創業手帳が選ぶ起業経営ニュース
2022年9月8日株式会社LearnWiz 中條 麟太郎|参加者の積極的な意見交換を促すことができるWebツールの開発事業が注目の企業
参加者の積極的な意見交換を促し、アクティブラーニングを促進する事業で注目なのが、中條麟太郎さんが2022年3月に創業した株式会社LearnWizです。
近年「アクティブラーニング」というキーワードが聞かれるようになりました。学習者たちが自ら能動的・積極的に「学び」を深化していけるように工夫された教育手法です。
従来、日本の教育現場においては、教師が一方的に決められた内容を生徒に伝え、生徒はそれをひたすら聞いて吸収する、という形式がほとんどでした。安定した高度成長の社会を支える人材を育成するには、こうした方法で一定レベルの人材を育成するのは大変有用な方法だったと思います。
しかし社会がどんどん変化し、不確実性の高い世界が拡がるこれからにおいては、自ら考え、判断し、創意工夫を繰り返し、互いの強みを活かし合いながら、開拓していける人材が必要です。
そんな人材を輩出していくのに注目されているのがアクティブラーニングの手法です。
とはいえ、今までそうした手法を試した経験が少ない現場において、いきなり導入するというのはハードルが高いと考えられます。
そこで今、アクティブラーニングの実践をサポートするツールの開発が始まっています。株式会社LearnWizの「LearnWiz One」です。
教育現場で生徒同士あるいは生徒と教員のディスカッションやディベート、グループワーク等をスムーズかつ効果的に行い、学びの質を高め、深化させ、派生させ、参加者の数だけ様々な探究や気付きを生み、可能性の幅を大きく広げるツールとして、今、大きな注目を集めています。さらに教育現場だけでなく、企業におけるイベントや会議においても、参加者の主体的な意見交換を促すために活用されているツールです。
自身も東京大学文学部人文学科心理学専修4年生という学生の立場である株式会社LearnWizの中條麟太郎さん、コロナ禍での授業オンライン化に際しての課題感も実感した中から生まれた本事業の特徴や今後の展開、課題についてお話をお聞きしました。
・このプロダクトの特徴は何ですか?
「LearnWiz One」は、参加者の主体性を引き出しながら、効果的な意見交換を促すことができるWebツールです。本ツールを授業やイベント、研修で活用することにより、参加者同士で学び合う環境を容易に作り出すことができるだけでなく、参加者も他の人との意見交換を楽しみながら深い学びを得ることができます。コロナ禍における授業のオンライン化を背景に、教育工学を専門とする東京大学工学系研究科の吉田塁准教授とともに開発を始めました。
本ツールは、世界最大規模のEdTechコンペティション「Global EdTech Startup Awards」の研究開発部門で世界第1位を獲得したほか、それらの成果から代表の中條が「東京大学総長大賞」を受賞するなど、多くの評価をいただいています。またツールの公開から8ヶ月で、累計3万人以上の方に利用していただいています。
・どういう方にこのサービスを使ってほしいですか?
当初は、大学のオンライン授業において、学生が意見交換を行うことで能動的に学習できる環境を実現するために、大学の先生に使っていただきたいと考えて開発してきました。しかし、効果的な意見交換が求められている場面は大学におけるオンライン授業だけではありません。現在では大学の対面授業や、中高の授業で活用いただく機会も増えてきました。さまざまな教育機関の方に活用いただき、より良い教育を実現していただきたいと考えています。
さらには、会社における研修や会議、イベントなど、意見交換を行う場面は教育機関以外にも数多く存在します。教育機関に限らず、円滑な意見交換を実現したいと考えている方に幅広く使っていただきたいです。
・このサービスの解決する社会課題はなんですか?
本ツールの開発の背景には、私自身がコロナ禍において一人の学生として直面した「オンライン授業における意見交換の難しさ」があります。大学のオンライン授業は、多くの場合ZoomなどのWeb会議システムを用いて行われますが、全員がカメラとマイクをオフにして参加することも多く、学生が発言しにくいという課題が存在していました。
このような課題に対し、すべての授業を対面に戻すという解決策をとることは簡単ですが、オンライン授業の利点もたくさんあります。例えば、オンライン環境を活用することで、居住する国や地域、環境によらず授業を受けることができるようになることから、教育格差の是正やSDGs4の実現につながることが提唱されています。
さらに、教育現場だけでなく企業においてもオンライン環境の活用が広がっている一方で、円滑な意見交換が実現できているケースは多くないと聞きます。
このような状況において、オンラインで実施される意見交換を支援するWebツールを開発することで、オンライン環境での課題を克服し、幅広い人々が活発に意見交換をできる環境を創出しています。
・創業期に大変だったことは何でしょう?またどうやって乗り越えましたか?
私は、サービスの開発を進める中で、開発したサービスを持続的に運用していく方法として、大学に在学しながら起業するという道を選びました。大学入学当初から起業を目指していたわけではなかったため、会社を設立した当初は、法務や経理などの会社を運営する上で最低限必要な知識もほとんど持ち合わせておらず、毎日新しい困難や疑問に対応しながらなんとか進んでいるような状況でした。
支援いただいている文部科学省「Scheem-D」プロジェクトにおいて、インキュベーション施設のCIC Tokyoの方に助言をいただいたり、東京大学が出資するベンチャーキャピタル「東大IPC」の「1stRound」プログラムにサポートいただいたりしながら、ようやく会社として円滑に運営できるようになってきたところです。
・どういう会社、サービスに今後していきたいですか?
まず、サービスのグローバル展開が挙げられます。LearnWiz Oneがアプローチしている「オンライン上での意見交換の難しさ」という課題は文化や言語によらず共通して存在する課題です。これまでも、トルコの大学の先生に説明会に来ていただいたり、タイの大学では実際に活用をいただいたりと日本国内にとどまらず、幅広い方に関心を持っていただいています。そこで、ツールの多言語対応を進めるとともに、グローバル展開も模索したいと考えています。
また、意見交換において蓄積されるデータの活用も今後取り組みたいテーマの一つです。これまでは、オンライン上での意見交換を支援するシステムとして開発してきましたが、意見交換の中で蓄積されるデータを用いて分析することで「良い意見をどれくらい投稿したか」「良い意見をどれほど見抜くことができたか」といった意見交換における参加者の貢献を可視化することもできます。可視化されたデータは、大学や中高における成績評価として活用できることに加えて、企業における人事評価や採用の場面でも活用いただけると考えています。
さらに将来的には、私たちのビジョンである「みんなの学びをもっと楽しく、深く」を実現するべく、現在開発しているLearnWiz Oneにとどまらず、オンラインを活用するからこそ実現する新しい学びを多くの人に届けるべく活動を続けていきます。
・今の課題はなんですか?
一番の課題はシステムの安定性です。これまではベータ版という形で公開してきましたが、自分自身LearnWiz Oneがほとんど初めてのWebアプリケーション開発であったこともあり、動作の不安定さや不具合をご指摘いただくことも少なくありませんでした。今後さらに多くの方に活用いただきながら事業化を進めるにあたっては、安定性の向上が不可欠です。
そこで現在は、東京大学の学生2名がプログラマーとして参画して、システムの再設計を担ってくれています。2022年10月にはベータ版を卒業して、より安定した正式版のシステムを使っていただけるようになる予定です。
・読者にメッセージをお願いします。
COVID-19の流行によって、教育や業務の形は大きく変わりました。コロナ禍が長期化するにつれて、対面での活動も戻ってきている一方で、オンラインだからこそ実現できる豊かな体験も数多くあります。
私たちのツールが実現する効果的な意見交換はまさにその一つです。時間や空間を超えて匿名性を担保しながら議論をできる環境は、オンラインならではだといえるでしょう。
授業や会議、イベントなどにおいて、質疑応答やディスカッションをする際には、ぜひLearnWiz Oneを思い出していただければ幸いです。
左: 吉田塁さん(株式会社LearnWiz取締役・共同創業者 / 東京大学工学系研究科准教授)
右: 中條麟太郎さん(株式会社LearnWiz代表取締役CEO / 東京大学文学部4年生)
会社名 | 株式会社LearnWiz |
---|---|
代表者名 | 中條 麟太郎 |
創業年 | 2022年3月 |
資本金 | 500,000円 |
事業内容 | 株式会社LearnWiz(ラーンウィズ)は、東京大学工学系研究科吉田塁研究室での活動からのスピンアウトで2022年3月に創業しました。「みんなの学びをもっと楽しく、深く」のビジョンのもと、教育学と工学の専門的な知見をベースに社会実装を行うことで、世界中のすべての「学び」をアップデートすることを目指します。私たちの運用をしている意見交換プラットフォーム「LearnWiz One」は、授業やイベントに導入することで、参加者の主体性を引き出しながら、効果的な意見交換を促すことができるWebツールです。参加者同士で意見を交換して学び合う環境をWeb上に創出できることから、大学や中高、中高での導入が広がっています。 |
サービス名 | LearnWiz One |
所在地 | 〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-19-15 宮益坂ビルディング609 |
代表者プロフィール | 株式会社LearnWiz 代表取締役CEO。東京大学文学部人文学科心理学専修4年生。 2020年4月からコロナ禍における東京大学の授業オンライン化に学生の立場から参画。2021年8月に東京大学工学系研究科の吉田塁准教授(教育工学)とともにEdTech「LearnWiz One」の開発を始め、2022年1月には世界最大のEdTechピッチコンテスト「Global EdTech Startup Awards 2021」の研究開発部門で世界優勝。2022年3月「東京大学総長大賞」受賞。同月、株式会社LearnWizを設立。2022年度IPA未踏アドバンスト事業採択。 |
カテゴリ | 有望企業 |
---|
有望企業の創業手帳ニュース
大久保の視点
日本国内で唯一のサブスクリプション特化型イベント「日本サブスクリプションビジネス大賞2024」が、2024年12月4日(水)にベルサール六本木で開催されまし…
パネルセッション例:中村幸一郎(Sozo Ventures ファウンダー・著名な投資家)、ヴァシリエフ・ソフィア市副市長(ブルガリアの首都) 「Endeav…
2024年10月9日、虎ノ門ヒルズフォーラムにて、「JX Live! 2024」が新経済連盟主催で行われました。 「JX Live!」は、「JX(Japan…