのきっかけです。立ち上げ当初行っていたキャンプ場情報サイト事業では、キャンプ場管理者に向けて太陽光パネルのレンタルを行うというキャンプ×防災のビジネスモデルを設計していました。私自身このビジネスを通して環境問題解決につながると信じていましたし、お客様からも「よいアイデアだね!」と言っていただけ、手応えを感じていました。しかし、実際にスタートしてみるとお金を出してくれる方はゼロ。「良心的なグッド」と「経済的なグッド」はイコールではないことに気づき、もっとビジネス視点でお客様のためになるサービスがないかを考えたんです。

そこで、視点を広げることを目的にアクセラレータープログラムに参加し、太陽光パネルの故障や大量廃棄が問題になっていることを知りました。太陽光パネルの寿命は20年程度と言われており、すでに10年以上経過しているものも増えていて、2030年頃には大量廃棄が発生すると見込まれています。こうした背景から、当時作っていた太陽光発電パネルに取り付けるRFIDタグに商機がないか模索していたところ、知り合いの社長さんが興味を持ってくださり、本格的に事業をピボットすることを決めました。その後も別のアクセラレータープログラムで、株式会社サンエー様と実証実験を実施。それらの活動を通し、2025年5月に「Nobest IoT」をローンチしました。

AIと気象データで太陽光発電の価値を最大化する「Nobest IoT」

ー「Nobest IoT」の概要と強みについて教えてください。

石井:「Nobest IoT」は、太陽光発電所の監視・管理を効率化するAIシステムです。太陽光システムに関する情報は膨大ですが、それぞれが錯綜していることから情報の一元化ができず、データの利活用ができていませんでした。私たちのサービスでは、点検報告書、停電情報、チャットツールの記録などの膨大な情報をAIに読み取らせることで、故障の原因や場所を特定したり、過去の類似事例と比較したりすることを可能にしました。

ー気象データを重視されている理由は何ですか?

石井:太陽光パネルの発電量は気象条件に大きく左右されるからです。例えば、同じ地域内に3ヶ所の発電所があり、1ヶ所だけ発電量が落ちている場合、それが天候の違いによるものなのか機器の故障なのかを判断するには、より詳細な気象データが必要です。そのため、太陽光発電に特化した高精度な気象データを自社で生成することにしました。

ーお客様からの反応はいかがでしたか?

石井:当社のサービスを使用したいというお客様ができたり、投資家がついたりすることで「やっと本当の意味で認められた」と感じました。私が長年求めてきた「良心的なグッド」と「経済的なグッド」の両方を得られるサービスをようやく構築できたと実感しましたね。
「Nobest IoT」によって太陽光発電が稼働しない時間を減らしたり、故障によるダウンタイムを削減したりと、お客様には大きな経済的なメリットを提供できています。それと同時に、太陽光発電の普及を後押しすることで環境問題解決にも貢献できている、この両立が実現できたことが何よりも嬉しいです。

「多視点経営」で社会的価値と経済的価値を両立する

ー石井さんのように、自身のビジョン達成と経済的な成功を両立するのに苦労する経営者は多いと思います。社会的価値と経済的価値の両立のために重要なことは何だと考えられますか?

石井:「多数の視点を持つこと」が極めて重要だと考えています。これは当社の社名「Nobest」にも反映されています。一つの「ベスト」だけを追求すると、他の視点では「バッド」になってしまうケースが多いんです。
例えば、温暖化解決というミッションだけを追求するとお客様がついてこないですし、逆にお客様が「グッド」と言うサービスでも、社会的に問題があれば仲間が集まらず、自分自身のモチベーションも上がりません。全ての最適解を探すために様々な情報をインプットし、それぞれの視点で「グッド」と言ってもらえるようなサービスを作ることが大切です。ペルソナは限定しつつも、ステークホルダーの「グッド」を突き詰めるということです。

ーミッションやビジョンがぶれないようにするための工夫はありますか?

石井:私自身、お客様が「グッド」と言ってくれると、つい流されてしまうこともあるんです。そんな時に重要なのが「ナンバー2」の存在です。当社では渡辺という「ナンバー2」を置き、ミッション・ビジョンからずれていないか、客観的な視点で方向修正してもらっています。そうした多角的な視点で見てくれる人を早く見つけることが、創業者にとって非常に重要だと感じています。

ー環境問題と経済的価値の両立について、どのようにお考えですか?

石井:環境と人間の経済的利益は時に矛盾します。環境を優先すると人間の経済的メリットが損なわれることもあれば、人間を優先すると過去の水俣病のような環境問題を引き起こす可能性もあります。この葛藤と向き合い、両方を「グッド」と言ってもらえるよう努力すること、そしてその葛藤を楽しめるかどうかが経営者にとって重要な要素だと考えています。アクセラレータープログラムなどで多様な視点から否定されることも、実は非常に価値があります。「プロから否定してもらう」ことで、自分の方向性がミッション・ビジョンの本質と経済的合理性に合致しているか見直す機会になるんです。そういう意味で、株式会社eiiconの下園さんには大変お世話になりました。

起業は、自分が社会に貢献していると感じられる人生のオンリーワン体験

ー最後に、これから起業を目指す方へのメッセージをお願いします。

石井:正直なところ、起業は本当に大変ですし、簡単におすすめできるものではありません。ただ、自分の人生をかけてやると決めた夢にしっかりコミットすれば、社会へ貢献できているという実感はすごく湧いてきます。自分の人生はもちろん、周りの人の人生も変えられる、人生をオンリーワンにできる体験は起業ならではだと思いますね。人生をかけられる夢やビジョンがある方は、ぜひ創業という領域に飛び込んでほしいと思います。
先述の通り起業において最も重要なのは、多様な視点を持つことです。自分の想いだけでなく、経済的合理性、顧客視点、社会的価値など、多角的な視点からビジネスを見つめ、それらのバランスを取りながら進むこと、バランスがとれない矛盾を楽しむことが成功への鍵だと考えています。

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